確かにそこは脱出口だった。
棚には羽衣が並べられている。
奴隷は羽衣を一つ借りて地上に降りることにした。
しかし、肝心の脱出口が開かない。
月の機械など分かるわけがなかった。
「どれが開閉ボタンだ?」
むやみに押して変なことになるのはごめんだ。
「開閉ボタンなら、今手を置いているところですよ」
「これか…!?」
横を見ると、一人の女性が立っていた。
兎耳は生えていない。
「お前は…」
何やら危険な気がする。
明らかに異質だ。
奴隷は目の前の人物が誰だが分かった。
それは要注意人物じゃないか。
「綿月依姫!?」
八雲紫と同じ賢者と言っていた。
大妖怪ですら勝てない、らしい。
「(レミリアが一撃で負けた相手…勝てるわけがない)」
今すぐ開閉ボタンを押して逃げ出したいが、果たして目の前の相手がそう簡単に逃がしてくれるだろうか。
「勝てないと分かっても…戦うしかないだろ」
落ちていた棒を拾い上げ、依姫に向かって構える。
依姫は架空から現れた刀を手に持つ。
「おおおおおお!」
棒を依姫に向かって振り回す。
しかし、依姫は奴隷の一撃一撃を軽く流す。
「甘い」
刀に弾かれて棒が落ちてしまう。
そのまま依姫に胸倉を掴まれ、壁に叩きつけられる。
「能力を使うまでもない。ここに侵入してきた者と聞いたからかなりの手練れだと思ったけど…」
依姫は咳き込んでいる奴隷の首筋に刀を突きつける、
動くな、と表しているようだ。
いくら紅魔館から抜け出した奴隷とは言え、妖怪でもなく人間。
入刀されれば即死だ。
「念のため、他の場所も見て回りましょうか」
依姫が余所見をした。
それほど余裕なのだろう。
しかし、そこが奴隷の逆転へのチャンスになった。
奴隷は机の上に置いてあった、おそらく拘束用の紐であろうものを掴み、依姫の首に回した。
「悪いが、死ぬわけにはいかないんでね!」
「かっ…くっ!?」
紐を思い切り後ろに引き、依姫の首を絞める。
月製であろう紐であるため、そう簡単には引きちぎれないだろう。
「(このままでは…!愛宕様の火で)」
依姫が能力を発動させようとした時、入り口の扉が開き玉兎兵が現れた。
「レイセッ!?」
奴隷が驚いたのもつかの間、レイセンは銃剣を発砲した。
弾丸は肩に当たり、痛みによって紐から手を離してしまう。
「(こうなったら強引に!)」
一か八かの確率にかけ、開閉ボタンに手を伸ばす。
しかし、押そうとした瞬間手のひらに刀が刺さった。
「痛っ…何だこれは!?」
いつの間にか、周囲に大量の刀の刃が床から生えていた。
「女神を閉じ込める祇園様の力。動いても構わないよ?祇園様の怒りに触れるけど」
「祇園様…神様の力を扱えるとは本当のことだったのか」
ゾロゾロと玉兎兵が中に入ってきた。
祇園様の怒りに触れられない以上、指先一つも動かせない。
そして玉兎兵に銃剣を突きつけられている。
「こ、降参だ降参!」
「依姫様、信用できません。さっきもこうしてレイセンを人質にとったのですから」
「悪いが俺はただの人間だ!神様の力に囲まれて抵抗できるかっての!」
「…どうしますか?」
「祇園様を信じれば大丈夫。捕らえなさい」
玉兎兵に手首を紐できつく縛られる。
「切ろうとしても無駄ですよ。フェムトファイバーの組紐は不浄の者を縛りつけますから」
玉兎兵は勝ち誇った顔で奴隷を連行する。
「その者を月に連れて行き、情報を吐かせて」
「月にですか?ここでは駄目なのですか?」
玉兎兵の言葉に、依姫は呆れた顔をする。
「ここでは数々の情報が流れています。貴方達みたいに交信できる能力の持ち主かも知れません」
「分かりました!」
奴隷は玉兎兵に変な装置に乗せられる。
「おい、何だこれは?」
「月までの転送装置よ。さっ、拷問でもされてきな!」
玉兎兵がスイッチを押し、謎の浮遊感に襲われた。
そのまま奴隷は月へと転送されてしまった。