奴隷と紫、イーグルラヴィに連れられて月面に降り立った。
穢れはすでに消し去った。
月人が二人を囲んでいた。
「歓迎は…されてないみたいですね」
「当然でしょう」
イーグルラヴィと別れて、月人の監視を受けながら月の都に入る。
一度だけ見た光景が目に映る。
「(たしか…あいつらともうちょい奥まで進撃したんだっけ)」
残念ながらその部屋に行くことは無かった。
すぐに左に曲がり、その突き当たりの部屋に案内された。
扉を開けると、そこには長机と六個の椅子が設置されてあった。
どうやら、ここで話し合いをするらしい。
「…緊張するわね。これから来る相手は、私では敵わない者達。震えが止まらないわ」
紫の手は微かに震えていた。
「俺はあまり緊張してませんよ」
不思議と緊張していない。
ルナサのおかげだろうか?
二人は幻想郷側の席に着席する。
奴隷はあらかじめアタッシュケースの鍵を開けておく。
賢者達はすぐにやって来た。
綿月依姫。
綿月豊姫。
稀神サグメ。
月夜見。
「待たせましたね。それでは始めましょうか」
依姫の号令の後に、話し合いは始まった。
奥に動く人影が見える。
嫦娥だろうか。
奴隷は賢者達の方に向きかえる。
この場にいるのは、八雲紫に奴隷。
そして賢者に嫦娥の総勢七名。
一つ咳払いをし、奴隷は内容を話す。
「この異変…もとい戦争を起こしたのは我々幻想郷ではありません」
「ほう」
「我々が嫦娥を月の都から攫うなどーー無理に決まっています」
「奴隷の言う通りだわ。私の程度の能力でも、月の都に直接は容易に開けられない。私が全力で月の都にスキマを作ろうとしても…せいぜい
その言葉に、依姫と豊姫はハッとした。
おそらく第二次月面戦争の結果を思い出したのだろう。
「しかし、幻想郷側からの侵入があった。貴公だろう?奴隷とやら」
奴隷は心の中で舌打ちをした。
「…流石は賢者様ですね。お気づきになられましたか」
月夜見とは直接的に一度対面している。
しかも、あの面子を揃えてだ。
「…」
チラとサグメを見たが、口に手を当てたままだった。
「あの後、貴公は三人の中にいなかった。どこに行っていた?」
「大賢者の部屋だ」
「「「「「「!?」」」」」」
奴隷を除く全員が反応した。
大賢者と言えば、月側のトップ。
「その行為は重罪だ!」
依姫が声を荒らげる。
その手には、すでに刀が握られている。
「待ちなさい依姫。わざわざ危険を冒してまで大賢者様の部屋に侵入したのは、何か理由があるのでしょう?」
豊姫の質問に奴隷は胸を張って言った。
「もちろん!俺はあるものを探していました。証拠です」
「証拠?」
「この戦争は、幻想郷側が起こしたものではないという、つまりはアリバイですよ。単に嫦娥を返すだけでは、月側のお偉い様に不平等な条約を結ばさせられるでしょう。例えばーー地獄への道の浄化作戦を黙認しろ…など。俺はこの戦争に裏があるんじゃないかと、
アタッシュケースを長机の上に置く。
「中身はーー稀神サグメさん。お願いします」
「…」
サグメは、口元から手を離してアタッシュケースを開く。
そこから、まとめてある紙を取り出す。
サグメはそれらを長机に並べる。
その内容はーー簡単に言えば、嫦娥は月側の一部の上層部が意図的に地上に放った。
それを満月の日に行い、その日のみスキマを繋げられる八雲紫ーーつまりは幻想郷側のせいにし、それを理由に戦争を行う。
幻想郷は月より弱い。
勝利することを前提に、地獄に進出するという内容だった。
「それが我々のアリバイです。大賢者が管理している書物は、賢者ですら見るのは難しいとされていると聞きました。しかし、サインぐらいは見たことあるでしょう?」
賢者達は沈黙した。
長机に並べられた証拠に釘付けのようだ。
しばらくすると、紫が何かを知った口調で話した。
「…稀神サグメ、月夜見。そのサインに見覚えがあるのでしょう?」
なんと、微かな反応に紫が気づいたようだ。
「確かに…大賢者様のサインだ」
その発言に、奴隷は心の中でニヤリと笑った。
同時に安心した。
「し、しかし…」
豊姫が意見を言おうとしたが、サグメが首を横に振った。
「大賢者様のサインがここにある以上…認めざるえない。嫦娥様を穢した真の犯人は、大賢者様という事だ」
サグメは証拠をまとめる。
それらを再びアタッシュケースの中に入れる。
サグメは口元に手を当てながら話す。
「青年。そちらが何もしてないということが分かった。月側が勝手に起こした戦争ということも、よく分かった」
「ああ、俺はこの戦争を終わらせるだけでいいんだ。これ以上、犠牲も出したくないしな」
ついでに、と紫が横槍を入れてきた。
「あの飛行物体も早く回収してくれないかしら?あのままだと河童の餌よ」
「依姫、豊姫!すぐに行動に移れ!」
依姫と豊姫は部屋を出る。
奴隷は嫦娥の近くに寄る。
「…地上での生活、どうだった?」
その質問に、嫦娥は微笑した。
「楽しかった。特に、あの宝石の羽が生えた者と楽しめた時間がな」
「そいつはよかった」
嫦娥から離れ、八雲紫の隣に並ぶ。
「帰りましょうか紫さん」
「そうね。ここにいても、もうお邪魔虫でしょう」
「そうですね。後は月側がやってくれるでしょう」
八雲紫と奴隷は月の都を出た。
イーグルラヴィが手を振って待っていた。
二人の妖怪と人間は、無事戦争が終わったことを幻想郷に伝えに行った。