蓮子やハーン以外にも目撃者はいるかもしれない。
奴隷達はその場から離れることにした。
「この近くに家があるんだ。何年も戻ってないが」
先の大地震で倒壊してないかは不明だが、それは今にもわかる。
ヒビが入った道路を進み、ガラスなどの破片に気をつけながら歩く。
道中、数人とすれ違ったが皆、恐怖に怯えきっていた。
避難所にでも向かうつもりだろうか。
「ここだ」
一つの一軒家に着く。
「倒壊はしてなさそうね」
「ガラスも割れてないって、ある意味不思議ね」
鍵は持っていなかった。
「ここに鍵があるんだ」
何も書いていない表札の裏から鍵を取る。
鍵を開けて中に入る。
室内は埃が溜まっているだけで、大地震による損傷はなかった。
奇跡だ、と思いながらリビングへと案内する。
「ああ!荷物、旅館に置いたままだった。ちょっと取ってきますね」
そう言って、蓮子とハーンは再び外に出た。
奴隷はお茶を持ってくると言い、お湯を沸かして茶葉を用意する。
その間に自己紹介をした。
「天人…ですか。レミリアから話を聞いた程度しか知りませんね」
「天界は異界だからね。正確には幻想郷ではないのよ。それにしても、懐かしいものを持っているわね」
「はて、家の中にそんなものがあるか?」
熱々の煎茶を天子の前に置く。
天子は煎茶を啜りながら答える。
「その傘よ。月の光の編み物なんて、相当古い物ね」
そう言いながら、天子はスカートの中から大量の桃を取り出す。
それを見た奴隷は顔をしかめた。
「お前、どんなところに桃をしまってるんだ」
「非常食とでも思いなさい。どうせ、何年もいなかったら食材も期限切れでしょ」
「うっ、乾パンぐらいあるわ!」
奴隷は大人しく桃を貰い、煎茶を啜る。
話は正邪の事になる。
「正邪の弾幕に被弾した時に出血したんだ。このように。弾幕には何回も被弾したことがあるが、出血まではしなかった。どういうことなんだ?」
天子は髪をいじりながら言った。
「それは悪性の弾幕ね」
「悪性?」
「威力を求めた結果よ。その分美しさは欠けるけど、ごっこ遊びですら殺せるようになるわ」
「恐ろしいな。あの美しい弾幕で殺せてしまうとは」
玄関が騒がしくなった。
二人が帰ってきたようだ。
奴隷は少し冷めた煎茶を机に置き、二人が座ったところで話を始める。
「宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーン…だったね。秘封倶楽部だっけ?」
「知ってるんですか?」
「母さんがよく噂してたよ。境界暴きの人間だって」
「廃れた土地でも、私達って噂されてたのね」
奴隷は真剣な眼差しを送った。
「そこで相談なんだが、こういう物体が見えたりしないか?」
素早く紙にスキマの絵を描く。
それを見た蓮子とメリーは難しい顔をした。
「それは…一度だけ見たことだけあります。丁度この東京にあります」
「本当か!」
天子は深く息を吸った。
「スキマは正邪が全て掌握してるんじゃないの?」
奴隷は言った。
「これは俺の考えだが、あれほどの力をそう簡単に扱いきれるだろうか?俺自身、自分の程度の能力を未だに制御できない。それに、正邪は元から程度の能力を持っているんだろう?」
「確かに、あの程度の妖怪に操りきれるものではないわね。そこのお二人さん、今からでも見に行ってくれない?」
蓮子とメリーは頷いた。
「ここから遠くないので、見に行ってきますね」
「感謝する」
三度外に出た。
天子は煎茶を飲み干して一息いれる。
「奴隷、ハーンの事なんだけど」
「…紫さんに似ているってか?」
「考えは同じようね」
奴隷は首を振った。
「世界中には、容姿が似ている人なんている。確かに『結界の境目が見える程度の能力』は紫さんの程度の能力に似ているがな…。偶然だろ」
「常識に囚われてはいけない。どっかの巫女の言葉よ。もしかしたら、こうなった時の対策…という見方もできるわ。まぁ、頭にとどめておくだけでいいわ」
奴隷は頷いた。
「二人は幻想郷に連れてくか?」
天子はしばらく考えた。
「境界が見えるのなら役にたつわ。もう一人の方は知らないけど」
「二人揃っての秘封倶楽部だろ?ハーンを連れていくなら蓮子も連れて行く」
「わかったわ」
日が傾き始めた頃、蓮子とハーンが帰ってきた。
なんと、スキマは開いているだそうだ。
天子と相談し、明日の朝に行くことに決めた。
蓮子とハーンについてきてほしいと頼むと、軽々と承知してくれた。
危険を伝えたが、それでもいいらしい。
夕飯は乾パンと桃と水という組み合わせになった。
文句を言われつつ完食し、蓮子とハーンは母さんのベット、天子は奴隷が寝ていたベット、奴隷はソファーで就寝した。