扉を開けた先には正邪がいた。
前と同様、椅子に座っている。
奥には、檻に入れられたハーンがいた。
「追い詰めたぞ正邪」
正邪は大げさに笑った。
「あの時、私に手も足も出なかったのはどこの誰だ?化け猫に人間を連れてきても無駄だ」
「無駄と決めつけるのは早いんじゃないかな。ええ?この革命が無駄ということには早く気づいてほしいが」
正邪の目が鋭くなった。
「無駄ということはない。各地に存在する弱者が強者に怯えなくてすむ」
「そうかそうか。弱者が統率する時代、外の世界でもないぞ?」
「何が言いたい」
奴隷は挑発するように話した。
「幻想郷より遥かに進んでいる外の世界でも、力を持った者がいて抑えつけてるんだ。法律というルールを制定してな。何故か分かるか?弱者同士じゃ内戦が起きるからだ。力の差が大きくなければ、いつでもトップの座を狙えるからな。今、そのようなことが起きないのは、お前が力を持った者だからだよ」
「…スキマか」
奴隷は頷いた。
あの八雲紫の程度の能力となれば、俺が弱者妖怪の立場だったら従うなと思った。
自分が紅魔館にいる理由は、レミリアの強さに惹かれたところも少なからずある。
「(まぁ、いくら大きな力といっても、一人だけが持ってたら…独裁が始まりそうだけど)」
奴隷はチラと奥を見た。
その直後、ハーンを閉じこめていた檻が開いた。
「奴隷さん!」
「ナイスだ蓮子!」
奴隷は親指を立てた。
当然、正邪がそれに反応しないはずがない。
「あの長い話は、私の注意を逸らすためか…!」
攻撃を仕掛けようとした正邪に、橙が突撃していく。
「藍様の分だ!」
正邪を蹴り飛ばし、その間に蓮子とハーンは避難する。
正邪はスペルを詠唱する。
「逆符『イビルインザミラー』」
この時、奴隷は違和感感じた。
自分の動きが、左右反転しているのだ。
橙は必死に避けていたが、奴隷は動かなかった。
その代わり、月傘を大きく開いた。
「弾幕を防いだ…だと?」
正邪は月傘を睨んだ。
奴隷は月傘を見つつも答える。
「お前の弾幕は美しくない。悪性にまみれてるから見たくないんだよ!」
奴隷は月傘を構えた。
「銃符『ルナティックショット』!」
弾丸の形をした弾幕を広範囲に撒き散らす。
正邪は浮遊して回避に専念した。
その隙を突き、橙もスペルを詠唱する。
「仙符『
正邪も焦りを感じたのか、スキマを展開した。
「逃げた!」
と叫んだ瞬間、奴隷の腹に衝撃が走った。
標識が腹に食い込んでいた。
小さな嗚咽を感じつつも、標識から距離をとる。
しかし、次に狙われたのは橙だった。
「逆弓…」
橙が零距離で悪性の弾幕に被弾する。
橙は正邪の首筋に噛みついてなんとか離れるも、その体はふらついている。
橙を庇うように傘を開き、正邪の弾幕を防ぐ。
月傘を厄介だと思ったのか、正邪はスキマからの攻撃を加えた。
正面の弾幕を防げても、横からの攻撃は防げなかった。
奴隷は正邪の拳を貰い、その場に崩れ落ちる。
「ふん、二人がかりでその程度か」
正邪は両手を掲げ、大きなスキマを作ろうとしていた。
奴隷は恐怖を感じ、痛む体に鞭を打って立ち上がった。
橙も同じ行動を起こしていた。
「奴隷さん、『でんしゃ』が来ます!」
二人は横に転がり込む。
その直後、スキマから廃電車が走りこんできた。
「廃線『ぶらり
奴隷と橙の目の前を廃電車が通過した。
これほど大きい物体は月傘でも防げそうにない(防げても腕が骨折するだろう)
正邪は消えていた。
「(またスキマか!)」
奴隷はその場から動けなかった。
どこから攻めてくるのかが分からず、頭の中はパニックになっていた。
その時、ハーンの声が耳に届いた。
「上です奴隷さん!」
その声に、奴隷はすぐさま反応した。
ハーンの能力は結界の境目が見える程度の能力(勝手につけたものだが)
銃身を上に向け、引き金に指をかける。
スキマが開き、正邪が顔を出した。
「銃符『ルナティックバレット』!」
引き金を引き、正邪の額に月の光の弾丸が命中した。
正邪は悲鳴を上げた。
正邪が左手を上げた瞬間、橙が噛みついた。
「紫様の分だ!」
尖った爪で左手を突き刺した。
左手が完全に使えなくなったことを確認すると、奴隷は月傘を突きつける。
「お前が動くより、俺が引き金を引く方が早い」
「くっ…」
「捕まえてくれ橙」
橙は頷いて正邪の手に縄をかけ、口に猿轡をつけた。
奴隷達が入ってきた扉が開いた。
奴隷達は警戒するも、藍を背負った天子を見て表情が緩む。
「頭の中を直すのめんどくさかったわ」
駆け寄る橙に、藍を渡す。
「捕まえたのね奴隷」
「幻想郷の強者に裁いてもらわんとね」
「ふうん」
天子は捕まっている正邪を見た。
「あんたも哀れだねぇ…ん?」
天子はじっと正邪を見つめた。
顔色を変えた天子が正邪の顔面を本気で殴った。
正邪の首が胴から離れた。
「なっ、何してるんだ天子!?」
奴隷は慌てたが、天子はもっと慌てていた。
「…やられた。この正邪は変わり身よ!」
奴隷は生首を調べた。
外形は正邪をかたどっているが、中身は空っぽだ。
まるで、人形のようだった。
天子が異変に気づいた頃、正邪はすでに外にいた。
正邪の右手には、小さな藁人形が握られている。
「身代わり人形が役に立つとはな。…せっかくの塔だが、命とは変えられん」
正邪は森の奥深くへと逃走しようかと振り返ると、目の前に刀を持った少女が立っていた。
「貴様は…!」
弾幕を展開させる隙もなく、正邪の両手首は切り落とされた。
「何故…ここにいる?魂魄妖夢!」
妖夢は刀の峰で正邪の顔を持ち上げる。
「幽々子様の命令だ」
「幽々…!?」
いつの間にか、正邪の背後に幽々子がいた。
幽々子は顎で引くよう指示し、妖夢は刀を下ろした。
代わりに、一つの玉を渡す。
その玉を正邪の胸に押し当てた。
その瞬間、体の力が抜けていくのを正邪は感じた。
「貴様、何をする気だ!」
両者とも答えず、その玉が紫色に染まるまで行為は続けた。
「回収完了ね。これで目的は達成したわ」
紫色に染まった玉には、大量の目玉が浮き出ていた。
その模様を見て、正邪は気づいた。
「西行寺…スキマの能力を奪ったな!?」
「あら、元の持ち主に返すだけよ。当然でしょう?」
幽々子は笑顔で答えた。
妖夢に玉を渡し、二人は背を向けた。
正邪は、一瞬自分は助かるんじゃないかと思った。
しかし、その考えが甘いことを死をもって理解させられた。
「そうそう、ここからは個人的なことなんだけど」
幽々子の表情は、いつの間にか怒りへと変わっていた。
正邪の周りに蝶が集まってくる。
「…よくも、私の友人に手をかけたわね」
その言葉に、妖夢は密かに震えた。
正邪は抵抗できず、そのまま大量の蝶に全てを覆われてしまった。