残党狩りが集合してから数日が経った。
人里での問題は目に見えるほど少なくなっていた。
それほど奴隷達は働いた。
慧音はとても喜んでくれた。
しかし、奴隷達はまだ息を抜けなかった。
「今日か」
妹紅は朝飯のご飯を咀嚼しながら話す。
「ああ。今日は大仕事だよ」
奴隷はうんざりした様子で味噌汁を口に運ぶ。
「…稗田阿求様の護衛か。恐らく、全勢力が集結するんだろうな」
奴隷の言葉に椛は首を振った。
「全勢力は無いにしろ、リーダー格が来ることは確実だ。気を引き締めないと」
妖夢はすでに食事を済ませていて、二本の刀をお手入れをしていた。
「そうですね。今日は死人が出るかもしれませんよ」
「そうだなぁ。真っ先に俺が死にそうだよ」
冗談交じりに話し、各々が食事を済ます。
時間も無い。
奴隷達は稗田邸へと足を運んだ。
奴隷達が到着していた頃には、第九代目当主稗田阿求が待っていた。
「待たせたな阿求」
妹紅がフランクに話しかけるのを見て、奴隷達は少々驚いた。
「これくらいのことは大丈夫ですよ。…今日は」
阿求は一度区切り、一つ息を吸って話す。
「護衛をお願いします」
妹紅を除く三人は頭を下げた。
稗田阿求の用事は、幻想郷縁起の欄に
椛曰く、天魔は暇な日など滅多になく、阿求のためにわざわざ貴重な一日を割いてくれたのだという。
そのために、今日は絶対行かなければならない。
奴隷達は阿求を囲むように行動を始めた。
恐ろしい程に、道中は襲いかかってくる気配も感じられなかった。
何事もなく妖怪の山にたどり着き、阿求は天魔の元へ、奴隷達は天狗の詰所に向かった。
「道中、何もなかったな」
「まあね。行きは何もしてこないだろうと思ったよ」
妹紅の発言に、奴隷は首を傾げる。
妖夢が代わりに説明した。
「もし行きに襲いかかれば…貴重な一日を割いた天魔はどのような行動にでると思いますか?」
その言葉に奴隷はハッとした。
「察したようですね」
「ああ、察したよ」
確かに恐ろしいことになりそうだ、と奴隷は小さく呟いた。
阿求が帰ってきたのは、奴隷達が詰所に入ってから数時間が経過したあたりだ。
阿求はしっかりと幻想郷縁起を持っていた。
お礼を言い、奴隷達は人里への道へ足を向けた。
ここからが本番だ。
人里への道の半ば、明らかに違和感が感じられた。
まるで、誰かに見られているような感覚だ。
「!」
阿求達の歩を遮るように、妖怪がワラワラと現れた。
奴隷達は阿求を守護る陣形をとった。
「攫え!」
一人の妖怪の雄叫びと共に、大量の妖怪が奴隷達を襲った。
妹紅は火をおこし(なぜか周りの植物は燃えない)妖怪達を焼き払う。
椛は小盾で攻撃を防ぎつつ、隙を見て攻撃を始める。
妖夢は二本の刀で華麗に戦場を舞った。
しかし、妖怪の方は数が多かった。
押されつつある四人を見て、遠くから見ていた針妙丸は針を抜いた。
「…奴隷!」
その針の矛先は奴隷に向けられていた。
正邪を追いつめた一人であり、針妙丸の中では阿求より優先していた。
「後ろだ奴隷!」
妹紅の声に、振り向きざまに月傘を差す。
少し遅ければ、あの針が奴隷を貫通していただろう。
「皆、妖怪達を頼む!」
奴隷は月傘を振り回して距離をとる。
針妙丸は針を巧みに操り、奴隷に攻撃を仕掛けていく。
「弾幕を使え。銃符『ルナショット』!」
放たれた薄紫色の弾幕を一つ一つ回避していく。
負けじと針妙丸もスペルを詠唱する。
「小槌『もっと大きくなあれ』」
小さな弾幕が発生した。
奴隷は距離をとったが、それが間違いだった。
弾幕は移動すると共に大きくなっていく。
もっと、ということはさらに大きくなるのだろう。
奴隷は舌打ちし、針妙丸に急接近した。
しかし、針妙丸は針を手に待ち構えている。
近づけば、それだけ針による追撃を受ける可能性が高い。
奴隷は弾幕を展開しつつ、針妙丸に月傘の先の刃で斬りかかった。
一瞬でも気を抜けばあの世へ旅立てる状況の中で、奴隷は反射神経をフルに活用し、針妙丸の攻撃を防ぐ。
奴隷は一度、自分の手のひらを見つめた。
そのせいで、針妙丸に隙を与えてしまう。
「正邪を殺した報いを受けろ!」
針妙丸は渾身の突きを繰り出した。
奴隷は月傘ではなく、何も持っていない左手を突き出した。
刺さるギリギリのところで、左手で針を掴んだ。
しかし、針妙丸は左手でもう一本の針を取り出した。
奴隷は驚愕の顔をしたが、針は離さず、月傘は針妙丸を突くように構えた。
二本目の針が奴隷の顔面を貫く寸前…。
幻想郷からたった数秒間
針妙丸の動きそのものが止まった。
勿論その隙を逃すはずもなく、奴隷は構えから一気に針妙丸の腹を貫いた。
「ごぶっ…!」
針妙丸は奴隷を蹴って月傘を引き抜くも、すでに腹からは大量の鮮血が溢れ出ている。
「針妙丸様!」
事態に気づいた妖怪達が、トドメをささんとする奴隷を妨害する。
針妙丸は一人の妖怪の背に乗せられ、撤退を始めた。
逃がすわけもなく、追おうとする奴隷達だったが、妖怪達は散り散りに逃げてしまったためこれ以上の深追いはやめた方がいいと椛は言った。
目的は稗田阿求を無事人里へ送り返すことなので、各々武器をしまった。
その後は何も起きなかった。
人里に到着し、阿求から報酬を貰った。
奴隷達はその報酬を手に、例の屋台に向かった。
妖夢と椛からは上司の愚痴を聞かされ、妹紅は悪酔いし始めて大変だった。
酒が呑めない奴隷にとっては、なかなか会話が成立しなかったミニ宴会であった。
魔法の森にある一軒の建物。
そこに住むアリス・マーガトロイドは不思議そうに針を見つめた。
「突然消えたと思ったら、突然現れたわね。一体何なのよ、もう」
アリスは腹を立てながらも、上海と呼ぶ人形の手入れ始めた。