奴隷は永遠亭の椅子に座って顔を伏せていた。
プリズムリバー三姉妹の内のメルランがフランドールを運び、奴隷達は紅魔館に引き返した(その際、ルナサはあの時の事をイエスと言ってくれた)
門の前には、鱗や牙が剥き出しとなった美鈴が倒れており、近くには無鬼夜行も同じように倒れていた。
奴隷達は先に無鬼夜行に枷をつけて抑え込み、そして美鈴を永遠亭に運んだ。
パチュリーに防壁の解除を伝え、奴隷も永遠亭に運ばれた。
奴隷の傷はそれほど重傷ではなかったのだが…問題は美鈴とフランドールだった。
獣人化していた美鈴は無鬼夜行を倒すためにかなり無理をしたらしく、そう簡単に治るものではなかった。
フランドールは…永琳は首を振った。
「…」
奴隷は無言でその場を後にした。
頭にあったのは無鬼夜行を一時的に封印している場所だった。
無鬼夜行の正体はあの後、三代目博麗の巫女ということが判明した。
そのため、すぐに退治が出来ないと言う。
彼女が博麗の巫女だから?
奴隷には関係なかった。
ただ、フランドールの仇のために殺すことしか頭になかったのだ。
どうやって迷いの竹林を抜けたかは分からない。
しかし、奴隷は一時的に封印している場所に到着した。
誰もいないことを確認し、そっと中に入ろうと思った奴隷だったが、いつの間にかいた霊夢に、
「そこに何の用かしら」
奴隷は霊夢と目を合わせずに、
「…見るぐらいいいだろ」
と言い、中に入ろうとした。
霊夢に服を引っ張られ、入口に門番のように立った。
「なら、その傘を置いていきなさい」
「傘ぐらいいいだろう?」
「気づかないと思う?」
奴隷は心の中で舌打ちをした。
霊夢には月傘の事がバレているらしい。
「なら分かるだろ。会わせてくれ」
「駄目よ」
「仏の顔も三度までだぞ…」
奴隷は、自分が大の大人である事などをかなぐり捨て、霊夢の胸ぐらを掴んだ。
「無鬼夜行が博麗の巫女だなんて関係ない。フランドールを殺したんだ。その仇を討つぐらいいいだろう。それに、これは俺だけの分じゃねぇ、紅魔館皆の分だ」
霊夢は奴隷の言い分を聞き、奴隷の胸ぐらを掴み返した。
「馬鹿じゃないの?紅魔館皆の分ですって?へぇ、ちゃんと全員に聞いて回ったのかしら?」
「何が言いたい?」
「無鬼夜行を殺すことがフランドールのためになる?それは違うわ」
「違う…だと!?フランドールだって望んでいるはずだ!俺が…俺が殺さないと!」
霊夢は奴隷の言葉を遮るように壁に叩きつけた。
「悪いけど、それは奴隷にとっての憂さ晴らしにしか過ぎないわ。本当は気づいてんでしょ?あんたは無鬼夜行に負けた。そしてフランドールを失った。今、無鬼夜行を殺したいのは自分の力の無さを誤魔化すためよ」
「なんっ…!?」
奴隷は言い返せなかった。
頭の中では怒りでいっぱいだったが、心の片隅ではしっかりと供養してあげた方がフランドールのためになると思っていた。
奴隷は悔しかった。
目の前で大切な者を失った事が、自分の力の無さを激しく恨んだ。
その結果、このような行動に出てしまった。
奴隷はハッと気づき、慌てて霊夢の胸ぐらから手を離した。
「その…悪かった」
「気づければいいのよ」
奴隷は居心地が悪くなり、そそくさと帰ろうとした。
「ああ、そうそう」
霊夢はそんな奴隷を止めた。
「奴隷にはやる事があるわ。そのためにここにいたようなものよ」
「やる事?こんな非力な俺にか?」
奴隷と頭にクエスチョンマークを浮かべると、後ろからゾロゾロと妖怪達がやってきた。
「これから無鬼夜行を消滅させるわ。そのために協力しなさい」
「…まさか」
奴隷は自分の程度の能力を思い出した。
「私達で無鬼夜行から三代目様を引きずり出すから、奴隷は無鬼夜行本体を頼むわ」
唖然とする奴隷の肩を萃香が叩いた。
嫌な汗が流れた気がした。
それと同時に、引きつった笑みがこぼれた。