「遅い…」
咲夜は若干イライラした様子だった。
「呼びに行ってからどのくらい経っているの?全く…」
「咲夜さん、私が見てきますよ」
小悪魔が手を上げる。
「それじゃあお願いするわ」
小悪魔は軽い足取りでヴワル魔法図書館へと向かった。
奴隷は月傘を落とし、膝から崩れ落ちた。
床には大量の血だまりが出来ている。
みるみると広がっていき、近くの魔導書を血で染めた。
「ハァ…ハァ…」
視線の先には…グングニルを受けて絶命した
奴隷は呆然としていた。
何も考えられなかった。
ただただ死体を見ていた。
そんな時、ドンドンと扉をたたく音がきこえた。
「お嬢様、パチュリー様、それに奴隷!食事の準備ができましたよ!」
その声に、遠く離れていた意識を取り戻した。
月傘を握り、扉を見る。
内鍵をかけたので、小悪魔は開けるのに苦労しているようだ。
奴隷はありのままの事を包み隠さず話そうとした。
しかし、レミリアとの戦闘した時に思ったことを再び思った。
彼女らがこの有様を見たらどうなるのだろう。
奴隷は震えた。
奴隷は扉から離れて死体の方に向かった。
自分の手を見て、自分の程度の能力を、パチュリーがあの時言ったことを思い出す。
『貴方はあらゆるものを消し去る程度の能力よ。
ーー貴方はおそらく自分の…存在を消し去ったのだと思う』
奴隷は死体に手を触れた。
自分の程度の能力で彼女らの存在を消せば…誰の笑顔を壊さなくてもいいのかもしれない。
幸い、死体となった者は奴隷の少ない霊力でも足りる。
奴隷は能力を実行し、二人の存在を消し去った。
同時に、自分の存在も消し去った。
自分の手で主を殺してしまった今、紅魔館に何食わぬ顔で居ることは耐えられなかった。
そして。
奴隷は紅魔館から逃げ出した。
小悪魔はマスターキーを使って扉を開けた。
「…何をしているんだろう」
何故ここまで歩いてきたのか。
咲夜さんに何かを言われてここに来たと思うが…。
「(まぁいっか。早く食べに行こ)」
今日は何故か豪勢な料理が並べられていた。
お腹の虫を鳴らしながら食卓へと戻って行った。
どれだけ走ったのだろう。
紅魔館はすでに見えなくなっていた。
「あ、ああ…」
奴隷は一度蹲り、そして体を大きく仰け反らした。
「あああああああああああああああああああああああ!」
誰にも聞こえない叫び声を上げた。
涙を流し、枯れるまで続けた。
数時間経った後、奴隷はふらふらと歩いて行った。
それがどこに向かっているのかは分からない。
しかし、紅魔館がある方向ではないことは確かだった。
奴隷は一人になる場所を探した。
このトラウマを乗り越えるには時間が必要だった。
第二ルート
奴隷はレミリアとパチュリーの死体の近くで首を吊った。