IF一夏と束の話【凍結】   作:吊られた男の残骸

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やっと...やっと書き上がった...
ちょっと色々あって単純に筆が進まない&その間に目移りしまくってたという状況でして...
待っててくれた方にはホントに申し訳ないです。
では、本編をどうぞ。




原作1巻 クラス対抗戦&更識姉妹編
第十話 一夏とセシリアと幼馴染達の話


四月下旬。

雲一つない晴れ晴れとした朝に、IS学園の教室では驚くべき事が発表されていた。

 

「クラス対抗戦が延期になった。開催は5月の第二月曜日からになる」

 

千冬の無慈悲な宣告に、生徒たちは不満の声をあげる。

 

「せっかく織斑くんの操縦技術が見られると思ったのに...」

「私の桜もちパラダイス計画がー!」

 

しかし、内心で一夏は喜んでいた。

その理由とは、簪の専用機にマルチロックオンシステムを組み込んだ際に生じたバグの修正や、機体の調整に時間が裂けるからだ。

――何故一組の代表である一夏が四組の代表である簪の機体の制作に関わっているかは、恐らく後に語られる事となるだろう。

一夏がそう考えているうちに、SHRは終わりかけていた。

 

「一時間目はグラウンドでISの飛行操縦についてのおさらいをする。専用機持ちには手本を見せてもらう予定だ。織斑とオルコットはISスーツを着ておけ」

 

その言葉に、一夏とセシリアは返事を返す。

 

「「はい」」

「いい返事だ。では、これでSHRを終わる。号令は省略するから、すぐにグラウンドに移動しろ」

 

その言葉を聞いて、女子たちはすぐさま動き出した。

一瞬遅れて、一夏もISスーツを掴んで更衣室まで走りだす。

道中で女子の妨害に合うものの、これを華麗にすり抜けて更衣室に辿り着く。

今よりも軍事技術の進歩していた時代に、世界各国が張った包囲網を振り切った腕は伊達ではないのだ。

 

「...このISスーツ、高性能なのはいいけど、デザインのせいで内側に着られないのだけは難点だな...」

 

そうぼやきながら、服を素早く脱いでいく。

全裸になった一夏の身体は、その実力と比例するような引き締まった筋肉に覆われていた。

その美しさすら感じるような身体を、束謹製のISスーツが覆っていく。

そのISスーツは、四半世紀程前に流行ったアニメのパイロットスーツのような形状をしていた。

 

「よし、行くか」

 

そう言った後、一夏は再び走り出す。

一夏は迷わずにグラウンドまでの道程を最小限に出来るルートを通り、廊下の窓を開けて外に跳躍する。

とんでもない荒業だが、今は何をしてでもグラウンドに辿り着くことが優先されるのだ。

五点接地展開法を用いて着地し、立ち上がって走る。

グラウンドに着いた頃には、生徒の8割弱が整列していた。

 

「遅かったな、一夏」

「ああ、このISスーツは中に着られないからな」

 

近くにいた箒が声をかけてくる。

その声を聞いて、他の生徒も一夏の方を向いた。

そして、明らかな異質さに気づく。

 

「あのISスーツ、変わった形だよね...」

「手足まですっぽり覆うのは初めて見たかも...」

 

一夏のISスーツに関しての話題が生徒の間を駆け巡るが、一夏はそれを気にも止めていなかった。

箒と談笑しているところに、セシリアが割って入る。

 

「変わった形のISスーツですが、随分似合いますわね。...特注品ですの?」

 

その言葉に、一夏は返答する。

 

「束さんからは、白騎士が使ってたモデルをベースにしたワンオフだって聞いてる」

 

一夏の発言を聞いた大半の生徒が騒ぎ、一部の生徒は露骨に機嫌を悪くした。

無論、機嫌を悪くしたのは箒である。

生徒達の騒ぎようは、まるでアイドルが目の前にいるかのようだった。

そうそう沈静化する事はないだろう。

そう考えていたところに、千冬が現れた。

千冬は、その状況を見て一喝する。

 

「騒ぐな!」

 

その一言で、生徒達は一気に沈静化した。

それも当然だ。

織斑千冬は元世界最強のIS乗りであり、白騎士に搭乗した世界初のIS乗りなのだから。

尤も、後者を知っているのは当事者である束と千冬、そして一夏以外にはいないのだが。

 

「...全員揃っているな。では授業を始める」

 

凛とした声が、授業の開始を告げた。

 

 

「ではこれより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット。見本を見せてやれ」

「「はい。織斑先生」」

 

返事と同時に、ISを展開する。

蒼と白の機体が同時に展開され、生徒達は一瞬どよめいた。

 

「よし、飛べ」

 

その声を合図に、一夏とセシリアは飛翔する。

二人は、若干遅めの速度に合わせて並列飛行した。

これはあくまで見本である。そのため、全てを置き去りにするような速度は必要ないのだ。

そして、二人は高度200m程の位置で静止する。

全く同時に静止した二人に、生徒たちと山田先生は感心していた。

そんな空気の中、千冬は言う。

 

「織斑、オルコット。いい機会だ。少し動いてみせろ」

 

その発言に少しの驚きを見せたセシリアは、千冬に質問する。

 

「時間は大丈夫ですの?」

「このままでは少し時間が余る。それなら専用機持ちの操縦技能を見せた方が刺激になるだろう?」

 

その言葉を聞いて、セシリアは納得する。

そして、一夏に対して言った。

 

「では、一夏さん。わたくしと円状制御飛翔(サークル・ロンド)をいたしましょう?」

 

無論、断る理由はない。

セシリアと円状制御飛翔(サークル・ロンド)をしたことは一周目を含めても殆ど無いのだが、セシリアの癖はよく知っている。

合わせるのは容易だろうと考え、これを承諾した。

 

「ああ。あ、流れ弾が怖いから武器を撃つのはナシだぞ?」

「わかっていますわよ。では、始めましょう」

 

軽く注意事項を確認し、一夏とセシリアは円状制御飛翔(サークル・ロンド)を始める。

背中を外側に向け、一定の距離を保ちながら円軌道を速めていく。

傍目から見ると、二人はまるで社交ダンスを踊っているかのように見える。

生徒たちがポカーンとしている様子を見て、山田先生が解説を始める。

 

「あれは円状制御飛翔(サークル・ロンド)という射撃型の戦闘動作(バトル・スタンス)です。本来なら射撃武器を展開して撃ち合いながらやるんですが、流れ弾を警戒して武器を展開していないみたいですね。感心です」

 

しかし、その解説すらも生徒たちの耳からは抜け落ちていた。

理由は単純。一夏とセシリアの円状制御飛翔(サークル・ロンド)が非常に様になっており、生徒の大半がソレに見惚れているからだ。

しかし、その中でも例外がいた。

無論、箒である。

確かに、二人の円状制御飛翔(サークル・ロンド)は美しいと思ってはいる。

しかし、その美しさが()()()()と一夏によって生み出されている事が気に入らないという複雑な乙女心が、素直な感情の邪魔をするのだ。

二人が段々と距離を縮めていく様子を、箒は複雑な表情で見つめていた。

 

山田先生の解説が始まった頃、一夏はセシリアにある提案をした。

 

「このままダンスでも始めないか?数年前位にあったISのCMみたいにさ」

 

それを聞いたセシリアは、心底面白いというような笑みを浮かべて返答する。

 

「そのCMを見たことはありませんが、面白そうですわね。尤も、カスタム・ウイングが邪魔になりそうですが」

 

どうやらセシリアも乗り気らしく、話はトントン拍子で進んでいく。

そして、二人は少しずつ距離を詰めていき、腕と腕が触れ合う距離まで接近。手と手を取って、意気揚々とダンスを始める。

未熟ながらもセシリアをリードする一夏と、そのリードに合わせて踊るセシリア。

元代表候補生である山田先生も、その操縦技術に感嘆していた。

 

「二人とも凄いですね...ぶっつけ本番で合わせるなんてそうそう出来ることじゃないのに...」

「織斑が合わせてもらっているに過ぎんさ。まあ、素人にしては中々だがな」

 

二人がある程度踊ったところで、千冬が言う。

 

「織斑、オルコット。そろそろ次に移るからダンスを中断しろ」

「「はい、織斑先生」」

 

千冬の発言を聞いて、二人は少しずつ回転を止める。

急に止めてしまった場合、慣性の法則が働いて制御を失う恐れがあるからだ。

二人の回転が止まったのを見計らって、千冬は次の指示を下した。

 

「よし。急下降と完全停止をやってみせろ。目標は地表から10cmだ」

 

その指示を聞いて、二人は軽い相談を始める。

 

「どっちが先に行く?俺はどっちでも構わないけど」

「でしたら、私がお先に行かせていただきますわ。一夏さんの後で成功できる自信がありませんもの」

 

そう言って、セシリアは地表に向けて急降下する。

その操縦技術は、今の一夏から見れば未熟としか言いようがない。

しかし、彼女の姿勢から操縦者としての才能と積み上げた努力が垣間見えた。

高速で地表に迫るセシリアは、華麗な動作で反転する。

その直後に機体は急減速し、地表から10cmの位置で静止する。

コンマ数ミリ程度の誤差はあるが、あくまでも代表()()()である事を考えれば十分な結果だった。

 

「上出来だ、オルコット。織斑、とっとと降りてこい」

 

その声を聞いて、一夏は急降下を始める。

彼の持つ雪暮の速度は、先程のセシリアを遥かに上回っていた。

そして、一夏は地表スレスレで反転。直後に急停止する。

その無茶な機動を見た千冬は、一夏に向けて言う。

 

「...随分と無茶な機動だな。それに、地表から10cmを目標にしろと言っただろう」

「すみません。若干反応が遅れました」

 

一夏は即答した。

その声色から、千冬は一夏の行動がわざとであると知る。

そして、千冬は当然の如く一夏を叱る。

 

「授業でわざわざ危険な機動をしてどうする。...いいかお前ら。今のは手本としては全く参考にならん危険極まりない機動だ。こんな機動が出来るやつは世界に5人といないだろう。失敗して内臓をグチャグチャにしたくなければ真似はするな。いいな?」

 

その言葉に、反論はない。

当然だ。一夏の機動は、見ている限りでもとんでもなく危なっかしいものであり、自殺志願者としか思えなかったのだから。

その事実を受け止めつつ、セシリアは素直に驚嘆していた。

慣性の法則を完全に無視した無茶な機動。それを成功させる驚異的な技術は、セシリアにとって超えるべき強敵(とも)の手によって行われたのだから。

 

(わたくしも、負けてはいられませんわね...)

 

セシリアは、静かに決意する。

その決意を胸に秘めつつ、セシリアは進んでいく授業を熱心に受けていた。

 

 

「ふーん、ここがIS学園か...」

 

その日の夜。IS学園の正面ゲート前に、小柄な少女が立っていた。

少女は一度下ろしたボストンバッグを再び持ち上げ、そしてしっかりとした足取りで歩き出す。

 

「えーっと、確か本校舎一階総合事務受付に行って手続きを...ってかまず本校舎がどこにあるのかすらわかんないんだけど、このパンフ雑すぎない?」

 

少女は一枚の紙を手に、うろうろとIS学園の敷地内を歩く。

あまりに広いその土地と、無駄に施設が多いというその構造が原因で、少女は完全に迷子になっていた。

 

「んー...そもそも地図が書いてないあたり不親切よね。全く、誰がこのパンフで本校舎まで辿り着けんのよ...ん?アレってもしかして...」

 

少女は、視界の端に人影を捉えた。

改めて注視すると、長髪の女性に見える。

その女性は、非常に美しく見えた。

自身より確実に高い身長と、均整の取れたスタイル。そしてリボンで一つに纏められた黒く長い髪は、光の加減で艶のある輝きを放っている。

その女性としておおよそ完璧であろう美しさに、少女は若干の羨望を抱く。

しかしすぐに再起動すると、少女は女性の元へ駆け寄って行った。

 

「あの、すみません!」

「...私に何か御用ですか?」

 

声をかけられた女性は、IS学園の制服を着ている。

それを見た少女は、絶好の機会を逃すものかといった具合に用件を伝える。

 

「本校舎一階総合事務受付ってどこにありますか?」

「総合事務受付ですか...口頭で説明できる自信がないので案内します。着いてきてください」

「良いんですか?ありがとうございます!」

 

その言葉に礼を述べ、少女は女性の後ろに着いていく。

しばらく歩いていると、女性が口を開いた。

 

「もしかして、転校生か何かですか?」

「あ、はい。一年二組に転入することになったんです」

 

その言葉に、女性は若干驚く。

しかし、すぐさま驚きを抑えて口にした。

 

「...ということは、私と同じ学年ですか」

「えっ?そうなんですか?」

 

女性の言葉に、今度は少女が驚いた。

そして、若干堅くなっていた表情を解し、軽い調子で言った。

 

「...じゃあ、特に敬語とか使わなくて良い?」

「ええ。私もあまり好きではないので」

 

女性の了承を受け、少女は口調を崩して言う。

 

「じゃあ、自己紹介しましょう。アタシは凰鈴音(ファン・リンイン)。鈴でいいわよ。あと、アタシには丁寧語禁止ね!」

「ふむ、では丁寧語は止めさせてもらおう。私は篠ノ之箒だ。名前で呼んでくれ」

 

互いに軽い自己紹介を終えると同時に、二人は総合事務受付に到着した。

それをきっかけに、箒が話し出す。

 

「...着いたぞ。ここが総合事務受付だ」

「ホント?ありがと箒、助かった!」

 

その純粋な感謝を込めた鈴の言葉に、箒は若干照れながら言う。

 

「...ん、ああ。そうか。なら良かった」

「お礼にジュース奢るわよ。何飲む?」

 

鈴は、受付の近くに並ぶ自販機に近づきながら言った。

それを聞いて、箒は素直に答える。

 

「では、下から二段目の緑茶を頼む」

「了解。...ホラ、これでしょ?」

 

箒の答えを聞いた鈴は、素早く自販機で緑茶を購入。即座に箒に投げ渡す。

絶妙な位置に投げられたそれを、箒は片手で受け取って言った。

 

「ああ。ありがとう、鈴」

 

箒からの感謝の言葉を聞いて、鈴は軽い調子で言った。

 

「いいっていいって。道案内のお礼だし。んじゃ、私は受付してくるから。またね、箒!」

「ああ。またな、鈴」

 

その会話を最後に、二人は別れた。

鈴は受付に行き、箒は寮に帰っていく。

両者の顔は、程度の違いはあれど気分のいい表情だった。

 

――これが恋敵同士のファーストコンタクトであることを、当事者たちは知らない。

 

 

 




一ヶ月も待たせて申し訳ない。(二度目
ここに至るまでにFGOに目移りして短編書こうか本気で悩んだり、ISのオリ主物書こうか悩んだり、もういっそ一巻飛ばしてシャルとラウラを出そうかとか本気で悩んだりしてました。
その影響で鈴編はちょっとサクサク展開になるかもです。あと臨海学校までに簪出せるように頑張ります。


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