料理長の休憩時間が終わるまで、俺は食堂にいた。
その間、遅めの昼飯を食べにきたコックや、休憩中のクルー、仕事中の副艦長などが食堂に顔を出した。
これがまた、お笑い草でさ。
でかい図体の男たちが食堂の入り口から顔だけ出して、こっそり覗いているんだ。
雁首並べて恐る恐る覗きこんでいるさまは、はっきり言って可笑しかった。
料理長も俺と一緒に苦笑いしていた。
しかし、彼らにしてみれば、七武海襲来の報だけでも驚愕したというのに、その鷹の目が子どもを抱えていたというのだから、更にびっくり。そして興味津々。
電光石火もかくやとばかりに艦内を噂が一気に駆け巡ったけれども、その際尾びれ背びれのせいで俺の存在が随分と不可思議なモノと化していた。
曰く。
鷹の目のミホークが子どもを連れてきた。
鷹の目の子供か!
ありえないだろう。
そうか?
鷹の目がカームベルトで海王類の子どもを捕まえたんだとよ。
いや、どこかの島で戦ったらしい。
いやいや、海王類なんて可愛いもんじゃない。人間だ。人間こそが化け物だ。
てことは能力者か。
賞金首か。
何ぃ!鷹の目が賞金首に負けただと!
バカか。鷹の目だぞ、ないない。
なんにしろ、鷹の目と同じ化け物だ。
そのバケモノが今食堂にいる。
――迷走しているな。
でだ。
噂につられて食堂の前まで来たものの、どうしたものかとこっそりと中の様子を伺ってみたわけだ。
その内、食堂に用があったものから通りすがりまで、いったい何をしているのかと寄ってきて人数が増えてしまったらしい。
しかしまあ、期待はずれでゴメンねと言いたい感じだな。
中を覗いてみれば。
料理長お手製のケーキを食べていたのは、俺だ。
ミホークみたいな怪物じゃなくてただのお子様。
怖がってみせるのも愚かしい。
まずは腹を空かせたコックたちが食堂に入ってきて、食事を始めた。
それをきっかけに皆ぞろぞろと食堂に入ってきて、席はあっという間に埋まった。
脇のテーブルに置いてあったでかい薬缶から、つくりおきのお茶を銘々入れて飲みはじめる。
「よく食うな」
「うまいか?」
次々に声を掛けてくるもんだから、俺は口をもごもごさせながら「おいしい」を連発した。
そのうち誰も彼もに遠慮がなくなって、アルコールのない宴会みたいになっていた。
それともアルコール入ってたのか、あのテンション。
気付けば、猫可愛がりというか猿可愛がりされていた。
大きく武骨な手のひらで頭を乱暴に撫でられては、個人持ち込みの非常食だというチョコバーや、きらきらしたセロハンに包まれた飴、家族が持たせてくれたのだという焼き菓子を俺の目の前のテーブルに積み上げていく。
私物の持ち込みはいけないんだけどね、と苦笑いをしていた副艦長もウイスキーボンボンをくれた。
そして子供に何を渡していると料理長に怒られていた。
周りが自分のことは棚に上げて笑っていた。
お菓子があまりに増えすぎて、破れた帆で作った巾着袋をくれた。
飴を口に放りこんだ後のセロハンも合わせて全部入れて、腰のサッシュに赤い口紐を結びつけた。
――なんだか、やることなすこと微笑ましく見られている気がする。
自分の子供とか孫とか思い出すのかな。
え、まさか愛玩動物。船のマスコット的な猿?
まあそれでもいいけどな。
だって俺は、誰かとコミュニケーションを取れるってことが、嬉しかった。
いいよな。出会い頭に撃たれも斬られもしないって。
休憩時間の終わった料理長は夕飯の支度に取りかかるべく、去っていった。
俺といえば、次は甲板長に託された。
さてどうしたものかと首を傾げた男に、仕事の邪魔はしたくない旨申し出ると、「じゃあ俺の仕事を手伝ってくれ」という話になり、甲板掃除の指揮をとるそばで、俺も椰子割りを持って甲板掃除に励むこととなった。
仕事の邪魔にならない場所で子供を遊ばせておく感覚だったんだろう、多分。
――自分で言って空しくなるな、これ。
見た目には合っている?
うるさいよ。
その後も俺はいろんなクルーに託されて作業の手伝いをしたり、副艦長に艦を案内してもらったり。
夕飯は艦長室で取った。
艦長がホストで、ミホークがゲスト。俺はおまけ。
料理は豪華だった。
おふらんすっていうの?
ディナーでコースだ。
軍人さんってこんな贅沢が許されるものなのか?
ミホークが居るからなのか?
でももし、普段からこんな贅沢が許されているとしてもしないだろう。艦長の人柄的に。
それはともかく、白いクロスのテーブルと並べられたナイフにフォーク。
どうしろと。
マナーてなにさ食べられるのかよと、恐怖におののいていたが、料理長が俺の前に置いたのはお子様ランチだった。
食べやすいよう先割れスプーンがついている。
「ありがとう!」
俺は料理長に礼を言ってスプーンを握った。
うへへへへ。
変な笑いが零れる。
傍からみたらずいぶんと崩れた顔をしていただろう。
でもだってさ。
例えそれが子ども扱いだとしても心遣いが嬉しいっていうか、ティータイムの時もそうだったけれども、誰かが俺のこと考えて何かしてくれるっていいな。
こざるが肉を焼いてくれるっていうのとは、全然意味が違う。
料理だけの話でもない。
心がくすぐったくて笑ってしまう。
そんな気分だった。