一枚のプレートに世界のすべてがつまっている。
そんな素敵なお子様ランチも、あっという間に食べ終わってしまった。
俺は退屈になってスプーンをがじがじとかじりながら、同席者に目を向ける。
海軍の士官はやっぱり海の紳士たれと、礼儀作法も仕込まれるんだろうか。
マナーもしっかりしていて、船の揺れをものともせずきれいに食べている艦長。
そしてミホークも、俺と酒盛りしていた時のワイルドな姿を想像もできないフォーク使いでステーキを食べている。
ていうか、うらやましいな。肉。
俺はスプーンをくわえたままで、めいんでっしゅなステーキを食べているミホークの手元を睨みつけた。
そりゃもう、羨ましさ120パーセントの目で。
ミホークはもちろん、俺が島でがっつり海王類の肉を食べていたのを知っている。
というわけで、見かねたのか肉を追加で頼んでくれた。
料理長が命じると、給仕として控えていたクルーのひとりが艦長室を出て行く。
元々追加オーダーの心積もりをしていたのか、それともクルーの食事を奪ってきたのか。
大皿の料理がすぐに登場した。
何かの丸焼きが、ででんと鎮座している。
でかい鳥の丸焼き――じゃないな。え。カ、カエル?
カエルか?
ほらあれだ。
海の列車に体当たりしていたでかいカエル。
あれに見えるんだが。
と思いつつ。俺は躊躇なく丸焼きにかぶりついた。
ミホークがナイフとフォークを置きワイングラスを持ち、食事に一区切りがついたのを見てとって、艦長が話題の糸口を手繰りよせた。
「ゴクウくんのために、艦長室にもうひとつベッドを運びこまないといけませんな」
「えー」
俺はすぐに否定形を口にのぼらせる。
それもマナー違反?
気にするなー。
「ハンモックがいい」
主張したいことをきちんと告げるほうが大切だ。
「なぜだ?」
ミホークが心底不思議そうに聞いてくる。
なぜだもなにも。
「だってミホーク。ハンモックだよ、ハンモック」
夏島と軍艦ではハンモックで寝るべし!
案内してくれたクルーがそう主張していた。
賛成だ。
第二甲板で見せてもらった、居住区にずらりと並ぶハンモックに、俺の心は躍り上がったものさ。
飛び上がって喜んで、そのままダイブ!
当直明けのクルーが寝ているのをものともせず義経のごとく八艘跳びを披露しようとして失敗し、クルーも枕も毛布も一緒に絡まって大変な騒ぎになったのも記憶に新しい。
うん。たのしかった。
「ミホークはハンモックで寝たことあるのか」
「ない」
「俺もない」
だから体験したいのだ。
「ミホーク。楽しいことを楽しまないのは人生損してる」
「ふむ」
ミホークが頷いたのをいいことに、俺は更なる提案を重ねた。
「じゃあ、ミホーク。一緒に居住区にハンモック吊るしてもらおう!」
二人のやりとりをほほえましく見守っていた艦長が真っ青になった。
「い、いえ。それは……」
まずいか?
俺は首を傾げたが、でもやっぱり不味いらしい。
がんばれ艦長と部屋の脇で控えていたクルーが、声を出さずにエールを送っていた。
ミホークと共寝は遠慮したいらしい。
結局、艦長室にふたつハンモックを吊るしてもらうことになった。
いいだろハンモック。
うらやましいだろハンモック。
ハンモックサイコー!
ああ、懐かしの海洋小説の世界。
海と帆と。
大砲とラム酒とエールと火薬と黒パン。
狭い砲甲板。
この軍艦は快適すぎてあまり思い浮かばなかったけれども、ここは海軍。
あの、湿気た焦げ茶色の世界にとても近いところ。
……こういう雰囲気にしたかったのですが。