ひゃっほう!
やあ!ごきげんかい?俺はごきげんだ。
俺は今、メインマストのてっぺんにいる。
海は遠く、空は近く、風の中にいる景色は鮮やかな青。
もっと高い木の上にも、もっと険しい崖の上にも登ったけれど、それとは全く違う爽快感。
最高に気持ちがいいんだぜ。
なに?
猿と馬鹿は高いところが好き?
それが両方だけに――って失礼だな。
猿と馬鹿のどこが悪い。
最高に楽しいぞ。
マストに足を引っ掛けて甲板を見下ろせば、ミホークが鍛練をしている姿を捉えた。
水兵たちは、そんな覇気溢れる――というか、溢れかえりすぎて物騒な殺気を放つ鷹の目には近付かない。
甲板掃除が不自然な円を描いている。
また、何人かのクルーがマストに1人で登ってしまった俺が落ちやしないか、帆に巻き込まれまないかと下ではらはらしている姿も見える。
海軍の皆さんとは(そして概ねミホークとも)随分と仲良くなって、快適に過ごしている今日このごろ。
マストで跳び跳ね甲板を走り回り、ミホークを艦長室から引っ張り出そうと無駄な努力を重ね、コックの背中に張り付いてシチューの作り方を教わり、大砲の砲筒にもぐりこみ、クルーたちの足元にまとわりついて仕事の手伝いをしつつ実際は邪魔をして、嵐の夜に走り回るクルーとセントエルモの火を肴にしてミホークと酒を呑んだり、ハンモックをぐらぐら揺らしては海の話をせがんだりと、まあそんな感じに充実した日々を過ごしているわけだ。
しかし、どれだけ居心地よくてもいつまでもお世話になってはいられない。
なにせミホークは急いでいる。
急いでいるのなら、ミホークの船で目的地に向かうほうが速いんだと俺は思っていた。
ミホークの船って池のボートに帆を足しただけのような生なりの小舟だけど、いろんな法則無視して1日でグランドライン一周できそうな不思議船のイメージあるんだよな。
あ、持ち主が不思議剣豪様だからか。
ミホークの船は小さい分、積載量も少ない。
だからって、きつい酒をわずかばかり積んでそれでいいってどうよ。
まさか酒だけで航海していないだろうなミホーク。
そんな不思議剣豪の持ち船だから余計に、あっという間に目的地に着きそうな気がするんだな、きっと。
でもそんな俺の思い込みとは裏腹に、この艦のほうが速いという判断を下したのだろうミホーク。
そうでなければ、俺だけをここに預けて先に行けばいい。
でもミホークはそうせずに、艦長室でワインを順調に消費しているのだから。
そして、その鷹の目のミホークの御意向を受け、急遽海軍本部へと向かうことになった海軍さんの事情はというと。
今回の航海の目的は、海楼石を使った新造船のテスト航行のための演習だった。
海軍本部を出て、荒い海域を選択しつつカームベルトを目指して進んでいたところで鷹の目(と俺)が乱入した。
造ったばかりの船をばっさり斬られなかっただけマシだと艦長副艦長揃って胸を撫で下ろすってどうなんだろう。
実際にミホークてば、邪魔だからで船を沈めてしまうことが多いらしいよ。
海軍にも海賊にも、運悪く出くわす災害扱いされている。
シーモンキーと並んでどちらが厄介かと言われていたが、七武海になってからは「天災」扱いから「演習指導」と「海賊討伐」扱いになったそうだ。
……それってつまり、やっていることに変わりはないってことだよね?
まあ、だからというかなんというか、流石七武海無理が通るとこの世の理不尽を嘆くべきというか、演習予定はあっさり変更となり、鷹の目なんて危険物をいつまでも載せておきたくないという本音も見え隠れしつつ、最速ノットで引き返し中なわけだ。
俺たちを降ろした後、艦はそのまま演習に戻るらしい。
これが別れと名残を惜しんだクルーが、ごつごつとした大きな手のひらで俺の頭を乱暴に撫でながら、色々と餞別をくれた。
こっそり持ち込んだ非常食がわりの甘味がほとんどで、俺の両手は一杯になった。
とっておきだっていうバブルキャンディをそのてっぺんに乗せつつも「今度持ち物検査するか」と副艦長が言うと、料理長が「じゃあ、一番手はあんただな」と返し、周りがどっと沸いた。
その料理長にはレシピ本をもらった。そして、艦長には斜めがけにする麻袋再利用のバッグをもらった。
あれ?これってどんなデジャブ?
そして、海軍本部。
ミホークを出迎えたのはおつるさん、と。
ドフラミンゴだった。
バブルキャンディ。
シャボンディ諸島産のチューイングキャンディで、風船ガムのように膨らませることができる。
大量に口に放り込んで膨らませば、空を飛べると信じられている。