三日月の島、マリンフォード。
丸い内海にはたくさんの巨大な軍艦や商船が並び、その間を小型船舶が行き交う。
湾を埋め尽くすほどの白帆は、正に圧巻。
そして海軍本部の前では、白いコートをはためかせた将校たちを引き連れて、海軍中将おつるさんが待っていた。
圧巻圧巻。
「七武海に入ってからずっと音沙汰なしだったのに、どういう気まぐれだい。鷹の目」
おつるさんが、そう会話を切り出した。
だけどミホークは、ふんと鼻を鳴らして返事に代えた。
俺はその足元から「はじめまして」と挨拶をする。
おつるさんが目を細めて、にこりと微笑んだ。
「おや、はじめまして。かわいい子を連れているね」
「それが噂の鷹の雛かァ」
いきなり俺たちの後ろからずいと身を乗り出してきたのは、ピンク色の羽コートをまとったドフラミンゴだった。
うわ、でけえ。
振り向いた俺は、思わず口をぱっくり開けて見上げてしまう。
鳥さん、サイズ3メートルだっけか?
俺としてはこんなビッグな人間初めて見るが、この世界では小さいほうなのかもしれんと原作を思い返してみる。
うん、遠近法が間違っているんじゃないかってくらいのビッグサイズが多かった。
これだとジンベエやクマに会うのも楽しみだ。
ああでも、まだ両方とも七武海にはいないのか。残念。
「面白いもんが見れるって情報が入ったからな。足を伸ばして見物に来てやったぜ」
フッフッフッと笑うドフラミンゴにおつるさんが厳しい口調で言う。
「ドフラミンゴ。あんた、またスパイを増やしたね」
「おつるさんも俺の配下ンとこに新しいの入れたろ」
返すドフラミンゴはひょうひょうとしたものだ。
なにそれこわい。
つまりはだ。
ミホークが海軍本部に来ることは、乗ったのが軍艦なんだからもちろん直ぐに連絡が行っただろう。
その情報を海軍に潜り込んだ紅鶴のスパイがキャッチし、報告。
ドフラミンゴが好奇心に駆られて舳先を海軍本部に向けたことは、海軍側のスパイが報告したと。
なんてスパイ大作戦。
ていうか、情報の行き来速いねと感心してしまう。
そしてミホークとドフラミンゴが揃って入港という事態に、おつるさんが監視役に選ばれたというところかな。
実際、睨み合ってるし。
「あんたたち、暴れるんじゃないよ」
おつるさんが、子供の喧嘩に呆れているような声で2人をたしなめた。
言われなくても、おつるさんの目の前でそんなヤンチャはしないだろうけど。
――いや、するのか?
しそうだな。
まあ、今はただ睨み合っているだけだ。
それでも、桟橋の向こうで立哨していた水兵が気絶した。
おつるさんの後ろに並んだ将校は流石に気絶しないけどひどいあぶら汗を流している。
俺?
俺は今ちょっと紅鶴っていう名前の高い山を攻略中。
ピンク色の羽をのぼって背中を通過し、そろそろ左肩に到着するかというところ。
しかしこのコート、何でできているんだろう。よく羽が散らないな。
これで戦闘もするっていうんだから不思議だ。
すごいなドフラミンゴ。
さすが七武海。
あれ?
俺はドフラミンゴの肩に手をかけながら、首を捻った。
「まったく。あんたたち海賊は好戦的でいけないよ」
「海軍のやつらだってたいして違やしねェよ」
おつるさんの言葉にドフラミンゴは、目線をミホークから外さないままで、フッフッフッフッと肩を揺らして笑う。
そのたびにコートの羽がばさばさ膨らんで、掴まっている俺としては面白いがそんなことより。
俺はドフラミンゴの肩を蹴ってミホークに向かって跳んだ。
今更だけどよく怒らないなドフラミンゴ。
意外と寛容なのか。
そして、肩から肩にとんだ俺に虚をつかれた3人。
せっかくのにらみあいを中断して悪いけれど、疑問がある。
俺はミホークの肩にぶら下がりながら、聞いた。
「なあなあ、ミホーク」
「なんだ」
「親子か」
「親子だね」
それを見て、鶴鶴コンビが息の合ったコメントを同時に呟いた。
しつれいな。
しかしまあ、それで緊迫した空気が弛んだ。
将校の誰かがほっと息を吐く、小さな音が聞こえた。
「ドフラミンゴって海賊なのか?」
何を今更当たり前のことをいう顔をされた。
でもさあ。
「そうしたら、ミホークも海賊なのか?」
いやいやいや、俺としては至極マジメに訊いたつもりなんだけど。
なんでか、ドフラミンゴに爆笑されている。
「軍艦に乗って海軍本部に来たから、混乱させたんじゃないのかい」
おつるさんが、良心的なコメントをくれた。そして「あんた、ちゃんと説明しなかったんだろ」とミホークがお叱りを受けている。
そうだよなあ。
王下七武海ってことは、著名だった海賊だよな。
でもミホークって元賞金首っていうのはありでも、あまりにも『剣士』のイメージが強すぎて『海賊』としてのイメージがなかった。
ていうか、この海で囲まれ島で生きる世界での海賊の定義ってものを聞きたいものだ。
「ミホークは海賊」
改めて声に出して、俺はそのことをきちんと認識した。
「じゃあ俺、ミホーク海賊団のクルーになる!」
「ねえよ」
ドフラミンゴに、即座に否定された。
ないのかよ。
だから海賊のテーギって。
「ないなら作ろう」
「いらん」
今度はミホークがばっさり一言に切り捨てた。
ぶー。
いいじゃないか、ミホーク海賊団。
キャプテンはきみ、クルーはぼく。
呼吸困難起こす勢いで、ドフラミンゴが大笑いしていた。