俺がシャンクスと初めて出会った時の話をしよう。
沖にその海賊旗がはためいたのは、俺がミホークの島に落ち着いて直ぐの頃。
ミホークにしごかれていた時で、鍛練場でひーひー言っていた俺の首根っこをひょいと摘み上げ、いたずらっ子全開のすごい笑顔で笑っていたのが赤髪の海賊だった。
「一匹狼の鷹の目が子連れ狼になったってのは本当だったか」
「ぎゃはははっは!」
「どこの金髪美人孕ませたんだよ」
「目が似てるぜ、おとーさん」
ぶら下げられたままの俺の顔を覗きこんで、楽しそうに茶化すのはバンダナ巻いたドレッドヘアの男。
シャンクスの隣でマンガ肉持った大男が大口開けて笑っている。
「よう、坊主。初めましてだな。俺の名はシャンクス。海賊だ」
みんなの憧れシャンクス。
赤髪海賊団大頭にして四皇の一人――になるのはまだまだ先のこと。
海賊団自体が若い。
シャンクスが海賊王の船で見習いをしていたことを知っている者も少なく、名前もあまり知られていない。
けれど人を惹きつけてやまないカリスマは十分発揮されていて、知る人ぞ知る人物となっている――らしい。
顎に無精ひげもなくさっぱりとしたワカゾーって見た目だけどな。
海賊の船長っぽいマントだってしていない。白いシャツにひざたけのズボンと気安い格好だ。
更に頭に麦わら帽子。
どこからどう見ても背だけひょろりと伸びた子どもだが、しかし眩しい日差しと青い海そして彼の笑顔に、夏を象徴する麦わら帽子はよく似合っていた。
それに、この麦わら帽子がルフィに託されるんだ。
おお!これが!と俺が感動した気持ちはもちろん分かってくれるだろ?
それにしても「ミホークの子ども」説は根強いな。実はミホーク派手に女遊びしてんのか?とシャンクスにぶら下げられたままの俺は首を傾げたが、それをミホークに聞く暇はなかった。
いきなりミホークが腰に佩いていた剣を抜いたからだ。
そしてシャンクスも楽しそうな笑みを浮かべてカットラスを抜く。
おいおいこらまて俺をぶら下げたまま始めるのかよとシャンクスの手の中で暴れたら、ひょいと放り投げられた。
ルウの樽腹にぼよんと弾かれて、落ちる。
こんな出会いだった。
それから半日もしない内に俺はシャンクスと一緒にシャボンディで遊んでいた。
ミホークとシャンクスの戦いは激しいものだった。
激しすぎたので住んでいる館が半壊し、青筋立てた執事さんに直るまで戻ってくるなと追い出された。
そして赤髪海賊団は、俺と一緒にご機嫌にはしゃいで遊び倒す貴重な人材だということが判明した。
赤髪海賊団キャプテンのシャンクスは子供好き。
というよりも、シャンクスが子供だった。
「お頭、あんた幾つだよ」
呆れた息を吐くのは、赤髪海賊団の副長であり、はしゃぐ子どもふたりの保護者と化しているベックマン。
「精神年齢が子どもと同じだからな」
屋台の肉料理を両手に持ったルウの横で笑うヤソップ父さんは、だけど射撃ゲームの景品を大量に抱えていて、あまり人のことを言えない。
俺?
俺はもっと言えない。
今いくつだよとかそんな疑問も聞こえない。
前世と今世合わせれば誰よりも最年長とか、そんな足し算はしない。
男はいくつになってもガキなんだ。
屋敷周辺で暴れるのはご法度となったが、それ以外の場所では恒例というかなんというか、シャンクスとミホークが揃えばいつもチャンチャンバラバラと剣を交えている。
しかし、実力者ふたりの手合わせだ。
いつだって周りの被害が洒落にならない。
屋敷半壊なんて実はまだ序の口だった。
海が割れたり、町がひとつ廃墟になったり、森が荒地になったり、港が壊滅したり。
無人島で何日も戦い続けて決着つかなかったり、鬼ごっこの体(てい)を見せ始めたり、そして他の海賊たちの酒の肴になったり。
え?途中から話が飛んでないかって?
飛んでないんだなこれが。
毎回毎回どこで聞きつけるのかどこから集まるのか野次馬が増え、あっという間にお祭り騒ぎの大宴会だ。
でもそのおかげで被害が減るという面があり、ありがたかったりもする。
自分の身を守るついでに建物や一般人への剣戟を逸らしてくれる。
それ以前に一般人は海賊が集まりだした時点で逃げる。
なぜだか時々ガープのじいさんを筆頭に海軍も混じっているのは不思議だが。
ちなみに被害が出た時の損害賠償だが、毎回見物人どもがトトカルチョをするので、その中から支払われている。
賭けの元締めは赤髪海賊団副長のベックマン。
曰く、賭けは胴元が一番儲かるようにできているってさ。
こんなふうにしてシャンクスとミホークの死合いは、シャンクスがその片腕を失くすまでは頻繁に行われていた。