猿王ゴクウ   作:雪月

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第弐拾弐回 宝払いと

 

 

 

 

 

 しかし、ここで残念なお知らせがあります。

 

 

 

「俺、ベリー持ってないんだ」

 

 

 

 すっからかんです。

 

 海軍にいた時?

 

 上陸休暇の度に、駄菓子を3つも買えるくらいのこづかいをもらっては、すぐに使ってしまっていたけど、なにか。

 

 というわけで。

 

「せっかく用意してくれたのに、買えないよ」

 

「気にするな」

 

 ミホークがそう言ってくれたけれども、気にするなと言われて気にしない程度なら、最初から気にしてないってと、なんだか早口言葉みたいになりながら反論しておいた。

 

 これくらいの出費でミホークの懐が痛むことはないとしても、そういうことじゃないんだ。

 

 むう、と頑是ないお子さまのように顔をしかめていたら、「宝払いでよろしゅうございますよ」とジョン氏が言った。

 

 あ、宝払いってデフォルトなんだそうなんだと新鮮な驚きを感じていたら、思い出した。

 

 

 

 あるよ、宝。

 

 

 

 じゃあ宝払いでと、花果山は水簾洞まで取りにいった。

 

 金斗雲ならビュンとひと飛びだ。

 

 これも孫悟空スペックなのか、海図がいらないどころか嵐を避けて、見渡すかぎり目印も何もない雲海の上を飛んでいても、迷子にはならない。

 

 そして、久しぶりの故郷。

 

 船が一隻新しく座礁していたけど、島に人が踏み込んだ気配はない。

 

 島を任せていたこざるたちは、半数以下に減っていた。

 

 海に落ちたり猛獣に襲われたり人間を追い払ったりで、減ったらしい。

 

 ……増やしておくか。

 

 毛をぶちりと抜いて噛み砕き、ふうと息を吹きかければ、こざるたちが増殖した。

 

 

 

 うん、これでいい。

 

 

 

 洞窟に潜ってみると、仙桃の木は枯れていなかった。

 

 まだ新しい花も実もついていないけれど、岩壁破壊という大きな環境の変化にもめげずに元気で安心した。

 

 洞の中の泉も水の流れが変わっただろうに相変わらず澄んでいて、そしてその中の金銀財宝は輝いていた。

 

 ……苔むしたりはしないのか?こういう場合。

 

 とりあえず、持ってきた鞄に入るだけを詰め込んだ。

 

 そして帰り際にちょっと考えて、唯一残っている出入口に細工をすることにした。

 

 もともと岩山の裂け目のひとつみたいで分かりにくいけど、こうして使ってみると分かる人にはすぐばれるんじゃないかって気がするんだよな。

 

 だからとりあえず、この島特有の大きな羊歯類を植え替えて、全く見えないように覆い隠してみたんだ。

 

 目くらましくらいにはなるだろう。

 

 

 

 

 

 持ち帰った宝を前にして「これはこれは」と揉み手をしたジョン氏の目が妖しく光っていたのは、俺の見間違いではないはずだ。

 

「これで払えるよな」

 

「もちろんですとも」

 

 しかし、こういう物の価値っていうのは全く分からないね。

 

 俺がこれ!と思って持ってきた、でかくてきんきらした王冠には金の重さ分の価値しかなくて、隙間を埋めるように詰めてきた随分と古い潰れたような金貨にはなんでも歴史的価値があるらしくて、王冠の10倍はする高値がついた。

 

 こりゃ、騙されてぼったくられても、ちんぷんかんぷんだ。

 

 いいやもうジョン氏におまかせでと丸投げした。

 

 そうしたら、多すぎますって言われてさ。「どのくらい?」って聞いたら「船が一隻造れるくらいはございますよ」と返事があった。

 

 

 

 だから、俺専用の船を買うことにした。

 

 

 

 ミホークの船?

 

 いやいや。

 

 乗らないよ絶対。

 

 海には慣れたんじゃないかって言われても、それはそれこれはこれ。

 

 あの船の怖さはぜんぜん違うんだ。

 

 バンジージャンプが怖くなくないからって、同じ高さから紐なしで飛び降りることができるか?

 

 自殺願望がある奴くらいにしかできないだろ。

 

 それと同じだ。

 

 一度乗ってみるか?

 

 言っておくが、お勧めはしないからな。

 

 

 

 

 

 


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