猿王ゴクウ   作:雪月

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第参拾回 刀匠の挑戦もしくは挑発

 

 

 

 

 

 

「わっはははは!」

 

 

 

 俺は腹を抱えて笑い転げた。

 

 目の前に立つミホークが、心外だとばかりに腕を組んで睨む。

 

 

 

 商人に預けた黒刀の拵えができあがってきた。

 

 

 

 もちろん、各種コートも揃えられている。

 

 商人がいつも通されるゲストルームに店が広がっていて、にぎやかだ。

 

 新しい鞘は、黒の漆塗りに銀の装飾を施されたものが用意された。

 

 鞘とは真逆の白い革でできた幅太のベルトを斜めに掛けて、背中の鞘を支える。

 

 ベルトの上にコートを着たら刀が抜けないから、コートの上にベルトが掛けられるようシャープなシルエットのデザインで、ダブルブレストのロックコート。色はベルトと同じ白。ベルトの掛かる肩位置から、金のモールが揺れていた。

 

 鞘の黒色がどこまでも映える。

 

 でもミホークには、どこぞの騎兵隊の軍服みたいな窮屈さがお気に召さなかったらしい。

 

 

 

 次のコートを試して、冒頭に戻る。

 

 

 

 着ているのは、革のノースリーブコートとシルクのシャツが一体となったようなデザインをしていて、前合わせのボタンもチャックも用意されておらず、どこまでも開放的。

 

 だから鞘も使わない。

 

 コートの背中に抜き身のままの刀を支える仕組みがあって、横に引くだけで刀が抜けるようになっている。

 

 しかし留め金ふたつがついているだけでは、刀の重みで生地が吊れる。

 

 そのため、表からは見えないコートの裏地の中に両の肩口から背中へと硬いベルトが通してあるのだという。

 

 コートの色は黒、シャツの色は白。襟にはアクセントとして金糸の刺繍が施されていた。

 

 今回のコンセプトは白と黒か?

 

 他の色目が随分と少ない。

 

 きっとメインである黒刀のシンプルさと、それに相反した装飾の派手さを際立たせるためだろう。

 

 

 

 そう、刀。

 

 

 

 これが俺の笑いの発作の原因のひとつ。

 

 聞いてくれよ。

 

 あの鍾乳洞で見つけた時は、もっと日本刀日本刀してたんだ。

 

 刃渡りが長いだけあって柄は確かに長めだったけれど、巻かれた紅い柄糸も、細やかに堀りこまれた鍔もそんなに奇を衒うものではなかった。

 

 だから派手によろしくといっても同じコンセプトで仕上がってくると思っていたのに、まったく違うものになってくるなんてね。

 

 今やぱっと見、片刃の洋剣だ。

 

 持ち手は鍔と柄とが一体になっている十字形。生産スキル『鍛冶』だけあれば作れそうな金属製で、滑り止めに白い革が巻かれている。

 

 刀身の長さを鑑みたにしては不必要に長い柄は、先端に大きな青い玉石を頂いていた。

 

 なんだか、魔法使いの杖っぽい。

 

 魔力がこもっているとか言い出さないよな。

 

 リリカルマジカルって変身したらどうするんだよ、ミホークが。

 

 あ、やばい。

 

 想像しちゃったよ。また笑いの発作が。

 

 そして俺の笑いが止まらないものだから、ミホークの機嫌が一段と悪くなる。

 

 

 

 考えるな、俺。

 

 

 

 つ、柄もすごいが鍔もすごい。

 

 柄の長さに張り合うかのように左右に伸びた鍔にも青い石がアクセントに埋められているが、それよりも両端で上下に優雅な曲線を描く反りが気になる。

 

 鍔迫り合いの際、相手の刃が滑るのを防止するためのものか?

 

 しかしあの長さで鍔迫り合いなんてできないんじゃなかろうか。

 

 だからどちらかというと、鈍器で凶器。

 

 あれで横殴りされたら、顔が抉れるだろう。

 

 そうでなくとも、何かする度に柄と鍔が邪魔になる。

 

 刀を縦に振ろうが横に振ろうが、刃が届くより早く刺さるんじゃないか。いや、その前に自分に刺さりそうだ。

 

 脇をしめたら簡単には振り抜けないけど、だからって腕を伸ばして振るものでもない。

 

 どうするんだよこれ。

 

 野太刀だろ大太刀だろ長ものだろ。

 

 俺の棍のようにつるぺたでいいじゃないか。

 

 そうすればぐるぐる回してもどこにも引っ掛からないのに。

 

 刀匠は何を考えて、ここまで邪魔くさい装飾を施したのか。

 

 大剣豪様ならこれくらい扱えるだろうという信頼か、それとも挑戦か。

 

 その素晴らしく派手で邪魔な刀を、ミホークが背負っている。

 

 

 

 まるで十字架のような、それ。最上大業物『夜』を。

 

 

 

 つまり今のミホークの姿は、随分と原作に近付いている。

 

 これが笑わずにいられるか。

 

「に、似合ってる。似合ってるよミホーク。流石大剣豪様。大業物を扱うに不足なしってね」

 

「笑いながら言われても、不快でしかないぞ」

 

「いやいや、本気。ちゃんと誉めてるってば」

 

 だけどさ、ぷぷっ。

 

 ああ、腹筋が痛い。

 

 多分ミホークとは付き合いが長くなった後だから、笑わずにはいられないのだろう。

 

 海軍本部の皆は初めて会った時からずっと、原作と同じ正義を背負った軍服姿だったが、だからどうってことなかったし、シャンクスの麦わら帽子なんて感動したくらいだ。

 

 でもミホークの今の格好を見たらなんというか、昔厨二病を拗らせたまま治らなかった友人が、オタク(俺)とつるむようになったせいでコスプレにハマった時を思い出していけない。

 

 背中から十字架が生えているんだぜ。

 

 ゴルゴダの丘を上る殉教者でもあるまいに。

 

 ……そういえばこの世界の宗教ってどうなっているんだろう。

 

 天竜人が現人神扱い?

 

 え、じゃあ十字架のアクセサリにあまり意味はないのか、もしかしたら。

 

 

 

 

 

 

 この後。

 

 ゴクウ様は仕込刀にも興味がおありのようでしたのでと、ジョン氏が俺に十字架の仕込刀を渡してきた。

 

 手のひらサイズの剣には、装飾がない。

 

 見た目シンプルな金の十字架。

 

 ちゃんと首に掛けるためのチェーンもついている。

 

 思わずあんたも転生者かと商人に聞きたくなった。

 

 それともそんなにミホークを厨二病にしたいのかと。

 

 

 

 もちろん俺は、羽根つきの帽子を準備した。

 

 

 

 

 

 









「ミスタ・ジョン!ミホークの船、改造しよう」

 あれだよ、あれ。棺おけなやつ。

「それはよろしゅうございます。ちょうど新しいエンジンができたと申しておりましたので、改造よりも新造いたしましょう」

 いいね。

 せっかく黒刀と剣豪様を厨二病全開にしたのだ。

「海に玉座が浮いてて背中に黒刀を背負ってると磔に見えて、えーってドン引きそうな感じ。船先と船尾に何故か消えない蝋燭つけて、帆は真っ黒。俺の猿船あるからサイズは更に小さくなってもいい」

 うん。そんな船、俺は絶対乗らない。

「だからミホーク。新しい船に剣のモチーフの海賊旗つけよう」

「いらん」





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