猿王ゴクウ   作:雪月

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第参拾四回 祭りの終わりはいつだって

 

 

 

 

 

 

 収穫祭はまず、島中が鮮やかな赤と黄の布に彩られて始まる。

 

 土着の神さまに由来してのことらしいが、信仰というよりも風習と化してしまい、神さまの名前を知る者は少なく、赤色と黄色にどんな意味があったかを知る者となると更に少ない。

 

 実りの秋にその恵みは溢れているが、この島、そしてこの祭りでメインとなるのは島の特産物で、ウリ科の野菜ポパルポ。

 

 熟せば甘いが、大体が青いうちに煮物に使われる。

 

 このポパルポを奉納するため、やはり黄と赤に塗られた紙の船に載せて海に流す。

 

 波に洗われ船はみるみると沈むが、ポパルポは浮く。

 

 そして最後に残った船が神の船だ。

 

 沖でとぷんと最後の船が沈むと、見物人たちは我先にと海に飛び込み、ポパルポを奪い合う。

 

 食べれば健やかな一年を過ごせると、言われている。

 

 そんな奇祭が奉じられる島に、けれど着いたのは残念ながら祭りの最終日だった。

 

 ポパルポも煮込まれ、振舞われていた。

 

 そして黄色い布を頭に巻いた赤髪が賑やかに酒を飲んでいた。

 

 ちなみに、ミホークはいなかった。

 

 地酒飲んでいるところにばったりとか、シャンクスよりもミホークの方がありだろうと思っていたんだけどなあ。

 

 ここにいないとなると、先に進んでしまったか。

 

 まあ、お互いどうせ気ままに波任せ。

 

 追いつくことはできるだろう。

 

 そういえばわざわざ「東の海へ行く」って言っていたってことは、今回目的地があるのかな。

 

 まさか、御礼参りということはないだろう。

 

 首をひねって考えるまでもなく、答えはすぐに浮かんできた。

 

 ――ああ、そろそろ恒例の大会がある時期か。

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 グランドラインを抜けてイーストブルーへと入り、祭りで買い込んだ菓子を散らかして、ミホーク用にと買った地酒を倉庫に運ぼうとドアを開けてびっくり。

 

 食糧がない。

 

 酒の樽が転がる他は、虫よけを兼ねたハーブが壁を飾っているだけだ。

 

 転がっている酒だってラム酒の他は海軍仕込みの蜂蜜酒の小さい樽だけ。

 

 エールもウイスキーもワインも消えている。

 

 それ以前に水がない。

 

 キッチンに多少は残っているだろうけれど。

 

 うーんと唸りながら甲板に出てみれば、干しの足りない干物が風に揺れていた。

 

 

 

 酒がないのは祭りのせいだ。

 

 

 

 というか、いつものようにシャンクスたちと宴会になって、もちろん赤の他人もたくさん巻き込んで港でどんちゃん騒ぎした。

 

 祭りの終わりで、誰も彼もテンションが高かった。

 

 どれだけ注文しても酒が足りずに「どんどん持ってこーい」と叫んでいた記憶があるから、こざるたちが船から運び出したのだろう。

 

 

 

 酒は珊瑚の隠れ島で補給していたのに、まさか一晩で消えるとは。

 

 

 

 食糧も随分と積んであったはずで、こちらは途中の補給はしていないが、まだまだ大丈夫と思い込んでいた。

 

 しかし、記憶を漁れば消費した記憶はぼろぼろと出てくる。

 

 シャンクスたちと連日繰り返した宴の席で「野菜がないだろ野菜が」と運ばせた記憶とか。

 

 粉もの引っ張り出して朝のパン作り大会をした記憶とか、昼のお好み焼き大会をした記憶とか。

 

 

 

 うん、楽しかった。

 

 

 

 なにせ赤髪の海賊団には専属のコック以外にも食にこだわる者が多くて、腕も立つ。

 

 しかしどれほど腕が立とうとも、俺も参加した干物作りのような時間のかかることをグランドラインの航路でできるかというと、そうでもない。

 

 気候が朝夕で変化するグランドラインの航路ではなかなかに難しい。

 

 夕立のように読みにくい嵐が多発すれば、火が通っているだけで御の字だ。

 

 だからこそ隠れ島に長逗留中にこれ幸いと、色んなことにチャレンジしていた。

 

 作り方を教えてもらうのが楽しくて、しかしそれだけでは一方通行だ。せめて食材の出し惜しみはしなかった。

 

 在庫の確認もしなかった。

 

 

 

 ダメダメだよな。

 

 

 

 情けない話だが、危機感がないからいけない。

 

 いざとなったら、金斗雲でひとっ飛びすれば解決するからなあ。

 

 けれど今は、食の楽しみを捨てるほど急いでいるわけでもない。

 

 ここはひとつ、補給する島を探そう。

 

 どうせなら今まで行ったことのない新しい島がいい。

 

 そこに珍しい特産物でもあればなおのこといい。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、マストに登って島影を確認してみようと思ったら、波間にたくさんの木片が浮かんでいた。

 

 船の残骸だ。

 

 グランドラインじゃないんだから、いきなりトルネードが湧いてでたりもしないだろう。

 

 海賊に襲われたか、逆に海賊が撃退されたか。

 

 

 

 ――て、ミホークじゃん。

 

 

 

 半分に折れた船がゆっくりと海に沈んでいく渦の向こうに、黒い帆が見えた。

 

 へえ。大剣豪様に挑む命知らずの海賊がまだいたか。

 

 それとも、東の海だ。鷹の目のミホークだなんて知らずに、大海原に浮かぶ小船を侮って、いらぬちょっかいを出したのか。

 

 なんにしろ、お陰で俺が追いつけた。

 

「ミホーク!」

 

 俺はマストをとんと蹴って、ミホークの船に移った。

 

「補給がしたいんだ」

 

 酒が飲みたかったら、ミホークも島を探してよ。

 

「うむ」

 

 俺の言葉にミホークは、重々しく頷いた。

 

 手にしていた剣の先で、自分の後ろを指し示す。

 

「こやつらが襲おうとしていた島がある」

 

「珍しい。人助け?」

 

「いや、結果論だ」

 

 偶さかそうなったとミホークは言うから、島の人たちは何も知らないままだろう。

 

 けれど島が荒らされていたら補給どころではないから、俺たちもラッキーだ。

 

 

 

 こうして俺たちは東の海で航路を外れた。

 

 

 

 

 









すっからかん。
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