猿王ゴクウ   作:雪月

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第参拾九回 パワーバランス

 

 

 

 

 

 俺の船、猿船の船尾にはささやかな水栽培コーナーがある。

 

 船がひっくり返っても水が零れないように細工された丸いプランターが並び、日がさんさんと降り注がなくても大丈夫な野菜などを育てている。

 

 ちなみにその隣には叩いても割れない水槽(蓋つき)が備え付けてあり、海草が青々と育っている。常使いはしていないが、生け簀として使うことも可能だ。

 

 

 

 これらの海水と真水をどこから引っ張っているか。

 

 

 

 元々船尾にはマッドが作った推進装置のひとつのスクリューがある。

 

 その水流を利用した浄水装置も一緒に並んでいる。

 

 水栽培はそのおまけだ。

 

 海水を組み上げて真水を作る過程で、ついでに水栽培と後は塩の精製ができるようになっているのだ。

 

 真水といってもそのままでは飲めたものではないが、海水を使って生活していると何もかもが塩でばりばりになるのでとても助かっている。

 

 

 

 さて、話は戻って水栽培コーナーだ。

 

 

 

 ここは電伝虫の巣にもなっている。

 

 普段、電伝虫の餌として料理の時に出た野菜の外葉や皮や萎びたシッポを食わせているが、できない時もある。

 

 海が荒れた時には料理どころではないし、こざるたちだけが乗っている時には食事自体が不要だ。

 

 そんなわけで、いつしかプランターに腹を空かせた電伝虫が居着くようになっていた。

 

 今は5匹くらいかな。

 

 なんだか知らない内に黒いのも混じっていたが、何が困るわけでもないので放ってある。

 

 

 

 なんで突然こんな話になったかというと、クロコダイルに電伝虫を渡されたからだ。

 

 

 

 俺の迎えはいつまで経っても来ない。

 

 ミホークが迎えにくるとはもちろん思っていなかったが、俺の船まで来ないとは。

 

 どこまでいったのか、未だミホークから解放されていないらしい。

 

 仕方ないから一人寂しく島に帰るかと、暇乞いをしにいったらクロコダイルにちょうどいいと海軍本部からの電伝虫を渡された。

 

 ああ、そういえば俺が面倒みてる電伝虫はどうしているだろうと思って冒頭に戻る。

 

 猿船の中でぷるぷる鳴いていたら、こざるたちがミホークの元へと連れていきはするだろう。

 

 それでミホークがどうするかだよな。

 

 まず最初は無視するに決まっているだろ。

 

 海軍側が勝手に繋ぐかもしれないが、あまりに五月蝿くて一言下に通話を切るか、まさか物理的にばっさり電伝虫を斬り捨ててはいないだろうな、あの大剣豪様。

 

 それに比べて、クロコダイルなら無下な対応はしない。

 

 海軍本部からの会議開催連絡を受けた後で、目の前にいる猿に電伝虫を渡してほしいと言われたくらいで怒りはしないし、握りつぶしたり干からびさせたりはしないのだ。

 

 海軍と世間様相手に信頼を積み上げようとしている、今は。

 

 将来的には嬉々として実行しそうだが。

 

 俺がここにいることを海軍に知られているのは不思議でもなんでもない。

 

 秘書のおねーさんだけじゃなくて、他にもこそこそしたのがいるだろうから色々と筒抜けだ。

 

 

 

 受け取った電伝虫は可愛らしい丸い目を怒らせて、センゴクのじいさんの怒鳴り声を伝えてきた。

 

 

 

 なんでもミホークが白ひげ海賊団の隊長と一触即発な騒動を起こしたらしい。

 

 何がどうしてそうなった。

 

 喧嘩の押し売りに行った先は海の底じゃなかったのか。

 

 魚人空手の使い手はどうした。

 

「魚人島は白ひげのシマだろう」

 

 ブランデーグラスを優雅に回しながら、ソファーにふんぞり返っているクロコダイルが口を挟んだ。

 

 ああ、そうか。

 

 あの島は白ひげの旗を掲げているんだったな。

 

 王下七武海なんぞにシマで好き勝手されたら、それは確かに白ひげの顔に泥を塗ることになる。

 

 それゆえに起こった騒動か。

 

 それとももっと偶発的なものか。

 

 ……後者な気もしなくはないが、白ひげ海賊団の隊長格なら相手に不足はなしと、ミホークが躊躇いもなく剣を抜いたのは間違いない。

 

 だからって、パワーバランスをなんと心得ると俺がセンゴクのじいさんに怒られるこの理不尽さ。

 

 俺は電伝虫の受話器を放り出した。

 

「聞いているのか、ゴウウ!」

 

「きいてませーん」

 

 本人に直接言えばいいじゃないか電伝虫になんか頼らずに。

 

 そう主張したら、では今度の会議までにミホークを連れてくるようにと言うセンゴクのじいさんの声は、一転して落ち着いたものだった。

 

 やっぱり、理不尽じゃね?

 

 

 

 

 

 

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