ミホークは面白がって、4つの門巡りに出かけていった。
トマスにしごかれてひいひい言っている俺をあっさり見捨てて、だ。
俺も連れていけっていうか助けろ。
他の門の兄弟に会うと、またいちいち面倒くさいことになりそうだから勘弁だが、見つからないという門を探すだけでもきっと大冒険になりそうでワクワクする。
俺はほんの数ヶ月ですっかりパン作りが上手くなった。
長い笹をそれぞれ両手に持って筵の上に敷き詰められた麦を叩いて脱穀したり、水車ではなく人力で製粉をしたり、歯が立たなくなるだろう硬さになりそうなほどひたすらパン生地をこねたり。
窯の煉瓦を積み上げては崩し積み上げては崩しのエンドレスとか。
窯の火おこしも薪割りもつまりは全部鍛練なんだが、いったいどこのベストキッド。
それで実際効果が上がるんだからたまらない。
やってられるか。
続きはまた帰ってきたら絶対するからと言いおいて、すたこらさっさと逃げ出した俺の気持ちも分かってくれ。
ミホークを追いかけようかと思ったけれど、ミホークの船に乗っているこざるたちの位置情報によると場所は南の海だった。
南は水の門だ。
うわ、想像しそうになっただけで、尻尾の先まで毛が逆立った。
久しぶりにガープのじいさんのところに遊びに行って、甲板で椰子摺りでもさせてもらおう。それでもって海軍料理食べさせてもらおうそうしよう。
じいさんは最近東の海にいることが多い。
それはもう任地が変わったのか聞きたくなるくらいだ。
だからとりあえずは俺も東の海へと渡る。
そして、ローグタウンへと繋がる航路から外れ、他の島からも遠い海の真ん中でそれを見つけた。
天気は曇り。
空も海も陰鬱な灰色。
そんな中にぽつんと黒い岩礁が見えた。
俺は珊瑚礁かと警戒する。
浅瀬に気付かず、船が腹でも擦ったら堪らない。
俺の猿船なら、それしきのことで致命的な傷を負ったり座礁したりだなんて無様を晒すはめになることはないだろうけど、俺の船乗りとしての自尊心がズタボロになるのは間違いない。
用心用心と目を凝らす。
あれ?
何かいる。
小さな点にしか見えなかった最初は、渡り鳥か何かが羽を休めているのかと思った。
徐々に距離が近づくにつれ、蹲っている人だと分かった。
思わず海をぐるりと見渡してみるが、船影は見えない。
木片くずが波間に浮かんでいるということもなかった。
波に削られてマッシュルームのような形をした岩礁の上には、メインマストの残骸みたいなのが転がっているけれど。
捨てられたにしても、生き残ったにしても昨日今日の話ではなさそうだ。
俺は金斗雲に乗って岩礁に近付いた。
人影はふたつ。
大きい影と小さい影。
互いに背を向けて座っていた。
通りすぎる船を見逃さないように、それぞれ違う方向の海の沖に目を凝らしているのかと思ったが、二人とも猿船にも気付いていないし俺にも気付かない。
子供の方は体操座りをした膝に、完全に顔を埋めてしまっている。
丸まった背中に乗っているのは絶望か。
大きな背中の方は、緊張に張り詰めているように感じた。
ふよふよと金斗雲の上に座ったままゆっくりと近くに寄ってみる。
ごっついおっさんだ。
よく鍛えてある武人っぽい、っていうか腕の立つ海賊じゃないかなこのおっさん。
なのにまだ俺に気付かないのは不自然だ。
肩越しに見れば、ロープで怪我した右足の膝の上をきつく縛っている。
そして傍らに転がっていた岩を持ち上げると、鋭角に尖った岩先を自分の足目掛けて振り落とそうと……。
ガッ!
俺は三節棍を伸ばし、勢いよくその岩を砕いた。
「何をしていた」
自分でも声が鋭くなっているのを自覚する。
おっさんは、びっくりした目で振り向いた。
少し遠くにいた子供も、やっとこの騒動に気付いて重い頭を上げた。
ああ、そうか。
俺はこのおっさんたちが誰なのかを知っている。
今、俺の目の前で何をしようとしていたのかを知っている。
足をちぎって食らうのだ。
ゼフ。
身喰らいで片足になった赫足の海賊。
その犠牲を糧に生き延びた子供。
――サンジ。