船は波をかき分け、のんびり進む。
猿船は今、新世界へと向かっている。
マッドな船工房が、新世界にあるからだ。
商人の姿は既にない。
先行して、造船のための打ち合わせをしているはずだ。
見積もりがどうとか支払いがどうとか。俺の苦手なところなー。
でも、着く頃にはおおむね出来上がっている気がなきにしもあらず。
「ぜひこちらに設計図をお書きいただきたく」
そう言って、サンジに画用紙とクレヨン渡していったんだよ。
サンジはだから嬉しそうにゼフにあれやこれや話していた新しい船の形を、へたくっそに落書きしていたさ。
この青い線は海なんだろうなー、なんで船じゃなくてこいのぼりが泳いでいるんだかなーって感じの船の絵とか。
たぶんきっとキッチンなんだろうなあと思われる四角形がいくつも書かれている絵には、フライパンと包丁を持ったスノーマンもどきが大小ふたつ並んでいる。これはあれか。コックか。ゼフとサンジか。
……この黄色とオレンジの線でぐるぐる丸を作ったようなのが、まさかこの猿王様だとかは言わないよな、サンジ。
よし、ジョン氏に絵は全部取って置くように言おう。大きくなったら目の前に並べてバカにしてやる。
いや、完成したレストランの一番目立つところに貼ってやる。
もちろん豪華な額縁付きだ。
最近親バカっぽくなっているゼフなら、サンジをからかうふりをしつつも喜んで飾るだろう。
こうして書きあがった絵は、商人専属のとりさんが回収していった。
ニュースを運んでくれるカモメじゃなくて、猛禽類。
海を渡るには不適切そうな、墓場で木の十字架に止まっているのが似合う禿鷹だ。
多分、レター配達以外の仕事も請け負っている。
そんなとりさんに依頼して設計図をわざわざ回収しに来たあたりで、計画を先に進めているとしか思えない。
ドックについたら、いきなり着水式だったりしてな。
俺の猿船でなら一か月もあれば新世界に入れると言ったら、ゼフがびっくりしていた。
偉大なる航路は普通、リヴァース・マウンテンから分かれる7つの航路をログポース頼りにして進む。
だから、ログだよりで島を渡りログがたまるのをおとなしく待つしかない、というのはグランドラインに入ったばかりのペーペーの常識だ。
目的地ごとのエターナルポースがあり、海図があり、腕のいい航海士がいればいい。
もしくは全てをごり押しできる船を持つとかな。
俺はもちろん、ログに頼らない航海ができる。
エターナルポースがなくても、金斗雲に乗って何もない雲の上を渡ることのできる方向感覚は海の上でも健在だし、船の性能は帆船越えた域でぴかいちだ。
倉庫に十分な食糧があれば更に早く移動できる。
ちなみに今回、その備蓄は怪しい。
なにせ、元々のきっかけが修行のボイコットだ。準備もなしに島を飛び出したから、その辺は最低限だった。
ガープのじいさんの艦にしばらく乗せてもらうつもりもあったから、余分な補給は不要だと思っていたのもある。
その予定が変更になって更には客も増えてということで、倉庫いっぱいに補給してもよかったんだ。
飢えを経験したばかりの人間を食糧かつかつの船になんて乗せたら、トラウマ刺激しまくりだろう。備蓄たっぷりのほうが安心できるってものだ。
でも、せっかくコックが一緒なんだぜ。
新鮮な食材で料理してもらったほうが、俺は嬉しい。
そんな意図もあって、こまめにいろんな島に寄るようにしている。
それに今回の航海は病人の療養も兼ねているからな。
預かった薬が終わるころに着けるよう、これでも一応気を使っているんだ。
新しい海に新しい島。知らない食材、未知の料理。
サンジは楽しんでいる。
ゼフは時折唸っている。
俺たちの苦労はなんだったのかと、思うところがあるらしい。
ゼフたちが手に入れるレストランは俺の猿船より新しい技術がふんだんに使われているはずだから、もっと凄いことになると思うよと言ったら、唸りは更に大きくなった。
でも実際、もっとありえない航路を取ることも可能な船になっているんじゃないかな。
マッドな推進装置を抜きにしてもカームベルトすら無視してしまうくらいは、へいきのへいざ。
というか、それが多分最低限の標準設備だろう。
メンテナンスのために工房へ寄る度に、あそこってマッドが増殖しているんだよ。類が友を呼んじゃって、表の世界では危険すぎて使えないと認定された技をこれでもかとつぎ込んでくる。
いつか「こんなこともあろうかと」と、宇宙船のひとつくらいは簡単に作りそうな気がするんだ。
うん。俺はバラティエが空を飛んでもレーダー備えていても、不思議はないと思うよ。