猿王ゴクウ   作:雪月

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第五十九回 東の海のルーキー

 

 

 

 

 

 とりあえずチビナス観察任務は丁重にお断りさせていただいた。

 

 流石に親バカ過ぎるだろ。

 

 呆れてものも言えないと文句を言ってみる。

 

 自分でも理不尽だと分かっているのだろう。うーむと唸ってヒゲを撫でながらも、しかし親馬鹿ゼフはなかなか納得しなかった。

 

 押し問答の末に、責任取って様子を見てくるのは一回きりということで手を打って、甲板に戻れば全てが終わっていた。

 

 ゾロはざくり斬られた傷の手当てを受けており、船医の手により縫い合わせた傷の上からアルコールをぶっかけられている。

 

 船が心配でたまらないらしい狙撃手が、仲間の怪我も心配で、治療の邪魔だと怒られながら賞金稼ぎのふたりと一緒にあたふたしている。

 

 それに対して剣士は、船医がきつく告げる絶対安静を聞いているのかいないのか、大丈夫だから手当てが済んだらすぐに出ようと告げていた。

 

 なんて安心できない大丈夫だろうか。

 

 これだから剣士って生き物は。全く。

 

 

 

 クリーク海賊団は壊滅した。

 

 

 

 一部は逃げ果せたようだが、ほとんどのクルーがコックとの戦闘で行動不能、もしくは形勢不利で逃げようとしたところにミホークの来襲を受け、船と共に沈みかけて救助されることとなった。

 

 今は海軍待ちの状態で戦闘跡を海軍が検分し、また賞金首も検められて賞金が支払われる。

 

 海ゆくレストランが海賊に絡まれることは多く、大なり小なりこういった騒動が起きた時はきちんと海軍には届け出ているのだそうだ。

 

 ミホークや俺みたいに後始末を丸投げするためではなくて、余計なトラブルを増やさないためらしい。

 

 あー。つまりあれだ。

 

 交通事故を起こした時に怪我人も出なかったからまあいいかと警察呼ばずに示談にしたら、後で後遺症だなんだと面倒事が起こってしまいましたってのを回避するためにも、まず最初に警察と保険屋を呼んでおけというやつに似ている。

 

 ――海に生きる商売人の鉄則。

 

 何かあったら海軍を呼べ。

 

 パイプ作って仲良くしておかないといつのまにやらこっちが海賊賞金首になってるぞってね。

 

 

 

 

 

 

 ミホークがまだ居るっていうから文句を言おうと探したら、レストランで食事していた。

 

 ブランチな時間帯にもかかわらず、満漢全席よろしくテーブルにずらりと並んでいる料理を黙々と食べている。

 

 また酒だけ積んで海を渡ってきたんだろうか。

 

「ミホーク!」

 

 海に投げ込んでほったらかしにした怨みは深い。

 

 夜に眠れなくなるほど恨み辛みを並べてやると意気込んで詰め寄ろうとしたら、ミホークに同席者がいることに気がついた。

 

 テーブルの向かいに麦わらの海賊団のキャプテンが座っている。

 

 なぜだ。

 

 いやまあ、何でそうなったかが分からないのであって何をするためなのかは明白なんだけれども。

 

 うめえうめえと両手伸ばして、ミホークよりも早い勢いで食事をしているからな。

 

 追加の料理をコックたちが大慌てで運んできている。

 

 ……だからいいのかキャプテン。あんたのところのクルーが開きになりかけたって時に。

 

 あれ放っておくと多分これっぽっちも養生なんてせずに無理するぞ。

 

 ルフィは口いっぱいに料理を詰め込んで、両頬がリスのように膨らんでいた。

 

 その上、腹もぽっこり丸くみるみると膨らんでいく。

 

 ルフィがゴム人間ってのはもちろん知っているが、生で見るとホント驚きだな。

 

 身体の神秘、半端ない。

 

 あんなにも膨らんで、他の内蔵無事なのか?

 

 呆然と見とれていたら、突然ネジが切れたようにルフィの頭がガクンと落ちた。

 

 ゴツンといい音立てておでこがテーブルの板にぶつかる。

 

「うわっ」

 

 思わずびくっと驚いて、テーブルに寄ってみるとルフィはいびきをかいて寝ていた。

 

 肺が圧迫されたから酸素欠乏で気絶したとか言わないよな。

 

「ミホークなにこれ」

 

「うむ。腹が減ったから食わせろと勝手に座った」

 

 どこでどうしてこの状態になったのかと聞こうとした意図が伝わったらしく、ミホークが厳かに応じてくれた。

 

 ルフィがまた突然にむくりと起きて、料理の詰め込みを再開する。

 

 すぐそばに立つ俺の存在には気付いたらしく、「お、不思議人間だ」みたいなことを料理で塞がった口でもごもごと言った。

 

「おれはルフィ。よろしくな」

 

 そして、ごくんと食べ物を飲みこんだ後、今更な挨拶を受ける。

 

 あれでも面と向かって話すのは初めてだからいいのか。

 

 昔からの馴染みな気分でいた。

 

「ゴクウだ。なに敵と飯食ってるのさ」

 

「おごってくれる奴は敵じゃない」

 

 言い切った。

 

「それに次はゾロが勝つから、いいんだ」

 

 更に言い切った。

 

 ハエタタキでハエを叩き落とすよりも簡単に叩き落とせそうな、まだ東の海も出ていないルーキーのくせに。

 

 あーもう何でもいいや。

 

 俺もお相伴に与ることにした。

 

 隣のテーブルから椅子を引っ張ってきて座る。

 

「いただきます」

 

 さてと目の前の皿に乗った骨付き肉に手を伸ばしたら、横からみょみょんと伸びてきた腕にかっさらわれた。

 

 む。

 

 じゃあと向こうにあるローストビーフを取ろうとしたら、それより早くミホークが持っていった。

 

 むむ。

 

 

 

 肉の争奪戦になった。

 

 

 

 

 

 

 

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