「うp主、殺されたんじゃ!?」
「残念だな視聴者。俺も思ったよ」

何やかんやで続いてる、第三期第六駆逐隊シリーズです。過去の雷ちゃんメインの短編と繋がってます。

今回は訓練生時代の彼女たちのお話。のちに艦娘史上に名を残す彼女たちのを書きました。



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第三期第六駆逐隊カッコカリ

 

 

「敵艦確認! 三時方向、砲戦用意!」

 

 海の上を四人の少女たちが疾走している。先頭を行く紫かかった艶のある黒髪を持った少女が腕に携えた主砲を構えながら叫ぶ。彼女の名は暁型一番艦暁。特Ⅲ型駆逐艦最初の艦。もちろん、軍艦が髪の毛を生やしてそれでいて女の子の声で話すことなんてない。彼女は艦娘。海を守るための戦女神である。

 

 その後方には暁と同じく長髪で、しかしまるでガラスのように透き通る美しい髪の毛を持った少女、二番艦響が航行し、艤装に搭載している主砲を回転させ、照準を定めた。

 

「てぇーっ!」

 

 暁の声と共に、四人の艦娘が砲撃を開始する。狙うは遠くにいる敵艦隊。同行戦で航行する敵側からも発砲を確認、弾着まで数秒。暁は面舵を号令する。艦隊の進路が大きく変化し、先ほどまで彼女たちがいた場所に砲弾が降り注ぐ。敵もこちらの位置を正確に掴んでいるようだった。

 

「二手に分かれて挟撃をするわ!」

 

 暁と響が先行。後ろ二人、暁型三番艦と四番艦の雷と電が取り舵で敵の進路上に回りこもうとする。

 

「電、離れないで!」

 

 茶髪のショートカットの少女が叫ぶ。意志の強そうな目に似合う快活で誰よりも優しい心を持つ彼女の名は暁型三番艦雷だ。

 

「はい!」

 

 その後方、セミロングの髪の毛を後ろで束ね、少し内気そうなイメージを持ちつつも、一番の冷静さ持ち、雷の幼馴染でもある彼女は暁方四番艦電。雷に話されないようにと、巧みに舵を切る。

 

 敵の進路上に回り込むべく、二人は取舵多めに之字運動で降り注ぐかもしれない砲弾に備える。直後、目視で敵艦隊を捉えた。数は四、情報では駆逐艦のみの編成だ。つまり条件は対等、挟撃で雷撃を仕掛ければいける。

 

 ラッキーなことに、敵は別れた雷たちには気づいていないようだった。暁たちの砲撃の音が聞こえ、そちらに集中しているのだと察しが行く。雷は急速接近しての奇襲を仕掛けようと思い立つ。

 

「機関一杯!」

 

 主機を全開にし、タービンが唸りを上げる。新型搭載の四連装酸素魚雷の射程内まであと少しだ。驚異的な射程、雷速、隠密性は驚異的で、自分で使うとその性能に興奮し、敵に使われれば恐怖に踊らされてしまう兵器だ。

 

 電が双眼鏡を覗き込み、目測で距離を計算する。射程内まで残り数秒。電はカウントダウンを開始。三、二、一、射程内。すると、敵艦隊が進路を変え、艦隊の「横腹」を見せた。魚雷が命中しやすい角度、これはチャンスだ。雷は迷うことなく叫ぶ。

 

「魚雷発射用意!」

 

 左右に搭載された魚雷発射管が回転し、真正面を向く。間隔調整、やや広め。電は広めに設定した。

 

「投射!」

 

 二人の魚雷発射管は同時にすべての魚雷を吐き出した。扇状に広がるそれは敵艦隊の進路上に容赦なく疾走していく。まだ気づかない。よし、更に近づいて砲撃戦を行い、混乱させよう。雷は主砲を回転させ、仰角調整。近くに落ちて分かりやすくさせるために、敵艦隊の進路上に照準を合わせた。

 

「てぇーっ!」

 

 一番、二番砲塔が火を噴く。綺麗な放物線を描いて、砲弾が敵艦隊の真正面に突き刺さる。敵が気付いてこちらに発砲する。かかった。雷は主舵を切り、同行戦に持ち込む。

 

「雷、ばか!」

 

 無線機からそんな声が聞こえた。この声は暁だ。一体何を、と思った瞬間、電が叫ぶ。

 

「右舷より雷跡! 暁ちゃんの魚雷です!」

 

 あろうことか、雷が舵を切った方向に暁の魚雷が迫っていたのだ。雷が魚雷を投射するやや前に、暁が魚雷を投射。それを見た敵艦隊が進路を変え、その際に雷が魚雷を投射したのだ。

 

 敵から見れば魚雷の十字砲火を浴びて詰んだも同然の状態で、奇襲には大成功と言えるだろう。だが、それに伴って同士討ちなんてしようものなら退役まで笑われる。雷は迷わず機関を後進一杯に入れた。だが、それもまずかった。後方にいる電に何も言わず後進しようものなら、待っている結末は一つ。

 

「雷ちゃん!?」

「えっ、あぁっ!?」

「はにゃーーーー!!?」

 

 二人は衝突し、その衝撃で電の主機の片方が損傷、雷の煙突部分と右の魚雷発射管がつぶれた。しかも衝撃でどこかおかしくなったのか、缶から異音が出て、速度が落ちる。魚雷で挟まれた敵はただではやられまいと二人に砲弾を浴びせる。直後、暁の魚雷が二人の前後を通過。同士討ちだけは避けた。だが、敵の砲弾が雷の主砲に命中。機能を停止。続けて電の生き残った主機に命中、航行能力を完全に奪われる。

 

「もぉ、こんなのばっかり!」

 

 二人をかばおうと暁と響が砲撃で応戦。命中弾確認、一隻の弾薬庫を貫いて爆沈。続けて雷と電の魚雷が続々と命中し、敵艦四隻を轟沈ないし大破まで持ち込む。

 

「よし、何とかこれでっ……!?」

 

 と、ほんの一瞬だけ安どした暁の目の前には、最後の抵抗でばら撒かれた敵の魚雷が広がっていた。

 

「主舵!」

 

 とっさに暁は舵を切る。だが、魚雷の接近に対して認識が遅かった響が直撃を受ける。危機を認識しても反応するまでが間に合わなかったのだ。暁は歯を食いしばり、腕の主砲を敵に向け発砲。命中弾を与えることに成功する。次弾装填、次の目標は……

 

「っ!!?」

 

 そう思った瞬間だった。目の前に、寸分の狂いもなく表れた敵の砲弾。最後の抵抗に適当に撃たれた完全なまぐれ。そのまぐれが最後に生き残った暁の顔面に、容赦なく直撃した。

 

 

 

 

『演習終了!』

 

 と、無線のから声が響く。遠くから見守っていた実技教官の声だ。四人の艦娘の体のあちこちをピンク色の塗料が塗りたくられ、まるでペンキを頭からかぶったかのようだった。演習用砲弾の中にあるペイントだ。直撃すればその場に塗料が付着し、被弾判定が分かるもの。主機への命中は浸水、缶への直撃は速力低下、弾薬庫への直撃は爆沈などを意味する。

 

『各自撤収だ。成績報告は夕方までに呼び出して行う。今はしっかり休むと言い。ただ、雷と電は衝突の損傷の可能性があるから工廠へ。以上だ』

 

 相手側の駆逐隊がピンク色に染まった顔をごしごしと擦りながら撤収する。第六駆逐隊もフラフラと立ちあがり、帰途につくべく機関を始動させる。これで今日すべての演習が終わった。

 

 しかし、彼女たちの表情は浮かない。それもそうだ。撃沈判定はあるかもしれないが、自分たちにはいまだ改善できない問題点があるからだ。きっとこの後もそれを指摘されるだろう。

 

 それを思うと、憂鬱で仕方なかった。

 

 

 

 

「撃沈判定4、大破判定2、中破判定4、小破判定6。過去最強レベルの戦績ね。正直褒めたたえて海に放り投げたいくらいだわ」

 

 そういうタイトスカートにスーツという、まるで教師のような恰好をした女性は演習を終えて呼び出しを受けた第六駆逐隊にそう言い放った。いや、実際彼女は艦娘訓練学校の座学教師に当たる人物である。腰まで伸びた紫かかった長く美しい髪の毛、少し釣り目の意志の強い瞳、そしてスカートから覗くスレンダーな足が目を引く美人だった。しかし、そのスレンダーな足を組み、背もたれに体重をかけ、成績が書かれた紙をぴらぴらと揺らしながら語るその様は、お世辞にも礼儀正しいとは思えない、失礼さも感じるものだった。

 

 だから、文句の一つは言ってやりたいと思う。実際彼女たちは撃破判定だけ見るなら他の部隊よりも頭一つ抜けているのだ。そんな誇り高き訓練生に、そんな態度を取るのは許せないと思う。

 

 が。四人の少女たちはそういえない理由がある。なぜなら、自分たちが優秀なのは撃破判定「だけ」なのだから。それこそ彼女たちが今直面している大きな問題点だったのだ。

 

「で。その分あんたたちの撃沈判定がすごいことになってるんだけど」

 

 そういって教官はもう一枚の書類を机の上に放り出す。そこには四人の少女たちそれぞれの撃沈判定の回数が書かれており、その数は人生を最低でも三回ほどやり直さなければならないだけの数が記されていた。

 

「これがなければ今すぐ私が推薦状を書いて実戦参加させるわ。けど、改善しない以上、あんたたちはこのままクビよ。わかってるのかしら」

「……はい」

「さっきの戦闘も聞いたわよ。同士討ちの可能性、味方艦同士の衝突。作戦そのものはいい、でも息が合ってるようで合ってない。ゆゆしき問題よ。はぁ、今日はもういいわ。頭冷やして次がんばんなさい。けど、期限もあることを忘れずにね」

 

 まるでお説教に飽きたかのように、教官は椅子をくるりと回転させて背を向けた。今日は終わりの合図。四人は頭を下げて教官室から出ていった。

 

「…………きぃいいぃーー! なによなによ、悔しいぃ!!」

 

 と、一人が地団駄を踏む。暁だった。彼女は顔を真っ赤にしてこぶしを作って憤る。他の三人は極力口には出さないようにしていたが、それぞれ複雑そうな、そして何か言いたそうな面持ちだった。けど、言ったらこじれる。いろいろと面倒になる。だから我慢する。

 

「雷! あんたがいつもでしゃばるからこうなるのよ」

 

 だが、その我慢も暁が鳴らしたゴングにより、脆くも崩れ去ることになった。

 

「なんですって! それなら暁だって雷撃下手じゃない! さっきも私に当たりそうになったわよ!」

 

 そう激怒するのは雷。実際撃破率では彼女がトップで、雷撃のセンスはぴか一と呼ばれている。だが、それ故に確実な命中を狙うべく前に出ることが多いため、度々暁の射線上に入っていたりと危ない面があった。

 

「だから、それは雷がでしゃばるからそうなるんでしょ!」

「でもどのみち当たらないコースばかりよ! そんな無駄弾使うくらいなら、撃たないほうがましよ!」

「なによ、ちょっと雷撃がうまいからって調子に乗らないで!」

「調子に乗ってるのは暁でしょ! 一番艦だからって偉そうにしないで!」

「言ったわね、この!!」

「いった! やったわね、強情一番艦!」

 

 ついに二人が取っ組み合い、お互いを罵倒しながらの喧嘩が始まった。それを止めようとまず響が仲裁に入ろうとして、見境なく出されたどちらのものと分からないパンチを食らって激高し、その中に入りこむ。

 

 取っ組み合いをする三人。残された電はどうしようかと思考を巡らせるが、名案なんて思いつかなかった。すると、取っ組み合う三人の中から投げられたローファーが飛び出し、電の顔面に直撃する。

 

「……いい加減に……するのですーーーー!」

 

 ついに四人目が参戦。教官室前で行われる暁型四人の喧嘩は、訓練学校の生徒たちの名物と化しており、最初に見つけた一人が野次馬を呼び込み、あっという間に艦娘が集まる。そうして誰が最後まで立っていられるかを賭け引きするのだ。

 

「私電に間宮羊羹!」

「僕は響に伊良子モナカのタダ券!」

「では、私は鳳翔さんの豪華晩酌コースのおごりだ」

「いいぞやれやれ!」

 

 そうしてがやがやと廊下はギャラリーで埋め尽くされ、暁型四人はあーだこーだと罵り合いながら取っ組み合う。そしてそろそろ廊下の通行ができなくなるほど人が集まったとき。

 

―バンッ!―

 

 勢いよく教官室の扉が開き、空気が凍る。そこにいるのは座学教官。鬼の形相で睨む彼女を見て、ギャラリーたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。それに気が付いた暁型四人も手を止めて教官を恐る恐る見つめた。

 

「…………あんたたち、今日の晩御飯は比叡のカレーね」

 

 四人の幼い少女たちの、悲鳴が響き渡った。

 

 この時、暁型の同級生たちは思いもしなかっただろう。今でこそ喧嘩をしていた彼女たちが、後に艦娘の歴史に残る戦果を挙げ、後世に伝説として語り継がれる存在になるということを。

 

 彼女たち暁型四人は歴代三番目の第六駆逐隊。その名は「第三期第六駆逐隊」である。

 

 

 

 

 騒ぎが一段落し、ようやく静かになった室内で教官はコーヒーを淹れ、やや乱暴に椅子に座ると一口入れる。手に取るのは第三期第六駆逐隊の戦績。今度は一人ひとりの個人データを集めたものである。

 

「まったく、なかなか癖のある艦隊だな」

 

 と、緑かかったロングヘアーの女性が現れる。強い意志を感じる瞳と、武人を思わせる口調は訓練生たちに人気がある砲撃担当教官だ。そして、同時に昔の「戦友」でもあった。

 

「中途半端だから苦労するわ。過去の第六駆逐隊の例を見ると、戦果はなくとも人間関係の方はいいのに三期はからっきし。駆逐艦娘はイレギュラーばかり、これだから駆逐艦は好きじゃないのよ……ま、関係がよくないとそれに比例して戦果が上がらないデータもあるから当然といえば当然だわ」

 

 そういいながら、教官は四人の戦績をまとめた書類を取り出すと、あの四人がこの訓練学校に入ってからの流れを思い出した。

 

 

 

 

 彼女たちのファーストコンタクトは数か月前の事である。教官も立ち会っていて、暁が真っ先に声を上げたのをよく覚えている。

 

「暁よ! 一人前のレディーとして、あなたたちの姉として頑張るわ!」

 

 一体何のことかと教官は思い、それは言われた雷と電も同様であった。すぐに戸籍上妹に当たる響が分かりやすく二人に翻訳した。

 

「つまり、一番艦であるから、君たちを妹として迎えるってことだよ」

 

 響のした解釈はこうである。腹違いの妹である自分を、真の妹として迎え入れた暁としては、姉妹艦である以上雷と電もまた妹として受け入れることは当然、ということだ。事実暁は響の解釈とほぼ同様のことを話した。

 

「妹が一人二人増えるくらいなんてことはないわ。私のことたくさん頼っていいんだからね!」

 

 と、両手を腰に当てて宣言する彼女は胸を張った。何のことだろうと不思議だった雷電二名はなんとなーく事態を察し、顔をも合わせてやや戸惑いながらも「よろしく」と答えた。

 

 最初こそ、あのメンバーにとっては戸惑ったファーストコンタクトだったろう。しかし教官の当初の印象として、関係性自体はそんなに悪くなかった。暁は率先してみんなを引っ張ろうとしたし、成績だって優秀。何事にも努力家で負けず嫌いな性格は、周りのいい刺激になった。

 

 響もそんな暁のフォローを陰ながらにやりつつ、持ち前の天才的センスで艤装初装着については一番最初に海の上に立ったし、砲撃も一番に命中弾を取った。それだけでなく、他のメンバーにも己の学んだコツや技術を惜しみなく提供して技量向上に貢献した。彼女なしでは第三期第六駆逐隊の戦闘訓練開始は半年遅れていただろう。

 

 雷に関しては周りが困っていたら己のことのように付き合ってくれるし、ひらめきと機転はシミュレーション訓練では何度も危機的状況を打破することができた。訓練以外でも仲間たちが遅くまで頑張っていたら差し入れを作ったりと、彼女がなければきっと六駆の誰かが精神的にもたなかっただろう。

 

 電に関してはいつも一歩下がって様子を見ている雰囲気ではあるが、なんでもそつなくこなせるし、メンバーの相談相手になったり、付き合いもとても良い。響の次に呑み込みが早く、また知識量では四人の中では一番である。彼女の要領のよさと教えの良さがなければ、四人の座学での成績はもっと低かったに違いない。四人のやり方には、それぞれ長所があるのだ。

 

 しかし、実技訓練が始まると状況が変わってしまった。戦闘では主に暁と雷の進言がぶつかり合い、連携の荒が目立つようになった。そこからお互いの罵り合いに発展するまではまるで彩雲のように早かった。

 

「なによ! いつもレディレディって、暁っていう割にはそんなところないわよ、お子様ランチ大好きじゃない!」

「お子様言うな! 雷は出しゃばりなのよ! おせっかいばかりして、あなたは他人にかまいすぎなのよ、もっとお姉ちゃんの言うこと聞きなさい!」

「そのおねえちゃんが頼りなかったりするから私がフォローしてるのよ!」

「なんですってぇ!?」

 

 暁のリーダーシップは偉そうだと雷に言われ、そんな雷のことを暁は出しゃばりだという。自分が精いっぱいやっていることを否定されるのは、子供にとって屈辱以外の何物でもなく、取っ組み合いに発展するのはあっという間だった。

 

「まって二人とも。ここは冷静に話し合うべきだ。これじゃあ艦娘としてやっていけないよ」

「でも響、あなたのお姉ちゃんがお姉ちゃんらしくないのよ。あなたこんなの妹で恥ずかしくないの!」

 

 ぶちっ。その言葉で響は和平から完全攻勢へと一転した。シベリアのように冷たい目と火を注がれた重油のように燃え上がる彼女の怒りは目撃した一部訓練生たちを恐怖の海に叩き込み、この時期から暁の悪口を聞くと真っ先にぶちぎれて手が付けられなくなることが判明した。

 しかし、響が怒り狂うのも当然だと教官は思う。お互いの複雑な事情を受け入れ、真の姉妹としての関係を築き上げた自分たちを否定されたようなものなのだ。暁の尊敬できること、自分を救ってくれたこと、そのことの感謝でいっぱいの響にとって雷の言葉はまるでバイツァ・ダストのスイッチであった。

 

 もちろん雷はこのことをまだ知らなかったし、子供特有の無知さゆえの過ちは誰にだっておこるものだった。ゆえに、相手が子供なら同様に誰にだって許せないのだ。

 

「やめてください、喧嘩はよくないのです! やめてください!」

 

 と、最後の砦となった電が三人を止めようとする。しかしいうことも聞かず、ただ動物のように取っ組み合う三人の流れ弾が当たったことにより、どす黒いものが彼女の冷静さを奪っていった。

 

 心を落ち着けようと深呼吸。しかし深呼吸はいつしか荒い息へと変わっていき、取っ組み合う三人の中へと飛び込んでいった。これが、第三期第六駆逐隊名物の大ゲンカの始まりであった。

 

 

 

 

「ったく、楽出来そうかと思ったらそんなこと全くなかったわ。これさえなければ現役で最高の駆逐隊になれるのに、全く惜しい。艦娘を志願するのが少し早すぎたのかもしれないわ」

 

 はらり、と四人の戦績を机に放り、背もたれに体重をかける。そんな彼女を、同僚は笑みを浮かべてみていた。

 

「ふふっ」

「なによ」

「いや、なに。お前がそんな風に悩む日が来るなんて思ってなくてな。あの頃のお前を知ってると、笑いが抑えられなくなる」

「私だってあんたが同僚になるなんて微塵も思ってなかったわよ。何の呪いかと思ったわ」

 

大きくため息を吐き、教官は突っ伏す。そんな彼女を同僚は微笑んで新しく入れたコーヒーを差し出した。

 

「それなら教官なんてならなければよかったじゃないか。引退するとき、お前は艦娘に関わる仕事なんてもうしないと言っていたじゃないか。素直にシャバに出れば、私に会わなくて済んだのに」

「…………まぁ、悲しいものよ。やっと普通の人間に戻れたと思ったら、平和な町中が退屈で仕方なかったわ。艦娘も軍人、戦闘なんてものを味わったらよほどの物がない限り頭から離れない。あの頃が一番充実していたわ」

「確かにな。私も同じだ。今でも覚えているよ、敵戦艦の砲撃を食らって吹き飛ばされた時のことを」

 

 緑の髪の教官は、窓の外に見える海を見てあの頃の自分たちを思い出す。問題児だの落ちこぼれだの言われたあの頃。誰も守れなくてやきもきして、誰かにすがりたくて落ちこぼれ同士で傷をなめ合っていた。

 そんな中現れた一人の教導艦娘。彼女が自分たちを変えた。いや、正確にいえば変えるきっかけをくれて、皆の力で変わっていったのだ。何度も死の瀬戸際に追い込まれて、それでも生き残った。誇り高き駆逐艦娘は、絶対に仲間を見捨てない。

 

「そのことを、あの中途半端な三期にも分かってもらいたいものだな」

「ま、意地貼ってちゃ一生無理だけどね」

「その言葉、そのままお前に帰ってくるぞ」

「どういう意味よ」

 

 言っていいのか? そんな挑発的な顔になる同僚。私の何が意地っ張りなのか言ってみろと、彼女は半ば睨む形で返答をした。

 

「お前が教官になったのも、大方私たちの教導が嫁入りして相手してくれるやつがいなくなったからだろう」

「なっ、ばか言ってんじゃないわよ! 別にあいつが結婚してから久々に話そうと思ってみたらお腹おっきくなって三か月後に出産とか聞いてショックとか受けてないし!」

「いや誰もそこまで聞いてないが……まぁ、安心しろ」

 

 ぽん、と同僚が肩に手を置く。少しだけ顔を背けた彼女は、少しばかり寂しそうな笑みを浮かべて言った。

 

「私もだよ」

 

 教官は返事をしなかった。だが、その代りに現役時代の自分たちの集合写真に目を向ける。今よりも一回り小さい自分の姿。前列に座って写っている自分は、シャッターを押される直前まで文句を垂れ流していた。周りにいるのは、悩める自分を気にして元気づけようとしてくれた本当にお節介でうるさい連中。

 

 そして、最高の仲間たちだった。

 

 そんな彼女たちも一人、また一人と戦場から離れていき、家庭を持った者もいれば、新しい職場で上手くやっている者もいる。もう、艦娘に関わる仕事をしているのは自分たち二人だけだ。

 

「明日、第三期第六駆逐隊の演習の結果で一区切り入れようと思うわ。あんたから見てダメそうだったら、解散の通達を入れる」

「ああ、了解。あまり遅くなりすぎるなよ」

 

 緑かかった髪の毛を揺らし、同僚は出ていった。自分がこれ以上口を割らないと知っていたから、退散したのだろう。思い切りのいいことだ。そう思う一方、少し寂しい気もしたが無視することにした。

 

「…………私も丸くなったものね」

 

 と、教官はもう一束の書類を第三期第六駆逐隊の束の上に重ねる。その紙には、「実戦部隊推薦状」と表記されていた。

 

 

 

 

 翌日。訓練学校敷地内第二演習海域に第三期第六駆逐隊の面子が並んでいた。顔にはひっかき傷や擦り傷、ローファーが直撃して真っ赤になったおでこなど、多種多様な生傷で飾られていた。

 あの喧嘩の後、衝突こそなかったものの同じ部屋を充てられている四人にとって外出禁止時間以降は地獄だった。仕切用のカーテンがあったのはせめてもの救いだが、会話も一つもなく朝を迎えた。

 

 しかし、先も述べたように彼女たちは演習海域にいる。演習海域にいるということは訓練をするということだ。もちろんこの四人でだ。そうなると全くの無言になるというわけにはいかないということは、年齢的に小学生である彼女たちでも十分理解していた。だからブリーフィングや作戦会議では特にトラブルもなく、むしろスムーズすぎる速さで終えた。

 

『あーあー、聞こえるか? これより駆逐同士の砲雷撃訓練を行う』

 

 と、無線機から実技訓練教官の声が聞こえてきた。桟橋の上に作られた見張り台に似た審判用のやぐらの上に、緑色の髪の毛をした教官がこちらを見ている。武士を思わせるような目つきをした彼女は、男勝りの口調もあって、一部訓練生たちに人気乗る人物だった。彼女もまた、現役時代駆逐艦だったそうだが詳細を知る者はあまりいない。

 

『制限時間は二十分。今回は霧の中を航行中、超至近距離で敵と遭遇した時を仮定した訓練だ。そのためにまず煙幕を展開する。そしてスタート地点について、私の合図で戦闘開始。今回陣形を崩さないで必ず四人一組で行動することだ。二手に分かれて挟み撃ち、ってのはなしだ。それを守れば後は煮るなり焼くなり好きにしろ。いいな?』

 

 互いの駆逐隊の返事が無線を包む。しかし、実技教官はその中に不満を言いたそうな声を確かに聴きとった。いうまでもなく、第三期第六駆逐隊である。おそらく昨日喧嘩の喧嘩を引きずっているのであろう。よりにもよってそんな空気で集団行動をさせられるのだ、たまったものではない。しかし、その程度のことで陣形を組んだ戦闘ができなければ海の藻屑である。

 

 互いの駆逐隊がスタート位置のブイに到着したとの連絡が入った。海域にはすでに煙幕を放出する水上ドローンが航行し、あらかた海域を包むと自動で湾内へと戻っていった。

 

『よし、作戦開始だ。各員健闘を祈る』

 

 戦闘開始のサイレンが鳴る。第六駆逐隊は暁を先頭にし、第二船速まで加速。単縦陣で周囲を見回し、どこに敵がいるかを目で凝らして探す。今現代の艦娘は電探が標準装備となっているのだが、訓練課程において最終的に頼れるのは己の目と直観であると徹底的に叩き込まれる。よって電探を扱うのは訓練の最終段階の数回ほどになっていた。少なすぎではないだろうかと、時折疑問を漏らす艦娘もいるが、電波を飛ばしてその反応が入れば敵なのだから覚えるのに時間はいらないとすぐに皆気付いた。

 

 戦闘開始から二分。まだ敵との接触は起きない。制限時間は二十分ではたして足りるのだろうかと思うかもしれないが、今回の訓練は一瞬で勝負が決まるので時間はむしろ長いくらであった。理由は簡単、先に見つけて魚雷を叩き込めばほぼ勝ちが決まるから。

 

 そのためには敵を血眼になって探すのだ。駆逐艦が最も得意とする戦い方は奇襲である。その奇襲を成功させるには敵を真っ先に見つけ、敵のどてっ腹に魚雷を叩き込むことである。

 そして同時に、奇襲を回避するのもまた、血眼になって敵を探すことだった。

 

「こちら暁、誰か敵の影を見つけた?」

「響、異常なし」

「雷、同じく」

「電、同じです」

 

 暁は全員の返事、主に三番艦から下の二人の声色がどうも気に入らなかった。きっと不満を漏らしているに違いないと、実際聞いてもいないのにそんなことを思ってしまう。思い込みはよくないものだとは知っているが、それでも彼女が割り切りを持つにはまだ時間が必要だった。とにかく今は敵を探すことに集中しなければならないと思い直し、頭を振る。

 

 今の旗艦は自分だ。なら雑念を持ってはいけない。もしかしたら敵はすでに自分たちに向けて魚雷を放っているかもしれないのだ。雷跡の発見も重要な仕事である。と、その時だった。

 

「こちら響、左舷十時方向に敵艦の航跡を確認」

「敵艦の直接の視認は?」

「いや、できてない。けど航跡は間違いない。たぶんすれ違いかけてる」

 

 響の証言を基にすると、自分たちを真上から見て十字方向に敵の航跡を確認した。艦娘の姿が見えなかったということはすでに通り過ぎた後。つまり敵はすれ違う形で航行している。ということは、敵は七時方向に向けて移動していると予測ができる。

 

「全艦魚雷発射用意。七時方向に向けて雷撃を……」

「まって!!」

 

 雷が声を上げた。その声は明らかに危機が迫っていることを伝えるものだった。とっさに暁は機関を一杯に入れ、雷跡が目に入るのはほぼ同時だった。

 

「七時方向より雷跡!」

「機関一杯!!」

 

 第六駆逐隊全員の缶が唸りを上げる。霧の中から突如現れた魚雷は四人の進路に間違いなく近づいていた。響が双眼鏡を覗く。直撃を一瞬覚悟し、せめて到着までの時間を図ろうと視認する。しかしよく見ると、角度に甘さが見受けられた。あれだとこちらに直撃する前に通り過ぎるか、間に合わなくても雷跡の隙間に滑り込むことができる程度のものである。

 

「姉さん、あの魚雷は角度が甘い。回避は簡単だ」

「……そうね。全艦機関そのまま、雷撃を突破するわ。取り舵十度」

 

 暁も同様の結論に至る。艦首をわずかに左に向けて魚雷の回避を確実なものにして、これで目視した分が直撃することはなくなった。現に、魚雷は余裕をもって電の後方に流れて行った。

 

「相手はこっちをちらりとは見たけど、正確な位置はつかめてないみたいね」

「数も多くないし、試し撃ちってとこかもしれない。

 

 ならば魚雷の角度を逆算すれば、敵艦は後方にいることになる。舵を切って反航戦に持ち込むか?

 

「待って! こっちの正確な位置をつかめていないにしては、さっきの魚雷は的確すぎよ。向こうからしたら私たちは右にいるのか左にいるのかもわからない、そんな中視認できる場所に魚雷が撃てるのは確立として5%もないのよ。相手は私たちの場所をつかんでいるわ」

 

 確かに雷の言うことはもっともだ。魚雷戦においては目視状態での投射でも、命中率は10%以下なのだ。なのに目視できる範囲に魚雷が来るのはできすぎている。いくら訓練所で一番狭い演習海域でも、面積は東京ドームが十個入るくらいには広い。暁は自分の核心を否定されたのには気にくわなかったが、その間に雷が響に通信を入れる。

 

「姉さん、ここはいったんやり過ごそう。いろいろ思うことはあるだろうけど、雷の意見は私も賛成だ」

「……わかったわよ。舵そのまま、単縦陣を維持」

 

 暁の不服はぬぐえなかったが、響の言葉のおかげで私情を挟まなくて済んだ。艦隊直進、一度距離を置いて奇襲をかけてくるであろう後方の相手艦隊の出方をうかがおうとした、その時だった。暁の目の前に、こちらに向けて疾走する雷跡が目に入ったのだ。

 

「そんな、二手に分かれないってルールじゃ!?」

 

 突然のことに暁は頭が真っ白になる。なんだこれは、ルール通りじゃないなんてそんなの反則だし聞いていない。相手はいったい何を考えているんだ、教官にばれたら昼食を口から海にばらまくまでしごかれるぞ。文句を垂れようとした暁だったが、直後に雷の叫びが耳に突き刺さる。

 

「暁、ダメすぐによけて!!」

「えっ!?」

 

 今まで聞いたことのないような雷の叫びに、暁はとっさに面舵を切った。刹那、雷が何を思ったのか魚雷に向けて主砲を発射した。命中したところで模擬弾なのだから爆発しないのに。

 

 だが、暁のその考えはいとも簡単に崩れ去った。雷の放った砲弾が魚雷の目の前に着弾、瞬間。信管が作動し、疾走していた真正面の魚雷が爆発し、海水を巻き上げたのだ。

 

「じ、実弾!?」

 

 暁は驚愕する。そんな馬鹿な、あれは当たれば体にピンク色の恥を塗りたくる模擬弾ではなかったのか? 相手の艦隊はいったい何を考えているのだと。しかし違う。それに真っ先に気付いたのは雷だった。

 

「あれは敵の実弾よ! ここは演習海域の範囲ギリギリなのに、その範囲外から雷撃が来たってことは敵がいるわ!」

 

 敵。その言葉に暁は一瞬現実味を感じなかった。しかし、降り注ぐ海水、鼻につく火薬のにおい、明らかな殺意を持ったその攻撃は彼女が想像でしか感じたことのなかった戦争の恐怖を叩き込んだ。

 

「て、敵……敵が……」

 

 声が震える。足がすくむ。敵なんて来てもへっちゃら、そう思っていたのになんで今来るのだ。私はまだ訓練生なのに。だが、止まるわけにはいかない。何とかしないと。でも、でもいい考えが全く浮かばない。どうすればいい、何をすればいい。

 

「こちら雷! 敵深海棲艦からの雷撃を受けて交戦中! 指示を!」

 

 真っ先に行動したのは雷だった。教官に指示を求め、暁の腕を引いて取り舵いっぱい。響、電もそれに続く。

 

『こっちでも向こうの駆逐隊から連絡が来た! 演習海域に少なくとも二隻はいる、おそらくは潜水艦だ! 警戒を厳に、不用意に上陸するな。敵はその瞬間を狙っているかもしれない。ソナーの使用を許可する!』

「了解、みんな速度落として!」

 

 雷は九三式水中聴音機を海中に投下。妖精さんがひょっこりと顔をだし、ヘッドホンを装着。ハンドルを回して敵の音を探る。暁もようやく落ち着きを取り戻し、雷の肩を叩いて自分は大丈夫だと意思を告げる。

 

「潜水艦って……こんなところに」

「教官は二隻いるって言ってたね。じゃあ最初に受けた雷撃ってもしかして……」

「一隻目、だったのです?」

 

 三人は戦慄した。確かに、目視にしては正確な雷撃だと思った。だが、あれは自分たちの様子を見るための一発でわざと避けやすいものを撃ちこみ、本命はあの二回目の雷撃だったのだ。ということは、響が見た航跡も演習相手ではなく、敵の航跡だったことになる。もし雷の機転が間に合わなかったら?

 

 暁は奥歯を噛みしめる。敵の存在を認知したとき、恐怖で体が動かなかった。それがただ悔しくて仕方ない。ここまで行動を起こせるのは修羅場を経験した雷だからこそだ。だが、負けたくはない。自分だって一番艦なのだ。暁は、自分の九三式水中聴音機を海中に投下した。

 

 

 

 

「ちょっと! うちの演習場に敵潜水艦がいるんだけど、そっちの鎮守府の警備どうなってるのよ!?」

 

 教官室で怒鳴るのは座学教官である。演習場からの緊急連絡で椅子から飛び上がり、受話器に向かって訓練所周辺海域を警備する担当鎮守府に怒鳴り声を浴びせていた。

 

「私たちの大事な教え子が実弾もらってるのよ、援軍をさっさと出しなさいよ! はぁ、給油中? なんでいつ戦闘が起きるかもわからない時に燃料けちってんのよ、怠慢も甚だしいわこのクソ鎮守府!!」

 

 ガンッ、と乱暴に受話器を切った教官は、すぐさま内線で救護班に待機を命令、同時に緊急警報を鳴らして教官艦娘の緊急出撃を命令する。

 

「整備班、緊急よ! 敵潜水艦侵入、各艦娘にパッシブソナー搭載させて! 私も出るわ、対潜特化で準備して!」

 

 返事を待たずに教官は再び電話を切る。その際スピーカー付近の外装が割れたが気にしない。どうせ買い換えようと思っていた備品だ。

 教官室から飛び出し、廊下を全力疾走する。道中敵潜水艦の侵入を知った訓練生たちから不安げな目線を向けられるが、「大丈夫だから部屋にすっこんでなさい!」の一言で全員を蹴散らし、ドッグへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 ソナーを使い、演習海域を航行して数分。第三期第六駆逐隊のソナーによる敵の探知は続けられていた。しかし、あの攻撃からすっかり海は静かになり、むしろ不気味なほどであった。

 

 演習海域のできるだけ桟橋から遠い方で航行する彼女たちはもどかしさを感じていた。十分もしない程度に航行すれば、陸に上がって逃げられるのだ。しかし、敵の狙いはそれかもしれない。上がる瞬間には必ず速度を落とす。そこを雷撃されたら終わりだ。

 

「じゃあ、一度外洋に出て別の桟橋から上陸するのはどうだい?」

 

 と、響が提案する。確かにここで待ち伏せされているなら、一度外洋に出て別の演習海域に入ればいいかもしれない。彼女たちも外洋演習は何度もこなしているから、荒れた海でもある程度の対応は可能だ。しかし、雷は首を横に振った。

 

「だめよ。敵が湾内に入り込んでいるということは、湾外にだっているかもしれないわ。焦って外に飛び出す私たちを待っているかもしれない。それを考えると、煙幕がまかれているここをランダムに航行するほうが安全だわ」

 

 確かに、雷の言うことは筋が通っていた響は脳内にある訓練所周辺の海域を思い出す。ここから一番近い別演習場まで外洋を二十分ほど航行することになる。その間に何かあれば、非武装の自分たちに命はない。

 

「了解、雷の指示に従うよ」

「ありがとう……って、指示みたいになってたけど私旗艦じゃなかったわ。暁はどう思う?」

 

 雷の後方を航行していた暁は、自分に話が来ると思っていなかったため、答えが出るのに時間がかかった。正直なところ、自分だったら躊躇なく外洋に出ようと思っていた。だが、雷の判断は暁から見ても冷静かつ合理的だ。悔しいが、自分が指示を出していたらここにいる全員が死んでいたかもしれない。そう思うと、生き残るためにはこうするしかなかった。

 

「…………暁から雷へ、艦隊旗艦を一時雷へ譲渡。あなたに任せるわ」

「えっ……」

 

 ある程度の衝突があるのではないかと思っていた雷だったが、予想外の言葉に思わず後ろを振り向いてしまう。からかっているつもりだろうか? いや、自分を見つめる暁の目は今までに見たことがないくらい真剣だった。だが、その表情の裏に悔しさも感じる。きっと、引っ張っていこうと思って旗艦をしていたのに、自分では力不足だと知ったのだろう。雷はそれを察して特に追求せず頷いた。

 

「こちら雷、これより第六駆逐隊は旗艦を暁から雷へと変更します。暁、後ろは任せるわ」

「了解!」

 

 と、妖精さんが飛び跳ねて雷に耳打ちする。スクリュー音確認、敵潜水艦の反応有。その報告は暁にも行きわたり、二人が探知したデータを使い、おおよその位置を割り出した。

 

「敵潜水艦発見、七時方向距離2000!」

 

 後方だ。自分たちを追尾している。動きを見せたということは、自分たちに狙いを定めたということだ。

 

「こちら雷、敵潜水艦発見、現在追尾されている模様! これより回避運動に入ります! 全艦第三戦速、之字運動!」

 

 之字運動。左、左へと蛇行を繰り返して進路を読ませないようにする回避方法である。これで潜水艦は未来位置を予測できず、魚雷を簡単に撃つことができなくなる。このままいけば足の遅い潜水艦なら駆逐艦で簡単に振り切れる。

 

「取り舵一杯!」

 

 進行方向に敵潜水艦が待ち伏せていた場合に備えて取り舵一杯で転舵。進路を正反対に向けてさらに回避する。雷の頭の中は液体窒素のように冷静だった。とにかく自分が敵ならどうするかを考える。訓練生相手だと知っているなら、敵は教科書通りの回避をしようとする自分たちを狙うに違いない。なら、ここはその裏をかくべきだ。之字運動はもう使えないと考えるべきだ。

 

「全艦、密集して! 複縦陣!」

 

 雷の頭に迷いはなかった。敵は自分たちが恐怖して固まると思うに違いない。自分だったらそれを狙う。なら、誘ってみよう。だが的にはならないぞ。

 妖精さんが叫ぶ。魚雷注水音確認。そうだ、それでいい。暁にも同様の声が飛び、彼女は一瞬焦るが雷の表情を見て察した。やはり、雷は一番冷静だ。

 

「いいみんな、今敵の潜水艦は私たちに向けて魚雷を撃とうとしているわ。けど、簡単にはやられない。訓練生だからって舐めてかかってる。だから今度はこっちが裏をかくのよ。合図したら一斉に好きな方向へ全力で向かって!」

 

 雷は世の中教科書のようにうまくいかないことは知っていた。それは自分が両親を失い、幼い兄弟たちを養うために培ってきた経験で知っていた。だからとにかく応用で生き残るしかないのだ。

 

 四人は雷の命令に黙って頷いた。きっと彼女は誰よりも頭を回しているに違いないと響は思う。正直は話、響もいつも以上に感情が高ぶっていることを自覚していた。よく見れば指先が震えている。情けない話だ、暁を守ると思ってついてきたのにこの様か。

 しかし、だからこそ雷のはっきりした指示は頼りになった。彼女の一切迷いのない腹をくくった瞳は大丈夫だと思えるものだった。そうだ、彼女は暁の言う出しゃばりな面もあるかもしれないが、だからこそ彼女は旗艦に向いているのだろう。響は、世界が少し広がったような気がした。

 

「魚雷発射音確認、散開!」

 

 雷の合図とともに、四人は一斉に四方向へと飛び出す。機関一杯にしたことでエンジン音が邪魔をし、水中聴音機は使い物にならなくなる。だがこれには敵も予想外だったに違いない。現に、魚雷は自分たちの固まっていた時の進路上におかれて、そして永久彼方へと向かって疾走していった。

 

「よし!」

 

 雷は急速反転、潜水艦が潜んでいたであろう場所に向けて飛び込む。主砲を手に持ち、海面に向けて発砲。模擬弾ではあるが、当たれば塗料が付着して居場所がわかる。仮に当たらなくても、隠密行動を主とする潜水艦にとって目立つ塗料に触れるのは避けたいところだろう。念には念を入れて、雷は予備の模擬弾を取り出し、艤装に叩きつけて中から塗料を漏らして海面に投げ入れる。水に溶かしたら広範囲に広がる特性の模擬弾だ。

 

 海面にピンクの塗料が広がっていく。敵潜水艦のおおよその真上を通過したところで雷は振り向く。海中に見える、かすかな揺らぎ。そうか、そこにいたのか。見つけたぞ。

 

「こちら雷、敵潜水艦目視!」

 

 攻撃はできないが、しつこく追い回すことは可能だ。見失わないように再度塗料を海中に投げ込み、潜水艦を追い続ける。この演習海域は外洋に比べて比較的浅瀬なため、深く潜って逃げるには外洋に出るしかないのだ。

 

(みんなを逃がすために、何とかしてここから追い出さないと!)

 

 雷は二隻目の雷撃がないかを警戒する。二隻ともがこちらに注意を向けていればいいのだが。と、その時妖精さんが叫んだ。左舷より雷跡。

 

「しまっ――!!?」

 

 こんなに早く二隻目が動くなんて! 雷は自分の判断が遅かったことを痛感する。しかし、それにしたって行動が早すぎる。運がこちらに味方しなかったのか。

 どうにか体をまげて回避する。だが、至近距離で魚雷が爆発し、雷は吹き飛ばされる。何とか主機は守ったが、缶から少し異音がして推力がうまく上がらなかった。そこに第二射の魚雷が現れる。

 今度こそ直撃コース。雷はとっさ機関後進一杯に入れるが、反応が鈍い。間に合わないと判断してシールドを展開するがどこまで耐えられるかわからない。だが雷は諦めない。浮いてさえいれば勝てる。もう少しすれば教官たちが来る。雷は覚悟を決め、身構えた。と、突如として雷の後方から黒い影が飛び出し、魚雷の進路上に立ちふさがった直後、巨大な水柱が上がった。

 

 鉄がひしゃげて悲鳴を上げる。耳に刺さる嫌な音ともに、鉄の破片が海に降り注ぐ。目の前の紫かかった黒い長髪のレディが、雷を守るために立ちふさがっていた。

 

「あ、暁!」

「……つぅ」

 

 どさり、と暁は膝から崩れ落ちそうになり、とっさに雷が受け止める。直撃を受けた暁は主機をやられたのか体が少しずつ沈んでいく。雷はとっさに叫ぶ。

 

「暁、右舷注水! ダメージコントロールよ、早く!」

 

 暁は息を荒くしながらも、支える雷の手を握り締めて自分の意識があることを告げる。どうにか浸水が停止し、膝まで海中に沈んだが沈没だけは免れた。

 

「なんで、逃げてって言ったのに!」

「……ばか……旗艦を犠牲にするほど、私は腰抜けじゃないわよ……それに」

 

 顔を上げた暁は笑顔だった。それも憎たらしい、厭味ったらしい笑みを浮かべて堂々と答えた。

 

「それに、妹を守るのが長女の役目でしょ?」

「…………ばかはどっちよ」

 

 雷は顔を上げる。見ると、進路上には暁に魚雷を当てた潜水艦が堂々と浮上していた。深海棲艦、潜水艦ソ級。こちらが非武装なのを見越したのだろう、余裕をもってつぶす気だ。

 

「暁、動ける?」

「動けるけど遅いから置いて行って」

「私がそれすると思う?」

「おせっかい焼の妹は嫌いじゃないけど好きじゃないわ」

 

 雷は唇を吊り上げ、主砲を構える。来るなら来い、少しでもあがいてやる。暁も一門使えなくなった自身の主砲を向ける。遠くてよくわからないが、ソ級が不敵な笑みを浮かべたように見えた。

 

「二人してなにかっこいいことしてるのかな」

 

 無線機から氷のように冷たい声が聞こえた。だが、暁は知っている。この冷たさこそ彼女の熱さであり、頼もしい自信に満ちた声なのだと知っている。

 

「私たちも混ぜてほしいのです」

 

 ソ級の後方、ゆらりと二つの小さな影。さっきまでまるで存在しなかったはずなのに、突如として現れた美しいアイルブルーの瞳とブラウンの瞳。しかしその手には幼い瞳似合わない鈍器としての役目を持った錨が握られていた。

 ソ級は驚いた。今まで音一つしなかった。なのに、なぜこの駆逐艦は自分の背後にいるのだと。

 

「飛び道具が模擬弾でも、こっちの錨は」

 

 刹那、暁方二番艦響、四番艦電は自身の携えていた錨を振り上げ、その先端を寸分の狂いもなくソ級の脳天に叩き込んだ。

 

「本物なのです」

 

 一撃。その衝撃はバイタルパートに致命的な損傷を与えた。メインタンク損傷、ソ級の浸水が急激に広がっていく。響はダメ出しに魚雷発射管を叩きつぶし、機関一杯。直後、残っていた魚雷が誘爆を起こして爆発。ソ級は破片だけを残して海中に消えた。

 

「……訓練所かくれんぼ大会優勝者は伊達じゃないよ」

 

 と、響は雷と暁にピースサインを作る。電は大急ぎで二人に駆け寄り、ぎゅっと抱きしめた。

 

「もう! 二人とも無茶するんですから!」

 

 涙ながらにそういう電は、よく見ると肩が震えていた。大事な幼馴染を失うかもしれない恐怖が、ずっと彼女に染みついていたのだ。きっと無茶をするに違いない。そう思っていた電は、散開後すぐに響と合流し、即席で彼女直伝の隠密行動術を教えてもらい、ソ級の背後に回り込んだのだ。

 

「……まさか、最初の撃沈が響と電の共同撃沈とはね」

 

 暁が呆れ半分でいう。響はにっこりと笑みを姉に向ける。初めて見る笑顔の響きに、雷と電はそこそこに驚く。なんて美少女だ、あと五年もしたら世の中の男たちが放っておかないだろう。

 

「さぁ、とりあえず移動しましょう。まだ敵がいるかもしれません」

 

 電が雷を支えて立たせる。響は暁が航行不能と判断して曳航用ロープを括り付けて準備完了。機関を始動させる。ようやくスモークが消えて青空が見え始め、四人は安堵する。生きている。なんて素晴らしいことなのだろうか。きっとみんな無事に帰れる、そう思っていた。

 

 敵戦闘機のエンジン音を聞くまでは。

 

「て、敵機確認! うそでしょ!?」

 

 曳航されていた暁が自分たちの後ろから近づく敵戦闘機を確認した。そしてそのまた後方に爆撃機の編隊。深海棲艦は空母まで送り込んでいたのだ。

 

 とっさに電が後ろを向き、主砲を発射する。対空用の砲弾じゃないから足掻きにもならないかもしれない。だが、電は自分しか対応できないとすぐに判断。12.7cm二連装砲にありったけの模擬弾を装填する。

 

「みんな早く逃げて!」

 

 声を荒げる電。彼女の必死の叫びに雷と響は機関をいっぱいにする。だが、缶の損傷した雷は速度が上がらず、暁を曳航している響もこれ以上速度が出ない。電もそれは察知していた。だが今できるのは自分だけなのだ。

 

 敵爆撃機が爆弾を投下する。来る。第六駆逐隊の周辺に大量の水柱が上がる。頭から海水をかぶり、口の中が塩で満たされる。だが電は構わず空を睨み、主砲を撃ち続ける。次の爆撃機隊が来た。応戦、応戦。一心不乱に電は対空射撃をお見舞いする。撃て撃て。みんなが死んでしまう。そんなのは絶対に駄目だ。こんなところで死ぬわけにはいかない。いかないのだ。

 だが、彼女の気持ちと裏腹に主砲が突然動かなくなった。なぜ? 電が主砲を見てみると、度重なる連射で砲身が焼き尽くされていた。もう撃てない。

 

 もう、何もできない。

 

 四人は迫る死を感じていた。だが、もう恐怖を感じる暇も嘆く時間もない。ただ必死に四人は前に、前に進もうとしていた。

 

 暁は、まだ自分は何もしていないと思っていた。お嬢様として育てられ、不自由しない生活から抜け出して艦娘になった。自分を変えるために、響のために戦うことを決意した。なのに、まだまともな戦いだってできていないのだ。

 

 響は暁を守ろうと彼女の上に覆いかぶさる。自分の良き好敵手である姉にまだ何も恩を返せていない。あの時、自分に一歩を踏み出すきっかけをくれた唯一ともいえる家族すら守れないのか。

 

 雷は家で待っている兄弟たちを思い出す。誕生日も、クリスマスプレゼントでさえも買ってあげられなかったあの子たちが、少しでも楽になる様にと志願したのに艦娘にならずしてここで終わるのか。

 

 電は己の無力さを呪った。こんなにあがいたのに、こんなに抵抗したのに、危なっかしい雷を守るために来たのに、何もできない。自分たちが死んだら雷の家族も自分の家族も悲しむのに。こんな理不尽があってたまるか。

 

 禍々しい黒い翼の爆撃機が翼を翻す。事実上の死刑宣告。彼女たち第六駆逐隊にはもう何も抗う手段を持っていなかった。だが、四人は空を睨む。こんな理不尽があってたまるか。自分たちはここからきっと始まると思っていたのに。もう、何もできない。

 

 何もできないのだ。第六駆逐隊、なら。

 

「いいわよその目、それでこそ駆逐艦よ!」

 

 背後のスモーク残る海上から、二人の艦娘が飛び出す。二人は10cm高角砲を空に向け、爆撃コースに乗った敵機に向けて発砲。その砲弾は寸分の狂いもなく爆撃機に吸い込まれ、投下コースに乗っていたすべての爆撃機が消えた。

 

 四人は突如現れた艦娘をよく知っていた。いつもは机の前で暇そうな態度で自分たちのことを叱る座学教官と、自分たちの訓練を監督している訓練教官だった。

 

「きょ、教官!?」

「ここまで持ちこたえられたのは評価ものよ。進路そのまま、桟橋に向かって上陸しなさい。あとは私たちが引き継ぐわ。『長月』、行くわよ!」

「ああ。久々の実践だ、あの時を思い出すな、『曙』さん」

「お喋りする暇あるならさっさと迎撃しなさいよ!」

 

 と、無駄口を交わしながら二人は的確に敵爆撃機を撃ち落としていく。しかし、その二人の進路先に潜水艦が現れる。危ない! 雷が叫ぼうとした瞬間、曙は空から目を離さず、主砲だけを潜水艦に向けて発砲。驚いた潜水艦は急速潜航するが、長月が爆雷を投げつける。起爆水深到達、爆破。潜航した潜水艦は爆雷が直撃しなくても、衝撃でわずかに装甲がゆがめばそこから一瞬で浸水し、沈没する。そのタイミングで、彼女たちの上を零式艦上戦闘機がフライパス。敵航空部隊と交戦に入った。

 

「ったく、遅いのよ。警備サボってなおかつ援軍も遅いなんて。大本営に通達ね」

 

 駆逐艦曙は腰に手を当てて空を見上げる。演習で轟沈判定をもらい、お説教をするときそのままの雰囲気で彼女は完璧ともいえる戦闘をやってのけたのだ。第六駆逐隊は呆然と教官、曙を見ることしかできなかった。

 

「曙、終わったぞ。パッシブソナーに反応なし、航空隊も敵空母艦隊を補足、攻撃中だそうだ」

「なら私たちの仕事も終わりね。こら第六駆逐隊、さっさと桟橋に行けって言ったでしょ」

 

 未だに固まってる彼女たちに曙はそう言い放つが、四人は動かなかった。どこか損傷したのだろうかと近づき再度声をかける

 

「大丈夫? どこか損傷したの?」

 

 と、曙が声をかけた直後である。暁の目から涙がこぼれ落ち、嗚咽が一つ。それを合図に四人の目から一斉に涙があふれ出し、あっという間に四人分の嗚咽が響いた。

 

「うわあああああ、あああああ!!」

「ちょ、うそ、あんたたち……」

「怖かった……ごわかっがよぉおぉ!!」

 

 暁が目を真っ赤にして泣き叫び雷、響、電の順に全員が泣きだす。さっきまで駆逐艦魂を背負った目をしていたのに、あっという間に子供に逆戻りとなってしまった。

 いや、本来彼女たちはこうあるべき姿なのだろう。思春期を殺すことを覚悟で踏み入れた彼女たちは、いかにその覚悟があろうとも結局は子供なのだ。それをしっかり理解するのも、また教官の役目である。一応長月に援軍を頼めないか目線を送るが、彼女は知らん顔していた。

 

「……はぁ、ほらこっち来なさい」

 

 曙は両手を広げ、四人を包み込んだ。ぼろぼろになった艤装から彼女たちの奮闘が伺える。ついさっきまで彼女たちは間違いなく駆逐艦魂を持っていた。絶対に諦めないあの闘志のある目は、間違いなく大物になれるだろう。

 しかし、今は子供として扱ってやろう。この四人が経験したことは、まだ早すぎたといっても過言ではないのだから。

 

「よく頑張ったわね、もう大丈夫よ。あなたたちは立派な駆逐隊だわ」

 

 曙は四人を平等に抱きしめてやる。軍艦として戦うことを決意した少女たちを、抜けるように青い空が見下ろしていた。

 

 

 

 

 半月後、第二演習海域。曙は双眼鏡をのぞきこみ、最終試験を行っている第三期第六駆逐隊を眺めていた。彼女がこうして演習場に来るのは珍しいことで、数人の訓練生が興味津々に眺めていた。

 

「どうだ、あの四人は」

 

 と、長月が皮肉交じりな声で曙に問いかける。曙は双眼鏡から目を離さず、生返事で答えた。

 

「ま、いい感じよ。あの一件以来すっかり変わったわ。とてもいい方にね」

 

 長月は曙から書類一式を手渡され、それに目を通す。それは曙が描いた第六駆逐隊一人一人の最終報告書である。

 

 一人の少女が身軽な動きで敵艦隊に飛び込み、砲撃を加える。もちろん近づけば相手からも攻撃を受けるが、それを右へ左へと回避し、後続の味方が砲撃を加える。見事な連携だ、先頭の彼女が最高の囮として機能している。しかもただの囮ではない、自身も敵にダメージを与えているのだ。

 

 暁型一番艦「暁」。当初は第六駆逐隊の旗艦であったが、後に雷へ旗艦を譲渡。その後持ち前の機動力で前方に突撃、敵の注意を引きつける囮役として奮闘。残りの三名との連携で相手を翻弄する戦法をメインにする。その後、夜戦訓練において同期の中で群を抜いて優秀な成績を叩きだす。

 

 暁を迎撃しようと砲撃を繰り返す相手艦隊。しかし、その背後に美しい銀髪が流れる。相手が気づいた時にはもう遅い。一隻が轟沈判定を受けた。

 

 暁型二番艦「響」。暁を護衛することが多かったが、その後持ち前の隠密能力の高さを利用し、囮役として暁が敵の注意を引き付けている間に接近、撃破する戦法を編み出す。その能力の高さは索敵にも非常に有効であると判明する。

 

 予想外の被害を受け、やや混乱をする艦隊にもう一人が飛び込む。暁と隊列を組み、扇状に魚雷を発射。回避運動しかすることができない敵艦は、無防備な姿をさらすことになる。そこへ容赦のない砲撃を加え、やや遅れた一隻に向けてアンカーを投げつけた。

 

 暁型三番艦「雷」。暁から旗艦を引き継いだ後、持ち前の起点と応用の良さを利用し、艦隊を指揮。その能力は指揮官として非常に優秀であり、幾多の困難な状況下の訓練も突破した。加え、近接戦闘を最も得意とし、雷撃の命中率は過去最高レベル。暁との連携で容赦のない雷撃で敵を追い詰める。

 

 追い込もうとする二人に、空からの攻撃が加わる。空母から発艦した雷撃機だ。追撃しようとする暁と雷に、雷撃機が魚雷を投下しようと接近する。しかし、彼女たちは焦らない。魚雷投下寸前にまで迫った時、先頭にいた雷撃機が爆散した。彼女たちを守るべく、主砲を構えた少女がいた。

 

 暁型四番艦「電」。なんでもそつなくこなすことができ、第六駆逐隊の影の柱。しかし先日の戦闘で電が行った模擬弾による対空射撃は命中率が70%を超えていたことが発覚。その後特例として10cm高角砲を搭載し、対空射撃訓練を行った結果天才的レベルのセンスを持っていることが認められた。

 訓練での撃墜スコアは同期で群を抜いており、その能力は秋月型と肩を並べるほどと言われている。

 

「なるほど、うまい具合に仕上がったじゃないか」

「元からセンスも能力も持っていたのよ。ただ、あの子たちは自分の理想を追いかけるばかりに衝突を繰り返して、上手くいかなかった。でもお互い妥協することと、認め合うことを覚えればあとは簡単。つまり、上質な歯車はあったけど、上手く噛みあってなかったってことよ」

 

 雷の放った魚雷が命中し、もう一隻が中破判定。雷を迎撃しようと魚雷が迫る。雷、これを回避。しかし進路を固定されて砲弾を浴びる。雷に小破判定、しかし暁が飛び出して雷をかばいつつ、砲撃。敵に中破判定。その背後に再び気配を消して雷撃を放った響。敵、中破から轟沈判定。

 

「……上等ね。あの子たちは最高の駆逐艦よ」

 

 曙は、実戦部隊推薦状に自身の本名のサインを入れる。これで彼女たちは正式に「駆逐隊」として活動することになるのだ。

 

『訓練終了! 第六駆逐隊の勝利!』

 

 勝利判定の無線通信に、四人の少女たちは駆け寄り、四人抱き合って飛び跳ねる。その姿に過去の自分たちの姿を重ねながら、曙と長月は自分たちの培ってきた駆逐艦魂がしっかり受け継がれたことに喜んだ。

 

 その名は第三期第六駆逐隊。のちに艦娘史に残る戦績を残す、史上最強の第六駆逐隊である。

 


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