ダンジョンに果てを求めないのは間違っているだろうか   作:パイの実農家

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04 黄昏の館(2)

 黄昏の館の応接室で僅かの休憩を取っていると――少しといっても、三十分は経っていたようだが――珍しい金髪のハーフリングが現れた。

 

()()()()、【ロキ・ファミリア】へ。団長のフィン・ディムナだ」

 

 よろしく、と金髪のハーフリングが手を差し出した。

 私は僅かに背を屈めてその手を握る。

 

「なんと。団長自らご足労頂き感謝致します」

 

 どう名乗るか少し思案する。

 

 ここまでの道中耳にしたものを総合して、ここがイヤルでないことは確信している。

 なにせ街中に堂々と魔術師がいるのだ。少なくともこの街に魔法使いを忌避する風潮はない。

 生まれはともかく素性くらい公開しても良いだろう。カマをかける意味でも。

 

「私はシャローレのイステニアエルと申します。本日は貴団への入団について……」

「ああ、失礼。そう(へりくだ)らないで欲しい。うちの神様は堅苦しいのが嫌いなんだ」

「……では失礼して」

 

 随分気安い場所だ。規模を見るに団として纏まりがないということもないだろうが。

 一つ咳払いをして仕切り直す。

 

「改めて。まずは、夜分に押しかけた礼儀知らずを責めず、こうして場を設けてくれた懐深き戦士団と、その優れた長に、感謝と御礼を申し上げたい」

「こちらこそ。数ある【ファミリア】の中から貴方がここを訪れた偶然にも感謝しよう」

 

 小人、フィンは気取ったようにそう言った。

 

「ギルドから事情は聞いているよ。紹介を受けてうちに来たということだけど」

「間違いない。右も左も分からぬ田舎者故、頼るものがなくてな。しかし、聞けばここは最大手と言うではないか。駆け出しが取るには不遜だと言うのであれば、おとなしく身を引こう」

「それくらいでなきゃ冒険者は務まらないよ。……うん。大丈夫そうだね」

 

 性根を検められたか、と察する。

 人の輪に新たな人員を迎える以上、人柄は重要な要素だ。

 私は素行を咎められるほどの悪人ではない。口調が大げさなのはシャローレの素だ。

 

「早速だけど、試験させてもらいたい」

 

 試験。まぁ、当然だろう。

 イヤルでも、例えば魔法使いの里アンゴルウェンへの入里には、見習い魔術師の頼みを真摯に聞き、魔法の力を宿したアーティファクトを一つ持ち帰ることが求められる。件の見習い魔術師は実際の所アンゴルウェンの重鎮である。つまりは、人柄と実力と知識を試すものだ。

 反魔の戦士たちジグランスは、悪魔や魔術師たちと争わされるとか。

 

 神の戦士団に入団するのにそれがないわけがない。

 

「ただの恩恵なしであれば、度胸や性根を試すだけなんだけどね。君は心得があるだろう?」

 

 小さく頷く。

 【神の恩恵(ファルナ)】とやらがどれほどのものか分からないが、この館にいる連中の大抵はあしらえるだろう。目の前の男や先程のドワーフともなると、加減をする余裕はなかろうが。

 

「つまりは、君の腕前を見せて欲しい」

「承知した。然程使()()()下級の冒険者への演武ということで相違ないか?」

 

 この男程の戦士が私の力量を見て察せぬとは思えない。

 事実、フィンは小さく頷いた。

 

「ああ、その通りさ。なに――相手は僕が努める。文句は誰にも言わせないよ」

 

 事実として私は強い。そうでなければ生きていけなかったからだ。

 ちらと見た限りでは、オラリオの冒険者の大多数は薙ぎ倒せる。手がかかるとすれば目の前の団長並みの実力者だが――それも、悪しき炎を抜きにしての話。

 

 ただそれを口頭で伝えることほど無意味なことはない。一方で団長自らそれを実演するとなれば、下位構成員から文句は出まい。

 後の反発を削ぐ目的でも、私の実力はきちんと周知されるべきだ。

 

 という事情は抜きにして、武人の血が騒いでいる顔だ。

 やはりハーフリング。物腰柔らかだと思ったが、自信家で精強な男だ。

 

「ありがたい。オラリオ最高峰の戦士、ハーフリングの【勇者(ブレイバー)】の力、実に興味がある」

 

 何より【神の恩恵(ファルナ)】が如何なるものか、計る指標にはもってこいだろう。

 

 お互い、表面上は飄々と言葉を交わしながら、内に秘めた戦意を高め合う。

 彼は甘く優しげな相貌を崩さぬまま、言った。

 

「来てくれ。訓練場まで案内しよう」

 

 

 

 

  + + +

 

 

 

 

『入団試験やるってさ!』

『団長自らって本当?』

『エルフなのに戦士なんだって!』

 

 その噂は館中を駆け巡り、気付けば訓練場は見学者でごった返していた。

 人の輪の中心、この世ならざる鉄――ヴォラタンの兜を身に着けた長身のエルフは、それらを見回して面食らっていた。

 

「女性が多いのだな」

「うちの主神様は女好きでね。男衆は肩身が狭いんだ」

「なるほど。【神の恩恵(ファルナ)】とはそれほどか」

 

 フィンはいつも通り身軽な戦装束(バトルクロス)と軽鎧に身を包み、愛用の黄金の槍《フォルティア・スピア》を後ろ手について体重を預けていた。

 

「えっ、本物使うんすか?」

「団長本気じゃん……大丈夫かな」

「リヴェリアさん呼んできたほうがいい?」

 

 噂話の中で、不機嫌そうに顔を歪める狼人の男が一人いた。

 

「けっ。雑魚にわざわざフィンの野郎が出向くのかよ」

「でったでたベートの高慢ちき、と言いたいトコだけど……」

 

 アマゾネスの少女ティオナは、不思議なものを見る目で銀の麗人を見た。

 

「なんでだろうね」

 

 イステニアエルも己の得物、真鍮の如き赤茶色を示す、美しき三叉槍(トライデント)をだらりと構える。

 明らかに尋常の武器ではないそれを見て、多くの団員が息を呑む。

 

 《レガシー・オブ・ザ・ナローレン》。彼女が、彼女と失われた同胞とを繋ぐ絆の証として、ナーガの王スラスルから賜ったものだ。以来己の手足のように扱ってきた。

 

「似合わねえ得物持ちやがって。身の程を知れってんだよ、雑魚が……」

 

 吐き捨てるベートにうえーっと舌を出しつつも、ティオナも半分は同意見だった。

 武具に頼って戦う者がこの【ファミリア】にふさわしいとは思えない。そしてあの槍に見合うようなレベルを持っているわけもない。

 

 実のところ、彼ら彼女らはただ感じ取れていないだけだった。

 イステニアエルの技法は、無限の迷宮へ消える前にはもう、ある種の極みに達していた。その秘宝に封じられた力を加味してもなお。

 

「ところでアイズはどこ行ったんだよ」

「ダンジョン。そろそろ帰るんじゃない? リヴェリアが様子見に行ってたよ」

 

 そんな上級冒険者たちをよそに、フィンは己を慕う少女に声をかけた。

 

「ティオネ、開始の合図を任せる」

「はい団長! お任せください!」

 

 ティオネがびしっと敬礼して答えた。

 

「団長殿は随分好かれているようだ」

「これでも四十なものでね。年の功さ」

「ふふ……」

 

 ひゅん、と快音。

 トライデントは残像を残してイステニアエルの周囲を薙ぎ払う。

 

「我々の前で年月を説くのはあまりに滑稽だよ、小人殿」

 

 ティオネが珍しく団長への揶揄に反応しなかった事を、【ファミリア】の皆が驚いた。

 それほどに緊迫した空気だった。余計な一言を(さしはさ)む無粋を、誰も好まなかった。

 

「……ならばどうかご教授願いたい。貴方の積み重ねた年月、その結晶を」

 

 フィンが構える。

 イステニアエルはだらりと槍を下げたまま。

 それは東方にて無形の型と呼ばれる、「戦いのための脱力」の構えだ。

 

 緊張の糸が今にも切れそうなほどに強く張り詰める。

 それを、ティオネは鋭く切った。

 

「――はじめッ!」

 

 踏み込んだのはフィン。

 驚異的な速度。下級冒険者の目では到底追えない踏み込みだった。

 狙うは喉元。一撃必殺の刺突が唸る。

 

「おいフィンの野郎ッ!?」

 

 ベートが声を荒げる。

 それは【神の恩恵】を持たない人間に繰り出すには、あまりに致命的だった。

 

 だがそれを、目で追える程度の速さで、イステニアエルは避けた。

 半歩横にずれるだけ。だがその一瞬、持ち上げられた三叉槍の穂先が逆にフィンの喉元を狙っていたことを、殆どの見学者は見抜けない。あっさりとフィンの刺突を躱した銀のエルフは、呆れたように肩を竦めた。

 

「ふむ?」

 

 瞬間、フィンはその場を飛び退いた。

 フィン自身も気付かぬほんの僅かな隙に、二段の突きが滑り込む。

 二度目の刺突を槍の柄で受け流し、フィンは後転して構え直す。

 

「もう少し調子を上げてくれないか、団長殿。飛ぶ蝶と戯れる程度では示しがつかない」

「――素晴らしい。これほどとは!」

 

 三度、擦過音が轟いた。

 金属がこすれ合うだけの音が、まるで嵐のように聞こえた。

 目にも留まらぬ槍の三連を、早業がいなし、二度いなし、三度いなしたのだ。

 

 剛槍が振り下ろされる。岩をも砕き鉄をも断つ渾身の振り下ろしを、イステニアエルはあえて受け止めた。

 衝撃波が吹き荒れる。見学者たちが顔を覆う中、それが四度続いて、鍔迫り合いの格好になった。

 

「なんだ、こりゃあ」

「嘘でしょ、団長が……」

 

 ベートも、ティオナも、当然ティオネも、唖然としてそれを見ていた。

 

 ――力負けしている。

 オラリオでも最高峰のLv.6冒険者が。

 ただの恩恵なしに。

 

「ははっ、それで【神の恩恵】なしだって?」

「神なき大地に育った以上、鍛える物は己しかあるまいよ」

 

 力だけではない。というよりも――力で劣ることは問題ではなかった。

 

 三度の打ち合いの果てに、フィンの頬を穂先が浅くかすめる。

 かと思えば、槍から離れて伸びた手がフィンの腕を打ち、体幹を揺らす。その隙に新たな致命の一撃が繰り出される。繰り返される。止まらない。

 突き出した槍ははじめからそうだったかのように狙いを逸れて、虚空を貫く。

 振り抜いた槍先は何を捉えることもなく、風だけを断って滑りゆく。

 

 ――隔絶した技術の差。それが、厳然として二人の間に横たわっていた。

 

「だが」

 

 一方で、やられてばかりのフィンではない。

 

 技術で負け、力で負け、しかしその機敏さもまた大きく開いていた。即ち、フィンの方が絶対的に()()

 フィンの動きが更にキレを増していくと、イステニアエルに受け損ねが増えていく。だが彼女は鎧を巧みに使い、突きを反らし、刃を受けていた。致命傷どころか傷にすらならないのは明白の、完全な無効打。優れた鎧とそれを使いこなす技量を、重戦士達は見て取った。

 しかしそれは薄氷を踏み歩くそれ。踏み出す足を間違えれば、彼女は容易く死ぬだろう。形勢はここに来て互角――いや、それでもややイステニアエルが上だった。

 

 足を狙う刺突を三叉槍が絡め取り、押さえつけようとした時には反転したフィンの蹴りが飛んでくる。それを手甲でたやすく受け止め、返しに放った拳は空を切る。

 すれ違う最中、フィンが体を回す。旋転する槍先と石突が三度の連撃を形作り、しかしそれはは彼女の影を打つに留まる。振り向きざまに繰り出された三叉槍を背を反らしてやり過ごすと、フィンはそのまま地に手をついてひょいと後ろへ飛び退った。

 

 巧みにすぎる。フィンは内心で舌を巻いた。彼女が手に持つそれは槍ではなく、彼女の体の延長だった。まるで自然に、それが当たり前であるかのような槍捌き。攻防に、全てが自然体。それほどの極致に、どれほどの時間をかければ辿り着けるだろうか。

 

「団長が……技で負けてる」

 

 そんな馬鹿な、とティオネがつぶやく。

 

「あり得ない……」

 

 まるで指先で摘むように、三叉槍の穂先が槍の柄を挟み込んで絡め取る。

 はっとして引いた槍先は、悪魔の手に掴まれたように動かない。

 

 フィンは逆らわず槍を手放し、伏せた。

 翻った三叉槍がフィンの頭上を通過し――それと同時に、フィンの黄金の槍を弾き飛ばしていた。

 

「団長っ!?」

「いや、(ちげ)ぇ!」

 

 だがフィンはすでに、イステニアエルの懐の内。

 槍の機能しない超至近距離(インファイト)。力負けすると言ってもフィンの力はかの戦士と大差なく、その拳は人を一人打ちのめすには十分だ。

 この距離なら、速度で勝るフィンが有利だ。衝撃を鎧の奥に徹すくらいわけはない。

 フィンは裂帛の気合と共に短く拳を突き出した。

 

「シィッ――!」

「ちっ――!」

 

 イステニアエルはその衝撃に逆らわず、ふわりと地を蹴って後ろへ飛んだ。

 フィンが離れていく距離を詰めようとしたその先に、引き絞られた三叉槍。追撃は即ち死。

 

 見てくれは、イステニアエルが一撃を貰った格好――しかし実態は、フィンが体よく獲物を逃した形。

 

 距離と共に、戦いの中に間が空いた。

 

 けほ、とイステニアエルは小さく咳をし、次いでにやりと笑う。

 落ちてくる愛槍を片手で受け止め、フィンも、楽しそうに笑った。

 お互いに、これ以上は千日手だと悟っていた。

 

「中々昂ぶってきたようだが――まだ先があるだろう、団長殿」

「それは、お互い様じゃあないか?」

「違いない」

 

 お互いにくつくつと笑い合う。

 試験だとか、様子見だとか、使命だとか、隠すべき業だとか、そういったものは二人の頭の中から全て吹き飛んでいた。

 

 目の前の戦士を打倒したい。

 その一心だけで、二人は通じ合っていた。

 だから同じように、隠していたものを公にした。

 

「恐怖の大地の土は我が手に」

「【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て】」

 

 その言葉と共に。

 イステニアエルの手に、不浄の炎が灯った。

 フィンの左手に、赤い魔性の光が宿った。

 

 いま一時。勝利のために、恐れるべき力を解き放つ。

 

「アーロックの炎よ――」

「【ヘル――」

 

 

「――お前たちそこまでだッ!」

 

 

 と。

 静止の叫びで我に返った二人は、顔を見合わせ、ついで周囲を見回した。

 

 あれほどいた見学者がいない。いや、皆蜘蛛の子を散らすように逃げていた。残っているのは一級冒険者ばかり。理性を失う【ヘル・フィネガス】に巻き込まれるのを恐れてだ。

 

 お互いにもう一度顔を見合わせ、どちらからともなく、力なく笑った。

 

「あー……やりすぎたね」

「……うむ、やりすぎたな」

「やり過ぎだ馬鹿者共! 館を崩壊させる気か!」

 

 リヴェリアが防御魔法を用意するほどの状況だった。

 あれがなければ危なかったな、とイステニアエルは他人事のように考えた。

 

「特にフィン! 試験官が率先して試験を放棄するなっ!」

「悪かったよ、リヴェリア。でも仕方ない事だったんだ」

「仕方がないで理性を捨てようとするな……」

 

 リヴェリアは眉間をもみほぐすと、次にエルフの戦士に向き直る。

 

「貴女も、館の内部で炎を扱うのはやめていただきたい」

「面目ない」

 

 イステニアエルは兜を取ると、三叉槍を地につき、肩に預けた。

 お互いに構えを解けば、先程までの緊迫した空気は霧散していた。

 

「団長殿、演武はこれにて終了……で構わないかな」

「仕方ないね。我らが母上殿がお冠だから」

「誰が母だ、誰が」

 

 団の苦労人はその豊かな緑髪を払って、鼻を鳴らした。

 イステニアエルはそれを見て、()()()()()()()()()()()()()()、と思った。

 

「自制の聞かぬ愚かな子供たちの暴挙を止めた、賢しき我が同胞よ。私はイステニアエル。貴女の名をお聞かせ願えるだろうか」

 

 その言葉を受けて、フィンの瞳が細まる。

 

「……うちの副団長さ。リヴェリア、自己紹介を」

「リヴェリア・リヨス・アールヴ。()()()()()()。よろしく頼む」

 

 王族たるリヴェリアを知らないエルフはいない。少なくともオラリオにはいない。また地位の高いエルフであればハイエルフを知らないはずがない。カマをかけるような一言。

 

 果たして、イステニアエルは驚愕に目を見開いた。

 

「ハイエルフ……アローレ? 『最初に目覚めしアーテリア』の?」

「……フィン。厄介なことになってきたぞ」

 

 リヴェリアは難しい顔をした。

 偽るでもごまかすでもなく、より厄介なことに、真実を語っていたからだ。

 

「それはハイエルフしか知らぬ物語だ。何故貴女が知っている?」

 

 だがリヴェリアの問いを、イステニアエルは震える手で制した。

 そして、抜け切らない驚愕を押し殺しながら、彼女は問いかけた。

 

「すまない、先に……聞かせてくれ。アローレは()()()()はずだ。貴女は、森に帰化したもの(タローレ)でも、魔に侵されたもの(シャローレ)でも、海に沈んだもの(ナローレ)でもない、分かたれる前のもの……そうなのか?」

「……どうやら、我らの客人は随分と遠くからやってきたようだね」

 

 先の「神無き大地に育った」という彼女の言葉を思い出したフィンの脳裏に、ふと荒唐無稽な想像がよぎった。

 一方のリヴェリアは険しい顔で髪を指で弄び、数秒思案した。

 

「……やむを得まい。ロキ」

「お、もうええか?」

 

 そして、訓練場の入り口から、ひょこっと朱色の髪が躍り出た。

 

 夕焼けの赤を示す髪色と、ほっそりとした姿。耳が長ければエルフにも見えただろう。特徴的な細目を気安くほころばせたその存在は、しかしやはり、イステニアエルを驚愕させるに足るものだった。

 

 超越存在(デウスデア)の持つ、神の気配……神威。

 人の上にあるもの。創造主達。

 逆らえぬ。ともすれば人と何ら変わらぬ気安さでそこにいるのに。

 

 ただそこにあるだけで頭を垂れねばならぬと魂が感じている。

 

 これが……神。

 

 イステニアエルは瞠目した。ある種、感動した。

 そして決意を深めた。

 

 イヤルの大地に神は居ない。全て殺された。シェール・タルによって。

 彼らは創造主すらも討滅し、その神秘を我がものとしたのだ。

 

 

 これほどの存在を討ち滅ぼすものなど、あってはならない。

 

 

「――とりあえず、試験は合格や。文句あらへんやろ、ベート?」

「……けっ」

 

 ふとすると、神はイステニアエルの目の前に立ち、その相貌を覗き込んでいた。

 狼人はそっぽを向いた。彼なりの肯定であることは、【ファミリア】の誰もが知っていた。

 

「うん、ええわ。きれーでイケメン! ヅカ系やな。うちにはおらんタイプや。性格も善良。んでもって実力はフィン並となればそら申し分ないわ」

「ロキ、彼女の言葉に嘘は?」

「ないで」

 

 見透かされている。イステニアエルは気付いた。

 神の目を前にして、人の子の言葉だけの繕いなどは意味を成さない。

 知らず、手が震えるのを感じていた。

 

 彼らは皆、日々これほどの存在に仕えているのか?

 驚愕や羨望、疑念、興味、それらが次々沸き起こっては泡のように消えていく。

 デーモンたちにまた一つ共感する。神に仕える彼らがあれほどに献身的な理由が理解できた。

 

 私はこの超越存在の【眷属】になるのか?

 ……なっていいのか?

 

「でもな、手放しに受け入れられん理由ができてもうたわ」

 

 ――いや、なれるわけがない。

 何故なら、この身は……。

 

「おいワレ――その炎、一体どこで手に入れた?」

 

 悪しき力に染まっているのだから。

 

 

 




・格闘
 Prodigy「Flexible Combat」による格闘追加攻撃。
 威力は篭手装備依存だが純粋に手数が増えて強い。

・詠唱
 原作にはないので、デーモン類、特にファイアインプなどのLoreを参考にした。

・ロキへの反応
 イヤル人は信仰を持たない。何故なら神は殺されているからだ。
 そのためオラリオの人間と比べて格段に神威に弱い。
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