ダンジョンに果てを求めないのは間違っているだろうか 作:パイの実農家
とはいえちらっと日間の下の方に乗ったりしたらしいので続けます。
同日夜。
夕食を前に、ロキは今いる【ファミリア】のメンバーを全員食堂に集めた。
何の用かと訝しむものと、先刻の一件を目にしているものとで意見が飛び交い、奇妙な熱気が生まれていた。
ロキは即席のお立ち台に登ると、声を張り上げた。
「はいみんなちゅーもーく!」
ぴたりとささやき声が止まり、団員の視線が主神に集まる。
「うし。もう気付いとる奴もおるやろけど、今日集まって貰ったのは他でもない、新しい
驚愕と納得と、興味などでざわめきが一つ。
ロキはそれが静まるまで待ってから、食堂の外へ手招きした。
「早速紹介すんで。……ほな入ってきてー!」
「承知した」
主の呼び声と共に彼女が入室すると、またざわめきが起こった。
一級品の鎧で身を固め、三叉槍を背負った、美しいエルフの女性だったからだ。
「
よろしく頼む、と銀のエルフは小さく頭を下げた。
「ま、Lv.6になるやろなあ……」
ロキはそう言った。
旅の目的を明かした後。再び戻ってきた三人を合わせて、一同は大概的な言い訳のすり合わせをしていた。【
「フィンと打ち合って有利を取るとなると、実力的にはのう……」
「しかしとなると知らない者がいるのは……Lv.5なら多少はごまかしも効くのではないか?」
イステニアエルは首を傾げた。
「レベルというのは【
「概ねはそうだ。レベル一つの差は絶大でな」
「ふむ……私が団長殿と同等の実力者だと喧伝する必要はない。妥当ではないかと思う」
「一度事情があって故郷の森へ帰っていたことにするか。外から入ってきたことは知られているだろうし、私が多少捏造をねじ込む余地もある」
「そいつぁ無理があるじゃろう。上級冒険者である説明がつかんぞ」
「なら、その間に【ファミリア】が解散してしまったということにしてしまおう」
「先程の話か?」
「そういうことだよ、リヴェリア」
結論付けられていく話の流れを一度遮り、フィンはロキに言った。
「とはいえ、この場はそれで収まっても、遅かれ早かれだと思うよ?」
「まぁ、何はなくとも
「ギルドは?」
「情報詐称についてはちゃーんと筋を通すわ――ウラノスに事情を伝えて許可を取んで。そういう案件やからな……」
ロキはこれから待ち受ける苦労に嫌そうな顔をしつつもそう言った。
「なら、僕に異論はない。あれほど強ければ名が実に追いつくのもすぐだろう」
「苦労かけんなぁ、フィン」
「新たな団員のためとあれば、苦にもならないさ」
方針が固まったことで、誰ともなく頷き合う。
ロキは微笑み、イステニアエルに手を差し伸べた。
「改めて言おか。【ロキ・ファミリア】へようこそ、イステニアエル」
イステニアエルは跪いてその手を取った。
「至上の光栄にございます、神よ」
「けどな、そういう堅苦しいのはやめにせえ」
というと、イステニアエルは面食らった。
「今日からお前はうちらの家族や。家族同士では敬語は使わへんやろ?」
「しかし、天上の御方々を前に……」
「嫌なら【ファミリア】入れてやらんで。ほら、立ちぃや」
子供のような事を言うロキに、イステニアエルは困ったように眉根を寄せた。
「……分かった。これからよろしく頼む、世界で最も人に気安い神よ」
「おう、それでええねん。よろしゅうな」
渋々という形で立ち上がると、ロキはがっしりと握手してその手を振り回した。
そしてばんばん背中を叩いた後、横の三人にも向き直らせた。
「フィン・ディムナだ。よろしく、異界の英雄」
「リヴェリア・リヨス・アールヴだ。遠き大地の同胞と轡を並べる幸運を喜ぼう」
「ガレス・ランドロックじゃ。いけ好かないこちらのと違って、快きエルフだとありがたいのお」
イステニアエルは照れくさそうに一度視線を反らし、すぐに真面目な顔を作り直した。
「イステニアエルだ。親しいものは私をイストか、イステニアと呼ぶ。皆もそうしてくれ」
そしてロキに振り返ると、ロキは細目を楽しげに曲げて、ぐっと親指を立ててみせた。
「がはは! いやまったく珍妙な話じゃったが、ともあれこれで儂らは一蓮托生じゃ。ついてはイスト、儂ともこれから手合わせ願えぬかの?」
「ガレス……その前に団員への布告と紹介が先だ」
「ああ、それで思い出した。最後に一ついいかい」
フィンは不敵に笑った。
「別に僕が不利になった覚えはないよ。あの試合も、僕が勝ったからね」
「そうか。ならば今度証明して見せてくれ」
にやりと、楽しそうにイステニアエルは笑って言った。
リヴェリアは深くため息を付いた。
そんなやり取りの後、半時もせずに面通しが始まったのだった。
イステニアエルは団員の統制に感心していた。
「身内に不幸があってな。数十年ほど前から故郷に帰っていたのだが……その間に【ファミリア】が解散してしまってな。途方に暮れていた所を、ロキ神に誘われた形になる」
ここ数十年で解散した、上級冒険者を擁するような大型【ファミリア】となれば二つだ。
つまり、現在のオラリオの最大勢力、ロキ・フレイヤ両ファミリアに攻め落とされた、【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】。
皆一様に事情を察し、その様子を見てからイステニアエルは微笑んだ。
「戦いは無情なものだ。故に、血を流した者だけが口を開くことを許される……」
「別に引け目とかは感じんでええ。イストも感じてへんからな」
それらしい事情を匂わせて詮索を避ける。
実際探られればボロの出る話なので、都合のいいカバーストーリーだ。
リヴェリアが言った通り、この手の作り話はどうとでも言えるものである。
だから多少の信憑性さえあれば、「素性不明」を「訳あり」にするのは簡単なことだ。
イステニアエルの嘘を嘘と思わせぬ堂々とした振る舞いもそれに拍車をかけた。
「実力は……夕方見てた奴は知っとると思うけど。フィンやガレスと同等の前衛やな」
今度は、ざわめきの代わりに奇妙な静寂が巻き起こった。
そう簡単に言われても信じがたい話だった。団の最古参に匹敵する前衛などそうはいない。だが一方で、夕方の立ち合いを見ている冒険者たちは納得していた。
フィンが何も言わないことが、帰ってその言葉の真実味を増していた。
その中で、当然一人の少女が声をあげる。
「私とは?」
【ロキ・ファミリア】四人目のLv.6冒険者、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインである。
ロキはフィンを一瞥し、フィンは数秒空を見つめた。
「……武器の扱いだけならアイズの負けかな」
アイズの目が輝いたのを見て、フィンは失敗したかなと頬を掻いた。
「はいはい、そろそろ進めてええか?」
ロキはぱんぱんと手を叩いた。
「突然自分よりレベルの高いやつが出てきて、思うトコがあるのは分かる。けどな、これからは同じ【ファミリア】の仲間や。仲良うしたってな。頼むで?」
団員の反応はまばらだった。反発はほとんどなく、戸惑いが多分にあった。
普段であれば新人を歓迎する所だろうが、何分今回は突発的で、かつ例外的なケースである。受け入れるのに時間がかかっているようだった。
だが有耶無耶のまま飲み込ませるというのが幹部たちの考えだ。
リヴェリアが事務連絡を補足する。
「当面は上級冒険者として行動することになるが、団内での扱いは新人と同等とする。つまりお前たちが先輩だ。立場は複雑だが、詳細は追って伝える」
「だってさベート。いびったらボコられるよ?」
「黙っとけ。強者に吠えるほど落ちぶれてねぇ」
「うっし以上! 他なんかあるやつおるか?」
反応がないことを確認してから、ロキは大きく頷き、両手を広げた。
「よーし、ほんじゃ新しい仲間の加入祝いも兼ねて、お待ちかねの晩メシや!」
「はいはい! イステニアさん、エルフなのに戦士なんですか?」
「ああ。……そうおかしなことだろうか? 確かにエルフの多くは術師に向くが……」
「団長と筋力勝負で勝ってたが……どうやったんだ?」
「鍛えただけだよ。鍛錬の前には種の垣根など無意味だ」
「どんな魔法が使えるの!?」
「うーむ……近接戦闘が主で、大規模な破壊魔法は使えない」
「だ、団長と戦ったって本当なんですね……」
「ああ。強いな、君たちの……いや我らの団長は。実にいい戦士だった」
イステニアエルは大人気だった。……女性に。
男性的な鋭さと女性的な柔らかな態度が綯い交ぜになった、中性的な美貌だ。
声も女性にしては低めで、よく通る甘い声をしている。
どこか浮世離れした超然とした雰囲気やエルフ特有の年季、何より本人の振る舞いもあって、ミーハーの気がある女性たちは早々に彼女に気を許していた。
ロキは「やはりヅカ系」「どんどんオチとくやんけ……」など天界の言葉で評している。
イステニアエルに夢中でガードの甘い女子たちをローアングルで眺める姿も含めて神としての威厳は皆無だが、幸か不幸か人影に隠れてイステニアエルには見えていない。代わりにリヴェリアがゴミを見る目で見ていた。
「ここはいつも皆で食事を摂るのか?」
「そうそう。ロキの方針でね。居るもん全員で食うーっていって聞かないから」
「さっきみたいに、簡単な集会も兼ねてるみたいですよ」
「なるほど。よい神だな、あの方は」
「えーイステニアさん騙されてるよ! しょっちゅう女の子の体触ってくる変態だよ!?」
「団員困らせるのが生きがいみたいな神だからな、気をつけろよ」
「ねー。……あっこら、覗くな変態!?」
「うわっ噂をすれば!」
「おわー何やねんあかんてバラしたら! イストたんに勘違いされてまうやろ!」
異邦のエルフは引きつった笑みを浮かべた。
「……ははあ、なるほど? どうも私は神というものを勘違いしていたのかな……」
「あかん、引かれとる! そんな目せんといて? さっきみたいにきらきらした目見せて?」
「イストさん、ロキが馬鹿やったらぶん殴っても大丈夫だからね!」
「あー……私が引き取ろう」
リヴェリアが脳みそを虫に食われているかのように頭を押さえて、ロキの首根っこを掴んで引き剥がした。「殺生なー!」と必死に姿勢を落とすロキを、団員たちはスカートを押さえながら追い払う。暴挙に耐えかねたついにリヴェリアが拳を振り下ろして黙らせた。
「同胞よ、すまないな……こんな神で……」
「いや……苦労しているな、リヴェリア殿」
イステニアエルは控えめに労いの言葉をかけるだけに留めた。
団旗のように道化を演じているだけだと思いたいが、残念なことにそうは見えなかった。
「ちょっといいかしら?」
「あ、ティオネさん。アイズさんも。どうぞどうぞ! じゃーねイストさん!」
頭にたんこぶを作ったロキが引きずられて退室していった後に、入れ替わるように四人の少女がやってきた。団員たちはまたねと言い残して去っていった。
どうも上級の冒険者らしい。イステニアエルは彼女たちの顔を覚えようと顔を巡らせた。
褐色の肌に黒い髪……イヤルでは珍しい人種の、姉妹と思しき少女たち。
金の髪のまばゆく、そして瞳に危険な色を宿した、おそらくは只人ならざる少女。
栗色の髪の同胞――まだ若木ながら、大木の面影を宿している。
「はじめまして、イステニアエルさん」
「イストで構わない。貴女は……」
「ティオネ・ヒリュテよ。ティオネでいいわ。こっちは妹のティオナ」
「よろしくねー! あ、こっちはアイズ。知ってるかな?」
「よろしく……えっと」
アイズはしばらく黙ったあと、隣の栗毛のエルフの少女を示した。
「こっちがレフィーヤ」
「レフィーヤ・ウィリディスです。よろしくお願いします、同胞の方……ええっとぉ」
「別に紹介し合う流れとかはないから、こっち見なくていいのよ、レフィーヤ」
仲睦まじい様子にイステニアエルはくすくすと笑った。
「うん、これからよろしく頼む」
「初めに忠告しておくけど、団長に近づくようなら容赦ないからね」
「うん?」
胸を張って指を突きつけるティオネに、ティオナが顔を覆った。
フィン・ディムナはオラリオの女性たちの間でも一、二を争う人気者だ。
【ロキ・ファミリア】を志望する新人冒険者にはフィン目当ての者もおり、そのため団長に半ば偏執的な愛情を向けるティオネは、よくこうして新人に脅しをかけるのだ。
「ごめんね、ティオネったら団長のこととなると見境なくて……その、ぞっこんでさ」
「ああ!」
ようやく得心がいったという風にイステニアエルは頷くと、一転してティオネに向き直った。
殺意混じりの気迫をまるでそよ風のように受け流す銀の麗人に、ティオネは面食らった。
「な、なによ」
「――どうか我らの知性と節制をを信じて欲しい、明日に
難解な言い回しに硬直するティオネたちに、レフィーヤが噛み砕いて通訳した。
「愛情を妨げて友を不幸にする程愚かではない、とのことです」
「な、なるほど。新人ながらよく分かってるのね、感心だわ!」
ティオネはうんうんと頷いた。不埒な動機でないと分かればそれでよかったのだ。
一方、レフィーヤの関心は別の所に向いていた。
「イステニアエル様は、その……」
「イストで構わないよ」
「で、ではイスト様で! 年長の方は敬わねばなりませんので……あ、イスト様は、とても年を経た方ですよね? 言い回しが古いエルフ詩にそっくりで……」
「ああ……少々長く生きているから。ついね」
最初に生まれたアーテリアは、声を授けられた際に創造主に歌を捧げたという。
そのためか、エルフは詩歌を尊ぶ傾向にある。
今の歌は共通語ではあったが、明らかにエルフ風のものだった。
古いシャローレのもったいぶった言い回しである。
「私はその、詳しくないのですが、実は有名なご歌人だったりされるのでは、と……」
「うーむ……若人の素直な賞賛が頬の葉に秋を呼ぶようだ。その晴天の日差しを遮る事を……ああ、いや、すまない。要はね、若者にいい所を見せたがるという年寄りの悪い癖さ」
「いえ、そんな」
イステニアエルは首を横に振った。
事実、少なくともオラリオにはシャローレがいない以上、最年長のエルフは間違いなくイステニアエルだった。彼女は既にして千年では効かない時を経ている。年寄りというのも、紛れもない事実であった。
「シャローレというのも、古いエルフの地名ですか?」
「ちょっとぉー、レフィーヤばっか独占してずるくない?」
「わぷっ!? ちょっティオナさん!?」
「なに、咲き誇る花、伸びゆく若枝、同胞との語らい、どれも折るには惜しい美しいものだ」
「ひぇあ……!?」
「しかし、そうだな、私も口が幾つもあるわけではないから……レフィーヤ嬢、今度リヴェリアも交えて話をしよう。若いエルフの嗜みにも興味があるんだ」
などと表面上は取り繕ったが、実際問題イステニアエルは困っていた。
詩に似た語り口は古いシャローレのものだし、それが似通うのもイヤルとオラリオ双方のエルフが起源を一にしていることの証左であろう。
もちろんイステニアエルは歌人ではないし、こちらの世界のエルフではない。ついでにいえばタローレではない(この世界のエルフはほぼ全て
銀のエルフは丁度良く助け舟を出してくれた、褐色肌の少女に内心で感謝した。
当のティオナは、何か芝居でも見ているかのような顔でぼそりと呟いた。
「うっわーすごい口説き文句……たらしってやつだ……」
「うん……?」
「あ、なんでもないよ」
聞き返そうとする彼女に、ティオナは手を振ってごまかした。
「私も聞きたい事があるんだけどさ」
「答えられることならば」
露出の多い衣服に身を包む彼らはアマゾネスというのだったな、とイステニアエルは短い時間で見聞きした情報を引っ張り出す。
彼らは確か見た目通り性に奔放で、また――。
「すっごい強かったけど、どこで鍛えたの? エルフの戦技じゃないよね?」
戦いに生きる種族らしい。
「あ、それ私も気になったのよね。ここらじゃ見ない動きばかりだったから」
姉の方、ティオネも口を挟んだ。
確かに珍しい技術だろう。ただの槍でなく
「故郷とも違う遠い異国で、盟友たちから教わったんだ。それまでは大剣を使っていたんだが、三叉槍は私の身にずっと馴染んでね。以来それを磨いてきた」
「へえーっ。異国のかあ。どこだろ? 海? なんか水の中でも使えそうな感じだったよね。あ、槍の色もそれっぽいなあ」
(……鋭すぎる。いや、これは天賦か……)
イステニアエルはその並々ならぬ嗅覚に内心で賞賛を送った。
三叉槍とは元は銛であるのだし――イステニアエルは知らないが、この世界においても三叉槍は海に通じたものだ――かの宝槍が海の青を呈しているのも事実だ。連想できる範疇だろう。
「ああ。海の国だったよ。美しい所だった……」
……ナローレというエルフがあった。
かつてイヤルの東方に住んでいたエルフたち、海に親しむエルフだ。最も、彼らの土地は
だが彼らは生きていた。半人半魚のナーガに姿を変えて、海に沈んだ彼らの神殿の中で。
トライデントを操るのは、イヤルでは彼らナーガだけだ。
「この槍も、その時にかの国の――」とまで口にして、これが言わぬべきことだとイステニアエルは気付いた。「――友から譲り受けたものだ」
故に、その三叉槍の名は《
かつて同胞だったエルフたちに裏切られ(少なくとも彼らにはそう見えた)、世界に絶望しきっていたナーガの王スラスルが、外の世界にもまた信じられるものがあると述べて彼女に託した、彼らの国宝である。
終わらぬ旅路に出る際、もう戻らぬからと返上しようとしたのが、きっぱりと押し止められた。今や名実共にイステニアエルの武器だ。
少女はそんな事情など知らず、素直に感心、いや羨望を送っていた。
「へぇー……いいなあ、海の国。行ってみたいな」
「あとは鞭も習ったな。そちらは手慰みだが……」
「ねえねえ、他には? もっとすごいとことか、冒険とかの話聞きたい!」
「ふむ……何から話したものかな」
まずいな、とイステニアエルは心中唸った。
なにせこの世界に来てからまだ一日も経っていない。この世界の海の国など知らないのだ。まさかイヤルの話をするわけにもいかないし、かのナローレの国ともなれば人魚の住まう深海の国だ。イヤルですらお伽噺の存在だというのに、ここで話すわけにも行かない。立て板に水を流すが如くに口の回るイステニアエルにも、限界が見えつつあった。
先程は助けられたが今度は追いつめられた。
進退窮まった所で、イステニアエルは物言いたげにこちらを窺う金髪の少女を見つけた。
「ふむ……手前の生き恥など晒したところで痛むものはないが、しかし今は控えよう。まだ私の拙い言葉を求めるものもいるようだ」
「え? あー。うん、いいよアイズ。何言うか分かっちゃったけど」
ティオナは何か察したようで、しぶしぶと身を引いた。
代わりに銀の麗人の前に、黄金の剣姫が向かい立った。
「イストさん」
「聞こう」
「私と勝負して、ください」
離れた場所で、やはりそうなったか、とフィンは瞑目した。
「どうしたものかな」
アイズがイステニアエルに挑む、というのは止めようがないことだった。だから彼が悩んでいるのは別のことである。
「アイズは全力を要求するだろうし、イストも応えるだろうね……」
フィンは先程のことを思い返して、親指を舐めた。
『――フィン、少しええか』
幹部たちでカバーストーリーを構築し終えた、すぐ後のこと。
ロキは彼を呼び止めると、神妙な顔で語り始めた。
『イストは大層な使命を背負っとる。せやからそれに見合う力も持っとる。分かるな?』
『ああ……』
『なら話は単純や。
言い切ると、ロキはばりばりと頭を掻きむしった。
『……あんま詳しく説明でけへんねんけどな。イストの体はただの「子」とはちゃう。あいつの言う、シャローレっちゅうエルフ族とも違う。あの炎は見たら忘れられへんからな……せやから最初物好きアーロックの使いやと思ってんけど』
魔神とは、アーロックとは、そういう質問に答える気がないことは、フィンにも分かった。
『イストの中に眠っとる炎は、苦悶、憤怒、恐怖、絶望、その具現……魔神の火……悪魔の力――この世にあっちゃあならんもんや』
ロキの細い双眸が開く。
そこには、脅威と警戒の色があった。
『だから、ええか』
「
フィンは考えをまとめると、差し当たって訓練場へ向かおうとする四人を呼び止めた。
アイズは確実に、イステニアエルに対して全力を要求するだろうから……。
・詩歌
アーテリアが初めに歌ったのは事実。エルフが歌を尊ぶ風潮は誇張表現。
タローレの都市やらアンゴルウェンやらにエルフが遺した歌があるので、全くの嘘でもなさそうだが……。あと古いシャローレがもってまわった言い回しをするのは多分事実。
・アーロック
魔神。デーモンの神。別に炎の神ではない。
全部シェール・タルが悪い。
・お知らせ
イヤルはもう二年くらいご無沙汰なので現行のゲームデータとはちょっと違うところがあるかもしれません。大目に見てね。
ナローレ族の遺産のグラフィックが変わってことに今気づいた……のか、昔からこの真鍮色だったのかが判別できないくらいご無沙汰。(本文は修正済み。昔は青色のトライデントだったと思うんだけどな……)
DarkgodはあんまりAoUにテコ入れしないのでDoombringerのデータはあんまり変化ないと思うけど……Hope Wonesとかナーフされてもおかしくないしな。