ダンジョンに果てを求めないのは間違っているだろうか 作:パイの実農家
感想、誤字報告ともにありがとうございます。
『ダンジョンの、人目につかない区域で戦うといい。……危ないだろうからね』
フィンのその助言を、その場の四人は素直に聞き入れた。
事実として、炎を纏うイステニアエルと、風を操るアイズが戦えば、焔風吹き荒れる地獄絵図になるのは目に見えていた。地上でそんなことをすれば一体何がどれだけ燃えるかも分からない。
イステニアエルも不浄の炎を人目に晒さずに済むなら好都合だった。
人目を避けろ、という後半こそが事情を知る二人にとっての肝要だったが、そうでない四人はそうと知らずにダンジョンの中層、その一角まで潜ることを受け入れた。
ところで、イステニアエルの時間感覚は非常に狂っている。
時なきシャローレン・エルフは大概人よりもゆっくりと時間を使うが、その身を尽きせぬ――代わり映えのない――苦痛に塗れた闘争の中においていたイステニアエルにとって、時間とは異常なまでに目まぐるしいものだ。
歩み続ける限り、時を思うことわずかもなし――。
昼夜を問わず数日まとめて活動し、疲労や手傷を癒やすためだけに半刻眠る、そんな蛮行が、それこそ《無限の迷宮》を降りる前から常態化していたイステニアエルにとって、規則性や生活習慣といったものは無縁といってよかった。
夜も更けた今、アイズとの手合わせのためだけに、ダンジョンへと潜る――昼夜を景色の風情の違いとしか感じないイステニアエルは、それがおかしいと分からない。
そして、夜だからダンジョンに潜らないなんて発想がないのはアイズも同じだった。
そうなると、レフィーヤはアイズについていこうとするし、ティオナは面白そうだからとついていくことを決めてしまう。
そしてその話を遠巻きに聞いていたベートも、当然首を突っ込む。
極めてまっとうな感性を持つティオネは当然行きたがらないが、団長への敬愛を前にすればそんなものは消えてなくなるわけで、フィンにお目付け役を頼まれた彼女も同行することになる。
そういうわけで、いつの間にか六人に増えた一行は、一路地底へと足を向けたのであった。
先日の59階層への遠征でLv.6に到達した冒険者が四人と、同レベルの戦士が一人に、Lv.3の魔術師が一人。中層はおろか深層ですら問題なく行動できるパーティなのだから、道中に問題など起ころうはずもなかった。
一行のそれは(ティオナを筆頭として)散歩に似た雰囲気すら纏っていた。
(これが『ダンジョン』……実に奇妙だ)
その中で、壁から湧き出てきたモンスターを砕きながら(文字通り、殴打によってアイアン・ゴーレムを瓦礫に変えた)イステニアエルは己の常識との違いを一つ一つ確かめていった。
彼女の感覚では、ダンジョンというのはある種の危険地帯を総括して呼ぶ一つの区分だ。しかしこの世界にダンジョンと呼べるものはここオラリオの大穴一つきりであり、その仕組みもまるで彼女の知るものとは違った。
モンスターと魔石の関係性。装備や道具を拾得出来る機会のなさ。階層ごとに変わっていく環境とモンスターの分布。勿論、モンスターそのものも。
しかし彼女が一番面食らったのは、何と言って敵が壁から生まれ落ちることだ。
(休息の最中に現れられてはたまらないな……)
イステニアエルは己に倒せぬ相手はほぼいないと考えているが、それは一対一の話に過ぎない。多数を相手取るのも得意だが、それは短期的な話に過ぎない。彼女は自分を強いと知っているが、強いことと負けないことは別だと知っている。
断続的に、複数、そして予兆なく現れる敵というのはイステニアエルの苦手な分野だ。
もっとも中層に現れる程度の敵では、彼女の肌を傷つけることもできないのだが……。
「このあたりでいいでしょ」
ティオネはそう言いながら、壁面を破壊してモンスターの湧出を止めた。
次の階層への経路……いわゆる正規ルートから外れた、階層の隅の広場を見繕って、一同は向かいあった。
「さて……先約はアイズからだ。ティオナ、ベート、構わないね?」
イステニアエルはそう二人に言い含めた。二人がついてきた理由が決して見学ばかりではないことは皆察していた。
ティオナがにこやかに、ベートが舌打ち混じりに、承諾の意を示したのを見てから、イステニアエルはアイズに向かい合う。
「では、来なさい」
普段と変わらぬ微笑みを見せて、イステニアエルはだらりと槍を下げて持つ。
向かい立つアイズは、彼女が同じレベルであるなどとは微塵も思えなかった。
強そうには見えないのに、感覚はビリビリと死の気配を感じ取っている。
「……行きます」
そのちぐはぐな感覚を確かめるため、アイズは一歩踏み込んだ。
刺突――あるいはフィンがそうしたように、先手は愚直なまでの突貫だ。
イステニアエルは、その刃先を掴み取った。
「え」
「そら」
掴まれた、と感じた時には体が浮いていた。
イステニアエルの膝が
そして無防備に空を泳ぐアイズの鼻先に、鋭い三叉の刃の一つがぴたりとついた。それがするりと顔の輪郭を描き、首を舐め、背筋をなぞり……。
浮いて、落ちて、地を転がるまで、アイズは刃で全身をなぞられた。
その軌跡が生き物の皮を剥ぐ時のそれだと、遅れて皆気付いた。
「すまないが、私は人に物を教えるのは苦手なんだ」
アイズは思わず鼻を撫でるも、血の一滴も流れていない。空をもがく人の肌を傷つけずに撫でるその技量……完全な格の差をアイズは理解させられた。
「そして、模擬戦というのも経験がない。寂しい話だが、私は人と競い合って技を高めたわけではないからだ」
飛び起きて、レイピアを構え直す。
「よって、私は君にこう言わねばならない――全力で来なさい。私はそれを蹂躙しよう」
「――【
即断――アイズは飛び出した。
加減出来る相手ではない。強そうには見えないなんて冗談も良いところだ。
「【エアリエル】!」
そう確信して、アイズは『デスペレート』を突き出した。
そして、風の渦を力任せに食い破る、三叉の刃を見た。
「ッ!?」
とっさに引き戻したレイピアをトライデントの穂先が打ち払う。想像を絶する衝撃がレイピアを通してアイズの腕へ、全身へ伝わり、レイピアをもぎ取ろうとする。
しかし逆らって握りしめたのがよくなかった――レイピアにつられて腕を開かされる羽目になったアイズは、およそ戦いの最中に晒していい姿勢をしていなかった。
材質も分からぬ白銀の小手がアイズの鳩尾に滑り込む。
風の鎧ごとぶち抜いて、イステニアエルの拳がアイズを浮かせた。
「アイズさん!?」
レフィーヤの悲鳴が虚しく響く。
苦悶を漏らすこともできず、アイズはその場にくずおれた。
「……ううむ、やはり難しいな。加減が分からない。すまない、恐らく内臓が破裂しているから、回復してあげてくれ」
「ないぞっ……は、
レフィーヤが慌てて駆け出し、アイズにポーションを含ませる。
それを見ながら、やはりこの世界には
イヤルとの常識の違いを頭の隅に置きつつ、銀の魔人は振り返った。
「次はどちらだい?」
――その背後から、ベートが全力の回し蹴りを叩き込む。
「よろしい、ベートからだね」
「う、そだろ!?」
しかしその蹴りをまともに食らった頭が小揺るぎもしないのを見て、ベートは悪態とともにもう片足を繰り出す。掴もうと伸びた足を蹴りつけて、ベートは宙返りとともに距離を取った。少なくとも彼はそうしたつもりだった。
宙返りの最中後頭部を掴まれたことで、全てが思い違いだったと理解させられたのだが。
「ガ――」
大地に叩きつけられたベートの体がくたりと力を失ったのを確認してから、イステニアエルは振り返った。
「次、ティオナ」
「いくよっ!」
ティオナの突貫――双頭剣たる【
当然それが振り抜かれるより早く、《ナローレ族の遺産》が突き出される。
「ほっ!」
「ふむ」
しかしこれを誘っていたティオナは間合いの外側で急停止し、突き出された槍を大双刃にて叩き落とす。更に身をひねり、もう片方の刃でイステニアエルへと躍りかかった。
合わせて、イステニアエルも身を翻す。槍を弾かれた勢いのまま旋回させて、石突をもって大双刃の一撃を迎え撃つ。
激突……弾かれたのはティオナだった。
「うっそ馬鹿力!?」
「数少ない取り柄でね」
ティオナの腹を槍の柄が強かに打ち、少女はそのまま壁に叩きつけられ、崩れ落ちた。
「ティオネ、君はどうする?」
「……ふーっ」
見届人、ストッパー、という役目を与えられてここまで来たティオネだったが、彼女は……獰猛に笑って構えをとった。
「こんなん見せられて黙ってられるような玉無しじゃないわ」
「いいだろう」
ティオネはククリナイフを片手だけ抜いて、片手で投擲ナイフとククリのどちらでも抜き打てるように構えつつ、腰を落とした。
お互いにゆっくりと弧を描きながら歩み、距離を測り合う……最中、イステニアエルはくすりと笑った。
「一つ教えておこう」
「何よ」
「私は、まどろっこしい駆け引きは苦手なんだ」
瞬間、イステニアエルは飛び出した。
「っこの!」
反射的に擲ったナイフは兜に弾かれる。恐るべき
「ぐっ、う……!」
ティオナを得物ごと吹き飛ばす膂力に、更に助走が足されたことで、そこらのモンスターの突進など比べ物にならないほどの衝撃がティオネを襲う。
あまりの衝撃に意識が朦朧とする――それがそういう技だと知っているのは使い手のみ。イステニアエルは躊躇なく槍で彼女を打ち据えて、地に転がした。
「これで私の勝ちだ」
瞬く間に四人の上級冒険者を伸した銀の戦士は、倒れ伏す面々を見回して、最後にレフィーヤに視線を移した。
「君はいいかい?」
「ど、どうかお許しください!!!!」
首が取れそうなほど激しく拒絶するレフィーヤを見て、イステニアエルはくすくすと笑った。
全員に回復薬を飲ませてしばらく待てば、彼らは元通りに傷を癒やしたようだった。
「アイズさん大丈夫ですか……?」
「うん……多分? 内臓は見えないから分からない……」
アイズはへそのあたりを撫でながら首を傾げた。
「かんっぜんに負けたー! バーチェより強いんだけど!」
「手も足も……私たちが力負けするなんて」
「クソッ……」
残る三人もそれぞれ体の調子を確かめながら先の一戦を反省していた。
「あの……イストさん。どう、でしたか?」
「どう、というと」
「何か助言があれば教えて欲しい、んですけど……」
アイズの言葉に、イステニアエルは面食らったようだった。
そもそも彼女の生涯で、彼女を前に武器を抜いて生きていた人間は初である。
そう思えば、
「まあ……そうだな。あまり数多くを指摘はできないが……」
イステニアエルはしばらく頭を悩ませ、まずアイズを見た。
「軽い」
次にベートに顔を移した。
「手数がない」
ティオナへ。
「技が未熟」
そしてティオネ。
「戦い方に芯がない」
最後に、締めくくるように一言。
「そして皆、相手に何かさせたら死ぬという意識がない。だから負ける。……どうかしたか?」
「あんた……もう少し手心ってもんをね……」
見るからに凹む四人を前に不思議そうに首を傾げるイステニアエル。
「何を言う。手心なら加えたじゃないか」
「……は?」
――残念ながら、イステニアエルの本質を誰もが理解できていなかった。
「私が炎を収めているのは、ひとえに君たちが仲間だからだ。摘み取った実がどう咲くかを語ることほど無駄なことはないが……君たちが私の敵ならば、わずかの手番もやらずに殺す」
彼女は敵対した相手は必ず殺した。慈悲も躊躇も容赦もなく、何もさせずに。
そうでなければ死ぬからだ。
「侮りも恐れも、考えもしない。争うならば必ず殺し、叶わぬのなら明日に殺す……。私が退きも攻めも備えもせずというのなら、これ以上の手心はない」
イステニアエルは《
イヤルの東西を股にかけ、オークの
その全てに、ただ一人挑み、そして勝利した――狂戦士と呼ぶほかない。
そんな相手に仲間や訓練といったおためごかしが通じたのが奇跡なのだ。
助言を求めて弱いからと切り捨てられないだけ温情なのだ。
「さ、帰ろう。リヴェリアあたりが心配しているだろうから」
「待ちなさいよ」
踵を返そうとしたイステニアエルの、その背にティオネが待ったをかけた。
あーあ、とティオナはわざとらしく空を仰いだ……内心では同じことを考えていただけに。
「そこまでコケにされて黙って帰れるわけないでしょ」
「てぃ、ティオネさん?」
「ふむ」
ベートも舌打ちとともに隣に並んだ。
「ムカつくが糞女と同意見だ。せめててめえに【魔法】くらい使わせねえとな……!」
「ベートさんまで!」
「なるほど」
当然ティオナもそれに乗る。
「ま! イストの全力も見てみたいし!」
「ティオナさん!」
「そうか」
そしてアイズも、黙って剣を構えた。
「いいだろう。では、君たち全員でかかってきなさい。ただし」
「怪我は気にしないで」
アイズは懐から幾つかポーションを取り出した。うち幾つかが
「ちょ、まずいですよアイズさん! そんな高価なものを簡単に使ったら……!」
「レフィーヤあんたも他人事みたいに言ってんじゃないわよ! あんたも戦うの!」
「ええ!? なんでですか!?」
突然巻き込まれたレフィーヤが更に悲鳴を上げる。
「うちらだけだと後衛がいないからさー。援護が欲しいじゃん?」
「ちょっ……私を巻き込まないでください!」
「けっ……」
「ベートさん! いつもならすっ込んでろとか言いますよね!? なんで今回は仕方ないみたいな顔なんですか!?」
「レフィーヤ」
アイズはレフィーヤの目を見て言った。
「力を貸して?」
「う、ううう~~~……!」
敬愛するアイズさんの頼み……! と即断できないくらいには、相手が悪い。
ちらりと見れば、イステニアエルは微笑んで瞑目するのみ。
いようがいまいが構わない、と言わんばかりの態度だ。
「……あーもうわかりましたよ! やればいいんでしょうやれば!」
「ありがとう、レフィーヤ」
「いよっ、さすがは【
レフィーヤが半ばやけくそ気味に杖を構えたと同時に、イステニアエルはゆっくりと瞼を開けて笑みを深めた。
「では始めようか」
――その両手に炎が灯った。
「炎の大地の土は我が手に」
瞬く間に全身を駆け巡る、不浄の炎。
「
「アイズと同じ……!」
シャローレの尽きせぬ魔力が唸りを上げる。その体の奥底に刻みつけられたデーモンの力が表出し、その肌が奈落の黒に染まる。穢れた炎が燃え盛り、翼のように広がっては空気を焦がす。
炎と暗黒、復讐と怨嗟が力となって渦巻いて、狂戦士に宿る。
「――アーロックの炎よ、ここに」
暗く深き邪悪の気配が、圧力を伴って彼女たちを打ち据える。
三叉の槍を構え、炎を纏う、黒き人型。
それは、まさしく――。
「あく、ま……」
邪悪の権化たる悪魔の似姿に他ならない。
「いざ」
その言葉に、全員が身構える。
アイズとベートがともに飛び出し、姉妹はレフィーヤをかばうように立ちふさがる。
やや遅れて、レフィーヤも詠唱を開始した。
――そして、全員が見た。
紅蓮の砲弾となって空を飛ぶ、イステニアエルの姿を。
「っ――!」
着弾、とともに巻き起こったのは、火炎石に火がついたかのような爆発だった。
熱波が肌を焼き、爆風が広場全体を襲う。
《Detonating Charge》はティオナに直撃し、その周囲にいた全員を大きく吹き飛ばした。
「っこの、クソッ……ティオナ!」
「分かってる!」
大事なのは後衛に通さないこと――【
「レフィ――」
《Fearscape Shift》――恐怖の大地を通じて短距離を跳ぶ力。そして開かれた地獄門から、かの燃え盛る大地の炎が溢れ出した。
さらなる爆炎が広場を焼く。その向こうで、腹を刺し貫かれた誰かの影が倒れ伏した。
「こんのっ!」
「馬鹿ティオナ!」
間髪入れずに飛びかかるティオナが、飛来した炎の手に掴み上げられた。
《Fiery Grasp》でティオナを捕らえたイステニアエルへ、ティオネが躍りかかる。
(こいつは要するに「タイマン特化」! 陣形を崩しながら一人ずつ仕留めにくる……! だからとにかく複数人で攻める! 私はあくまで先鋒!)
両手の【
「そう来るのは知ってるわよ!」
ティオネは身を捻り、半歩ずらしてその突きを脇腹で受ける。肉を切らせて骨を断つ、双剣の一撃がイステニアエルの体を浅く長く切りつけた。
翻った槍先が今度こそティオネを仕留めにかかる。
「リル――ラファーガ」
そこへ、アイズの突進が間に合った。
風を纏った一撃を、イステニアエルは鎧で受ける。その体が衝撃で僅かに地を滑り、ティオネは攻撃を辛うじて回避できた。
(これでもまだ、軽い……!)
アイズは歯噛みしながら、続けて二度、三度とレイピアを繰り出した。ベートの渾身の一撃を当てるためにその場に釘付けにしようと。
しかし炎の悪魔はそれを意にも介さず、大きく槍を振りかぶった。
「くそっ、たれがァ――!」
ベートの、加速と跳躍から繰り出された全力の踵落とし。イステニアエルは頭を傾けて肩で受ける。更に身を捻り、勢いのままに回し蹴りを繰り出す……これは額をかすめるにとどまった。
そして、三人まとめて薙ぎ払われた。
《Obliterating Smash》――尽きせぬ憤怒を力に変える、抹殺の薙ぎ払い。
「うぐっ……!」
「がっ、んなろッ!」
下がって回避しようとしたティオネも、受けようと構えたアイズも、当然攻撃後の隙を狙われたベートも、とてつもない衝撃によろめいた。
だがその兜の裏から垂れた血に、ベートは口の端を釣り上げる。
「ビビんな! 効いてる! 体力だって無限じゃねえ、どっかで息切れする!」
「ティオナッ!」
「まっかせて!」
獣のように飛びかかるティオナに対し、イステニアエルはその不浄の力を刃に込め、迎え撃つ。
ティオナの【大双刃】を、イステニアエルは避けようともしない。
巨剣が鎧を叩く轟音が響く。
(本当に相打ち狙いばっかり……なんで!?)
その答えを、ティオナは身を持って知ることになった。
不浄の力に染まった槍が、瞬間に二度、ティオナの体を傷つける。
「うっづ……え!?」
そして撒き散らされた血を、
「回復……してる」
「そんな……!」
《Draining Assault》、命を奪う力。イステニアエルは三叉槍を振り払った。
「うぐ、げほ……そっか、相打ちでいいんだ……」
「クソが……炎もうぜえ!」
ベートが服をはたく。見れば、その裾には燃え移った炎が揺れていた。
彼だけではない、その場の全員が、程度はともかく火を浴びていた。
「急所は全部綺麗に外されてる、身動きを阻害されなきゃ後は何でも良いって感じね」
「ティオナ」
「アイズありがと!」
一瞬の攻防の隙にレフィーヤを回収しポーションを飲ませたアイズは、傷を負ったティオナにもポーションを投げ渡した。
「う……ごめんなさい、アイズさん」
「いい。こっちの責任」
「アイズとティオナ、レフィーヤで攻めるわよ」
一通り回復が済んで、仕切り直し。
しかし傷の残る五人から見て、イステニアエルは無傷に見えた。
実際は、それなりにスタミナを消耗してはいる。消耗の激しい大技を矢継ぎ早に繰り出すイステニアエルにとっても、小休止は有利に働いているのだ。
一同が作戦を立てる前で、彼女は閉じていた口を開いた。
「もう少し強く打っても大丈夫そうだ」
更に炎が強まった。
その火は鎧をすら覆い尽くし、槍は炎によって一回りも大きく見えた。肥大した肉体は異形の様相をより強め、強靭さを増していく。
可視化された恐怖と絶望が渦を巻き、その炎に黒くまとわりついた。
この姿こそが、彼女の戦闘形態といって差し支えない。
復讐と怨嗟。炎と血。恐怖と破滅。忌むべき力を惜しみなく開放したイステニアエルは、辛うじて残った人肌がなければモンスターにすら見えた。
深層でも経験できないおぞましい気配、あまりにも異質な姿に皆息を呑む。
これで彼女にひとかけらでも殺意があったら、と考えて、アイズは口の中が乾くのを感じた。
しかしそのイステニアエルの意識が、ある瞬間からふっと遠くへ飛んだ。
「……イストさん?」
彼女は険しい顔で壁を……おそらくはその向こうを睨んでいた。
不思議に思うアイズだが、彼女が睨んでいる壁はきちんと傷つけてあって(むしろ最初よりもずっとボロボロになっていた)モンスターが湧いてくるようには思えない。
「まさか……しかし、そうか、私のくぐったファーポータルの反応を……? いや……」
イステニアエルはその相貌を歪めてしばらく唸ると、ぐるりとアイズたちに顔を向けた。
「一つ聞かせてくれ――
彼女の感覚は、三体組でダンジョンを進むレッチリングを確かに捉えていた。
・イストの時間感覚
"@"、つまりローグライクの主人公……プレイヤーの分身にはよくあること。
ToMEの@も傷を癒やすための小休止だけして、あとは*勝利*へと邁進する。超人かな?
睡眠の必要があるElonaですら徹夜が常なので、@を背負う者は皆そう(クソデカ主語)。
ローグライク道は死狂いと見つけたり……。
・材質不明のイストの鎧
ヴォラタン製。白銀色を呈する。ゲーム的にはTier5、最高ランクの重鎧素材。
確かドワーフの秘中の秘みたいな素材だったと思うが覚えてない。情報求む。
同様に、軽鎧素材はドラゴン皮、布素材はエルフ絹。
・Madness Roguelike
最高難易度・命は一つというゲーム設定。
敵のレベルやタレントレベルの高さもやばいが、何より大量のレア敵がやばい。致命的なタレントやアホみたいに強い武器をこっちに向けてくるのでなにかされると死ぬ。
正直Doombringerでやると序盤がつらすぎる。
・タレント、常駐タレント
ToMEにおける技・術のこと。常駐とはオンオフが可能な発動形態を指す。
イストは自前の《痛覚共有》《永遠の苦難》《アビスの盾》《恐慌の打撃》と習った《鉄壁の聖歌》を常駐している。
聖歌の効果が変わっているが旧版の遠距離攻撃のダメージカット効果で通すぞ俺は。
・超感覚
装備のテレパシー効果。タレントでも似たようなことは出来る。
イストのダンプデータ出そうかなと思ったけど版が1.4.nなのとデータが前PCにあるのと装備品や所持品ある程度融通きいたほうが書きやすそうだからナシ!
つか鎧や武器の特殊効果まで逐一再現してたら描写がおっつかないぞ……小手で殴った瞬間減速と憂いと自然毒と炎の持続ダメージが入って自然炎冷気酸暗黒時間の追加ダメージが発生しその他幾つかのタレントが誘発とか書いてられるか!
あと外伝六巻見たらオラリオって在野の恩恵持ちは入るのも大変って書いてあってエッてなったけどイストは恩恵持ってないからセーフ!
恐らく入国管理官もミイシャみたいになったことだろう。