艦これーさざんかのようにー   作:アテネガネ

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第6話

怖いと感じるのは、理解できないから。

死ぬのが怖い? 私は怖くないの。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

「ケツに爆弾を抱えちまった」

「天龍ちゃん?」

「怖いか?」

 

 横須賀鎮守府第二出撃ドックでは、現在「天龍輸送部隊」と「龍田輸送部隊」が整備点検を行なっている。

 だが艦娘の艤装は、艤検と呼ばれる艤装に性的興奮を覚える者達が、丹精を込めて検査点検及び修理を行うことが常だ。しかし艦娘の中には、その真心こもったおもてなしに不信感を抱く者も少なくない。そのため月に一、二回程は自身の手で艤装のチェックをする事がある。

 天龍型の部隊は、今日がその日であった。

 

「……うーん、艦尾に不調?」

 

 天龍輸送部隊は天龍を旗艦兼部隊長とし、以下三名の駆逐艦からなる中型部隊だ。艦娘における部隊の規模は、五から六名で艦隊、四名で中型部隊、三名以下で小隊である。

 ただ、正直言ってこれらは艦娘の持つ独自の規格であり、特に書類や軍法のようなお堅いもので定められているわけではないので、その時の気分により呼び方は変わる。

 ちなみに龍田の部隊も天龍同様の構成となっている。中型部隊だ。

 

「いや、今朝ケツ拭いたら紙が真っ赤でよ。参ったぜ」

「天龍ちゃん?」

「ふふふ」

「だから脳みそに血が巡ってない話をし始めたのね〜」

「龍田?」

「あらあら〜」

 

 中型部隊以下は、小回りが利くため使い潰される危険を多分に含んでいる。しかし利点も多い。

 まず、小回りが利く。

 これは別にふざけているわけではない。隊が常に最大定員の六名に満たないゆえにもたらされる恩恵である。デメリットも飼い慣らせば良いものだ。

 次点はその恩恵にあやかったものだが、中型部隊を基盤とし、様々な艦種を配置できる点だ。相手に空母が混ざって入れば対空特化艦や空母系の艦を配置するし、鬼や姫がいれば殺戮マシーンを配置し、威力偵察をする。柔軟性に富んだ編成が可能なのだ。

 他にも利点は探せばあるのだろうが、割愛する。

 

「でもよ、想像したことあるか? お前」

「うーん、脳外科の診療ってどこに依頼すれば良いのかしら〜?」

「人の脳みその心配すんな、おら!」

「きゃっ! んもぉ」

 

 艤装の整備には、簡易艤装分解キットのようなツールが必要だ。これは国家試験等の様々な資格を取得した艤検員にのみ佩帯(はいたい)が許可されているもので、いかに艦娘といえど一時的な所持や借受けることすら禁止されている。

 では、彼女達がどうやって整備をしているのかと言うと、妖精の力を借りているのである。

 

「ふぅ、それで? 何を想像するの?」

「いや、ケツ切れるって事は傷ができるって事だろ? その傷は常にクソに晒されてる訳じゃねーか、怖くね?」

「……やっぱり壊れちゃったのね」

「脳みそは無事だぞ」

 

 妖精は不明な存在で、何故そこにいるのか、何がしたいのか、そもそも何なのか全てがわからない。

 ただ、何故か人類の味方をしてくれるので、暫定的な協力関係を構築している。

 大分と高慢な考え方である。

 

「ところでよお」

「何かしら?」

「何もかんもねえよ、ガキ共はどうした?」

「そうねえ、どんな罰を与えようかしら?」

「いや、俺はどこにいんのかを聞いててな?」

「全裸でフルマラソンでもしてもらおうかしら〜?」

「何で?」

 

 本日は天龍型部隊の自主艤装点検日であったが、参加者は天龍型の二人だけだ。

 天龍は軽巡洋艦なので駆逐艦にはめっぽう厳しい。だがその性格ゆえか、最終的には甘やかすこともままある。一方で龍田はというと、甘やかすこともあるが、最終的には厳しい。ちなみに龍田は駆逐に冷汗をかかせる訓練が得意だ。

 であるため、艤装の点検をサボってしまった両部隊の駆逐艦は、命の危機に瀕している。

 

「山道を全裸で匍匐前進するコースも混ぜようかしらぁ?」

「まず混ぜない組合せを披露すんな」

「道のあちこちに、迷彩偽装を施した画鋲を撒くのも乙かもしれないわね〜」

「乙なわけあるか、あいつら泣いちゃうぞ」

 

 泣くだけじゃ済まないな、とは思う天龍であったが、これ以上話を膨らませるとより酷い行いが追加されそうであったので、天龍は口をつぐんだ。

 

「泣いちゃうと言えば叢雲の話なんだがな?」

「本当に好きねぇ叢雲ちゃんのこと」

「お前もだろ?」

「うふふ」

「うふふって」

 

 まあ駆逐嫌いな奴なんてそうはいないわな、と天龍は思う。

 駆逐艦という艦種は、幼くして戦い、また損耗率も格段に高いため多くの組織や団体から庇護を受けている。世界的にみても愛されているのだ。

 

「あいつんとこのガキが一匹、お偉いさんに呼び出されてたろ、それがまだ帰ってきてないらしいんだよ」

「……あらぁ? 確かそれって昨日の話だったと思うんだけど?」

「ああ、だから昨日からお泊りしてるみたいだな」

「お偉いさんにえらい事されてなければいいわねぇ……」

「んな発想すんのはお前ぐらいだ」

 

 取調べを受けている吹雪哨戒隊の人員は、日を跨いでも未だ帰ってきておらず、現在それなりに話題になっている。

 安否を気にするものから、そこまでのことをやらかしたのかと面白がるものまで様々だが、一番多い感想としては、「さすが駆逐艦」がダントツだ。

 

「もしかして、叢雲ちゃんのお友達が帰ってきていない件とあの娘達が来ない事に関連性があるのかしら?」

「まあ普通なら違うってなるけど、なんせ駆逐だからなあ」

「あら〜、信頼してるのねぇ」

「著しく勘違いをしてんなさては」

 

 龍田の予想は正しく、両部隊の駆逐艦は取調べを受けている駆逐の為に活動している。

 ただその行いは艤装の整備とを天秤に掛けた訳でなく、単に本日の予定を忘れているだけである。彼女達はのちにその事を思い出し冷汗で滝を作るが、それはまた別の話だ。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

「これより磯波奪還任務をはじめます!」

 

 おおー! と沸き立つ少女たち。

 ここは横須賀鎮守府駆逐艦寮、駆逐艦の駆逐艦による駆逐艦のための独立国家だ。

 そのため規律は、軍属にしては異常に緩い。というか無い。

 寮から一歩でも出ればしゃんとするのだが、「家でまで堅苦しいとかふざけんな」とお淑やかな意見が多数出たため、他の艦娘や偉い人らには内緒で規律を駆逐した。

 そんな家で、叢雲は暇をしている。

 

「なあ、止めた方がいいんじゃないか?」

「あんたこれ止めれるの?」

 

「妥当権力ー!!」

 

「無理だ。だからお前にぶん投げてる」

「私は便利屋じゃないのよ」

 

 規律の無い弊害が今まさに噴出している。

 のびのびとし過ぎた。

 反乱の温床になっていたとは考えもしていなかった。

 

 昼前、深雪とデートしていたら突然決起集会が始まったのだ。

 

「デートじゃねーよ」

「一緒に座ってるんだから、これはデートも同然よ」

 

「作戦内容は……、行って奪って逃げる!!!」

「おおーー!!!!」

 

「おおーじゃねーよ」

「本当にどうするのよこれ」

 

 陣頭指揮を執っているのは白露型駆逐艦四番艦「夕立」だ。

 なぜか知らないが、世間からは語尾に必ずポイポイ付けているイメージが定着してしまっている。

 実際はそこまで言わない。

 

 結構育ちがいい、というかお嬢様っぽさが出てたりする。

 

「隊長! 逃げた後はどうするんですか!」

「脱柵!!!」

 

 今は皆無だが。

 

「ひどい事言ってんなおい」

「完全に駆逐艦しちゃってるわね」

 

 彼女らが人攫いもかくやの計画を立ててしまったのにはもちろん理由がある。

 龍田や天龍が懸念していた事態が起こっているのだ。

 

「戦争! 戦争!」

「脱柵! 脱柵!」

 

「んー、言いたいだけみたいだなこいつら」

「そうみたいね」

 

 駆逐がわざわざ取調室に呼び出されるなんてそうそうない。加えてそれが二日に渡っているとなると尚更のこと。その不安が表出しているのだ。「ゆうれい」の件があったので、少しピリついている。

 ただ天龍型も自身らの駆逐だけでなく、横鎮で暇している全ての駆逐艦が関わっているとは予想していなかった。

 

「ま、これなら平気でしょ。そうそう悪い事は起きないはずね」

「何でフラグを立てた?」

「暇なのよ」

 

 暇なのは、本日も休暇だからだ。

 これで何日連続の休暇だろうか、さすがに体が鈍りそうだ。そしてそこに帰ってこない磯波……。

 何事も無いといいのだが。

 

「何でフラグを立てた?」

「追いフラグよ」

 

 フラグフラグ言うが、こう言うものは立ててしまえばあながちどうにもならないものだと叢雲は思う。

 

「はあ、例えば磯波は何事もなく帰ってくるし、夕立は途中で飽きるし、私の給料は気づけば増し増しになっている。そう言うものよ」

「ちゃっかり願望を混ぜるな」

「いいじゃない。記録物全部書いてるんだから、頑張った料としてちょっとくらい」

「お前の場合、沢山がめるだろ」

 

「磯波奪還! 出撃ー!!!」

「おおーーーーー!!!!」

 

「行っちまったぞ、どうする?」

「なるようになるでしょ。お茶でもしばきましょ」

「断る」

 

 深雪はこう見えて真面目である。

 スペシャルするが。

 

「心配だから様子を見てくる」

「見たって何も変わりゃしないわよ」

「とは言ってもなあ」

「はぁ、それもそうね」

 

 寮の扉を渾身の力でゆっくり開ける夕立。

 勢い勇んで寮を厳格に飛び出す。

 その後を叢雲と深雪は追いかける。

 

 しかし、一歩外に踏み出した途端軍人し始めるのが、なんとも間抜けだ。

 きびきび歩く姿は、滑稽ですらある。

 

「お? なんだ? 先頭の方が立ち止まったぞ?」

「飽きたのかしら」

「早すぎんだろ……」

 

 叢雲は何事かと外を覗き見ようと画策するも、駆逐が多すぎて前が見えない。

 

「何してるのかしら?」

「さあな、深海棲艦でも出たんじゃないか?」

「……大事件じゃない」

「しかし駆逐がわざわざ足を止める理由なんてそんくらいしか……おやつの時間か?」

「そんなものあった事ないじゃない」

「今日からできたぞ」

「三時のおやつ、ついにうちにも実装配備されたのね」

「税金で食う菓子はうまいな」

「背徳の甘味」

「なんかえろいな」

 

 もちろんおやつの時間ではない。先頭の夕立と、それを追い越さんとするスピード狂達は転ぶ様に緊急停止している(徒歩だがすごい速度だった)。

 それに倣い、後続も次々と足を止め様子を伺っている。

 

「はーい川内、参上でーす」

「……」

「駆逐のみんな、何してるのかなー?」

「……」

 

「鬼がやってきたぞ、おいおい!」

「ちょっと? これ私達も巻き添えじゃない?」

「あ゛!」

 

 駆逐の足を止めたのは、川内型軽巡洋艦一番艦「川内」だ。

 彼女の種族は忍者目夜戦科鬼族の化け物である。

 

 夜戦をしたいと、日が昇るまで叫び通し、夜戦の為にと、日が暮れるまで訓練をしている。

 艦娘になってから、一度も睡眠をとっていないとまことしやかに噂されている。

 

「何してるのかな?」

 

「うわぁ、二回も言ったぞあの人ぉ。こわぁ」

「やめなさい聞こえるわよ」

 

 軽巡という種類の艦は、理不尽な超人が揃い踏みなので、ヘタをこくととにかく危険だ。

 夕立が応答する。

 

「え、えーとぉ、川内さん。これはぁ……、散歩っぽい? アレ的な?」

「アレ的な?」

 

「頼むぞ夕立! お前にかかってるんだ、ポカすんなよ……!」

「……何でフラグを立てたのよ」

 

「アレ的なぁ、散歩……ぽい?」

「じゃーあー……、ついでに、訓練も? するっぽい?」

 

「あぁ! そんな、バカな!」

「あんたが下手なフラグ立てるから!」

「え! 責任を追及されんのか?!」

 

 川内の訓練とは、つまりは死ぬ一歩手前までのお散歩コースということで、つまり死ぬ。

 ちなみに同型艦の「神通」がゲロを吐かせる訓練を旨とするのに対して、川内は、お小水とこんにちはさせるのを得意としている。

 もう一つちなむと、艦隊の偶像主義「那珂」こと那珂ちゃんは吐血を強いる訓練だ。

 

「川内さん!」

「ん? 何かな? 今、おはようからおはようまでの訓練内容考えてるんだよね。忙しいから後にして」

「えーっと、そんなこと言わずに、お答えしてほしいなーって、思うの……」

「オムツなら一人五枚くらい用意しといてね」

「そうじゃないっぽいんですっぽい」

 

 ぽいぽい言って動揺を隠しきれない夕立であるが、正直もう何を言っても焼け石に何とやらな状況だ。

 軽巡は駆逐との訓練に命を懸けている。

 まさに懸命だ、勘弁してほしいとこの場の駆逐は内心愚痴る。

 おそらく今、川内の脳内ではどうやって尿失禁させるかのシミュレーションをしている。

 

「そのー、何で私たちに訓練をさせるのかなぁって思ったの」

「何で?」

「そう! 私たちまだ何も悪い事はしてないわ! なのに訓練だなんて、きっと川内さんは勘違いしてるっぽい!」

「ほう? 勘違いね」

 

 勢い勇み釈明(弁明?)する夕立だが、やはり望みは薄い。

 ただの茶番になっている。

 胃が痛いだけの時間が垂れ流される。

 

「私たちはただ、みんなで行進してただけでなんにも企ててないわ! 悪い事なんて考えてないわ!」

「……」

 

「嘘下手くそかよ!」

「あそこまでいくと芸術性感じちゃうわね……」

「こっそり逃げるか?」

「そんな事したら、首が身体から逃げ出す事になるわよ。やめときなさい」

 

 川内型は妥協しない。

 サボろうものなら、今後の人生をサボる羽目になる。

 

「まだ死にたくはないでしょ?」

「まだっつーか、いつまで経ってもそうは思わん」

 

 

 その後、夕立の嘘は軽々しく見抜かれた。

 そもそも川内は駆逐の動向を察知してやってきたのだと言う。

 結局その場にいた駆逐艦全員が、謀反と虚偽申告の罪で川内の訓練を受けた。

 つまりは磯波回収任務は失敗に終わった。

 

 叢雲と深雪は、訓練を回避しようとすればその場から逃げだせただろうが、冤罪と脱走の天秤は、故意に冤罪に傾かせた。

 

 暇なのだ。

 

 

 ■ ■ ■

 

 

「忘れられている気がする」

「どうしたの吹雪ちゃん」

 

 現在午前十時、取調室前にいる。

 呼び出された原因は、はっきりしている。

 仮称「大和」と仮称「戦艦棲姫」と遭遇したため、旗艦としての説明を求めているのだろう。

 いや磯波がいるという事は「ゆうれい」の件も含めて聞かれるはずだ。

 

 正直言って憂鬱な気分を隠せない。二日も何をそんなに聞きたいのか、もう全部伝えきっているというのに……、とは言え釈放を早めたいのならここから先は我慢の子で、偉い人を満足させるしかない。

 

 いや、そんな事より。

 

「何で私って心配されないんだろう」

「そんな……! まあ、うん……」

「うんって」

 

 磯波ですら否定しないほど、忘れられやすい自分とは一体全体何なのか。

 特型ネームシップなのだが、おかしいな。

 

「ふ、吹雪ちゃん! 私は吹雪ちゃんを忘れた事ないよ! ……潮干狩りした事とか、その、ちゃんと覚えてるよ!」

「別次元の話だ……」

 

 多分、今頃駆逐艦寮では、磯波を助け出そうという試みがなされているはずだ。

 そしてそこで吹雪の名は一度たりとも上がらないはずだ。

 

 はずだ、何て思っている事に気づき、自分でも心の中では諦めている事に愕然とした。

 

「で、でも吹雪ちゃんはいつも私たちのために頑張ってるって事、みんな知ってるよ? だから、そんなに、その……、その顔やめて」

「……」

 

 不当にも怒られてしまった。

 顔は生まれつきなのに。

 

「……吹雪ちゃん、ほんとは美味しいって思ってるんじゃないの?」

「そ、そんなこと、……まあ、うん」

「うんって」

「でも……」

「顔と言葉が噛み合ってないよ」

 

 にやけてるよ。と指摘され顔を揉む。どうやらにっこりしていたらしい。

 おかしいな、以前はちゃんと悲しんでいたはずなのに、今となってはアイデンティティとして評価している自分がいる。

 影の薄さをいつの間にか受け入れていた。

 

「いつまでそうしている」

「!」

「な、長門秘書艦! 失礼しました!」

 

 はじかれたように敬礼をする。

 ふざけていたら、とんでもない人が取調室から出てきてしまった。

 

 この人は、横須賀鎮守府秘書艦の長門型戦艦一番艦「長門」だ。

 かつて、国民から絶大な人気を誇り活躍した艦だ。

 現在も、特に子供からの評判が良い。

 

 駆逐艦からの人気も、あるにはあるが、戦艦娘はとにかく近寄り難い。

 加えて秘書艦ときている。

 話したことのない娘は、だいぶ多い。

 

「入れ、提督がお待ちだ」

「え! し、司令官が?!」

「ふ、吹雪ちゃん……、どうしよう」

「はあ、安心しろ。別に取って食う訳ではない。話を聞くだけだ」

 

 さあ、だから安心して入れ。と再び促された。

 

 ……だからも安心もない。

 とんでもない事になってきてしまった。

 

 

 

「待っていたよ、遅かったじゃないか。ああいや、別に責めている訳ではないんだよ。突然の呼び立てだ、思うところがあった事だろう。ん? ああ! 敬礼なんて今はしなくていい。今日の私はただの取調官としてここにいるんだ、普段通りにしていてくれ。なに? 長門、それは難しい? おいおい、そんな心構えじゃあいけないぞ。我々がきちんと場を作らなければ、偉い人が無茶苦茶言ってるだけだと捉えられてしまうじゃないか。……おい? 長門、聞いているのか?!」

 

(吹雪ちゃん! どどど、どうしよう! ほんとに司令官がいる!)

(どうしようって、……どうしよう)

 

 というか。

 

(この人すごい喋る……)

 

「提督、彼女達が怯えている。あまり威圧するな。ただでさえ貴殿は人相が悪いんだ。気をつけろ」

「貴様、組織のトップに何て口を聞くんだ。弁えたまえよ」

「何がトップだ、中間管理職のクセして」

「何だと? ダブルバインドの苦しみを味わった事がないクセに」

「知った事か。ところで貴殿は今、ただの取調官なんだろ? 秘書艦様にあまりでかい口は叩くな、弁えたまえよ」

「ほう……」

 

 喧嘩が始まってしまった。

 ツートップが暴力の応酬をしている。

 割り込めば首が飛びそうだ。

 

 横鎮の司令官とは、普通の人だ。

 別に何かに特別優れている訳ではないし、だからと言ってコネで入職した人でもない。

 委員会は、対深海棲艦の要所には、クセの少ない人を選ぶ向きがある。

 

「ぐあ! 待て! 関節を極めるな、腕が取れる!」

「よかったじゃないか、提督よ。最近よく、判子を押したくないと漏らしていただろう? 夢が叶ったな」

「叶えてたまるか! 私の腕はこれから沢山の芸術を生み出すのだ! 老後は絵を描いて暮らすんだよ!」

「聞いていない事を、突然話すな」

「よかったな。また私に詳しくなっ、痛い!」

 

 でもクセの有る無しは、面接からでは見抜き難いのだと思う。

 委員会も大変だなぁ。

 

「あ、ちょっと! 長門いい加減にしろ! そろそろ怒るぞ!」

「それは困るな、私は怒られるとしゅんとしてしまうのだ。仕事も手がつかなくなるほどにな」

「何?! それは困る! 普段から私の仕事の二割をこっそり押し付けているのに! 頼むから機嫌を直してくれ!」

「主砲をくらえ」

 

 司令官ともなると、遊びながらでも滞りなく業務をこなせるのだろう。

 そういう事だと思い込もう。

 

「それは違うぞ吹雪。こいつは一つのことを始めると他を全てやめてしまう。単細胞なだけだ」

「はい、侮辱罪。上官に対して非常に悪い物言いだぞ、悔い改めろ!」

「仕方ないな、そう言われては弱い。仕事は貴殿に引継いで営倉にこもろう」

「まあ待って」

 

 仲良いなぁ。

 

(吹雪ちゃん、現実逃避しないで……!)

 

 とは言われても、ちっともついていけない。

 

 そもそも拷問もかくやの取調べが行われると思っていたのだ。

 しかし蓋を開けてみれば秘書艦と、なんと司令官までいて、そのうえそれ以外の人間が誰もいない。

 これはどんなモラハラ・パワハラが行われてもなかったことにしてね。という事だ。

 つまり一足飛びで、処刑台にオンステージ。

 

(磯波ちゃん)

(な、なに?)

(今まで、ありがとうね)

(諦めないでー!)

 

 実際もう無理だと思う。

 何がここまでの事態に発展させた要因なのか、見当がつかない。

 思い当たる節が多過ぎるのだ。

 

 前回の哨戒任務をはじめ(これは私達に非は無いが、仕様がない)、銀蝿(ぎんばい)やイタズラ、書類の偽装と隠蔽、極め付けには寮の独立国家化と駆逐艦は悪事にいとまがない。

 これらの言い訳を、今からでっち上げる事は不可能だ。

 きっと叢雲なら簡単にやってのけるだろうが、いま彼女はここにいない。

 磯波はダメだ。嘘をつくと罪悪感でゲロとか吐きそうだ。

 では自分はどうか、これもダメだ。

 これまで嘘をつくより騙される側の女だったのだ。

 このあいだも「水曜日の朝食もカレーになった」と言われ信じてしまったばかりだ。

 

 つまり詰み、どうにか私の首で対処できないものか。

 

「……司令官!」

「え、どうした?」

 

 いくら駆逐が度し難い集団だとしても、全員を罰する事はないだろう。

 そうなると主犯格に罰を言い渡すはずだ、ならその主犯格に私がなろう。

 別に自己犠牲の精神という訳ではない。現状自分しかその役になれないから仕方なくだ。

 

「私のクビで許していただけないでしょうか!」

「吹雪ちゃん! ダメだよ、そんな……!」

「ほう、貴様のクビでか?」

「う……、は、はい!」

「ほおう」

「怖がらせるな!」

「痛ってえなクソ!!」

「ひえっ」

 

 すごい軌道で飛び出した長門秘書艦の拳は、吸い込まれるように司令官のみぞおちに食い込まれた。

 というかわざと喰らったのでは……?

 

「提督よ、何故避けなかった?」

「あー、ダメだこれは、死にそう。仕事できない程度に死にそう。もうお前に引き継ぐしかないな」

「では吹雪、磯波。これから取調べを行う」

「まって、ほんとに引き継がないで」

 

 本題を、ということなので居直す。いや、はじめから緊張していたので居直すも何もないはずなのだが。

 とにかく気を引き締め直す。

 ……どうも駆逐の素行うんぬんについて問いただすことはなさそうだ。

 

「んおっほん!」

「うるさい」

「話させて! まったく、ええっとじゃあまず吹雪、君に聞きたいことなのだが」

「は、はい」

「仮称大和の様子はどうだい?」

「……大和さんの様子、ですか?」

 

 ああ、そうだ。と、特に調子も変えずに促す司令官。

 どうと言われても。

 

「……これまでの報告と同様ですが、変わった様子なく経過しております」

「仮称大和は叢雲と仲良くしているようだが、叢雲に変わりはないか?」

「普段通り、変わりありません」

「ほお」

 

 叢雲については、普段から変わっているので虚偽の報告になるか? とも思ったが、叢雲は駆逐以外からは何故か常識人として見られているので関係ないか、といらない心配をしてしまった。

 いや? そういえば最近はあの大和にべったりな気がしないでもない。でもそれ自体は、やっぱりいつも通りなので言うまでもないことだと切り捨てた。

 

「では磯波、君にも質問をしよう」

「う……、はい」

「仮称大和が普段していることはなんだい?」

「? えーと……?」

 

 普段大和がしていること? なんだその質問は、いったいなんの意味があってそんなことを聞くのだろうか?

 いや、不明な存在である大和を暴こう、という質問なのだろう。しかし、それをあえて私達にするとは、他に適任がいるだろうに。

 

「大和さんはいつも、……叢雲ちゃんと……います」

「なるほど、仲がいいんだね二人は」

「……はい」

 

 そう、こんな話は叢雲に聞くべきだろう。我々以上に大和と一緒にいるのだ。いや、鎮守府の誰よりも一緒にいるだろう。私達は大和と接する機会はほぼ無く、何も知らないと言っても過言ではない。

 

「仮称大和は、普段どこで過ごしている?」

「えーと、叢雲ちゃんのいるところに……」

「ふむ、よくわかったよ。ありがとう」

「あ、あと夕張さんのいるプールにもよくいます」

「おや、そうなのかい?」

「はい、あ、本当はそこにいるはずなんですよね、大和さんは」

「ははは、そういえばそうだね。まあ自由な存在だからね」

 

 あれは、と笑顔を見せながら話す司令官は、単に雑談をしにきたように見える。

 

「仮称大和は、叢雲や夕張意外に誰と仲がいい?」

「えーと、別の人と一緒にいるところは見ません」

「おや、そうなのかい」

「私からも質問させてくれ」

 

 長門秘書艦が口を挟む。

 彼女は書記をするわけでもなく、ただ私たちの問答を聞いていたのだが良いのだろうか?

 

「吹雪、仮称大和は戦闘について意欲的か?」

「戦闘ですか? すみません聞いたこともないです」

「……まあ、そうか」

「お、では質問を変えよっかなー」

 

 指揮官はフランクにそう言う。軽すぎる気がしないでもないが、「それどうなんですか?」と言うことはさすがにできない。

 

「君たちは海に浮かぶ艤装を見たことはあるかい?」

「艤装が」 

「海に?」

 

 艤装が海に浮いているはずはない。長門秘書艦の攻撃で脳みそがやられてしまったのだろうか……。

 

「なんでそんなかわいそうな人を見る目をしてるの?」

「お前がかわいそうな奴だからだろう」

「酷くない?」

「……今の質問はどういった意味があるのでしょうか」

「気になるかい? では長門、説明頼むよ」

 

 司令官は長門秘書艦に説明を促すが、海に艤装が浮かんでいるとは考えにくい。

 艤装の特色から、一般に公開できない技術がふんだんに含まれているからだ。また最近は沈んだ娘の話も聞かない。つまり仮に艤装が海に浮かんでいるのだとしたら、それは過去に沈んだ娘の残骸を回収し損ねたか、秘密裏に誰かを処分したかのどちらかだ。

 怖い。

 

「今更なんだが、よいのか提督よ」

「知ったことか、今の私はただの取調官だ」

 

 ただの取調官、と先程から殊更に強調する司令官だが、そんなに重要なことなのだろうか? むしろ権威がなくなり不便なものだと思うのだけれど。

 

「……まあ貴殿がそう言うのなら、いいだろう。では二人とも、心して聞け」

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

「通常、海に艤装が浮かんでいることなどあり得ないと、君らも知ってのことだろう。艦娘が行方不明兵、あるいは戦死判定となれば直ちに捜索が開始される。委員会と合同でな。その捜索において、我々艦娘は肉体を発見することに重きを置くが、委員会はそうではない。奴らは艤装こそ重要だと言うんだ。そしてその噛み合わない意見こそが、海に艤装も仲間も放置されない要因となっているのだが……、ああ別に、委員会の指針に反対しているわけではない。少し気分が悪いだけだ。ともかく委員会のお陰で艤装の回収も相成っている」

 

 ここまではいいな?

 

「この方針は、当然委員会発足時に作られたものだ。つまり委員会が存在する以前は言うまでもないな。その昔は防衛軍一本体制だったからそんな食い違いなどなく、ロストしたものは取り敢えず全て集めなおす、と言った気概を持っていた。別に殊勝な心がけと言うわけではなく、単に『素材』を集めることが手間だったからだ。まあ体裁もあっただろうが。さて、そんな万全とも言える方針だが、万全だからこそ例外も生まれやすくてね。ある時、ロストした艦娘の捜索を断念したことがあったんだ。ん? 勘がいいな吹雪。そうだ、私達が言う『海に浮かぶ艤装』とは、そのロストした艦娘のものだよ」

 

 さて、ここからが問題なのだがな。

 

「そのロストした艦娘とは……、捜索が打ち切られてしまった艦娘とはな、最初期の艦娘なんだ。彼女はとても強く、並ぶ者はいなかった、敵でさえな。そんな彼女の扱いに困った防衛軍は彼女を見捨てた。いや? 見捨てられたと言った方が相応しいかもな。彼女は影もなく消えた、一片の情報もなく、足取りは掴めない。だから捜索は止まった。そしてそれは悪い結果をもたらした、彼女は『深海棲艦』に身を堕とした」

 

 それは人類に対する裏切り行為だ。

 

「防衛軍は心中穏やかではなかっただろうな。自らが生み出した奇跡を、自らの手で手放し、凶悪な敵としたのだから。防衛軍はこの事実が白日のもとに晒されるのを嫌った、笑えるな、この期に及んでまだ保身に走ったのだ。……まあ理性や感情を廃せば合理性はある。敵を倒すノウハウは彼らしか知り得ないのだ、そんな唯一無二の組織を解体するなど、な。だったらなんだ、だって? そういうな取調官よ。ただの確認作業だ。さて話を戻すが、隠したがりの防衛軍は悪魔の力を借りたんだ。そう深海棲艦のだ。不思議か? まあ、そうだろうな。とはいえこれは一定の権力を持つ人間には周知の事実だ。……と同時に消し去りたい過去だとも捉えているな、やつらは」

 

 話が逸れたな。

 

「深海棲艦の手を借りたと言ったが、実はこれは複数回に渡って行われている。ずぶずぶの関係だ。例えば対深海棲艦最初期、つまり『人間部隊』がまだ存在していたころは、敵の銃弾を加工し活用していたし、最初期の艦娘、まあ件の娘だが、この娘の艤装は現在の艤装とは比べものにならない程に深海棲艦近いものであった。……とはいえこれらは敵の一方的な『利用』に過ぎないとの見方ができる。この程度ならそこまで手を回し隠蔽しないだろうな。だからつまり、悪魔の力とは『取引』なんだ。深海棲艦の確固たる一個体との、厳密なやりとりだ」

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

「やりとり、ですか?」

「ああ、そうだ。互いの利益を勘案した上での、社会的な、打算的な、協力関係だ」

 

 どういうことなんだろう。敵を倒すために力をつけたのに、その力を失って、挙句敵と共謀する? 何をしているんだろう。

 

「取引とは、具体的に何をしたのでしょうか」

 

 磯波が問う。まあ確かに、取引とやらの内容を知らないことには何も言えない。

 いや、そもそも私の意見は求められているのか? 司令官(今は取調官か)は何を思い、そんな裏話を私たちに打ち明けているのか。ただの駆逐艦だという我々に。

 

「残念ながら、私でも詳しくは知らなくてな。……もたらされたのは艤装の凍結だと、聞き出したことがあるな」

「聞き出す……」

「聞き出す……」

「やっぱお前やばいわ」

「あの時、恫喝していたのは貴殿だろうが」

 

 あの時分の私に、そんな思い切りの良さはない。と、じゃあ今はあるんだということがわかる台詞を呟きながら、長門秘書艦は司令にガンを飛ばす。

 

「冗談ではない、私がそんな粗暴に見えるのか?」

「普段被っている猫が心底気に食わないんだ、私は」

 

 どこかで聞いたような話だ。叢雲は今、何をしているのかな。

 

「ああ、提督の隠蔽工作の話はどうでもよくてだな」

「酷くない?」

「『取引』について、私が知るのはここまでだ。あとは貴殿に任す」

「おう」

「司令官が、ですか?」

「なんだ不満か?」

「い、いえ! そのようなことではなく」

 

 そういうことではなく、ここまでの長門秘書艦の話でも、私達のような下っ端が知るにはぎりぎりの内容だったように思うし、それを伝える長門秘書艦の立場もかなり危ないのではないか?

 そしてここから話は佳境になろうとしているし(そんな気がするだけだけども)、そうなると余計身の危険を考えなくてはいけない。利益を勘案すべきは今じゃないかな。

 

「はは、そうか、まあ安心したまえ。今君達の前にいるのはただの取調官なのだ」

 

 機密情報を知っているな、とこの人は言う。

 なるほどな、殊更に「取調官」であることを強調すると思っていたが、機密を司令官として言うと問題になるが、そうでないなら平気だということか。

 乱暴では? とは思うが、こういう人なんだろうなぁ。

 

「そう気にするな。ここまで知ってしまったんだし、毒を食らわば皿までだ」

「勝手に拉致して勝手に秘密を叩き込んで、酷い話だな」

「私の武器は権力だからな」

「より酷い、非道い」

「非道いって……」

「どうでもいいが、皿に盛られた毒、というのはどうなんだろうな。律儀に丁寧に殺すという決意の表れなのだろうか」

「いや、料理に一服盛ってるだけじゃん?」

「この後の食事なのだが」

「今この流れで?」

「楽しみだな」

「今この流れで?」

 

 まあ長門秘書艦の仲良しジョークはこの際置くとして、確かに私たちは毒を飲むしかない。

 こんなことはもう慣れっこだけど、でもなんでこんな目に合ってるんだろうか。

 機密は機密として黙秘していてほしかった。

 

「おい、そんな顔するな吹雪。もっとにっこりしろ」

「お前のそのデリカシーのなさが、歴代の秘書艦に逃げられた原因なんじゃないか?」

「そういうの本人に直接言っちゃうお前も大概だぞ?」

「……」

 

 何も言い返せるわけなく、とりあえずにっこりしてみる。

 笑うのは得意だ。

 

「あ、やめとけ吹雪、ひどい顔だぞ」

「ひどい顔……?」

(吹雪ちゃん! “おいしい顔”なってるよ!)

 

 どうでもいいけど、私のおいしい顔とかいう素敵フェイスはそんなにヤバいの?

 

「司令官としていうが、その顔外でするなよ?」

「え? 司令官として否定されるほどの顔?」

「我が鎮守府のコンプライアンスがな」

「法令を害するほどの顔?」

 

 さっき司令官としての立場を放棄した人に、その立ち位置を返上する顔なのか。

 いっそ武器なのでは、と思わなくはない。

 

「おい、駆逐で遊ぶな。続きを話せよ」

「言葉強くない?」

「私は貴様以外の味方だ」

 

 悲しいなぁ、と呟きながらも話を元に戻す取調官。

 

「じゃあ続けるけど」

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

「まず取引がいつ行われたのかだが、正確にはわからなかった。まあそんなものは最初の娘が消えてから直ぐだろうし、重要でもなさそうだし聞かなかった。なに? 凄い剣幕で聞き出そうとしていた? それは内緒だって言ったろ! ……で、だ。気になる内容だが、これが難儀なものでな、ふざけているよ。人工神霊構築計画を知っているな? 艦娘が知らないと困るのだが……。吹雪? 目を合わせろ。そうだ、続けるぞ? あれは不特定多数の意識を利用している。りんごを見たら誰でもりんごだと認識するだろ、そういう『当たり前』という認知を現実とすり替えている。防衛軍はこれに目をつけた」

 

 多大な犠牲を払い戦艦系統の深海棲艦を捉えてこう言った。

 

「『ニンゲン』にしてやると、無防備な艦娘を海に流したからそれを使え、とな。深海棲艦はそれに乗った。内心どう思ったのかは流石に知らんが、それはもう一心不乱だったそうだ。まあ当然だ、その深海棲艦は防衛軍に表皮を剥ぎ取られていたんだからな。ともあれこれでようやく防衛軍のメンツは保たれる。対外的には最初の娘は『出撃中に戦死した』と言えるし、事実としては自身らの失敗を隠蔽し、味方だった者を殺しすことができたんだ。そして上手くいけばその深海棲艦を手駒にできると、奴らは浮き足だった」

 

 その深海棲艦を人工神霊構築計画に取り込めると目論んだんだ。

 

「方法としては、深海棲艦に最初の娘の皮を剥ぎ取らせ自らに被せさせる。そうすると内容物は敵だが、外見は艦娘である何かができる。そして防衛軍がソレを、ロストした最初の娘が見つかったと大々的に発表する。これだけで完成だ、お手軽にできあがる」

 

 そしてこれは実行されている。

 

「ふむ、深海棲艦を処分しなかったことが不思議か? なにせ自分たちが悪魔と呼んだものとの取引だからな、履行しない訳にはいかなかった。魂でも抜かれるとでも考えたんだろうな。とは言え防衛軍はこいつにも逃げられてしまう。ただ二の轍は踏まなかった、逃げられる前に艤装とのリンクを解除したんだ。『お前は失敗作だ』と告げることによってな」

 

 これが「艤装の凍結」のことだ。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

「それだけで凍結できちゃうんですか……?」

 

 色々と聞きたいことの多い話だったが、これを聞けば複数の回答も得られそうだ。

 なんか「気の持ちよう」みたいな話が多すぎる。

 

「ああ、そうだ。なんせ相手は深海棲艦だからな。肉体における比率が命より魂に寄っている。“言葉”に影響されやすいんだよ」

「……そうですか」

 

 本当に気の持ちようだったか。

 ん? そういえば「人工神霊構築計画」も魂の比率が高まる内容だったような。

 

「察しが良いな吹雪。そうだ、『人工神霊構築計画』とは深海棲艦と同一存在になると言うものだ」

「ちょっと待ってください……」

 

 司令官の話に割って入ったのは吹雪ではなく磯波だった。

 

「じゃあ私たちは、知らずのうちに、深海棲艦にされていたって、ことなんですか……?」

 

 磯波の眼は恐怖に染まっているが、それだけではない。

 仲間が危険に曝されている事実に怒りを抱いてもいる。

 

「誤解があるな」

「長門秘書艦? それはどういう?」

 

 今度は吹雪が答える。磯波は涙目で司令官を睨めつけていて話をできない。

 不器用な娘だなぁ。

 

「別に深海棲艦になる訳ではないんだよ。同じになると言うのは、そうだな、『神』になるとでも言うのかな」

「神に? いえ、しかし我々はすでに神とされているのでは……」

「それは認識上のだよ。私が言ったのは、本当に次元の高い存在になると言う意味だ」

「そうだな、誤解させて悪かったよ」

 

 種族が変わるんじゃなくてクラスが変わるってことなんだよ。とは司令官。

 

「艦娘登場前の兵器群が効かなかったのは、そこに原因がある。よくありがちな話だが、二次元上の存在は三次元の我々に物理的な干渉はできないな。それと同様のことが起こっていた」

「で、あるからその存在に合わせたんだ。歩み寄りと言うやつだな」

 

 なるほど、パワーアップが目的だったのではなく、同じ土俵に上がるための準備の意味合いが主だったとは、知らなかった。

 

「うん、話が遠回りせざるを得なかったが、簡単そうに凍結できたのはそのためだ」

 

 いいかな? 磯波。と確認をされる彼女は少しばつが悪そうだ。

 

「……はい」

「うん、ではいいね。で、そういうことがあった艤装だから必死こいて探してるんだ。海に艤装が浮かんでいるのを……本当に見てない?」

「ええ、残念ですが。お力になれず申し訳ないです」

「はは、構わないさ。難航するのはわかりきっていた。むしろその方が種々の雑務から逃れる口実になって好都合なのだがね!」

「今まで黙っていてやったが、その発言は軽々しくも国家反逆罪だからな?」

「内密に頼むよ」

「今の部分だけ書記をした」

「なんで?」

 

 ということで、取調べは以上だ。と二人は告げる。

 

 私たち二人は、やっと解放された喜びよりも、何とも言えない気持ちを抱き、その場を後にした。

 

 

 

 

 




話に矛盾が生じているかもしれないので、書き直したりするかもしれないです。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。
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