艦これーさざんかのようにー   作:アテネガネ

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8話

吾が忠誠に迷い無く、吾が同胞に狂いは無い。

 

 ■ ■ ■

 

 

 

「隊長殿! 乱心か?!」

「よく聞け! 目標は委員会所属第マルサン部隊だ。旗艦は翔鶴、気合入れてけ!」

「とんだ中隊に飛ばされちゃったな僕は……!」

「死にたくなければ無駄口叩くなよ!」

 

 本当は初撃で小破、欲を言えば中破くらいは狙ったが無傷とは恐れ入る。

 

「戦うつもりなら、最初から私達にも撃たせればよかったじゃない?!」

 

 天津風が敵砲を紙一重で捌きながら文句をたれる。ほお、重巡二隻を相手にやるじゃねえか。

 

「馬鹿野郎! 一発だけなら誤射かもしれねーだろ!」

「な訳ないでしょ?!」

 

 まあ本当に、「誤射でしたごめんなさい」して至近距離からぶち当てる算段だった。

 

 失敗したが。

 腕掴んでぶっ放したんだが躱された。あいつ体操選手かよ、バク転して避けたぞ。

 

「キミはそんなに考えなしだったのかい?!」

「は! 伊達に『叢雲』はやってなかったぜ!」

「ああキミは駆逐を経てたのか! 納得だよ!」

 

 どすん、と至近に戦艦の砲弾が突っ込み足元がぐらつく。おい、超近距離にお前らの旗艦もいるってのに危なっかしいな。同士討ちはしない自信があるってことか? 

 まあいい、いい波だ、乗らせてもらうぞ。

 

「ふっ」

 

 腹に力を込め体勢を整え、一気に至近弾の落ちた地点に駆け出しそのまま飛び跳ねる。戦艦の重い一撃があってこその芸当だ。まるでサーフィンだな。

 

「まあサーフィンしたことねーから知らんがな」

 

 サーフィンって飛んだり跳ねたりするっけか? とどうでもいいことを考え、そのまま刀を引き抜き、大上段に構え袈裟斬りに……。

 

「甘いですよ!」

「は? ……ぐえっ!」

 

 あと数瞬で獲った、というところで土手っ腹に一撃を貰う。この威力は重巡か。天津風を相手にしながらよくやるよ。

 砲撃の威力を殺せず海上に転がる。綺麗に決まったので全く立てない。

 気持ちワリぃ。

 

「さて、私たちも鬼ではありません。降参するなら考えもありますよ」

「……なんだその考えってのは。おぇっ、……パーティでも開いてくれんのか?」

「まずは名乗ってください。どこの所属のどの部隊ですか? 目的は?」

「はっ……、俺たちは迷子センターから来た。アナウンスが必要か?」

「……困った人達です」

 

 すっごい顔しかめられた。真面目ちゃんかこいつ?

 

「さて、と」

 

 困ったのはこちらだ。

 相手は翔鶴を旗艦に空母二、重巡二、戦艦二の重量級艦隊だ。燃料って概念はどうした?

 ガキどもは奮戦している。なら俺がいつまでも寝っ転がってる訳にもいくまい。

 どっこいしょっと立ち上がる。

 

「レギュレーション違反だと思ったんだが、どうにも仕方がねーな」

「……! 何かするつもりです。皆さん気をつけてください!」

 

 翔鶴の警戒は少し遅い。

 もう発射済みだ。

 

「けつ怪我すんなよ?!」

 

 俺が放ったそれは翔鶴の脚部艤装にドンピシャで突っ込んでいく。

 あとは起動するかだが……。

 

「甘い!」

 

 何度目だ。砂糖菓子かよ俺の攻撃は。

 今度も重巡の砲撃がぶち当たる。何でそんな精度高いんだよ。距離あんのに海中進むもんを撃ち抜くな。お前のツラ、覚えたからな。

 

「とは言えそんな至近じゃ、結局な」

 

 俺が放ったのは、さっき初春からがめた釘付き魚雷だ。それが翔鶴の直近で爆裂する。想像するだに恐ろしい。

 穴を増やしてやる。

 

「きゃ?!」

「おぉ……」

 よかったちゃんと作動したな。ん? 思ったより派手だなこれ。

 え、まじ? ちゃんと生きてる?

 

「ふははははっ! それは丹精込めたからの、威力は高いぞ?!」

「乱心してんのテメーじゃねえか」

 

 そもそも深海棲艦に釘とか効かないだろ。何を攻撃するのに作ったんだよ。殺すつもりはなかったんだ。

 

「かっ、はっ……」

「……」

 

 翔鶴を包んでいた爆煙は次第に晴れるがめっちゃ血塗れじゃん。

 深海棲艦には劣るが、一応艦娘も通常兵器は効かないはずなんだが……。艦娘の兵器として認識されてんのかこれ?

 

「さすが当代一のあらくれもの! 我らが天龍隊長じゃ!」

「やかましいぞクソ餓鬼」

「先程から……その口の悪さを極めんとする天龍は、横鎮ですか」

「酷い認識のされ方だなおい」

「嫌いです」

「あ?」

 

 普通に傷つくんだが?

 

「いきなり攻撃してるんだから、甘んじて受けるべきじゃ無いかしら」

「あまつテメー裏切ったな?」

「そも魚雷放っておいて殺すつもりもクソもなかろうに、嫌われて当然じゃな」

「まあ確かに」

「心情的に僕らはあっち側だよ?」

「お前もか」

 

 なんてね、とシニカルに時雨。

 こいつ、こいつ。

 

「お前、お前」

「語彙死んでるじゃないか」

 

 こいつ好き。

 

「お前には特別に特別なメニューを課そう」

「気が触れたのかな?」

 

 と、遊んでいると発砲される。

 出処は戦艦。あれは、武蔵? すげーのいるんだな委員会は。

 

「ちっ、お前らあんなの敵に回して正気か?!」

「好きで回してないが」

「冗談じゃねえ、死んじまうぞ!」

「お主のせいで、正にわらわは死にかけていたが」

「墓には何て彫って欲しい?!」

「大往生で頼む」

 

 武蔵の砲撃だけじゃなく、その他からも砲撃が飛んでくる。俺だけに向けて。

 

「ちょっと隊長! 引くべきじゃないの?!」

「ああ、ドン引きだ! 一対多とは恐れ入る!」

「隊長を曳航しながらじゃ巻けないわよ!」

「構うな! 全部避けっからよ! あ!」

 

 一撃貰う。めっちゃ痛え。

 

「くそ、今のは戦艦か。内臓飛び出るかと思った……!」

「ちょっと出てるぞ隊長殿!」

「ひえっ」

「両乳が!」

「ならいいよ」

 

 制服がダメージを肩代わりしてくれるのにも限度がある。

 ……早いとこ見つけねーと。

 

「それは困るよ!」

「何がだ時雨!」

「僕の手は二つしかない。そうなると手一杯になってしまうよ!」

「俺の先端を摘むな」

 

 餓鬼どもも攻撃してはいるが、いかんせん艦種の差がありすぎる。魚雷もいいが、さっきのを見るにぶち抜いてくんだろうな。

 

「もう一度問います。目的はなんですか?」

「言わなくてもわかってんじゃねーのか?!」

「知りません」

 

 本当にわからんならこいつはその程度の立ち位置ってことか? 

 

「はっ知らないってのは、所詮はマルイチ部隊加賀の出がらしってことか?!」

「……」

「いちいち地雷を踏み抜くなよ天龍」

「言ってるお前も中々だぞ摩耶!」

 

 そういや俺としたことが、自分の部隊に飽き足らず対敵してる部隊の紹介もまだだったな。

 まあ面倒だからしないが。

 

「ふん、狙いなんぞ分かり切っている。お前らが『ゆうれい』と呼ぶあの女を待っているのだろ?」

「おい武蔵、お喋りだな。俺がせっかく内緒にしてたのに、困るんだよ」

「うちの隊長を困らせた罰だ」

「……困っていません」

 

 そうだ。うちの秘書艦様からは大和の他に『ゆうれい』も捉えてこいと命令された。

 寝言か? と思ったが多分寝言だ。しかし妄言だとしても上官から命令されてはやるしかない。

 とはいえ半信半疑だった『ゆうれい』も、たった今武蔵が存在を証明したようなもんだ。ほんとお喋りだな。

 

「『ゆうれい』については我々委員会直轄部隊が責任をもって捕らえます。あなた方が手を出す問題ではありません。今すぐ拘束されてください」

「はっ、嫌われもんのお前らがか? 笑わせんなよ」

「過去の話です」

「いじめっ子ってのは出来事を勝手に昔のもんにしやがる」

「お? 身に覚えがあるのか隊長殿?」

「ちょっと黙ってろ」

 

 あとで遊んでやっから。

 

「天龍、お前も困った奴だな。なあ忘れたか? 私は昔お前を鍛えてやった『天龍』だよ。ここは私の顔を立てるつもりで引いたらどうだ?」

「あー……思い出したよクソ野郎が、忘れたわ! 何が鍛えるだ、体罰の勘違いだろ!」

「私の気持ちは通じてなかったか?」

「虫酸がダンスしてる」

「気が変わったぞ!」

「なんだよ突然」

 

 初春が叫び出す。情緒どうした、不安定過ぎんだろ。

 

「さっき隊長のことを嫌いで統一したわらわ達だが! 隊長を虐める輩は許さん! 助太刀致す!」

「最初からそうしろ」

 

 トータルで言えば、俺の方が割と酷いこと言い続けてるからな。あと別に虐められてねえ。

 

「理由も告げず艦娘を攻撃しろ、と言われた時は魚雷で転がそうと思ったが! それも気が変わった!」

 

 それは済まんと思うよ。てか、じゃああの釘は俺用だったの?

 

「我ら鉄砲玉! その噂に違わぬぶち込みっぷり、見せてくれるわ!」

「無茶すんなよ」

 

 何するつもりか知らんが、お前らの攻撃全部無効化されてんじゃん。結構練度高い奴らなんだけどな。

 

「吶喊!」

「やめろぉ!!」

 

 攻撃効かないって言ってんだよ!

 そういう場合は大抵相手の攻撃は問答無用で突き刺さるもんで……だから吶喊って自殺みたいなもんだぞ!

 

「ふはは! 心配めさるな隊長殿! 吶喊の術は深雪直伝、プロ仕込みじゃ!」

「……不安が高まる!」

 

 間に合うか? いかれ狂った初春と敵艦(悪い事に戦艦に向かっていきやがった!)の間に滑り込もうと俺も突っ込む。つーか他の奴らも止めろよ……。

 

「あ? お前らも突っ込んでんのかよ!」

 

 なんてこった。狂気は伝播するらしい。俺の中隊メンバーだけでなく時雨まで……。

 なんてやってる間にも敵の砲撃は降ってくる。

 

「何やってんだ俺は。明日は有給だな」

「はっ、明日を気にする余裕があるか?」

 

 武蔵お前の台詞、結構悪役だぞ?

 

 はー、こういうの他の奴らなら考えあって吶喊するんだろうけど、俺の中隊じゃ期待できねーな。

 

 俺とガキどもはあと一息で敵戦艦とインファイトする距離だ。さてこの距離に近づきようやっと気づいたが、こいつ「霧島」か冗談じゃねーぞ。ヤの字も真っ青の暴力装置じゃねーか。

 ああ、もう一つ気づいてしまった。俺もこいつらに中てられたのか、それとも俺の教育の影響がここに来てフィードバックしたのかは知らんが、俺まで考えなしに突っ込んでるのを今更自覚する。

 南無三。

 

「そこまでです」

 

 お淑やかな暴力がやって来た。

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 さて、ついに駆逐がぶつかるといったまさにその時、待ったをかける者が現れる。

 

「クソが、待ちわびたぞ」

「……ここで現れますか」

 

 現れたのは、叢雲の言うところの仮称大和だ。鶴の一声、とはこのことか。マルサン部隊の攻撃はピタリと止んだ。

 助かった、と思ったがこいつが消えなきゃこんな事態にはならなかったと思い至り死ねと思う。

 

「死ね」

「助けたはずですが……」

 

 うるせえ死ね。

 

「そもそも隊長がもっと作戦を立てればこんな事にはならなかったんじゃないの?」

「やめろあまつ。俺に作戦を考えろってか? 俺の脳味噌はなあ、砲に詰めて敵にくれてやったんだよ」

「重大事案じゃない」

「やめるんじゃ天津風。隊長に言語はまだ早い」

「俺は新生児か何かか?」

「脳味噌がないんじゃ受精卵あたりかな?」

「時雨お前」

「ふふ、冗談だよ?」

「好き」

「なぜじゃ?」

 

 死にかけてたが何とか助かった。ノープランは今後控えよう。

 

「貴女が横鎮の言うところの仮称大和ですね?」

「ええ、そうです。ご挨拶が遅れてしまいすみません。私が、仮称大和です」

「ほう、お前が。妹の私に免じてここで捕まってはくれないか?」

「残念ですが遠慮させていただきます」

「即答か、つれないな」

「何をしにこんな所までいらしたんですか?」

「お答えできません」

「行きません、話せませんたあどういう了見だ?」

 

 摩耶がキレる。こいつ気ぃ短すぎだろ。

 

「隊長もじゃが」

 

 ちょっと黙ってろ。

 

「おいおい、横鎮じゃあ口聞かないのが礼儀なのか? あ?」

「私がここにいる事に理由はあります。ですがそれ以上を誰にも話すつもりはありません。礼を失した行いだと恥じております。しかし……」

「その態度気に食わねえな」

「おや……」

「礼儀正しくお断りすりゃいいと思ってんのか? それともあたしの気をざわつかせんのが目的か?」

「どちらも違います」

「はっ、良い子ちゃんすんのは大変だなぁ! 大変そうだから、……ここで終わらせてやるよ!」

 

 委員会ってとこは何なんだ? どいつもこいつも台詞が一々悪役寄りなんだよ。

 

「死に晒せ!」

 

 せっかく攻撃をやめたと思ったのに、摩耶の発砲を皮切りに攻撃が再開する。

 

「天龍さん」

「え、何?」

「助けてください」

「ん?」

 

 何言ってんだこいつ。俺が天下の大和の助力だと? 屁の突っ張りにもなりゃせんぞ。それとも俺の事をハエ叩きか何かかと思ってんのか?

 

「まあ、飛行機くらい潰すけどよ」

「そうではなくて」

 

 丸腰なんです、と大和。

 

「お前よく出てこれたな!」

 

 そういやこいつ出現した時もすっぴんかんって話だったな。服着てねえ事しか頭に入ってこなかったが、そりゃ服着てなきゃ艤装もないか。

 

「ピンチかと思いまして……」

「今も変わらずな!」

 

 むしろ介護者が増えてよりやばい。介護認定降りてくれ。

 

「皆さん! 目標は『仮称大和』です! 他は放置でも構いません、優先順位をお忘れなく!」

「放置してくれんのは有り難いが、こっちはかまって欲しいんだよ!」

 

 叢雲の話によりゃあ、この仮称大和とか言うやつは艤装や制服が無くても装甲自体は判定として存在してるらしい。駆逐の砲撃じゃビクともしなかったみたいだしな。

 だからほっぽっといても良いかっつーとそうでもない。相手には武蔵がいる。とにかくどうにかしねーと。

 

「おい大和! これ持ってろ!」

 

 俺は大和に向けて刀を放る。丸腰よりかは気も休まんだろ。

 

「ありがとうございます」

 

 受け取りそのまま砲撃を叩っ斬る。曲芸か?

 

「初春、時雨! 大和のてっぺん守ってろ!」

「「了解!」」

 

 対空はまあ二人いりゃどうにかなんだろ。弾は手前で勝手に処理出来るようだし。

 

「あまつは俺と暴力だ!」

「言い方!」

 

 対艦はちっと厳しいがやるっきゃねえ。まずは武蔵から潰す。

 

「ほう、私が最初か? 腕が鳴るな」

「あんたをやりゃあ、大和も安心するんでね」

「そうか、光栄だな」

「ああ、光栄に思いな。俺が伸してやるんだからよ!」

 

 最初、なんてこいつは言うがわざわざ一対一(本当は二対一だが)に持ち込む道理はなく、当然他の奴も俺たちを狙う。大和をやりつつ、片手間で俺たち。

 ……なんかシャクだな。

 

「少しはやるようになったみたいだが、まだまだだな」

「うっせえ! テメーも乳晒せや!」

 

 刀が無い分手持ち無沙汰でいけない。今更胸抑えんのも逆に恥ずかしいし……。殴るか?

 

「隊長! 胸は押さえた方がいいんじゃないかしら?!」

「は? ……お前まさか思春期か?!」

「そうじゃなくて!」

 

 邪魔じゃないの、と言われ確かにそうだなと思う。服が無い事がこんなに不便だとは思いもしなかった。

 

「くそ! こんな事なら時雨を付けときゃ良かった!」

「良くないわよ!」

「バルジの代わりにもなったのにな!」

「さらっと怖い事を!」

「おら!」

 

 組み付く。武蔵の砲はそれはもう強烈で、近くで発砲されるとそれだけで死にそうだ。だが死にそうなのを我慢すれば近づく事は容易い。

 

「そう簡単に接近されると教示が傷付くのだがな」

「はっ、後輩の成長を素直に喜べクソゴリラ」

「そうかじゃあ祝福してやろう」

 

 武蔵から右の拳が飛んで来る。

 肉弾戦。こうなりゃ艦種なんて関係ない。

 上体を後ろに反らしそのまま蹴り上げる。

 

「温いぞ!」

 

 嬉しそうに俺の攻撃をいなす。

 ……こいつのこういうとこが嫌いなんだよ俺は。

 

「相も変わらず、暴力好きだなテメーはよ!」

「切羽詰まってやる事が格闘技なお前が言えたことか?!」

「師匠の教えでな!」

「言いつけを守るとは良い弟子だ!」

 

 お互い殴る、蹴る、頭突く、引っ張る叩く抓る転がす……何でもござれだ。

 

 はー、本当やだ。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 膠着、と言った様相だ。数分は殴り合ってるが決定打が無い。

 俺は武蔵の影に隠れる事で他の奴らの弾を避けている。

 大和の方もガキどもが空母二隻の攻撃をいなせている。弾は大和が正確無比に切り落とす。俺の刀って斬鉄剣だったのか?

 

 ごす、ごすと暴力が音を立てている。俺の体は楽器じゃねーんだよクソが。

 

「だらぁ!」

 

 鳩尾よ死ね。貫く気持ちでぶち抜く。

 

「攻撃が真面目すぎる!」

「じゃかーしい!」

 

 真面目、良いだろ。真面目が馬鹿を見ちゃいけないんだよ。

 武蔵は俺のストレートをその身で受ける。余裕ってか? 本当イラつくな。だからもう一発。

 

「せぃ!」

 

 肝臓よ死ね。二度と飲酒できなくしてやる。

 

「ははは! 力も、速度も、何も届かないぞ!」

 

 うるさいじわじわと死ね。

 

「はー、くそったれが!」

「悪態を吐くだけでは変わらないと教えた筈だが?!」

「忘れたわ!」

 

 これリバーブロー効いてねーな。格が違うって事か。

 膠着なんて言ったが正直盛った。すでに遊ばれてる。

 

「困るんだよ。俺は今日ここまで良いとこが無いんだ」

「貴様の不出来を私になすりつけるなよ」

 

 そりゃそうだ、お前は悪くねえもんな。でも死ね。

 

「こんなに死ねと思いを募らせてんだ。弟子の気持ちに応えろよ!」

「お前も捻じ曲がったな」

「素直なだけだクソボケが!」

 

 顔を狙ったストレートをギリギリで躱しこっちも顔を狙う……、が避けられるからこれはブラフ。本命は膝。砕けろ膝蓋骨!

 

 俺たちは互いに近過ぎて、砲を撃つとその余波でただでは済まない距離にある。

 だから砲で打つ。

 

「っらあ!」

 

 俺は艤装を引っこ抜き、それで膝をぶっ叩く。ひしゃげろ半月板!

 

「ぐっ!」

「やった死ねぇ!」

 

 思わず喜ぶ。

 

「舐めるな!」

「ごほっ!」

 

 武蔵は砕いた膝で俺の腹を蹴る。いや砕けてねーなこれ。

 

「おい……、鉄で殴られたら再起不能になれよ」

「大和型がそんな事で沈むか」

「沈めよ」

 

 効かなかったが艤装を持った事で手元が寂しくなくなったから調子が良い。長物じゃないのは残念極まりないがいけそうだ。

 

「喧嘩に道具とは感心しないな!」

「天下の大和型が、みみっちい事言うんじゃねーよ!」

 

 艤装を持ったが、結局殴る、蹴る、頭突くと最初に戻る。やってられっか。

 終いにゃ顔を掴まれる。ふざけんなよ。

 

「喧嘩を始めたらそれしか見えねえ単細胞脳筋が」

「お前もだ、天龍」

「俺は違うぞ」

「何?」

 

 言いながら武蔵の顔を蹴り飛ばし、その勢いで後ろに転がる。

 良かった、顔千切れてないな。

 

「俺は戦いの最中に仲間を忘れた事はねえ」

 

 どん、と腹に響く音が鳴る。

 ずっと殴り合ってたせいで脳筋クソ野郎の武蔵は忘れてたみたいだが、俺には天津風がいる。駆逐の魚雷は強烈だ、お前らの旗艦もまだ血塗れだしな。お前もあとを辿れ。

 

「でかしたあまつ」

「本当は隊長も忘れてたんじゃないですか?」

「本当はな」

「ちょっと……」

 

 冗談だ。

 

「ちゃんと殺したか?」

「殺すわけないでしょ! 威力絞ったわよ!」

 

 ……冗談だ。

 

「おっと……!」

「きゃ!」

 

 砲撃が飛んでくる。武蔵は転がしたが、そういや敵はあと五人もいる。

 

「まだ良いとこ無いが、あと五回分も猶予がある」

「そんなのいいからもう帰りたいんですけど……」

「悪態吐くだけじゃ変わらないらしいぞ」

「もうやだ」

 

 どんどん行こうぜ。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 切った張ったを繰り返し、初春が弾切れ、天津風は大破。俺と時雨も中破以上。大和は流石の無傷ときた。こいつ何なん?

 

「だがここまできたな」

 

 損害多数だが、戦果も多い。

 武蔵のあとには片割れの空母と重巡、霧島を張っ倒した(ここで紹介するがもう一人の空母は蒼龍、重巡は高雄だった)。

 翔鶴は旗艦を務めるだけあってしぶとい。あと摩耶は根性で耐えてる。凄い。

 

「摩耶さん、まだいけますか?」

「……いけるに決まってんだろ、死んでも食らいつくわ」

「いやそろそろ退けよ」

 

 俺が言えた義理じゃねーけどなんだこの執念は。こえーよ。

 

「貴女たちが退いてください」

「断る。お前ら大和拐うだろ」

「……その者の正体を知っての行動ですか?」

「知らねーよ大和だろ」

「深海棲艦です」

「……」

 

 瞳孔鋭く、返す言葉も出てこない。

 そして翔鶴は大和を睨め付ける。

 

「ここに来た目的は何ですか?」

「お答え出来ません」

「沈んだ艦娘から艤装を剥ぎ取るためです」

「何?」

「その、『仮称大和』と名付けられてしまった深海棲艦は、過去に沈んだ艦娘の艤装を奪い、完全に成ろうとしている。そして沈んだ艦娘とは初代艦娘、最も強き者です! そんな艤装を背負った深海棲艦を、貴女は止められますか?! 犠牲なくしては不可能です! ならば私たちは! それを未然に防がなくてはならない!」

「こいつがか?」

「必ず殺します」

 

 それは、どっちがだ。と言いたかったがやめた。どっちもだろう。

 

「武蔵、いつまでそうしているのですか? 貴女は志願してここにいる筈です」

 

 無駄だ。武蔵はもう……。

 

「……怒られるとは、思わなかったな」

「……寝てろよ」

 

 手加減したとはいえ、模擬弾でもねえ魚雷ぶち当たってんのに立ち上がるなよ。

 

「おい大和、逃げるぞ」

「私は残ります」

「ざっけんな、俺のガキどもが死にそうなんだよ。退くぞ」

 

 このまま続けると確実に死者が出る。

 くそ、もっと軽い任務の筈だったぞこれ。

 こいつらと会敵しても、適当にいなしつつ大和かゆうれいを捕らえて撤退。何でこんなに血を見てんだ?

 

「普段の行いのせいじゃの……」

「くたばれ」

「まさに死にそうじゃが」

 

 俺の言葉に突っかかる気力があるなら平気だな。

 

「私の行いは私が決めます」

「あーそうかいそりゃ殊勝な心がけだな。俺もあやかるよ。だから一緒に来い」

「駄目です。行けません」

 

 言ってると発砲される。武蔵の砲だが威力が低い。大分参ってはいるみたいだが厄介だ。

 

「テメーも強情だな、俺が来いって言ったら『はい』『行きます』の二つ返事がルールなんだよ」

「無茶苦茶ね……」

「天龍さん私は……」

「はー! お前が帰ってこねーと叢雲が悲しむって言ってんだよ! やりたい事が有るのは大いに結構、でもちったあ周りも見やがれよ!」

 

 俺の言いに大和は無表情を返した。気に食わねえからケツを蹴っ飛ばしたら、わかりました。と今度は苦笑いを返した。

 

「最初からそう言え。……おら鉄砲玉ども、煙幕展張、ずらかるぞ!」

 

 翔鶴らはもちろん承諾してくれない。顔が怖い。武蔵に至っては天津風が伸した時より目がギラついてやがる。

 どいつもこいつも大和を見ている。見ているが、その視野狭窄が運の尽き、突如翔鶴は横っ飛びに転がっていく。見事な回転で芸術点がとても高い。

 下手人は……。

 

「深雪スペシャル!!!」

 

 決めポーズが眩しいな。

 




摩耶さま……好き……
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