艦これーさざんかのようにー   作:アテネガネ

9 / 9
長門秘書艦から大和捜索を命じられた天龍。彼女は隊を引き連れ委員会直轄領へ赴く。そこで対峙するは翔鶴を筆頭とする委員会所属のマルサン部隊。切った張ったの大一番、手にするは釘、掴むは仲間の絆、取り零したるは敵の命(たま)。突っ込んで来た鉄砲玉は勝利の女神を呼び込むか?


9話

 

 この世はクソをクソで固めてクソで煮込んだクソ。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 ここだ。

 突然の出来事に数瞬の硬直もしなかった俺は褒められて然るべき。

 

「初春!」

「任された」

 

 初春に呼び掛けるとまさに阿吽。用件を聞かずとも大破した天津風を抱えて走り出した。

 

「時雨は全部ばら撒いてけ!」

「魚雷ってことでいいのかな?」

「撒けるんなら何でもいい!」

 

 目を眩ませろ、深雪の事は気にすんな。多分避ける。

 

 言うまでもなく時雨は遠慮無く攻撃する。と同時に深雪は射線を外れるため弾けるようにすっ飛んだ。駆逐同士通ずるものがあるのだろう。

 

「この程度でどうにかなると思っているのか?!」

 

 武蔵が吠え、魚雷を踏み抜く。

 

「酷いな、僕一生懸命やってるのに」

 

 羽虫でも叩くかの様に時雨の攻撃をいなす。手負いとはいえ栄えある大和型って訳だ。

 でもなあ、足元ばっか見て不用心が過ぎないか?

 

「よお、第二ラウンドと洒落込もうぜ!」

「……!」

 

 武蔵は魚雷の道筋を目で追っていたため海中に注意がいっていた。流石に今の状態じゃ、魚雷は致命傷か?

 ざまあねえ、脳天カチ割ってやる!

 

「お前の相手などしてられん!」

「あ?! つれねえなあ! せっかく会いに来てやったんだ、感涙に咽べや!」

 

 俺は武蔵の頭にかかと落としをくれてやった。顔には出さんが堪えたみたいだなぁ、ふらついてんぞ!

 

「はははははっ! ついに! 響いてきたなぁ!」

「くそが!」

「悪態ついても変わんねぇぞ?!」

 

 頭上からの衝撃に、姿勢を落とす事で耐える武蔵。半身(はんみ)だ。

 俺は武蔵の右の太腿を右の足で踏みつけ、体を回す。

 

「死ねおらぁ!」

 

 ふと、俺は何をしてるんだ? と正気に戻った。なぜ気軽に肉弾戦してんだろう。

 かんむす? なんですけど。

 

 ただ、ここまで来て体は止まらない。気持ちも。蹴り抜け。

 

「どっせい!」

 

 顔面に、回し蹴り!

 

「ぐぅ……!」

 

 俺の勝ちだ。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 逃げ切った。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 脱兎の如く駆け抜けた俺たちは、現在横鎮が掌握している海域まで戻る事が出来た。

 

「何で深雪様が怒られる?」

「ふんっ!」

 

 深雪が翔鶴を何らかのプロレス技で転がした後、脅威を排除して俺たちは一目散で逃げ出した。

 初春に、「お前はあんな事をしようとしてたのか?」と問うと目を逸らされた。

 できない事を土壇場でやろうとするな。

 

「おいところで結局俺の見せ場無かったぞ、どうしてくれんだ?」

「……武蔵倒したじゃないですか」

「あれはお前のスコアだろ」

 

 あまつが弱らせてたし、いいとこ取りだったな。

 いまいちパッとしねーんだよ今日の俺。

 

「なあ吹雪、深雪様は悪いことしてない筈なんだが? おかしいよなこれ」

「しばくぞ」

「ひょえー……」

 

 こいつらは吹雪哨戒班だが、深雪だけが先行して来てたらしい。そんでこれ。吹雪がブチ切れてる。

 深雪は深雪スペシャルするのが好き過ぎて冒険し過ぎる。吹雪の心労は凄そうだ。

 

「ところで皆んな無事で良かったよ。怪我はないかな?」

「どっからどう見ても満身創痍なんだが、目ん玉にカビでも生えてんのか?」

 

 俺の横からひょっこりと顔を出すこいつは古鷹。叢雲のタレだから多分紹介されてんだろ。省くぞ。

 

「あはは、え?」

「隊長殿、此奴からしばくか?」

「待て、目が腐ってるんだ。労ってやれ」

「見えてるよ?」

「見えててなおその暴挙」

「無謀な事する子達はお仕置きだよ」

「! そうじゃ、もっと言ってくれ!」

「テメー裏切ったな?」

 

 好きで暴れてた訳じゃねえんだよ。偉い奴から無茶振りされての今なんだ。

 俺は悪くねえ。

 

「隊長ー、怪我は無かった?」

「脳細胞死滅してんのか? ズタボロだっつってんだろーがよ」

 

 こいつは島風。営巣が住処になった筈だが出てきてしまったらしい。つーかそれならもっと早く出ろ。何一人安全圏にいやがる、一緒に苦しめよ。

 さて、島風の裏切り野郎は置くとして、俺たちは吹雪哨戒班に救助されたらしい。まあ古鷹と島風を足した混成メンバーではあるが。叢雲はどうした?

 

「おい吹雪、危ない女は居ないのか?」

「叢雲ちゃんのこと危ない女って言うのやめてください!」

「俺はあいつと会ったら飴玉くれてやるのが日課なんだが、いないとポケットから溢れちまうぞ」

「こらこら天龍、おやつは300円までだよ?」

「300円分の飴って相当だぞ?」

 

 時雨……。いや時雨と古鷹喋り方被ってんな。わかりにくいんだよダボ供。

 

「よし、お前ら今から殺し合え。勝った方だけが言葉を操れ」

「歴史漫画の織田信長みたいだね」

「歴史漫画の織田信長ヤバい奴だなそれ」

「だいたいそういうキャラ付けされるよね」

 

 おい、本当にどっちが喋ってんだよ。

 

「どっちでもいいですが、報告書をあげるので経緯の報告をお願いします」

 

 話をぶった斬られた。

 吹雪もたくましくなったな。昔はイ級が鳴くだけでビビってたってのに、今じゃ哨戒班の班長か。

 

「お前も偉くなったな」

「隊長、吹雪に隊長の絡みは刺激的過ぎます。控えてください」

「あまつ俺に厳しくない?」

 

 こいつのメンタルなら、俺の軽口くらい鼻ほじりながらでもいなせるだろ。

 

「大和が消えたから探してたんだよ俺たち。無謀だよな、なあ大和? あ! 痛たたたっ! 大和?! これ骨折れてるわー!」

「唐突に当たり屋」

「そういうところが嫌われる要素だよ天龍」

「今日当たり強いなお前ら」

「当たり屋だけに?! ねえ?!」

「島風……」

 

 IQの低いお前だけが俺の癒しだ。

 

「今日はミニ四駆してもいいぞ」

「本当?!」

「ああ、クラッシュギアもだ」

「あれは遅いからいい」

 

 天龍さん、と吹雪にせっつかされる。そう慌てるな。

 

「まずお前はどこまで聞かされてる? 長門には雑に言い渡されたが、多分機密とか含んでる筈なんだよなこの任務」

 

 は?! と声が上がる。魚でも……魚は鳴かないんだったな。

 

「そういう大事な事はちゃんと言ってください!」

「あまつ、聞こうが聞くまいが大差ないだろ」

「心持ちというものがあるじゃろうて」

「何だよ、機密ならやる気出てそうじゃないなら流そうって魂胆か? あ?」

「それは言ったほうがいいよ」

 

 古鷹に怒られる。

 くそ、俺より位の高い奴がいるとやり辛いな。適当に煙に巻かせろよ。

 

「……大和さんのことは、まあたくさん聞きました。他の事はわかりません」

「なら良いか、全部教えてやるよ」

「なあお前らんとこの隊長雑じゃね?」

「うむ」

「うむじゃねーよ聞こえてんだよ罰走」

「……変わった語尾じゃの」

 

 罰走は語尾じゃねえ。

 

「そもそもここに派遣されてるって事は、まあ事情に肩まで浸かってるってことだろ。良い湯加減だったか?」

「のぼせそうです」

「結構」

「吹雪? 深雪様は何も知らないんだが」

「深雪ちゃんは耳に魚雷でも詰めてて」

「冷たくない?」

「……深雪が悪い」

「初雪居たのか」

 

 文字でしか表現できないのだからさっさと発言してほしい。困るだろうが。

 

「おい初春、釘魚雷貸してやれ」

「あれは人に向けるものではない」

「俺を打つために装備してたんじゃないのか?」

「そんな訳あるか」

 

 なんだ、被害妄想だったか。

 

「翔鶴を狙った時は正直ちびった」

「ノリノリだったじゃねーか」

「滅相もない」

「つーかお前ら敬語はどうした? 礼儀作法は錆びついたのか?」

「え、今更?」

「できてんのはあまつと吹雪だけじゃねーか」

「……私は?」

「あ? 初雪、違うってんなら証明しろ」

「……天龍さん」

「おう」

「賄賂です」

「合格だ」

「天龍も敬語しないよね?」

「馬鹿言え、艦娘に序列なんぞありはしねえ」

「脳に支障があるみたいだね……」

 

 毎日龍田が整備してるから心配すんな。

 

「なあ、ところで何で天龍さんはトップレスなんだ? あと深雪様も敬語できるぞ」

「できるならしろ」

「あ!」

「どうした時雨」

「さわっ」

「摘むな」

「君たち自由だね」

 

 本当だよ、もう古鷹が仕切ってくれ。俺じゃ進まん。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

「じゃあ私が進めてくね? 吹雪ちゃん、いいかな?」

「あ、はい。お願いします!」

 

 吹雪ちゃんは礼儀正しいね。叢雲もこのくらい、……叢雲はあれだから可愛いのでまあいいよね。

 

「実は私も仮称大和については大体のことは教えてもらってるんだ、それで大和さんは何をしにここまで来たのかな?」

「……お教え出来ません」

 

 おうおうてめー、と天龍が威嚇する。こら、やめなさい。

 

「隊長が普通に怒られてる……!」

「しゅんとしたの……」

 

 大和さんは答えられないそうなので天龍にも同じ事を尋ねる。

 

「あ? ……まあマルサン部隊の奴らはゆうれいの艤装を剥ぎ取るためって言ってたな」

「そうなるとやっぱり困るよね」

 

 懸念すべきは仮称大和の離反だ。そもそも横鎮に、というより人類に与しているのか? という疑問もあるけど。

 

「大和さん、そういうことであってるのかな?」

「……」

「……おい大和、摩耶じゃねーけど、ここまできて話せませんはちっと困るぞ」

「私は……あの」

 

 言い淀む。

 はて? 仮称大和が艤装を探している事は、それなりの役職を持っている人には周知の事実(らしい、って事しか私も知らないけどね)。今更隠す事でもないんじゃないかな。

 

「……はっ! 大和さん? もしかして」

「深雪さん、違います」

 

 何かを察知したのか、大和さんは深雪ちゃんの発言を遮って否定する。

 

「叢雲探しに来たのか?!」

「違います」

「なにっ」

 

 ここに来て行方知れずの叢雲を探してた? 嘘でしょ?

 

「この表情、間違いない! 叢雲好き過ぎウーマン大和! 見破ったぞ!」

「まじ? 大和お前まじ?」

「違います」

「そりゃ言いづらい訳だわ、叢雲探しにこっそり出てきたら俺らが修羅場してんだもんな。それも一部お前を巡って。そりゃ言えないわ」

「違、やめてください」

「やだ、照れてる……」

 

 照れてる……。やだ、何これ。

 

「ふーむしかし流石じゃ」

「ん? 何がかな?」

「天龍隊長が何百文字かけても聞き出せなかった大和殿の目的をこうもあっさりと」

「気軽にディスってんじゃねーぞ」

 

 そんなことよりも、そんなことよりもだよこれは。本当に叢雲を探しに来ていたのだとしたら問題だ。いや、問題か?

 

「大和さん、正直に答えてください。叢雲を探していたんですね?」

 

 はいかいいえで答えさせるのが手っ取り早いだろう。クローズドクエスチョンと言うらしい。叢雲から教わった。

 

「いいえ……。あ、はい……」

 

 天龍が凄く睨んだら折れた。質問方法とか関係なかったね。

 ……叢雲を探していたのか。でも何で? いくら叢雲が可愛いからといって、会って間もない大和がここまでするのか? 

 

「他にも何か隠してんじゃねーのかああ?!」

「……叢雲さんを探しつつ艤装も探してました」

「どっちがおまけなのかなそれ……」

 

 ここまでさせる何かが叢雲には有るのだろうか? わからない。正直あの子の事は時々わからなくなる。

 私の知らない叢雲。悲しいけれど確実にそれはいる。会いたいなぁ。

 

「じゃあ天龍さんのところに出て来たのはどうしてかな?」

「偶然です」

「偶然で火花バチバチの鉄火場にひょっこりする奴があんのかああ?!」

「ヤの字じゃの」

「叢雲ちゃんがそこにいたんですか?」

「……いえ、あの」

 

 吹雪ちゃんが問う。この反応は良い線いってるのかな。天龍が追撃する。

 

「歯切れ悪いなぁ、そういう時はなんか隠してんだろ?!」

「ふふん! 深雪様は気づいちゃったぞ!」

「ほう、言ってみろ!」

 

 何だろ。

 

「天龍さんは昔叢雲だったから勘違いしちまったんだ!」

「んな訳あるか」

「……」

「うそ……」

 

 うつむいちゃった! そんな事ある?

 

「か、艦の魂はそれぞれ独自の色をしています。私はそれが見えて、遠くから、あの……」

「しどろもどろじゃねーか」

「可哀想になってきたね……」

 

 艦の色。知らない何かだ。天龍は数年前まで叢雲だったからそれで誤認した、ということか? 遠くからと言ったがレーダーの役割を果たすのだろうか? 

 

「それほど便利なものではありません。目視出来たものだけ見えるのです」

「なるほどな、俺の存在感がバリ目立ちしちまった訳か」

「悪目立ちじゃなくてかい?」

「ちげーよ」

「不覚でした」

「なんとなく失礼じゃねーかそれ?」

「艤装も叢雲も何処にいるのかわからないけど」

 

 とりあえず休もうか、と小さく見えてきた鎮守府を指差し、私は提案する。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

「では吹雪、報告頼むよ」

「は、はい!」

 

 私は、天龍さんが混ぜっ返して古鷹さんがまとめた内容を報告する。司令官に……。

 

(何で私が報告するの?)

 

 いや、報告すること自体に文句は無い。問題は何故司令官なのか? という点だ。

 トップがわざわざ報告を聞きたがるな、部下に一任しておいてくれ。と内心愚痴る。

 

「そう緊張するな」

 

 長門秘書艦は普段の調子で私をあやす。まあ、あやすと言っても判子を押しつつ司令官をど突きながらなので言葉だけだ。

 そして司令官の部下が報告を聞くとしてもそれは秘書艦ということになるのでどちらにせよ緊張は……。

 いや、そうではなくて、もっと下の、事務の人ではだめだったのだろうか?

 

「おい」

「ひえっ」

「怖がらせるな!」

「痛えなくそ! ……お前が私の太腿に打撃を加えるからそれに怒ってるの! お前が止めれば解決するの!」

「ならば仕事をしろ」

 

 秘書艦には秘書艦専用のデスクが与えられているが、そちらはもぬけの空だ。長門秘書艦は司令官の隣に座っている。

 隣、ゼロ距離だ。

 

「判子押すのに何でいちいち肘が入るんだ?! 凄く痛い!」

「秘書艦業務は身体が鈍るからな」

「なるほどな……、あ! では床に用紙を置いてスクワットしながら押したらどうだ?!」

「それでは貴殿を叩けない」

「叩かないで!」

「仕事をすればな」

 

 付き合ってるのかなこの人達。

 

「ああ、済まない吹雪。報告してくれ」

「はい……」

 

 言いたい事は多々あったが、ただの駆逐が言うのは憚(はばか)られたのでやめた。

 詳細を素早く伝えた。早く逃げたい。

 

「なるほどね、大和は艤装を探してたか」

「どちらかと言えば叢雲を探していた様に感じたが?」

「それについてはどちらでも構わないんだ。……それで見つかったのかい?」

「貴殿は人の話をよく聞け。無かったと言っているだろう」

 

 記憶喪失か? と辛辣な長門秘書艦。まあ確かに、せっかく報告したのに聞いてもらえなかったとなると悲しい。

 

「そんな訳あるか」

「ではパワハラか?」

「そんな訳あるか! そうではなくて、大和が探したのだから何か見つかるのが道理だろ。あそこまで個が保たれた艦だ、貴様ら艦娘の『姉妹』の様な関係性が大和と最初の艦にはあると踏んでいるのだ」

「貴殿……」

「お、関心か? 照れるなぁ私の鋭い洞察に仰天しちゃったか」

「無理して私達を貴様と呼ばなくていいぞ」

「やめてよ!」

「威厳が無いのは分かるがな……」

「憐れまないで!」

 

 何かコンビニで店員同士が仲良くしてる時の居心地の悪さを感じる。正直帰りたい。

 

「あの……本当に何も見つからなかったんです」

「やはり……」

「そのやはりは私を憐んでのやはりだな?! 許さんぞ!」

 

 帰っては駄目だろうか?

 

「吹雪、命令を出す」

「え、あ、はい!」

「あれ? それ私が言う台詞じゃない?」

 

 長門秘書艦は司令官に構わず続ける。

 

「おそらく大和は今後も脱柵を試みるだろう。その度に捜索して『ハプニング』が有っては堪らん」

 

 委員会との接触は『ハプニング』とするらしい。まあ確かにハプニングだが、それで済むとは思えない。何らかのペナルティが課せられるか、天龍さんは軍事裁判なのではないか?

 さっきの今なのでまだ事は動いてないが、天龍さんは無事なのだろうか……。

 

「そこで定期的に大和を連れて哨戒をしろ。燃料は嵩むが……、まあ仕方あるまい」

 

 質問は有るか? と聞かれたが質問だらけだ。どうしよう。そして拒否権は無さそうだ。

 

「はい。哨戒は正規のルートを外れて行うと言う事でしょうか? 大和さんがたまたま委員会直轄領に居たとは思えません。であるならば吹雪哨戒班は常に危機的状況に置かれることになります。私は班長として班員の安全を蔑ろにする事はできません」

「ほう……」

 

 司令官が睨(ね)め付ける。しまった、早まったか? まずはルートだけを聞けばよかった。しかし、妹達を思えば、そこは……。

 

「姉妹の義理か?」

 

 義理か、と聞かれればそうだと答えるのが妥当だが、馬鹿正直に答えるのは選択を誤っているとしか言えない。

 

「そうです!」

 

 誤っちゃった!

 

 

 

 ■ ■ ■ 

 

「そんでまた俺か」

「天龍ちゃん?」

 

 委員会直属の艦娘どもとドンパチして数日経ったが沙汰が来ねえ。流石の俺でもやきもきしてきた。

 殺すなら早くしてくれ、胃が痛え。

 

「そろそろお前ともお別れかもしれんな」

「ああ〜、やっと」

「やっと?」

 

 こいつうっかり辛辣なこと言うんだよな。

 

「でも天龍ちゃん長門秘書艦に命令されていたんでしょ? なら長門秘書艦に押し付けちゃえばいいじゃない〜」

「長門秘書艦に押し付けちゃえばいいかもしれんが、それが実現可能かは審議が必要だろ」

 

 多分しかとされんじゃねえのか。正式な通達だが、あれ多分書類に残してないから。

 じゃあ正式じゃねーじゃねーかって突っ込みは正しい。

 

「じゃあ正式じゃねーじゃねーか」

「無理すんな」

 

 お前がそんな口調なの初めて聞いたぞ、やめてくれ。

 

「ふぅーん、でも天龍ちゃんがいなくなるのは悲しいわぁ」

「何かあっさりしてねーかお前?」

「塩ラーメン食べたい気分なの」

 

 昼は決まりだな。

 

「塩ラーメンは確かにあっさりしてるけど、所詮はラーメンなのよねぇ」

「なぜ自分の発言を潰してく?」

 

 潰すってーと武蔵はちゃんと死んだんだろうか? あの頑丈クソ女思い出したらイライラしてきた。

 

「おいあまつ!」

「えっ! 何?! 何ですか?!」

 

 言い忘れてたが今は艤装の整備中だ。前回ガキどもがすっぽかしたからな、まじ許さん。

 

「ちょっと体触らせろ」

「嫌です……!」

「ちょっと体触らせろ!」

「ひえぇ」

 

 こいつ華奢だな。ちゃんと食ってんのか?

 

「駆逐は細っチョロすぎんだよ、もっと飯食え飯」

「食べても吐かせるじゃないですか……」

 

 訓練で吐くのは仕方ねえよ。吐いた後また食えばいいんだよ。

 

「吐いた後に食べるの辛いんですよ?」

「確かにな」

 

 俺も駆逐だった頃があるからそれはわかる。武蔵(俺が駆逐の頃は天龍だった)もわざと腹殴って嘔吐させにきたからな。

 

「緑のゲロ出した時は流石に死んだと思ったもんだよ」

「……緑のゲロ?」

 

 そんなことはどうでもいいんだ、今はお前の体が目当てだ。

 

「きゃあ?! 触らないでください!」

「は?」

「え、純粋な疑問を映す瞳……」

「同意の上の筈だが?」

「そんな訳ないじゃないですか!」

「じゃあ俺がセクハラしたって言いたいのか?」

「間違いなくハラスメントだと思うわよ〜」

 

 敵しかいないじゃねーかよ参ったな。

 

「俺はな、お前らの体型をこの手で感じる事で必要な訓練を導き出そうとしてるんだよ、それをお前セクハラだと? ブチ切れんぞ」

「もはや気分で物を言っていませんか……?」

 

 まあそうだな。常に気分だ。

 

「気持ちが溢れ出てるだけだ」

「抑えてください……」

「漏れ出る情動をどうしろと?」

「知りませんよ」

「わかった」

 

 天津風は目に見えてホッとする。こいつ顔に出やすいんだよな。

 

「お前に必要なのは打込み稽古だ」

「……そっち」

 

 艦娘の打込み稽古って何すんだ?

 

「魚雷?! 魚雷撃ち込めばいいの?!」

「お前に必要なのは」

 

 なんだろうな島風に必要なものは。

 特に思いつかんな。

 

「お前は全てを持ってる。免許皆伝だ」

「やったー!」

 

 まあ実際にこいつは持ってる。無いのは頭くらいなもんだ。

 

「……打ち込み? 何をするの?」

 

 あまつがぶつぶつと言いはじめた。こいつ根が真面目なんだよ。俺の気分に取り合うな。

 

「お前に真に必要なのは俺の話を聞き流す力だ。頑張れよ」

「じゃあ変な事言わないでくださいよ……」

 

 こいつと島風は姉妹みたいな扱いを受けているが全然似てないよな。まあ実際には違うから当たり前だが。

 本当の姉妹艦は結構似通る。見た目や性格じゃなく、なんて言うか、何だろな? 存在というか曖昧な箇所が同じだな、と感じる。以前に叢雲と吹雪を間違えたことがあるくらいだ。

 

「じゃあ今日から真面目になるわ。だから委員会も俺のこと許してくんねーかな」

「無理では?」

「無理かどうかはお前が決めることじゃねーんだよ」

「そうじゃな、委員会が決めることじゃな」

「はー、翔鶴がときめいた顔して俺のとこ来ねーかなー」

 

 あんなコケにしてほの字な顔して来たらいよいよヤバいよな。今頃はドックで歯噛みしてんだろうよ、俺の事嫌いって言ってたし強烈に恨んでそうだ。

 

「翔鶴というと、あの部隊とやり合って私達は平気なんでしょうか?」

「平気なもんかよ。俺はいつクビが飛んでもおかしくねえ。怯える子羊になった気分だよ」

「隊長が怯える子羊になる所は正直見てみたいの」

 

 委員会直属の艦娘の立ち位置は強い。鎮守府や泊地に属する艦娘より多くの権限が付与されている。

 しかし俺らに何の権限があるんだって言ったらまあ何一つ持って無いので力関係は天と地だ。

 

「くそっ、俺に力があれば……!」

「突然主人公すな」

「俺に暴力があれば」

「もうあると思いますよ」

 

 失礼極まる。

 正義の力と言い直せ。

 

「まあいいや、俺は整備終わったからよ。お前らもさっさと済ませろよな」

 

 そう言いその場を離れる俺に待ったをかける声が一つ。

 何だ、もう飽きたから帰りたいんだが。と面倒臭くて煙に巻こうと構えたが。

 

「あなたの艤装に凍結命令が出ました」

 

 と頬を赤らめたり、恥じらいを見せたりと。そんな素振りを一切しない能面の様な女がそこに立っていた。

 

「……翔鶴」

 

 せっかく整備したのにな。

 

 

 

 ■ ■ ■

 

 

 

 夢を見ている。

 またここか。

 

「……今回は自由に歩けそうね」

 

 赤い世界にポツンと置き去りにされた。歩くのも億劫だが、ここにいても仕方がないので出口を、有るか分からないが目覚めの切っ掛けを探す事にした。

 

 暫く歩くと見覚えのある扉を発見する。『対深海棲艦対策室』その扉は依然としてそこに有るが施錠されていた。力任せに捻れば取手が壊れ、二度と開かない壁に変わったらしい。諸行無常。

 ではどこに向かうべきか、私は手掛かりもなくまた彷徨う羽目となった。

 

「……」

 

 特に思う事もなく退屈を苦痛に感じる。

 そうやって時間を無駄にしているとふと視線を感じた。

 

「何か用?」

 

 あの女が、大和が艦娘だと言った最初の艦がそこにいた。

 

「私は悪魔じゃない」

「らしいわね」

 

 それはもう聞いた。

 

「あんた人間らしいじゃない、それも艦娘」

 

 悪かったわね、と謝る。まあこんな見た目してる方が悪いと思わなくもないが、気にしてることをづけづけと踏み込んでしまったみたいなので、ごめんくらいは言っておこう。

 

「あの娘は私が倒した娘だった。あの娘は私を恨んでいた」

 

 一陣の風が吹き、景色が流れる。

 するとどうだろうか、いつの間にか踏みしめていた地面が赤から青に変色した。いや、どころかこれは海に変わった。

 

 艤装もなしに浮ける筈がなく、落水の衝撃をどうにかしようと両の手を広げるが……。

 

「……浮いてる」

 

 身を守る事を優先した私は中途半端な体勢を取る。何だこの格好は、ふつふつと恥ずかしさを覚えたが事態は私を慮ってくれそうにない。

 

 凪の海、影二つ。

 一つは大和、一つは……。

 

「……誰?」

「私は名も無い最初の艦。最強と謳われ並ぶ者は無かった」

 

 あんたに聞いてない、と思ったが事情通だろうから黙って聞くことにした。

 

「その存在は一隻の深海棲艦から象(かたど)られ、希薄にして唯一無二」

 

 この時までは。

 

「あ……」

 

 ふと、大和が死んだ。

 

「やま……! いや、現実じゃ」

 

 現実じゃないのだ、ここは。

 呼び掛けることに意味は無いし、焦る事もまた無意味だ。

 しかし、このまま大和が死ぬのを見ているのは気分が悪い。

 どうしたもんかともやもやする。

 

「あんた、私に何をさせたいわけ?」

「これは記憶。私が私じゃなくなり、あの娘が私に成る」

 

 最後の記憶。と。

 大和が海中に没し、波が立つ。

 もう一つの影はそれを見つめ、静かに、海に溶けるように身を落としていく。

 

 そして私たちもその後を追うように海中に没した。

 

 凪の海、影は無く静寂。

 

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