天使で悪魔   作:月詠ウサギ

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未来視を妨げる者

 

  細かい事は気にしない。

  私は大らかに生きています。闇の一党にこだわる必要、まったくなっしんぐ。

  大陸最悪の集団?

  ほほほ、だから何よ。そんなに威張るなって、世界にはたくさん組織ありまくり。

  カルト集団の深遠の暁とか。

  この間の一件でほぼ壊滅状態の死霊術師とか。

  オブリビオンの悪魔、野良召喚師でコンジュラーとか呼ばれてる連中、吸血鬼統率してる渇きの王とか渇きの女王、深緑旅団に

  ついでに帝都軍、ともかく何でもござれだ。

  厄介なのは大陸中に存在してる。

  だから、闇の一党抜けたら裏切ったら色々とされちゃうんだガクガクブルブル、はしないわけよ。

  何故?

  たくさんある組織の、闇の一党は一つに過ぎないわけだし、私は基本的に細かい事は気にしない。妥協するの得意だし。

  ……。

  妥協しないと生きて来れなかった。

  迎合しないと生きて来れなかった。

  今、自由は私の手の中にある。だから私は束縛されずに生きようと思う。

  それが今までのご褒美でしょう?

  ……それが今までの……。

 

 

 

 

 

  「人生、朝露の如しよねぇ」

  レヤウィン。

  亜熱帯は、天候が変わりやすいのか空は翳ってきている。天候は常に循環し、留まらない。

  人の世も同じ。

  この地で没したアダマス・フィリダ。

  ……厳密にはこの地で始末したわけだ、私がね。

  民衆にとっての英雄、ヒーロー。

  闇の一党の根絶を掲げて有言実行してきた人物。事実、一党の仕事をことごとく邪魔(活動が帝都の為、帝都限定)をし、その報復

  である暗殺も何度も退けてきた男。

  実際はかなりの権威主義で嫌な爺だったけど、民衆は知りはしない。

  ともかく、英雄だ。

  それが没したのに、世界は回るし人々の生活は変わらない。

  英雄は死んでも次がいるのだ。

  「浮かばれないねぇ」

  湖は、静かに水を湛えている。

  ここでアダマスは死んだ。私の復讐は、ここで完結。終了。お終いバイバイさようなら。

  ……はあ、呆気ない。

  今まで燃え過ぎたのもあるけど、結末はこんなもんかぁ。

  まあ、あれよね。あの夕日に向ってダッシュだーという青春ドラマ、走ってる最中は燃えるけどいつかは走り終わるもの。

  その時の居たたまれなさというか気まずさというか。

  それと似たようなものだろう。

  「……はあ?」

  いや意味分かんないし。

  自分で考えた事に疑問を感じる、今の私はお疲れモード?

  反動かな、今まで燃えてたから。

  別に人生の道がなくなったわけではなくそれほど強迫観念はないけど、何か空しい今日この頃。

  闇の一党に留まる理由もないけど、特に今やりたい事も見つからない。

  ……ああ、アンが有名な占い師がいるとか言ってたよな、魔術師ギルドのダゲイルだっけ、確か。会った事はないけどそんな噂は

  大学でも聞いた事がある。占いなんて気にしないし信じないけど、冷かしで会ってみようかな。

  「あんたの人生は、こんなもんだったわけだ」

  嘲り、でもないけど私は笑いながら水面に語りかける。

  衛兵の数もこの間と変わらない。暗殺犯を捜索している風にも見えないし、警戒も緩やか。

  あなたの死はこんなもの。

  人間、どんなに自分で偉いと思ってても死んだらこんなものみたいよ?

  世界は常にこんなものだ。

  誰が死んでも回ってる、世界は止まらないし立ち止まらない。死ねば過去の人物となり追憶の彼方。

  そんなものだ。

  「バイバイ、アダマス」

  卒業しよう。

  私の復讐、これにて終了しましたー。おつかれっしたー♪

 

 

 

 

 

  頭切り替えて、私はレヤウィンの町並みを歩く。

  さっきも思ったけど、警備は甘い。

  まあ、甘いというかいつも通りだ。英雄も死ねばただの死人というわけだ。過去の人物は、今には干渉しない。

  何故なら過去だからだ。

  まあ、いい。

  「あっちぃー」

  雲は晴れ、カンカン照り。しかも湿度高すぎ。気持ち悪い。ブルーマの北国雪国寒冷地帯、も嫌いだけどこの手のジメジメ間

  も私はNGね。住むならスキングラードね。豪邸あるからだけじゃなくて、一番住み易い。

  ……私的にはだけどね。

  少なくとも帝都みたく世界の中心、というほどの人工密集地帯でもないし、その他の都市ほど汚くもなく貧しくもない。

  アンヴィルの風土も好きだけど、海の男は臭いし嫌い。

  クヴァッチ?

  クヴァッチは、都市の外観いかついしなぁ。要塞都市を主張しまくってるし。

  うん、やっぱりスキングラードがいいなぁ。

  綺麗だし発展してるし、チーズもおいしいしトマトは絶品。それに、豪邸持ってるしねー。私はメイドを従えるお嬢様♪

  ほほほー♪

  「綺麗なお嬢ちゃん、少し恵んでくれないか」

  「はいはい」

  ちゃりちゃりーん♪

  トカゲの物乞いに私は金貨を手渡す。枚数確認してないけど、食事代にはなるでしょうよ。

  この街はトカゲが多い。次にネコ。

  そういえば戦士ギルドの対抗馬である『ブラックウッド団』があったわね。トカゲ&ネコで構成された、亜人版戦士ギルド。

  私ってば戦士ギルドの幹部でもあったわね。

  ……ふむ。そっちの方向性もあるわけだ。私の将来は。

  それはそれでいいかもしれないな。

  ああ、その戦士ギルドに属してるアリスはここで騎士になってるんだっけ?

  会ってみるのも楽しいかも。

  まあ、それほど深い関係ではなく一度会った程度の仲なんだけど。

  まあ、いい。

  「ちわーす」

  がちゃり。

  私はレヤウィン支部の魔術師ギルド会館の扉を開ける。ダゲイルはどこにいるのだろう?

  馴れ馴れしい?

  いやいや私はアルケイン大学在籍、出入りを許されている。

  各地の支部はその下に位置してる。

  一応は私はエリート様。それに支部の出入りは基本フリーだし、別に問題はない。

  「あの、ダゲイルさんいます?」

  フードを被って忙しそうに歩き回るネコに聞いてみる。

  「私、アルケイン大学のフィッツガルド・エメラルダと言いますけど、どこにいます?」

  「アルケイン……ああ、あの件の監査ですかな?」

  「はっ?」

  監査って何?

  私の様子を見て違うと気付いたのかネコは指差す。その先には、長椅子に座ってボケーとしているアルトマーの老女。

  「彼女が支部長のダゲイルです」

  「ありがと」

  「どういたしまして。……あの、監査じゃないんだろ?」

  「それ何の話?」

  「い、いや問題になってないなら別にいいんだ。その、忘れてくれよ。それじゃあ」

  ……?

  なんなの?

  まあ、いい。私はダゲイルの側に近づき、手を差し出す。

  「ハイ。初めまして」

  「……」

  「あのー?」

  「……」

  「もしもーし?」

  「……」

  目は開けている、寝てはないけど……この人、私の顔を見てない……いいえ顔はこちらを見てるのよ。

  でも私の顔が目に映ってるようには見えない。

  そう、とても虚ろな目をしている。

  監査云々が頭によぎる。

  ……この人、まさかスクゥーマ中毒か何かなわけ……?

  ここでラリってるのかも知れないと思うものの、すぐに違うと感じた。幾らなんでもこんなところでラリる馬鹿はいない。

  隠れてこっそりやるものだ。

  ……いや、世間一般論よ。別に推奨してるわけじゃないです、隠れてやれって。

  「あの、ダゲイル? 私は占いをしに……」

  「貴女の名前、当ててあげましょう」

  「あっ、正気なんですねよかった。名前、へぇ、当ててください」

  わくわく。

  占いなんて信じてないけど、考えてみたら占ってもらった事すらない。この人有名だし、少しは楽しめそう。

  そして……。

  「貴女の名前はモッツァレラ。そう、モッツァレラでしょう?」

  「すいませんかすりもしていませんけど」

  「なるほど。モッツァレッラですね?」

  「いや発音の問題でもないです」

  「モザレラ、とも呼ばれるフレッシュチーズ。ふむ、私は好きですね。チーズは人生の友です。ワインと合いますしね」

  「……」

  な、なんだこいつ?

  こいつが有名な占い師なわけ?

  ……ただのボケたおばあちゃんじゃないのよ。そもそも私の名前はチーズかよ。響きすら似てない。

  ……ちくしょう。

  「貴女は私ではありません」

  「はっ?」

  「私は貴女ではありません」

  「……」

  「……」

  「……」

  そ、そうですか。オチはなしですか。今の間は素晴しく無駄な方向なわけですね。

  おおぅ。

  やっぱり正気ではないのだろう。

  さっきから視線がおかしい。それに震えてる。寒いわけない、これで寒いならブルーマ行ったら即死よ即死。

  即死とは即座に死ぬ事。

  この熱気の中で寒いわけがないでしょうよ。体が痛むのかしら?

  病気?

  「あの、大丈夫?」

  「私の耳に貴女の言葉は届かない。微風は吹き荒ぶ真紅の空から舞い込む風に掻き消され、私の耳には届かない」

  「……?」

  「その言葉も、意味も、先にある光景も全ては消え去り、ただの塵となりて消え行くのみ。私には何も貴女に送れない。言葉も

  真意も光景も。貴女は私ではない、私は貴女ではない。貴女の歩むべき道は、貴女だけのもの。好きになさい」

  「……」

  意味が分からないけど、意味にはなってる。

  少なくとも何かのメッセージではあるんだろうけど。……まっ、結局分からないんだけど。

  啓示?

  「貴女の求めるモノは何? 知恵?」

  「……」

  「貴女の求めるモノは何? 言葉?」

  「……」

  「どちらにせよ、今の私には難しい。全ては私の元に集い、去っていく。留まる事はない。石が必要。ないのであれば、全ては過ぎ

  去りしただの幻影。幻影は幻と影の意。決して現実ではないただの虚構。石が必要ね、石が」

  「あの、それナゾナゾ?」

  謎掛け?

  いずれにせよ私が求める言葉ではないわね。

  占いなんて信じてないけど、それでも気休めにはなる。進むべき道とかの、参考程度にはなる。

  でもこれは違う。

  私の求める言葉ではない。そもそもこの人は何を言っているのだろう?

  石って何?

  「そこの貴女、何をしているの? 師をそっとしておいてあげて。用件ならば私が聞きましょう」

  振り向くとノルドの女性。柔和な笑みの、素敵お姉さんだ。

  ……いえ別に女性に興味はないですアントワネッタとの関わりでいらぬ誤解を受けていると思いますけど。

  ……ちくしょう。

  女性はアガタと名乗った。アガタは『師』と呼称したダゲイルの肩を優しく撫で、耳元で何かを囁くとダゲイルは瞳を閉じてその場に

  倒れこむように寝入る。しばらくすると静かな寝息が聞こえてきた。

  「有名な占い師なのに、なんなの? 休憩時間?」

  「占い師? いいえ違います、師は……そう、未来視の預言者」

  「預言者ねぇ」

  皇帝の顔を思い出す。

  あのおっさんも預言者のような存在だった。基本、運命も予言も信じないけど。

  占いはいいのかって?

  占いはいいのよ、あくまで予測の道だから。

  でも予言は違う。断定される。それが気に食わない。もっとも、占い師でも断定して地獄に落ちる云々いう奴もいるけど。

  ともかく私の価値観の問題だから、それは置いといて。

  「それで貴女は?」

  「失礼。私はフィッツガルド・エメラルダ。アルケイン大学の……」

  「ああっ! 吸血鬼の治療薬に関するレポートのっ! 読みましたよ私。……ああ貴女があのフィッツガルド・エメラルダ」

  私も有名になったもんだ。

  アガタはそれから周囲をキョロキョロと見回し、耳打ちするように小さな声で囁きかける。

  こ、この展開はまた利用される?

  うう。やだなぁ。

  「師の様子がおかしいのは見たら分かるでしょう?」

  「ええ。分かる」

  「師は元々は大学にいたんです。預言の能力を評価されて相談役になってたんだけどね、評議員を何人か怒らせてお

  役御免。でもマスター・トレイブンはこれまでの功績を認めてくれてここの支部を任されたのよ」

  「へー」

  ハンぞぅは公平だもんね。

  やっぱり祖父の同然の人だから、ハンぞぅが誉められるのを聞くのは嬉しい。

  さて。

  「師の能力は、特殊なの。自分では制御出来ない」

  「制御出来ない?」

  「いや、正確には年々能力が高まり過ぎて自分では抑え切れなくなってる。特殊なアミュレットを今までは身につけてその

  能力の負荷を抑えてたんだけどね。それが紛失したんだ。……ああ、いや正確には……」

  「盗まれたわけね」

  「……そうなんだ」

  そんな大事な物を失くす馬鹿はいない。

  おそらく四六時中身につけてるわけだから、そうしないと抑えれないわけだから外すわけがない。

  身内か、それとも……。

  ははぁん。それであのネコは監査とか言ったのか。

  あのおばあちゃんの状態では支部の運営は不可能。おそらくアガタが代行してるんだろうけど、こんな時に大学から人間が派遣

  されたらほぼ確実にダゲイルは解任される。更迭される。

  「昔から師の言動は不明瞭な事が多い。石を付けててもね。見え過ぎてしまうんだよ、全てが。この支部の中でも師は軽んじられ

  てるし疎まれてるけど、私は違う。師のお側で仕事が出来て、とても光栄だと思ってる」

  「そう」

  すやすやと横になって寝ているダゲイル。

  そんな彼女を自信を持って尊敬してるアガタ。二人の師弟愛は麗しい。

  ……まあ、石なしバージョンのダゲイルはただの電波系であり、グラアシアと良い勝負だけど。

  「助けて欲しいんだ。頼める?」

  「私は大学の人間よ?」

  「……師を助けて欲しいんだ。頼むよ」

  はぁ。お人よし。

  でもまあ、久々のお人よしよね。最近は暗殺家業に精を出してたし。久し振りに、お人よしプレイで行きますかねぇ。

  「誰がアミュレットを奪うと思う?」

  「助けてくれるの?」

  「一応、私はダゲイルに占ってもらいに来たしね。まあ、占いじゃなくて預言らしいけど、それでもわざわざ来たんだから見てもら

  わなきゃ。もちろん、元に戻ったらその旨を彼女にとりなしてくれるんでしょう?」

  「もちろん」

 

 

 

 

 

  アガタ曰く、身内。

  それは私もそう思う。嫌がらせは、得する奴がやるものです。

  ただ誰が得するかが問題。

  つまり、ダゲイルが能力の暴走で更迭され解任された際に誰が得するか、誰が支部長に繰り上がるのかが……。

  「アガタよねぇ。やっぱり」

  ネコ……スドラッサという名の男性なんだけど、彼は次の支部長はアガタだと断言した。

  ダゲイルは評判良くない。

  おそらくアガタの言う通り、人の未来が見え過ぎてるので常人離れしてる。だから支部メンバーはいまいち馴染めないようだ。

  反面アガタは評判良い。

  面倒見が良いらしいし、事務能力も高い。

  ふーん。つまり彼女が補佐しなければ石あろうがなかろうが、実質ダゲイルは支部を切り盛りする能力はないわけだ。

  「じゃあアガタは外すと」

  カキカキ。

  ギルド会館のロビーにある椅子に座り、私はメモに書き込む。

  容疑者リストだ。

  アガタを外したのは、石を奪う必要がないからだ。ダゲイルを失脚させて自分がその地位に付きたいのであればわざわざ石を奪わ

  ずに補佐をやめればいい。そうすれば自然に支部長の椅子が回ってくる。

  「ダゲイルの事を調べてるって聞いたけど」

  「ええ。そうよ」

  「実は気になる事があるんだけど」

  「気になる?」

  ダンマーの女性が声を掛けてきた。アルヴェス・ウーヴェニム、そう名乗る。

  彼女の話は、興味深い話だった。

  「カルタールがその話に詳しいんだよ。いつも寡黙なのに、饒舌なんだその件に関して。はしゃいでるように見えるけど」

  「誰それ?」

  「カルタール。陰険な奴だよ」

  元死霊術師だと言う。

  じゃあ敵かギルドの敵め死あるのみぃーっ!

  ……にはなりません

  元々は死霊術は大学で学べる術の一つであり、今も使える奴はたくさんいる。私も使えるし、評議員の中にもいる。

  学んだ能力を、知識を脳から消去は出来ない。

  ハンぞぅがそれは罪であると叫んでいるのは、非道な研究を行う輩であり、または大学の意向に背き世間に対して攻撃的な

  連中を指す。レイリン叔母さんや彼女が率いた連中がそれを指す。

  元シェイディンハル支部長ファルカーのように今現在も研究を続ける隠れ死霊術師もいるものの、以前習ってて今も使えますという

  のは罪ではない。人間、そうそう覚えた事は忘れない。それまで罪とは言えません。

  大学でも有名な死霊術師は、大学内でも地位も高いシシリー・アントンとかいう女。

  会った事ないけどカラーニャ評議員の高弟らしい。

  まあ、それはいい。

  カルタールはギルド会館の地下室に部屋を持っているらしい。

  会いに行ってみる。

  「ハイ。貴方がカルタール?」

  自分の名を名乗り、地下でネチネチ何かの研究をしている男性に声を掛ける。

  いや偏見にあらず。

  見た感じからして陰険そうで、この男がする事なす事ネチネチに見えるんだもん。

  ……ああ、じゃあ偏見か。まあよろしい。

  「実はダゲイルの事を調べてるんだけど。あっ、私は大学から来た人間なの」

  監査、でも何でもないけど、そう言うと大抵は協力的になる。他の支部員も割と喋ってくれたし。

  カルタールはにやりと笑う。

  ううう。やっぱり陰険に見えるネチネチしてそうに見える。

  「大学から来た……あっははは。いいぞいいぞぉ。どんどん事態は悪くなってるじゃないか、あっはははははっ」

  妙にテンション高い。

  「ダゲイルの事を知りたいんだろう?」

  「ええ」

  「全部知ってるよ、ダゲイルとアガタが前に話をしてるのを聞いていたんだ。石がなくなって正気を失ってるんだろ?」

  「そう」

  「そもそも考えてみなよ。これは本来あるべき姿じゃないか? 魔法の品を身に付けないだけで自我を保てない奴にどうして

  付いていける? そんな女の下でいつまで犠牲になればいいんだ? あの女も父親みたく大人しくしてればよかったんだ」

  父親?

  今まで聞くところ、誰からもそんな話は聞いていない。父親も同じ能力?

  「彼女の父親がうまくやっていけたのは、でしゃばらなかったからだ。そうさ、ダゲイルとは違ってね。だから何の支障もなく生き

  て支障もなく死んだ。あの女もそうすべきなんだ。彼女が支部長なんて間違ってる。絶対におかしい、解任されるべきだ」

  「……」

  イメージ違うなぁ。

  こんなに饒舌そうには見えないし、どうも詳しすぎる。以前調べたのだろうか?

  少なくとも誰もこの手の話はしてなかった。

  怪しい。

  ともかく、アガタに確認を取ってみよう。

 

 

 

 

 

  「カルタールが師の父親の事を知っていた? 私と師の話を聞いていたと?」

  「ええ。そう言ってた」

  アガタは驚いて大きく目を見開いた。

  ダゲイルは……何か遊んでる、ドーナツのワッカに指入れて回して遊んでる。……まあ、付いていけないわね、これじゃあ。

  完全に正気失ってます。

  「おかしいわね。私は師の父親の事は何も知りませんよ」

  「はあ? つまりそんな会話はしてない?」

  「ええ、まったく。カルタールはどこでそれを知ったのでしょう?」

  「ふむ」

  あの馬鹿、喋りすぎか。自分からボロ出してどーする。

  一番の容疑者に浮上しましたのはカルタール君です。おめでとうございますカルタール君。

  「そうだ、カルタールは父親も同じ能力だった、みたいな事を言ってたけど」

  「父親……しかし私は知りませんよ、師に聞いてみてください。私はカルタールの動向を探る事にします」

  「分かったわ」

  「……ごめんなさい。支部のいざこざに巻き込んでしまって」

  「慣れてる」

  苦笑交じりで、私は答えた。

  そう。慣れてる。

  よくよく厄介を呼び込む天才らしいわね、私。見て見ぬ振りすれば楽だけど、それも出来ない難儀な性格。

  アガタを見送り私はダゲイルに問い質す。

  ……正気失ってるから、答えがあるかどうか……。

  「父親も同じ能力だったんですか?」

  「そう、父親もヒツジたんの生態を愛し、研究していました。ヒツジは人々の荒廃した心を潤す、癒しの象徴っ!」

  「いや力説されても困るから」

  ……駄目だこりゃ。

  「青い血の廃墟に、私の父の墓があります。永劫に人の眠りを護る蓋を開けば、父のモノが私のモノとなるでしょう」

  「……?」

  突然正気取り戻すから、扱い辛いおばあさん。

  青い血の廃墟?

  なんじゃそりゃ?

  おそらくは地名なんだろうけど……青い血……地図を広げてみて、探してみる。

  「ああ、これか」

  ブルーブラッド砦。ここから東にある、未開の地の砦だ。

  以前スカーテイルが宿営していたキャンプの近く。ダゲイルの今の言葉が正気の淵から出たものであるとするならば、ブルーブ

  ラッド砦の事だろう。もしもここ以外の事ならば、手掛かりはない。

  さて。行きますか。

 

 

 

 

 

  未開の地。

  ……。

  未開の地。

  ……はいはい、未開の地なの。それ以上、説明のしようがない。

  この近辺は人よりも自然の方が強い。自然は雄大であり、残酷だ。こういう場所に行くと、人間なんてちっぽけなもんだと

  理解出来るわね。少なくとも、夜一人でここに来たいとは思わない。

  「ここ、ね」

  ブルーブラッド砦。うっそうと茂る密林の中に佇む、荒廃した場所。

  既に放棄されて久しい。

  ……ああ。補足。

  スカーテイルの野営地まで、足を伸ばしてみた。腐りかけたアルゴニアンがいたけど、スカーテイルではなかった。

  いやアルゴニアンの見分けは付かないけど着ていた服装が違うし模様も違った。

  第二の刺客を殺して、姿を消したのかどこか別の場所で死体になって転がっているのか。まあ、いい。

  今回の件には関係ない。

  ギギギギギギ。

  ブルーブラッド砦の扉を開ける。半ば腐食し、錆びているものの開かないほど……ではない。

  中に入ると、地獄だった。

  「うわぁー」

  血の池。

  皮の鎧を着込んだ盗賊だろうけど……死んでる。通路を進むたびに、死体死体死体。仲間割れ、にしては残忍すぎる。

  ただ殺したわけではない。

  欠損した遺体。

  ……ははぁん。モンスターの類が攻め込んだか。旅人狩る盗賊も、モンスターに狩られるわけだ。

  砦内に何かの魔物が攻め込んだ、と見ていい。

  餌になったわけだ。盗賊どもが。

  当然の事ながら遠征用に武装している。私はロングソードを抜き、左手に松明を持って進む。冒険者ルックだ♪

  ……ウウウ……。

  何かの唸り声。何のモンスターだろう?

  通路を曲がった時、何かかものすごい勢いで突進して来た。

  「う、うわっ!」

  斬り捨てる。……危ない危ない。

  緑色の、三つ目の化け物。トロルだ。肉食性のモンスター。異常に発達した両腕を駆使し四足歩行をするそのスピードは馬にす

  ら匹敵する。つまりその両腕から繰り出される一撃も非常に重い、わけだ。

  まともに受けたら気絶するか死ぬか。まあ、どっちかだ。

  ……武装にもよるけど。

  「トロルが砦に入り込んで……はふ、お代わりいらないのにぃー」

  いるわいるわ。

  斬り捨てたトロルの血の匂いが充満し、それに釣られて続々とやってくる。一気に蹴散らすまでっ!

  「煉獄っ!」

  「氷撃っ!」

  炎の球は、氷の球に相殺される。なにぃっ!

  緑色のローブとフードを着込んだ、小柄な魔術師がいた。盗賊関連ではない。盗賊だとしたらトロルと共闘する必要性はない。

  そもそも共闘できないでしょうよ。

  暴走特急トロル軍団。数は10。

  私との間合いは……。

  「裁きの雷ぃーっ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィィィっ!

  黒コゲとなるトロルども。

  ふん。私の間合いに入ろうとは、百億年早いわよ。ほほほー♪

  間合いを詰め過ぎた為に、あの魔術師は援護出来なかったわけだ。連携、出来てないわねぇ。

  「それでお次はどうする?」

  「……こうするさ」

  ブツブツと何かを呟く……召喚魔法っ!

  させないっ!

  「はあっ!」

  踏み込み剣を繰り出す。何かを召喚される前に、その魔術師は屍となってた。心臓、串刺しだもんねぇ。

  倒れて動かない屍を漁る。フードを捲ると、ボズマー。

  ボズマー?

  ……ああ。こいつらがあの有名な深緑旅団か。

  ヴァレンウッドで、トロルどもを軍勢として従えて荒らし回ってたボズマーの組織。ヴァレンウッドでは対処しきれず、罪科の抹消と引

  き換えに追放した。追放した、というより追放を要請したと言う方が正しいか。

  深緑旅団は了承しヴァレンウッドを去った。

  そして今はシロディールにいる、か。妙なものを解き放ってくれたものだ。

  どこでもそうだけど、自分とこで暴れない限りはどーでもいいものらしい。ともかくこの近辺は深緑旅団が従えてるトロルども

  の餌場らしい。盗賊達は餌。

  ……まずい。

  深緑旅団はトロルを100以上は従えてる。砦内に全ている、とは言わない。盗賊がここにどれだけいるかは知らないけどそれだけじ

  ゃ全ての餌は賄えない。ともかくここの地域は、危険。さっさと目的果たして撤収しよう。

  先に進む。

  時折、トロルが襲い掛かってくるものの、全て斬り捨て、魔法で撃退。

  愛と勇気と友情さえあればどんな敵でも怖くない♪

  そして着いた場所は玄室。

  どういう経緯でここに棺桶が並んでるのかは不明だけど、ここに目的のものがあるに違いない。

  ……。

  ……これはー……つまり、墓荒らしなわけよね?

  ギィィィィィっ。

  石の棺桶の蓋を一つずつ開けていく。……外れ、外れ、外れ、外れ……ああ、これかな?

  今まで開けた棺桶は全部白骨化してたけど、何も埋葬してないけど今開けた棺桶の遺体だけは埋葬品があった。

  首飾り。

  手に取ると、何かの魔法を感じた。かなり強い魔法の品。

  目的のものかは知らないけど、判定する材料が私にはない。ともかく、これは頂いておこう。

  「お、お前何してるっ!」

  聞き覚えのある声。振り返ると、そいつはいた。馬鹿正直な、馬鹿な策略家がいた。

  ……つまり総合すると……ただの馬鹿なわけか。

  「ハイ。カルタール。魔術師ギルドのお仕事でここに? ……あー、課外活動かしら?」

  「お前ここで何してるっ! 何でだ、何で邪魔するんだっ! その石を渡せ、こちらに渡せっ!」

  「お目当てはこれ?」

  首飾りを弄くって、見せ付ける。どうやらこれでビンゴらしい。

  「それでカルタール、何でこんな事したの? あんたが犯人なんでしょ?」

  「私はただダゲイルを失脚をさせたかった、ただそれだけだっ! 彼女が辞任さえすればよかったんだ、別に首飾りを永遠に持っ

  ていようとは思わないさ。辞任し、新しい支部長を選出して、辞めてくれればよかったんだっ!」

  「それが貴方?」

  「そうだっ!」

  「単純ばぁか」

  アガタ。そうね、新しい支部長になれるとしたら、アガタであってカルタールではない。

  どう転んでもこいつが支部長なんてありえない。

  それにしてもこいつ、意外に勇気がある。深緑旅団がいるのは私も知らなかったけど、砦とか遺跡には大抵何かが巣食っている。

  なのにこいつは来た。

  ……ふむ。意外に勇気あるわねぇ。

  「なのに、なのになんで邪魔するんだっ! 何でだよ、何故台無しにするんだぁっ!」

  ぽぅっ。

  淡い真紅の光がカルタールの手に宿る。召喚かっ!

  「食い殺せぇっ!」

  ゾンビ。

  「煉獄っ!」

  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!

  焼き尽くす。カルタールもろともに。

  ……。

  いや。生きてる。カルタールの魔法は異様に早い。次々とゾンビを召喚している。

  ふむ。ゾンビが壁となり炎がカルタールまで届かないわけか。

  ただの元死霊術師なのかそれとも隠れ死霊術師なのかは知らないけど……やはり死体臭い奴は好きになれない。

  ……私も充分、死体臭いけどねぇ。

  「はっはははははぁーっ! 死ね、お前がいなければ全てはうまく行くっ! トレイブンの支配も直に終わるっ!」

  ゾンビの群れは、ゾンビ軍団になりつつある。

  煉獄で吹き飛ばしても全部は消せないし、向こうの召喚のスピードのほうが速い。

  なら別の方法で片付けるまでっ!

  「裁きの天雷ぃっ!」

  「……っ!」

  バチバチバチィィィィィィィィィィっ!

  貫通力のある雷はゾンビを貫き、次のゾンビを貫き、貫き貫き貫き……そして、カルタールは感電し吹っ飛ばされる。

  「がはぁっ!」

  壁に叩きつけながらも、骨が砕けながらもカルタールは生きている。

  ふむ。貫通しすぎてカルタールに届く前には威力がかなり落ちていたわけか。瀕死には違いないけどねぇ。

  ゾンビは消えてなくなる。

  召喚系は、術者が死ぬか時間が過ぎるかすると消える。瀕死も、死ぬの範疇なのだろう。

  ……。

  悪魔達はオブリビオンから召喚される。それは、いい。

  しかしゾンビやスケルトンはどこから召喚されるのだろう?

  どこかの死霊術師がリアルに製造したアンデッドを勝手に召喚しているのだろうか?

  私もスケルトン召喚出来るけど、どこから呼び出したのかは不明。

  まあ、いい。

  「ここまでね、カルタール。……あとは、お友達と仲良くね」

  「と、友達?」

  ……ウウウ……。

  低い唸り声が聞えてくる。一つではない、無数に。砦内にまだ徘徊してたのか、外から別なのが入って来たのか。

  トロルだ。

  「じゃあね」

  「ま、待てっ!」

  「大丈夫。ちゃんと礼儀作法をトロルに教えるから。……頭は最後よ、ふふふ、ごゆっくり召し上がれってね」

  「た、助け……っ!」

  そして、食事は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

  「ラッキーカラーはピンク。突然の来訪者にご注意を」

  占い。

  預言者は、占いにも長けているらしい。

  ブルーブラッド砦からレヤウィンへと舞い戻った。手に入れた首飾りは、目的のもので、それを身につけるとダゲイルは正気を取り

  戻した。アガタは涙を浮かべ、占いに興じるダゲイルを見ていた。

  麗しい師弟愛ですなぁ。

  カルタールは、おそらく死んでいる。生きてるとは思えない。

  ……生きてたら私が地獄へと叩き落すけどねぇ。

  「突然の来訪者って? ダゲイル?」

  「突然やって来る者の事です」

  「……」

  そのまんまかよ。

  素の性格もなかなかにお茶目な模様。静かに笑うダゲイル。しかし、不意に顔を曇らせた。

  「貴女は預言が嫌いですね」

  「よく分かるわね。それで?」

  「貴女の未来が見えます。それは貴女の身に、という事でもありこの世界に起きる事。起ころうという事。貴女の未来は世界と連動

  しています。私には見える。数多の命は貴女の行動に支配されます。救うも奪うも、貴女次第」

  「……」

  「生と死は表裏一体。容易に変わるモノ。でも忘れないで。貴女は、それらを握っているという事を」

  「……」

  皇帝の預言と、似ている。

  でも私には関係ない。私には、そんな大それた未来とは関係ない。

  ……私には……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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