天使で悪魔   作:月詠ウサギ

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悪戯

  吸血鬼暗殺者ヴィンセンテの宗旨の関係でアンガ遺跡にお仕事。

  そのお仕事の教訓?

  人の信仰に口出すな。余計なお節介は死への崖からダイブするも同義です。絶対に、やめましょう。

  アーケイ司祭皆殺し完了。

  布教熱心な司祭を利用し、アンガ遺跡のお宝狙いのトレジャーハンターも首領格のクロード以外は全員始末した。

  クロードは、逃げられた。

  意外に強かった。

  まあ、私が試験的な魔法を使った為に、追い込まれたわけだけど。

  もう少し研究が必要。

  少なくとも実戦で使えるほど安定した魔法じゃあまだなかった。今後も努力が必要ね。

  さて。

  今、私はアンガ遺跡を離れ北方都市ブルーマに。

  魔術師ギルドのトップであるハンニバル・トレイブンの勅命で、ブルーマ支部を援助するべくやって来た。

  ……若干一名、付き纏ってるけど。

  ……まあ、いっかぁ。

 

 

 

 

 

  「ちわーす」

  がちゃり。

  私は駆け足で、ブルーマにある魔術師ギルドの支部の扉を開き、中に入った。

  ……はぅぅぅっ。あったかぁーい♪

  まさに至福♪

  まさに極楽♪

  人間、寒い中にいるよりも適度な温度で、過ごし易い環境にいる事が最高にして最大の贅沢だ。外は大雪。

  とてもじゃないけど出たくない。

  出ろと言われたら?

  私は断固として拒否し実力行使でここを制圧するわぁーっ!

  寒いの、嫌いっ!

  私はブレトン。少なくとも、ノルドのように野蛮でも寒さに強いわけでもない。繊細な、種族の出身なのだ。

  「妹よ。急に走らないでください」

  フードを目深に被り、ローブを着込んだ男性が雪を振り払いながら入ってくる。

  ひゅぅぅぅぅぅぅっ。

  さむぅっ!

  「扉早く閉めてよお兄様っ!」

  「ああ、すまないですね」

  バタン。

  扉を閉じると、外気は、外の凍て付くような風は遮断され、暖められた空気に癒される。

  「ふぅ。死ぬかと思った」

  「幾らなんでもそんな事では死なない……」

  「私は死ぬのっ!」

  「そ、そうですか。それは大変でしたね、妹よ」

  「いい? 仮に雪山でアンと遭難したら、私は寒さよりも人肌の温かさを選ぶわ。分かる? 私が、自ら、積極的に、率先してアン

  を押し倒して肌の温もりを楽しんじゃうわけよそこまで寒いの嫌いなのよプライドよりも温さを取る女なの私はっ!」

  「そ、そうですか。それは大変ですよね、妹よ」

  「分かってくれた?」

  「ええ。妹達は愛をゆっくりと育んでいるのが、よく分かりましたよ。微笑ましいですね、妹よ」

  「な、何でそうなるわけ?」

  「だって今積極的に妹を押し倒すと」

  「そ、それは……」

  ……ちくしょう。

  そうだった私はアンとラブラブ♪(死語)という設定なんだ、闇の一党では。……薮蛇だ。

  おおぅ。

  「妹よ。そんなに愛しいなら、一度聖域に顔を出したらどうですか?」

  「……」

  わざわざ付いてくる必要もなかった、ヴィンセンテ。

  闇の一党ダークブラザーフッドの暗殺者で、吸血鬼。シェイディンハルにある聖域のメンバーで、管理者であるオチーヴァの

  腹心というか補佐役。

  オチーヴァが女性メンバーの統率者であり長女ならば、ヴィンセンテは男性メンバーの統率者であり長兄。

  外観からは想像は出来ないけど、人当たりはよく、世話好きでもある。

  「ここで何をするんですか、妹よ」

  「さあ? 私も知らない」

  ハンぞぅに言われてきただけ。

  それをノコノコ付いてきたヴィンセンテ。理由は、おそらく私を聖域に連れ戻す事。ここ最近帰ってないし。

  正確には帰る意味はない。

  正確には居る意味はない。

  闇の一党への最大にして唯一の所属理由が、元帝都軍総司令官アダマス・フィリダの暗殺のみ。

  私にふざけた事してくれたからね。

  30年。30年よ、30年。

  それだけの期間、衛兵隊長の汚職を告発した私の口封じの為に地下監獄に投獄し、人間的権利全て剥奪して、そこで腐れと言

  われたのよ。しかも馬鹿正直に監獄で腐っていく間に、アダマスは老衰で死んでるわけよ。

  そんな逃げ方は許せない。

  だから脱獄し、闇の一党に入り、組織力を利用してアダマスを解任&左遷させ、暗殺した。

  暗殺した以上、組織に用はない。

  暗殺に抵抗はないけど別にそこまで暗殺好きでもないしね。

  だから、去った。

  ふむ。だが、逃がすつもりはないらしい。穏便に、ヴィンセンテが連れ戻しに来た。

  ……穏便拒否したら次はどんな手に?

  ……ふふふ。まあ、それはその時考えようかな。

  さて。

  暗殺とか血生臭い話はおいといてー。

  私は受付でスキャンプ召喚している女性に声を掛けた。若い素敵お姉さんだ。

  ……。

  今更断る事はないけど若くても素敵でも、私には一切関係ありません。興味なっしんぐっ!

  アントワネッタ・マリーとの関わり合いで、この私がそちら属性と思われている方、あえて断言しようっ!

  私は男好きであるとっ!

  ……。

  ……ちくしょう。

  ち、ちなみにスキャンプとはオブリビオンに住む低級な小悪魔の事。炎の魔法を使うものの、雑魚。

  召喚師が一番最初に使役する定番であり、召喚師が放置し、野良と化している例が一番多い悪魔。野良になっても支障はない。

  迷惑ではあるものの、そう強い部類ではなくタムリエル側のモンスターの方が強いぐらいだ。

  ……暗い記憶の話ですけど、オブリに転送されて生きていた頃の私の主食ですね。

  ……はぁ。遠い昔とはいえカミングアウトは落ち込むなぁ。

  ……はぁ。

  「ハイ。ご機嫌いかが?」

  「あら、いらっしゃい。魔術師ギルドブルーマ支部にようこそ」

  受付嬢はブレトンだ。

  私がブレトン娘なら、彼女はブレトン女性と言ったところか。

  いやまあ意味はそれほどないですけどね。私より少し年上だ、という意味合いだ。

  「私はフィッツガルド・エメラルダ。アルケイン大学から来ました。マスター・トレイブンの指示なんですけど聞いてませんか?」

  「あら、マスターの? 私は要請していませんけど?」

  私は、と彼女は言った?

  要請出来るのは支部長だけ。いやマスターに要請の権限を持つ、という意味ではなく大学に対しての要請だ。

  私は要請していません、つまり彼女が支部長。

  驚いた。こんなに若いのに。

  ……まあ私もその気になれば評議員か、支部を任されるだけの実績と実力はあるけどねぇ。

  「で、こちらは私の……そう、弟子です。弟子のヴィンセンテ」

  「初めまして。師に付き添い、勉強させていただいています」

  「ええ。ええ。こちらこそよろしく」

  闇の一党の暗殺者とも言えないし、わざわざ兄を連れてきましたというのも変だ。

  弟子なら、まだ正当性はある。

  「それで、えーっと……」

  「ジョアン・フランリックですわ。私、実は凄いんですよ?」

  「はっ?」

  「凄いんです」

  意味深に笑って見せる。

  淫ら、というわけでも何か企んでいる、というわけでもない。どこか悪戯めいた微笑。

  「私には大学のお偉い方々と知り合いなんですよ。つまりー、そう後ろ盾。だから支部を任されてますし色々と面倒が起きても簡単

  に対処出来るんです。うふふ。ですから、私はコネだけでここまで上り詰めた困ったちゃんなんですよ?」

  「そ、そう」

  どう対応していいか分からない。

  ハンぞぅが私を差し向けた意味も。……監査的な仕事をしろという意味だろうかな?

  「マスター・トレイブンはこの支部で問題が起きてる、とラミナスから聞いたんだと思いますけど、ちょっとした悪戯程度だと認識して

  いるようですわね。そうでなければ、身内の貴女を差し向けたりしないでしょうしね。マスターの養女さん♪」

  「私の事、知ってるの?」

  「知ってますよー。マスター・トレイブンの養女で愛弟子、直弟子、高弟、次期後継者候補。……さて、双方にとって有益な取引

  しませんか? 貴女にも損のない、公平かつおいしい話だと思いますけどね?」

  「はあ?」

  何なのこの女?

  コネをたくさん持つ事を自慢したり、取引を持ちかけたり。

  ……ただ分かった事もある。

  この支部では問題は起きてない。問題、というのもおこがましい悪戯程度の支障が出てるだけ。

  だからハンぞぅは私を派遣した。

  大事にはせずに、ただ私を派遣し、私の個人的な感情だけで解決するように仕向けるように。

  でもなんで?

  意味が分からないんですけど。この女と引き合わせるのが目的なんだろうけど、何故に?

  「実はジェスカールが行方不明なんです」

  「誰?」

  「カジートのジェスカール。彼の親友のヴォラナロは何かの祟りとか騒いでますけどね」

  「祟りねぇ」

  「ジェスカールを探してください。……つまりですね、私を快く思わない評議会のメンバーが偶然ここに立ち寄り、実質私の管轄に

  ある支部メンバーが行方不明だと私の体面に関わるわけですよ。解任されるかも知れないですし」

  「……」

  「探してください。見つけてください。そしたら、私は貴女の恩義を忘れませんから」

  「……はぁ。そーいう事か。ハンぞぅも、手の込んだ事を」

  つまり、これは私とジョアンの顔合わせの為のイベント。

  各地の支部長を私の味方につける為の行為らしい。いずれ大学の中枢に私が入る為の、後ろ盾の為の顔合わせ。

  ……多分ね。憶測だけど、そう間違いではないはず。

  ブラヴィル支部長グッド・エイ。

  レヤウィン支部長ダゲイル。

  アンヴィル支部長キャラヒル。

  各地の支部、とはいえ後ろ盾にすればかなりの影響力になるし、今後の出世レースにも響いてくる。前述の3人の支部長は私を

  快く思ってくれてるし、そこにブルーマの支部も私に懐いてくれれば……分かるでしょう?

  別に評議長になりたいとは思わない。

  ……思わないけど、ハンぞぅはどうなんだろうねぇ。これはおそらく、後々の人脈の確保だ。

  まあ、いい。

 

 

 

 

 

  終始無言のヴィンセンテを従えて、ブルーマ支部の建物を歩き回る。

  喋ってくれてもいい。

  喋ってくれてもいいけど、やはり黙ってた方がいいかもしれない。フードを目深に被っているから、覗き込まれない限りは吸

  血鬼だとは分からないだろう。しかし喋り、他の注意を引くと目立つ。

  帝国の法律では、吸血鬼に基本的人権はない。

  蔑まれ、憎まれ、恐れられる。

  余程の未開の地に行かない限り、容赦なく殺される事はないだろうけど文明世界でも人扱いはしてもらえない。

  ヴィンセンテ的にも、知られない方が楽だろうし。

  「どう思う? お兄様?」

  「何とも言えないですね」

  「そのココロは?」

  「私の任務ではないからですよ」

  「なっ! 私、お兄様の手伝いしたじゃないっ!」

  「ははは。冗談ですよ」

  このお茶目吸血鬼めぇー。

  私達は来客用の部屋を借りたので、そこで一服。テーブルの上にはクッキーが置いてあったのでつまみながらベッドに転がる私

  と本棚にある本を読んでいるヴィンセンテ。部屋には二人っきり。

  ここの支部は規模小さい。

  だから、一人一人が自分に与えられている職務と自分のすべき研究に没頭し、誰も私達に構わない。

  好都合だ。

  つまり、ここでヴィンセンテと私の間に大人の男女の過ちがあったとしても、誰も聞えない誰も来ない。

  げっへっへっ♪

  ……冗談よ。

  「どうしました妹。……ははあ、アンとの愛の営みが忘れられずにそんなに恍惚な顔なのですね。察しますよ」

  ……ちくしょう。

  「それにしてもヴィンセンテ、彼女評判悪いわねぇ」

  「コネだけで支部長、それがここでは定説のようですからね。鬱憤もありますし不満もあるでしょう」

  「そうね」

  その中で最も批判的なのが、行方不明のジェスカールとその親友のヴォラナロ。

  しかし中立だと宣言する、忙しそうな錬金術師の女性の言葉を借りるなら批判は悪戯の形で現れるらしい。

  愚にもつかない悪戯。

  だとすると……。

  「ジェスカールは突然姿を消した、おそらくこの建物の中にいる……私、間違ってる?」

  「いいえ」

  にっこりと吸血鬼は微笑んだ。

  不思議だけど、一番最初に見た時ほど不快でも怖くもない。実ににこやかだ。

  ……ふむ、私の頭は腐ってるらしいわねぇ。

  「お兄様のお力、借りたいんですけど?」

  「いいですとも。妹よ」

  私達は客室を出て、ヴォラナロに会いに行く。

  部屋を出て、通路を右にまっすぐ。この扉の向こう……ああ、違うか。その左隣の部屋ね。私達は中に入る。

  断りもしないしノックもしない。

  「な、なんだ。無粋な……い、いやそれ以前に失礼だろうが」

  さっきも会った。

  さっきも会ったけど、知らぬ存ぜず。

  このヴォラナロとジェスカールは親友で、相部屋。

  「お兄様」

  「……ふむ」

  じっと部屋の中を凝視する。わざわざ確認しなかったけど、ヴィンセンテの瞳の色が変わったのが分かる。

  吸血鬼の能力だ。

  吸血鬼は身体能力が飛躍的に強化される。……デメリットとして、血液の摂取と太陽光によるダメージがあるから必ずしも不死

  でも無敵でも万能でもないものの、ある特殊能力も賦与される。

  その一つが透明化の看破。

  ジェスカールはこの建物から出ていない。透明化している。それも、この部屋の中に。

  そう。悪戯だ。

  取るに足らない、下らない悪戯。

  「いますね。本棚のところです。妹よ」

  「ありがとお兄様。……丸焼けになりたくないなら、出てらっしゃい」

  ぼうっ。

  脅しではあるものの、手に炎を宿す。

  「ただの下らない悪戯じゃないか。……分かった分かった、出て来いよ、ジェスカール」

  「……まったく君は子供心のない奴だなっ!」

  観念したのか。

  ヴォラナロは白状し、ジェスカールは姿を現した。……こいつらいい歳して何してるんだ?

  理解不能。

  「ジェスカール、何でこんな事したのよ?」

  「決まってるだろ。ジョアンに対する嫌がらせだよ。コネだけで支部長になるなんておかしいだろうが。……まあそれ以上に開発し

  た魔法の実験も兼ねた、悪戯さ。いい加減透明になるのも飽きてたところだ。丁度いいよ」

  「……ヴォラナロは?」

  「彼と同じだ。それに、ジョアンをからかうのは楽しいしな。さて相棒、次はどんな魔法を試す?」

  はぁ。

  ついていけないわ。こんな悪戯小僧ども。ギルドから追放すればいいのに。

  もっとも。

  レヤウィンのカルタールのように実力行使に出ないだけマシか。可愛げもあるでしょうよ。

  ……心の広い人から見ればね。

  私も心は広いつもりだけど、感覚としてついていけないわ。ふぅ。

  ともかくジョアンに報告に行きますか。

 

 

 

 

 

  「おやもう見つけたのですか? ……ふむ、もう少し悪戯してもよかったんですけどね」

  ……この女、知ってたわけか。

  ヴォラナロとジェスカールはジョアンに悪戯してからかっているつもりだったのだろうけど、実はジョアンはお見通しで逆にいい

  気になってる二人を気付かない振りして馬鹿にしてた、というか楽しんでいたのだろう。

  この支部、どうかしてます。

  ……ちくしょう。

  「フィー、と呼んでもよろしくて?」

  「どうぞ」

  「この件は、二人の秘密にしましょう」

  「ハンぞぅは知ってるみたいだったけどね。私を派遣したし」

  「そりゃそうでしょう。要は、私の悪戯を戒める為に貴女を派遣したんですよ。私、反省してこの先は職務に忠実に務めます」

  そう言って、ぺろりと舌を出した。

  この人良い性格ね。

  ブルーマは暇。支部としての規模も小さいし、構成員も少ない。

  ジョアンは暇しているのだろう。だからこそ、悪戯を気付かない振りして、逆に悪戯してるのだ。

  ほんと、良い性格。

  ただジェスカール達の間違いは、ジョアンの実力。

  少なくとも透明化を見通してたし、多分今までの悪戯も看破しているのだろう。それだけでも、並みの魔術師ではない。

  「フィー、マスターの養女の貴女と仲良くなれたのは嬉しい限り。お互いコネを大切にしましょう」

  「はっ?」

  「また会いに来てくださいね。マスターの養女さん♪」

  はあ。

  本当に良い性格ですこと。

  私は苦笑交じりに、ブルーマの支部を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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