天使で悪魔   作:月詠ウサギ

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死霊術師の安息

 

  後味の悪いまま……エイルロンの件とかグッドねぇに利用された事とか利用された事とか利用利用利用ー。

  こほん。

  と、ともかく私はブラヴィルを後にした。そして本職復帰。

  まぁ本職という意識もないけどさ。私は帝都軍巡察隊として、重苦しくて忌々しい重装備に身を包み、帝都軍の軍馬に

  跨って帝都であるインペリアルシティへと帰って来た。

  タムリエル中央のシロディール地方、その中心である帝都インペリアルシティ。

  世界の中心。

  帝国の中心。

  陸路、海路問わずに世界中の品々が、人々が集まる場所。

  世界最大の交易の場所。

  世界最大の人口の密度。

  そして、世界最強の防御と高さを誇る城壁。都市の周辺に城壁を巡らせるのは戦争を意識しての事。まっ、当然だ。

  帝都は高い城壁を巡らせ、さらに帝都のある場所は島だ。周囲は水。

  陸路での唯一の回廊はインペリアルブリッジを通るしかない。

  まさに完璧。

  まさに鉄壁。

  ……まっ、入り込もうと思えばどこからでも入れるんだけどね。

  元々インペリアルシティは有史以前のエルフの国家『アイレイド』の都市を丸々再利用しているだけ。

  地下には遺跡が今でも手付かずで残っている。

  その地下は下水道やそこに昔から存在していた天然の洞窟等と繋がっている。

  ……意味分かる?

  王宮もアイレイドの都市を利用した結果の建物。だから、王宮にも侵入できるわけよ。下水道からね。

  まぁ完全にラビリンスな下水道を通って王宮に到達できる可能性はゼロに近いけど、ゼロじゃない。また下水道は帝都の生活で

  生じる排水などを外に流す為のものだ。城壁の外に通じている。

  かなーり危ない状況だと思うけどね。

 

 

 

  「以上が報告であります」

  「下がり給え」

  「はっ。帝都軍万歳」

  帝都軍詰め所。

  私は上官に今回の巡察の報告(ゴブ戦争とかグレイランド強襲とかの報告ではなく巡察中に遭遇し撃退した盗賊の数等

  の報告)をして最敬礼をした。まっ、内心では舌出してるんだけどねぇ。

  あまり帝都軍に対する敬意というのはない。

  あまり……あー、いや、完璧完全究極になっしんぐ。

  報告終えると、今日から休暇。大体一週間掛けて指定の街道を警邏した後、三日ぐらいの休暇がもらえる。

  着替えの為に私は更衣室に入った。

  男どもはいない。

  「ふぅ。うるさいのいないで助かるわぁ」

  重苦しい鎧を脱いで私はラフな服装に着替える。

  帝都軍は男社会だ。

  各都市の都市軍には女性仕官は珍しくないのだが、帝都軍に女性はいない。少なくとも実戦部隊には。私だけだ。

  帝都軍には宿舎が割り当てられているのだが、私はそこに住んではいない。何故って、男社会だからだ。

  私がスラム街に家を買ったのもその為だ。

  考えれば分かるでしょ。男社会に女性(しかも可憐で純情で清楚でか弱い♪)にいたらどうなるか?

  まっ、襲われないとしてもセクハラは挨拶程度であるでしょうねぇ。

  ……。

  もちろん、私に手を出そうものならば一生不能にしてやるけどねぇ。

  この更衣室も現在私が制圧してある。

  初日に覗こうとした連中を叩きのめしたもの。ふっ、愚か者どもめ。

  しかし帝都軍もそろそろ飽きてきた。アルケイン大学に戻れば、待遇は格段に上がるけど研究とか会議とか面倒くさいものなぁ。

  評議員待遇で迎えてくれるって言ってたけど……うー、冒険者家業を本職にしよっかなぁ。

  ……。

  「おい、聞いたか」

  「おお聞いた聞いた。闇の一党に依頼した奴が捕まったんだってな」

  「獄舎に囚われてるらしいぜ?」

  「平和なご時世な馬鹿な奴だなぁ」

  更衣室の扉の向こう、通路の方から帝都兵の四人の話し声が聞えてきた。

  ……ふん、平和ボケの俗物どもめ。

  一歩街の外に出れば平和とは無縁の美しくも残酷な世界が広がっている。あの低俗な話し振りからしてあの帝都兵どもは

  帝都市内の巡察隊なのだろう。街の中では権威が振りかざせても、外ではそんなもの何の役にも立たない。

  街の外は怪物の領域。

  街の外は賊共の領域。

  吸血鬼やら死霊術師、邪教集団エトセトラエトセトラな世界が広がっている。

  バタン。

  ロッカーに自分の鎧類を片付け、銀の剣も片付けた。官給品だから、休暇中の使用はご法度。

  私服に着替えると、帝都レディの出来上がり♪

  腰には鉄製のナイフ(雷の魔法をエンチャントした、魔法剣)。

  帝都の法律で一般人の帯刀も認められている。ようするに護身用。これが認められている時点で平和とは無縁だと思うけど。

  ……そもそも下水道には怪物もいれば盗賊、吸血鬼も巣食ってる。

  「さて、オフは何して過ごそっかなー」

  おいしいもの食べに行こうか?

  新しい服が帝都を離れている間に出てないか見に行こうか?

  んー、それともアクセサリーの類でも見に行く?

  帝都軍巡察隊として各地を回り、盗賊怪物吸血鬼なんでも来やがれまとめて地獄行きー、なライフスタイルを送っている私も普通

  の女性なのだ。お洒落もすればおいしいスイーツにも目がない。

  でもまあ。

  「獄舎にでも行ってみるかねぇ」

  世界中の全てを見てきたのよ私、と自称はしているもののまだまだ自称。知らないものはあるし見た事ないものもある。

  闇の一党。

  それに依頼した、現在逮捕されているらしいけど……見てみたい。

  「まっ、この時点で普通の女の子の感性じゃないかもねぇ」

 

 

 

  帝都の獄舎。

  帝都の詰め所の目の前にある。私は帝都軍発行の許可証を持っているので獄舎はフリーパス。

  逮捕された男の牢屋の前に、私は看守に案内されてやってきた。

  獄舎は二つある。

  一つはここ。大体一年未満で出られる囚人を収容している。

  もう一つは地下にある。帝都監獄は百年以上脱獄不可能と言われた、長期収容者の牢獄。陽の光すら届かない穴蔵で基本的に

  出所前に腐って死んでる。

  「ハイ」

  さて。例の闇の一党に依頼して逮捕された男に私は声を掛けた。

  別に冷やかしではない。

  ……ああ、いや。冷やかしではないものの、人間的に見たら非常識か。私は自分の学術的知識を高める為に来たのだから。

  「あなたが闇の一党に依頼した方よね」

  「ああそうさっ! おれはルフィオに死んで欲しかったんだっ! だから夜母に祈ったんだなのに今ではそれすらも違法だとちくしょう

  め帝都軍は俺の家まで接収しやがったあああああああああああああああああああああああああああっ!」

  「……少し気が触れてましてね」

  看守は静かに首を振りながらそう付け足した。

  闇の一党。

  ダークブラザーフッドとも呼ばれる暗殺集団であり、夜母はその組織を統率する謎の老女。詳細不明。

  死霊術師にも劣らぬ惨たらしい儀式を行うと『伝えし者』という者が現れて殺しの依頼を受ける、らしい。

  本当かどうか知らない。

  しかし帝国がその存在自体を否定している『義賊グレイフォックス』とは違い闇の一党は確かに存在している。現に帝都軍総司

  令官はその組織の根絶を掲げているし、それに恨みを持った組織から刺客も送られている。

  「ルフィオって誰?」

  「市内巡察隊の話では押し込み強盗したらしいんですよ。その時に家にいた女性を殺害」

  「で彼が旦那さん?」

  「そうです。ルフィオは現在逃走中でして」

  「なるほど。可哀想ね」

  「いやまったく」

  看守は意外に話が合う。私とも意見が合うし、囚人にも同情的だ。

  「異臭騒ぎがあったんですよ。彼の家でね」

  「それで逮捕されたわけだ。……帝都軍に踏み込まれたら即逮捕間違いないものねぇ。あの儀式見られたら」

  「ええ、そうですね」

  闇の一党への依頼の方法。

  どこで見ているのかは知らないけど、人間の心臓やら骨やらを夜母へ捧げる儀式をすると、件の『伝えし者』が接触してくるのだ。

  この囚人が捕まったのは殺しの依頼をしたからじゃあない。

  心臓やら骨やらを床にぶちまけてお祈りしてたからだ。

  コツコツコツ。

  複数の足音が近づいてくる。私と看守はそちらの方を見ると……純白の鎧を着込んだおっさんと二人の帝都兵。

  純白の鎧は士官用の鎧。

  「閣下だっ! き、君、敬礼をっ!」

  「心得てますって」

  私と看守、最敬礼で向かえる。仕官は帝都軍総司令官であるアダマス・フィリダ。闇の一党根絶に人生を捧げている、おっさん。

  ここに来た理由は分かってる。

  囚人が闇の一党と接触したかを尋問しに来たのだ。

  敬礼する私達を一瞥しただけで何も言わず顎をしゃくった。なるほど、出て行けというわけか。

  「き、君」

  「分かってるわよ」

  追い出される形で私達は獄舎を後にした。何かを殴る音と悲鳴をBGMとして。

  人は誰しもが心に憎しみを抱いている。

  殺意も。

  私は世界中の人間を愛しています、例え口でそう言う者がいても一度も憎んだ事がないとは限らない。

  もしもそういう奴がいたら、それはただの偽善者だ。

  これが帝都だ。

  世界で一番栄えていて、世界で一番平和な街。

  しかしその煌びやかな表看板の少し裏は誰しもが誰かを憎み泣き、苦しんでる。

  その中に殺しを望む者がいても、至極当然だと思う。

  ……至極、当然な……。

  「さて。久々にアルケイン大学にでも顔を出してみよっかなぁ」

 

 

 

  「うっわこっれおいしー♪」

  と食べ歩きー。

  「うっわこれ可愛いー♪ ……てか高いだろ五割まけてよおっさんっ!」

  と女の子的におしゃれしたりー。

  文句言っても帝都はやっぱり煌びやか。お金は掛かるけど、世界中の物産が集ってるのは嘘じゃない。

  人種も多様。

  都市によっては偏った種族の街もある。北方の都市ブルーマはノルドが多いし、レヤウィンにはトカゲとネコが多いとか。

  帝都にはインペリアルが多い(次にハイエルフ)けどマイルドに多種族が住んでいる。

  ……で、アルケイン大学に着いた時は既に夕刻だった。

  「ご苦労様です、魔術師」

  「ご苦労様」

  アルケイン大学は警備厳重。

  周辺は大学直轄の実戦部隊バトルマージが警備している。……まぁ任務がなくて警備しか仕事ないんでしょうけど。

  評議長ハンニバル・トレイブンが大学への立ち入りを推薦制にした為の余波だ。

  ほんの一握り優れた魔術師だけが入れる最高峰の場所。

  推薦制にした真意は分からないけど、おそらくは設立当初の崇高な志が形骸化している昨今の状況を打破すべく、アルケイン大学

  の権威を高める為の行為なのだろうと思う。結果、その威勢は高まった。

  反面、独裁体制だと憤る魔術師達は脱退して行った。

  さらに非道な実験を続ける死霊術師も、評議長に就任した際にトレイブンは外法だと憤慨して追放しているので魔術師ギルドのメン

  バーの半分はトレイブン就任当初の半分にまで落ち込んでいる。

  さて。

  重々しい音を立てる開き、大学内の塔に入った。ここは大学の中枢で、評議長の私室があったり評議会の会議室があったりする。

  そしてこの塔が玄関口なのだ。

  この塔の周囲は高い塀で囲まれていて入れない。この塔の向こうが、大学の施設が存在している。

  「ハイ。ラミナス」

  生真面目そうな……実際に生真面目すぎるんだけど、ラミナス・ボラスに声を掛けた。

  ラミナス・ボラス。

  アルケイン大学の顔、とも言える男性で大学内外との折衝役な人物。

  世知辛い外世界と世間知らずな大学との、相容れない双方の常識の中間に立たされている中間管理職。

  ……少々愚痴が多い。

  「フィッツガルドか。久し振りだな」

  ラミナスとの付き合いもグッドねぇ同様に、長い。私がここに来てからの関係だ。十年の仲だ。

  「ラミナス、前も言ったけど言いにくいでしょ、私の名前。フィーって呼んで♪」

  「おぞましくてそんなに馴れ馴れしくは言えないな」

  「おぞ……っ!」

  「ふぅ。そんな愛称で呼んだら、おそらく私は吐き気とともに果てるだろう。まだ死にたくない」

  「ぶっ殺すわよっ!」

  「さて。挨拶はこの辺で切り上げて……ふむ、久し振りだな、フィッツガルド。変わりないか?」

  「……今感情が殺意へと切り替わったけどね」

  「ふむ。感情があるのは生きている証拠だ。良い傾向だと思うぞ」

  「……」

  そうだった。こんな奴だった。

  最近顔出さないから忘れてたけど……こいつ口が悪い(……私にだけね)のだ。

  ……ちくしょう。

  「と、ところでラミナス。これ」

  「ほぅ。レアだな」

  「でしょ。大切な本だから、ちゃんと大切にしてよ」

  「大学で所有する以上、どこよりも安全だ。安心してくれ」

  「だよねー」

  手渡したのは一冊の本。アーサンにもらった、狼の女王の伝記。今では絶版でまず手に入らない。

  売ればそれなりになるし、コレクターなら店の三倍ぐらいの値で買うだろう。

  夫であるエイルロンの形見だ。

  売るつもりはない。しかし、家で大事にして眠らせるより大学に寄贈して保管してもらう方がよっぽど生きる。

  冒険の際に手に入る本を私は大学に寄贈している。

  シロディール随一の知識の宝庫である『神秘の書庫』の管理人であるター・ミーナも喜ぶだろう。

  彼女とも私は仲が良い。グッドねぇ同様にアルゴニアンの女性だ。

  「ター・ミーナに言っとかなきゃね。大切に保管しろってさ」

  「それは私が言っておこう。君には任務がある」

  「はぁ?」

  奥へと進もうとする私を笑顔で阻むラミナス。任務って……。

  「実はエイルズウェルで行方不明事件が起きている。住人全員が消えたのだ。その真意を探ってくれ」

  「……私、巡察は非番なんだけど……」

  「帝都軍は関与しない」

  「関与……知らないって事?」

  「そのまんまだろうが分からないのかこの幼児体型」

  「体型は関係ないわよちくしょうめぇーっ!」

  「話を乱すな。……現在大学が情報を封鎖してある。帝都軍は知らない。しかしいずれは気付くだろう。その前

  に処理してくれ。バトルマージを動かすわけにもいかない」

  「評議会の承認がないって事?」

  「そういう事だ。マスター・トレイブンも隠密に処理せよと言っておられた」

  「私が関わるその理由は?」

  「信頼できるからだ」

  「そ、そう」

  そう真顔で言われると私も弱い。ラミナスとは知らない仲じゃないし、付き合いも長い。

  口は悪いけど……ただ口の悪い奴なら消し炭にしてるってとっくにねぇ。

  まっ、他ならぬラミナスからの依頼だ。受けよう。

  私はラミナスの真顔の信頼にテレながら、その任務を受ける事にした。しかし大事な事が一つある。

  「報酬は? 私は無報酬は嫌よ? ……身内だけど、そこはしっかりしなきゃね」

  「もちろんだ。先渡ししよう」

  「で? 幾ら? それとも魔法アイテム?」

  「私の笑顔だ♪」

  「……」

  はい。そうでした。……こういう奴だった。

  おおぅ。

 

 

 

  「何も……ないわね……」

  エイルズウェル。

  帝都から出て、街道沿いを北に行ったところにある小さな村。

  北方としブルーマに向う旅人の中継地点にある集落。

  ……誰もいない。

  「おーいっ!」

  叫んでみるも、返答なし。

  近くの家に……あー、看板が掛かってる。村と同じ名前『エイルズウェル』という名前の酒場。

  誰もいない。

  ただ生活感はある。カウンターに置いてあるカップにはココアが湯気の入ったまま、置いてある。

  さっきまでいた?

  「おーいっ! 強盗よーっ!」

  ……しーん……。

  やはりいない。宿から出て、周囲を見渡す。

  「どーすっかなぁ」

  情報通り誰もいない。少し南に行けば塔がある、地図によると街道沿いに東に行けば『ロクシー』という名前の宿屋がある。

  情報収集は人がいるところの方がいい。

  私は街道を東に、歩き始めた。

 

 

 

  エイルズウェルから街道に東。

  小屋、とは言わないけどみすぼらしい建物がある。ここが『ロクシー』だ。

  ここもブルーマ方面に向う、もしくは帝都方面へと向う旅人の為の中継地点として栄えている酒場。

  「ちわーす」

  ガチャ。

  酒場に入ると、その熱気に圧倒された。人が多い。この宿の規模でこの人口密度、かなりのものだ。

  店主はマレーンという女性。

  私はカウンターの開いた席に座り、ハチミツ酒と簡単な食事を頼んだ。

  ……も、もちろんハチミツ酒は一杯きりですよ。瓶で頼むと……ねぇ……?

  「繁盛しているみたいね」

  「ああ。エイルズウェルの住民が失踪したからね」

  なるほど。やはり噂になってる……まっ、帝都軍が知らなくても旅人には分かるわよね。そしてその旅人からの情報はマレーン

  は熟知していても不思議はない。

  「貴女も旅人?」

  「まっ、どっちかと言うと冒険者かな」

  「女性なのに冒険者、相当腕に自信があるんでしょう?」

  「まあねー」

  「ああ。ようやく力になってくれそうな人が来たよ」

  「力に?」

  出されたサンドイッチをつまみながら、私は聞き返した。

  こ、このパターンは……?

  「何ヶ月か前に忌々しい死霊術師が宿屋のすぐ北にある『苔石の洞窟』に住みついたんだ」

  ……やっぱり。

  しかし少し不思議に思った。死霊術師がこんな帝都の近くに居を構えている?

  ハンニバル・トレイブンのギルド内における死霊術師追放により、ある意味で弾圧対象である死霊術師。

  何を習おうと個人の自由だろう、酷い?

  いやいや。今までが変だったのだ。私はハンぞぅの英断を拍手したい。

  墓を掘り返して死体をゾンビの具材にし、生きてる人間も殺してゾンビの材料にする。

  死者を道具と見立てる時点でおかしいのだ。

  当然、感性が狂うのも頷ける。

  「死霊術師、ね」

  「あそこで何してるのか知らないし知りたくもないけどね。ただ死霊術師が来てからこの近辺の夜が危険になったんだ。洞窟

  の近くの森にはアンデッドが歩き回ってる。今のところ実害はないけど、これからもそうだという保証はないわ」

  「今までが奇跡、とも言えるわね」

  「アンデッドは日増しにその数が増えてる。誰かが洞窟に乗り込んで死霊術師を何とかしてくれたら皆助かるんだけどね」

  「それで、私?」

  酒場の中を見渡す。ただの行商人風のもいるけど戦士の一団もいる。

  マレーンは首を振った。

  「頼んだけど無理だった。あいつらはトレジャーハンターみたいだし」

  「トレジャーハンター……墓荒らしもするけど……まっ、死霊術師よりはマシかな」

  「……頼める?」

  「それより、エイルズウェルの件で何か知ってる事はある?」

  「いえ。……あっ、でも死霊術師が住み着いたのも、消えるのと同じくらいだった気がするけど」

  関連性がある……とは思えないけど。

  まっ、死霊術師は元々も魔術師ギルドの連中だ。トレイブンの政策で別派した、と言ってもいい。

  群れる事はない。

  そういう偏屈な性格なのか研究の機密性かは知らないけどね。

  ともかく、これはアルケイン大学に所属してる私の領分だ。

  「マレーン」

  「受けてくれるの?」

  「サンドイッチお代わり頂戴。それからもう一杯ハチミツ酒を。それから行くとするわ」

 

 

 

  苔石の洞窟。

  ロクシーの真北、しかもすぐ目と鼻の先にあった洞窟。

  ここからゾンビが這い出てきて徘徊しているとマレーンは言ったけど……誇大広告か。

  日本公共広告機構に訴えなきゃねぇ。

  ここに来るまでに何も遭遇しなかった。ただ確かに洞窟がある。

  ほんじゃまぁ、行きますか。

  洞窟内はジメジメしていた。グリーフ砦の乾燥した空気も気分悪かったけど、この手の雰囲気も嫌いだ。

  ……じゃあ私冒険者やめたほうがいいのか。

  不意打ちで行こう、と決めていたから明かりは点けなかったけどこう暗くては前が見えない。おまけに死霊術師も

  いるとは思えなくなってきた。帝都の側に巣食うほど馬鹿じゃないはずだ。

  松明に明かりを……。

  ボゥ。

  「アーアーアー」

  「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

  明かりをつけたら目の前にゾンビの後頭部があった。脳××が剥き出しのゾンビ。

  叫び声と同時に腰にしてあるナイフで一閃。

  雷の力を宿しているナイフは、そのままゾンビの首を刎ね落とした。

  「煉獄ぅっ!」

  気付けばゾンビの群れが洞窟の開けた場所をウロウロしていた。どうせさっきの絶叫で洞窟内にいる死霊術師には

  ばれてるだろうし、魔法でも何でも使ってやるぅーっ!

  ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンっ!

  炎の一撃で一掃。

  ……ちくしょう。まともに見たしまともに臭い嗅いでしまった……。

  「こんな事ならロングソードでも装備してくるんだった」

  エンチャントしるから切れ味は並の剣より高いけどリーチが短い。あんな腐乱したのに接近したくないのが乙女心。

  「な、なんだ?」

  「侵入者だっ!」

  「排除するっ!」

  ……えっ?

  バチバチバチィィィィィィィィィっ!

  「うわわわっ!」

  雷が私に襲い掛かる。岩陰に隠れやり過ごし……。

  「裁きの天雷っ!」

  バチバチバチバチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!

  人様に出しても恥ずかしくない雷の魔法をお見舞いし、黒焦げにさせた。敵は沈黙した。

  死霊術師が三人?

  聞いてないわよこんなの。しかも妙な黒い法衣着込んで……胸元にはドクロの刺繍入り。何だこいつら?

  「アーアーアー」

  「亡霊よ来たれっ!」

  ゾンビを引率した死霊術師の新手が三人。さらに亡霊を召喚して手数を増やしこちらに魔法を叩き込んでくる。

  岩を砕くほどの威力はない。

  私は隠れながら、たまに顔を出し魔法で迎撃していく。私が放つ度にゾンビは数を減らし、気付けば敵は全滅し

  てたけど徒党を組んでる明らかに。しかもお揃いの服装。死霊術師は群れる事がなかったんじゃないの?

  「一体こいつらは……」

  「部下を全滅させてくれるとはね。魔法が達者なようだけど……魔術師ギルドの犬かしら?」

  「そうかもね。だったら、どうする?」

  「時勢を知らない愚か者、とでも言わなくちゃね。ふん、トレイブンの愚か者は何も分かっちゃいないんだよ。真

  に優れているのが誰か、真に魔術師を束ねるのが誰なのかをね。まぁ、今に分かるわ。今にね」

  「それは貴女の事かしら? レイリン叔母さん」

  「何故私の……っ!」

  「子供の時ゾンビの具材にしてくれようとして、どーもありがとう♪」

  ナイフを手に、私は鋭い突きを繰り出した。狙いは心臓。

  しかしレイリン叔母さんは意外に素早かった。身を捻る。しかし完全にかわすには遅い。

  私の方がもっと速いっ!

  「くああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

  刺したのは右腕。刺された痛みとナイフの刀身から放出される雷に絶叫をあげながらも私の右頬に爪を立てて掻き毟った。

  レイリン叔母さんは痛みから解放される。

  ……逃げる逃げる……レイリン逃がすかっ!

  「待ちなさいっ!」

  「いずれ思い知るだろうギルドの犬めっ! 虫の隠者達が崇める高貴なる存在をっ!」

  「煉獄っ!」

  放つ火の玉。しかしそれは洞窟の岩肌に辺り爆発。まさかの再開に狙いが反れた、か。逃げられた。

  頬に触れ、回復魔法。

  クルダンとの戦闘の際に出来た傷も回復魔法で消したのに……また傷出来たか。消すのに結構魔力と時間食うのに。

  「因果とは怖いわね、レイリン叔母さん」

  私の叔母。

  まさかこんな形での再開とは……しかも敵同士で。

  向こうは覚えていないようだけど……昔と違う事がある。今の私なら殺す力がある。

  でも。

  「虫の隠者って何の事だろう?」

 

 

 

  「死霊術師は片付いたわ」

  叔母は私が魔術師ギルドに所属した事を知った。

  バトルマージが状況検分の為に派兵される事も充分承知しているはずだ。戻ってくる事はあるまい。

  片付いた、という表現は間違いではない。

  手放しで喜ぶかと思ったがマレーンは複雑そうに笑っただけだった。

  無理もない。

  自分の一言が、悪党にしろ死に追い込む結果になったのだから。……叔母は生きてるけど。

  「……誰かが死んだのを祝うのは不謹慎だけど、あんたのした事は正しいよ」

  「そうね」

  自分にも言い聞かせるように、マレーンは言ったけど……世の中には死んだ方がいい人物もいる事も確かだ。

  奇麗事じゃないのよ。

  ……生きる事は。

  「今夜はどうするんだい?」

  「遅いから、ここに泊まろうかしら」

  「お礼を兼ねてお代はいらないよ。食事も酒も……まぁこんな場所だ、大したものはないけどね」

  「大丈夫。私は質より量だから」

  「……言ってくれるよ」

  「あはははは。ご馳走になります」

  エイルズウェルについては何の進展もなかった。

  死霊術師が関係している?

  しかし争った後はなかった。ゾンビの具材にするならもう少し荒れていてもおかしくはない。なのにそんな様子はなかった。

  それに帝都の近くで、魔術師ギルドの眼が光っているのにそんな馬鹿な事をするだろうか?

  灯台下暗し。

  確かにそういう諺があるけど……事を大きくして発覚すればバトルマージが派遣され、死霊術師は抹殺される。

  そこに一点の同情は存在しないのだ。

  確かにこんなに近くに、しかも群れて死霊術師がいたのは想像しえない事だったけど……エイルズウェルには関与していない

  と見るのがまず正しいだろう。だとすると……。

  明日、エイルズウェルに行くとしますか。

  消えた住人、その行方を捜しにね。

  「……虫の隠者……か」

  あの叔母が何をしていたのか、何故集団でいたのか、虫の隠者とは何か?

  どうも厄介な事に首を突っ込んだらしい。

  しかし神経緊張させてても意味がない。マレーンの奢り酒で酔い過ぎて暴れない程度に呑みますかねぇ。

  「ハチミツ酒、お代わりー♪ 鹿肉のステーキもよろしくねー♪」

  「はいよ」

 

 

 

 

 

 

 

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