継続高校自動車部   作:skav

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決着

北海道のとある港の敷地にずらりと様々な国の戦車が並んでいる。これから大学生へ殴り込みに行くための最終調整を受けている戦車たちだ。チャーチルとマチルダを並べ終えたダージリンが戦車から降りてきて、いつものように紅茶を飲む。その時水色の作業服が目に入りその人物を呼び止めた。

「あら、あなたも来たのね。」

「そりゃそうですよ。短時間で30両弱の戦車を整備できる奴らが他にどこにいるって言うんです?」

ダージリンの言葉に臆することなく春樹はそう答える。彼の後ろには様々な学校の作業着を着た生徒たちが立っていた。彼らは各校の自動車部の整備士または整備科の生徒。春樹の声で全国の学園から集ってきた精鋭たちばかりだ。その中にはもちろん深緑の作業服を着た由浩もいた。

「本田君、僕たちは先に整備を始めているよ。」

「ああ、任せた。」

由浩が先導するように各々の戦車たちの整備に取り掛かる。これから打ち合わせを行うので、彼女たちもすぐにこの場を離れてしまう。時間はそう多く残されていないので、春樹も自分の持ち場であるドイツ戦車の方へ向かっていった。

「まずはこの4両のオーバーホール歴を見せて頂きたい。」

「ああ、これだ。」

まほから分厚いファイルを4冊受け取りぱらぱらと中を読んでいく。他の3両は問題なさそうだが、ティーガーⅠの整備期間が開いている点が気になった。作業内容自体も定期点検ばかりで大きな整備をしたという記述は無い。本来ならば問題ないはずなのだが…。

「大きな整備はまだしも、一度もばらしてないのは気になりますね。」

「黒森峰では、撃破ないし大破した車両から優先して整備を受けることになっている。」

「損害も少ないから後回しにしがちですよねぇ…。」

「これまで問題なく試合は出来ていた。定期的点検自体は怠ってはいない。」

確かに週に一度の定期メンテは欠かさずしっかり行われているが、それでも黒森峰のやり方では落とし穴があるのを春樹は知っていた。

「他の3両はこの整備記録を使ってやってくれ。俺はティーガーⅠを見る。」

「「はい!」」

すぐさま各々工具を用意し試合に備えた整備を始める。春樹もメカニックグローブをはめて工具入れを開いた。

「整備記録を見るに駆動系があまり行き届いていない気がしますがどうでしょう?」

「サスペンションは定期点検の中に入れているのだが…。」

まほも整備にはあまり慣れていない様子で、駆動系とは全く関係のないサスペンションの事を説明する。少しだけ春樹は眉をひそめる。

「トランスミッションは見ました?」

「……いや、見ていないな。」

「ではちょっと駆動をかけてみます。」

春樹とまほが乗り込んだティーガーがそのままクレーンに持ち上げられる。履帯が取り外され地面から浮いた状態でエンジンをかける。

「それじゃあ駆動掛けますよ。」

「たのむ。」

浮いた状態で戦車に乗るという経験がないのか不安そうにまほは春樹の肩に手を置いていた。クラッチをゆっくりと繋ぐと動輪が回転する。履帯の音がせずに動輪とトランスミッションのギアの音だけが聞こえるのがとても新鮮に感じた。

「どうだ?」

「どうもトランスファーあたりが怪しいですね。駆動を切ったら音が切れるのが分かりますか?」

まほも耳をすましてみるがいかんせんエンジンの音が大きすぎてギアの音を聞き分けることなど不可能であった。

「すまない、良く分からない…凄いな春樹は。」

「砲塔を外して中を見てみます。」

「ああ、分かった。」

車両から降りた春樹は早速クレーンで砲塔を持ち上げる。砲塔を収めるための大きな穴の中から、長い鉄の棒のようなものが見えてきた。

「グリスが服に着いたら落ちにくいので触らない方が良いですよ。」

興味津々で覗き込んでいたまほだったがそれを聞いて顔をひっこめた。流石に試合中にグリスがべたつくのは嫌らしい。

「大体トランスファーからオイルが吹きだしたりとかってのが多いんですが…見た感じそうでもないですね。」

であればあの異音は何が原因なのだろうか?このでかい金属の塊を動かすのに大切な部品と言えば…。

「シャフトか…?」

ティーガーⅠは後ろにエンジンがありそれを長いカルダンシャフトという金属の棒で前方に駆動を伝えている。これもトランスミッションやトランスファーと同様に重要な部品の一つだ。穴に顔を突っ込んでミッション側、真ん中のトランスファー側と順番にシャフトを確認する。そしてついに見つけた。

「やっぱりか…。」

エンジンとトランスファーを繋ぐカルダンシャフトを固定するマウントからグリスが飛び散っていたのだ。特にエンジン側はマウント自体が砕けてしまっていた。これでは異音がして当然だ。しかもこのまま放置していれば重大な故障につながりかねない。見えにくくて大切な消耗品を見落としやすい、これが黒森峰のやり方の欠点なのだ。

「マウントの予備はありますよね?」

「ああ、予備部品は全て用意してある。」

「安心しました。」

隣に駐車していた黒森峰のトラックからカルダンシャフトを持ち出す。モノがあるならいっそまとめて新品にしてしまった方が手間が省けていい。

「部長、少しよろしいでしょうか?」

同じ継続高校の作業服を着た生徒が春樹を呼び止める。

「あのティーガーⅡ、整備記録と全く違う…というより殆ど新品でまるで別の車両みたいなんですが。」

殆ど新品の車両を目の当たりにしてどこから整備をすればいいのか分からず困り顔だった。

「そりゃ1から作り直したからな。整備はいらないから”あたり出し”に専念してほしい。」

「分かりました。」

恐らくあのティーガーⅡは春樹が試運転をしただけで、ほとんど動いていない状態だ。オイルや金属部品が馴染むにはまだ走行距離が足りない。

「本当にあのティーガーなのか?」

「ええ、番号を見れば分かる通りあの車両ですよ。約束通りフルレストアしました。以前のティーガーⅡとはまるで別物ですよ。」

程なくしてティーガーⅡに火が入り、ゆっくりと前進する。エンジンの振動、そして駆動の伝わり方、すべてがスムーズでありおよそ大戦中の戦車とは思えないほどであった。

「あれは…本当にティーガーなのか?」

「一度全部ばらして徹底的に軽量化して、エンジンもバランスを取って、カーボン素材に入れ替えて、中身はもう別物といって良いですよ。」

それはラリーカー等、自動車を競技用に改造する際に行われる作業であった。自動車に比べて何倍も重く、大きい戦車で行うとなればそれなりの手間がかかるはずだ。しかし、それを春樹はやってのけた。しかも自分のでもなく、相手の学校の戦車をだ。いや、言ってしまえば“エリカの戦車”だからなのだろう。他でもない彼女が大破の際に涙を流したほどの愛着を持っていた戦車だからこそ、全身全霊でレストアをしたのだ。

「これで黒森峰は来年も安心だ…。」

まほはほっとした様子で小さく息を付いた。

「まだ大会自体はあるじゃないですか。」

一年の内で一番大きな大会は戦車道大会なのだが、ほかにも無限軌道杯など大会は残っている。

「そうだな……それに、この試合は絶対に勝たないといけない。」

「そうですね…。」

一人の姉はみほの居場所を守るために、そしてもう一人の姉は愛里寿の試合を守るために。

「まほさん、そろそろ打ち合わせの時間でしてよ。」

「ああ、すまない。春樹、任せたぞ。」

ダージリンに呼ばれたまほは少しだけ急ぐようにしてダージリンの後を追っていった。

「ええ、もちろんですとも。」

小さくなるまほの背中に向かってそう呟き、春樹は作業に追われている各校の整備士たちを一喝する。

「ここが俺たちの試合会場だ、半端な仕事すんじゃねーぞ!」

「「はい!」」

限られた時間内で、今の自分が出来る最高の仕事をする。ここにいる人間は全員その一心で整備に当たっている。彼女たちが全力を尽くせるように、整備士たちもまた全力を尽くすのだ。その光景を見る者は誰もいない、世間に彼らは注目されない。だがそれで良い。縁の下にいる者は日に当たらず、最後まで影に徹する。すべてが終わった後、彼女たちから「ありがとう」と聞くことが出来ればそれで良い。

 

 

「すごい…本田君の声ここまで聞こえてきたよ。」

整備をしている広場の隣にある小さな会議室で小梅が驚いた顔で窓の外を伺う。その隣でエリカは腕を組んでいつもの仏頂面で前を睨んでいた。

「外なんて見ていないで、前見なさい。会議始まるわよ。」

「話しに行かないの?」

「必要ないわ。」

今の春樹はそれを望んでいないし、エリカもそうするべきじゃないと思っている。今は個人の感情などどうでもいい。みほを助けるために自分が出来る事、しなければいけないことに集中するときだからだ。確かにすぐそこに春樹がいるのだ、話の一つや二つしても誰も文句は言わないだろう。しかしこの二人は根っからの頑固者で意地っ張りで堅物なのだ。誰かが許しても自分自身がそれを許さない。

「ほんっとにそっくりさんだね二人とも。」

「うっさいわね…。」

程なくしてまほとダージリンが合流し、打ち合わせが始まった。

「試合開始時刻は14時丁度。それに合わせるように。」

作戦内容はいたって簡単。ここから会場まで最短距離を突っ切り、一気にたたみかける。

「よし一番乗りはプラウダよ!」

意気揚々とカチューシャはノンナを引き連れて外へ出ようとする。

「お待ちなさいカチューシャ、まだ大切なことを忘れているわ。」

ダージリンは段ボールから真新しい制服を取り出す。それは白と緑を基調とした大洗女学園の制服であった。

「我々は短期転校という扱いで一時的に大洗の生徒として参戦する。各自制服に着替えたのちに整備が終了次第会場へ向かう。以上だ。」

 

 

「…よし、組付け完了。残り時間は!?」

「あと15分です!」

残り時間が差し迫り、整備士たちは最後の追い込みにかかっていた。

「ティーガーⅡ確認終了しました!」

「パンターGの2両も完了です!」

残りは春樹の整備するティーガーⅠだけだ。

「由浩!砲塔行くぞ!」

「分かった。」

自分の持ち場を終わらせた由浩が春樹を手伝いに来ていた。勝手を知っているこの二人はまさに鬼神のごとき速さで作業をこなしていく。お互いの必要な工具をあらかじめ用意し、作業スペースを整えつつ的確に部品を組みつけていく。そんな光景を周りの整備士たちは神々しいものを見るような目で見つめていた。

「よし、降ろせ!」

春樹の指示でゆっくりとクレーンにつられた砲塔が降りてくる。

「あと10センチ…5センチ…2、1、OK!」

主砲が乗せられたティーガーは少しずつ元の姿に戻されていく。外されたすべての部品は細かく掃除され、細かい塗装も直されているためまるで新車のような雰囲気さえ感じる。

「エンジンチェック。」

「排気異常なし、異音なし。」

「油温、水温、油圧、振動…OK。駆動チェック。」

ジャッキに上げられた状態でクラッチを繋ぐ。

「異音なし。」

前進、後退と全てのギアを確認し問題が無いことを確認する。最後に砲塔を旋回させて異常がないかを確認する。

「問題なし…よし、降ろすぞ。」

履帯を装着したティーガーⅠがゆっくりと降ろされ、地面に着地した。

「時間です、各車は指定場所に車両を移動させてください!」

ギリギリ間に合ったことに安堵する暇もなく春樹はティーガーⅠに乗り込み、他の戦車たちと同様に一直線に戦車を並べた。キューポラから乗り出すと、その前には戦車道履修者の彼女たちがずらりと並んでいた。戦車から降り、春樹が代表で前に出るとダージリンも一歩前に出てくる。

「しっかりと整備は終えて頂けたかしら?」

「精鋭たちです。何も問題ありませんよ。派手に暴れて来てください。」

「ええ、そうさせて頂きますわ。」

春樹と握手を交わしてからダージリンは振り返り、今から共に試合へ向かう戦友たちを見つめる。

「では皆さんみほさんにお紅茶を届けに参りましょう。」

各自戦車に乗り込み、順々に港を後にする。そして最後に黒森峰の戦車たちが残っていた。

「見違えるように綺麗になったな…。」

「これが俺の全力です。あなたが気兼ねなく妹の手助けができるように。」

まほは装甲に手を当てると小さく微笑んだ。

「いい仕事だ。ありがとう、春樹。」

まほがキューポラから乗り込むと程なくしてエンジンに火が入る。12気筒の雄たけびが直接全身を打ち震わす。履帯が路面に食らいつき、その強大な駆動力を余すことなく伝える。

ティーガーⅠ、パンターG型と続き最後にティーガーⅡがしんがりを務める。キューポラから乗り出したエリカと視線がぶつかる。

 

行ってくる

おう、行ってこい

 

言葉にせずともお互いが何を言っているかなど、今となってはすぐに分かる。二人は小さく頷いただけ。長らく顔を合せていない割にはあまりにも短いやりとりであった。

「車長…この感じ、懐かしいですね。」

動き出してからすぐに操縦手が気が付いたようにシフトレバーをしきりに握りなおしたり、ペダルの踏み心地を確認したりする。

「……ええ、久しぶりね。」

エリカも自分の座っている座面を撫でる。長年使いこまれたシミは見間違えるはずも無かった。車内の匂い、振動、音、すべてが懐かしい。間違いない、あのティーガーだ。

お帰りなさい、随分と待たせたじゃない。

きゅっとその手を握る。

「状態を確認するわよ。停止!」

山の中に入るや否やティーガーが急停止をする。まるで後ろから殴られたかのような慣性力に必死に耐えながら次の指示を出す。

「全速!」

操縦手がアクセルを踏み込むとそれに呼応してエンジンが吠え、猛然と加速する。先ほど停止してできた前方のパンターとの距離があっという間に無くなる。

「凄い…以前よりも格段に速いです。それに何よりも軽い。」

曲がる、止まる、加速する。この三つの基本の動作が以前よりも素早く反応する。これはエンジンだけじゃない、車体を一から作り直さないと出来ないことだ。

「まさか…本田さんでしょうか?」

まさかも何も十中八九アイツだ。こんなこと出来るのは本田春樹しかいない。しかしいつの間にこんなことを…。無断で戦車を持ち出すのも出来るわけがないし…。それにこの戦車は継続の所属になっているはずなのに…。

まさかと思い車内に張り付けてある車体番号を確認する。それは確かに黒森峰の所属を表す番号が刻印されていた。しかしその両端のリベットは明らかに新しいものだった。

…なるほど、そういうことか。

『エリカ、先導を頼めるか?』

まほもすぐにエリカたちの動きを察知し、前に出るように指示を出した。

「隊長、このティーガーⅡについて何か知っていますか?」

『……彼に礼を言うことを忘れるな。』

その一言でこの一件にはまほが一枚噛んでいることを察した。であれば私たちは全力でその期待に応えなければならない。

「了解。…いけるわね?」

「もちろんです。」

グイっと背中を押されるような加速を感じながらあっという間にティーガーⅡが先頭に立つ。このスピードで引っ張れば恐らく黒森峰が一番最初に到着するだろう。

 

 

「さて本田君、僕たちも会場へ行こうか。」

後片付けをすませ、各校の精鋭たちは各々の車両で試合会場に向かっている準備をしているところだった。春樹と由浩も荷物をランサーに積み込んで車内に乗りこむ。

「CR-Xでは来なかったんだ。」

「荷物が乗らないからな。それに山道を走るんだぞ?勿体ないだろ。」

「お手柔らかにね。」

北海道とは言えど直射日光があたる車内はかなり温度が高い。そしてラリーカーにはクーラーなどというものは付いていない。夏場の車内はすでにサウナのようだった。

「今日の試合はどう見る?」

「これで数が揃ったとは言え厳しいだろうな。あちらは指揮系統がしっかりしていて、数以上の戦力がある。」

「僕はそう悲観的にならなくても良いと思うな。試合に勝つためには相手の学校を研究するでしょ?僕らが思っている以上に彼女たちはお互いの事を良く知っているはずだ。」

「確かにそれも一理あるな…。」

そうなると問題は継続高校だ。対外試合というものを基本的に行わない継続は極端に情報が少ないことで有名だ。その中でも一番情報を持っているのは黒森峰かもしれないが、今回はそれはあまり役に立たないだろう。何せミカの目的はたった一つだけなのだから…。

試合会場へ着くと春樹は観客席とは別の方へ向かおうとする。

「そっちは大学チームの控え場所だよ。」

「知ってる。後で合流するから先に行っててくれ。」

またすぐに単独行動する…とため息をついて由浩は観客席の方へ行ってしまった。このやり取りも慣れたものだ。

大学チームの控えテントは落ち着いた空気が漂っていた。戦車の隣でテントを立てて談笑する姿の方が多く、整備をしている人間は少ない。

目当ての人物を探していると不意に背中をドンと叩かれる。

「よっ!わざわざこんなところまできて観戦かい?」

声の主は前部長ことミミだった。

「ちょっとそちらの隊長に用事が。」

「え~またぁ?良いけど会えるかどうかは微妙だよ。島田隊長、今朝からちょっとナーバスになってるから。」

まあとりあえず声だけはかけてくるねと、ミミはどこかへ行ってしまった。

「あれか…。」

戦車たちがずらりと並ぶところに一両だけ異彩を放つ車両があった。黒いボディに巨大な砲塔。本当に高校生相手に持ち込んでくるとは…。

「お待たせ、なんだか春樹君の名前出した途端顔色変えて連れて来いって言われたよ。」

「それは良かった。」

ミミに連れられてセンチュリオンのテントに向かう。そこにはタブレットを片手に整備士と打ち合わせをする愛里寿の姿があった。

「隊長、連れてきましたよ!」

ミミの声に反応した愛理寿が振り返る。春樹の顔を見るや否や年相応の無邪気な表情を見せるが、すぐに厳しいものに変わった。

「久しぶりね。」

「センチュリオンの調子はどうだ?」

「操縦手が追いつかなくなったから、彼女を迎えることにしたわ。」

そう言ってミミに手を向ける。どうやらバミューダ姉妹が駆る戦車の操縦手としての腕を見込まれて抜擢されたらしい。

「やっぱり春樹君の手が入ってたんだね。凄いんだよあの戦車!超信地旋回も楽々だし、サイドターンみたいなことも出来るの!」

自分の手足のように扱える戦車を与えられてミミは上機嫌な様子だった。

「それじゃあ大分苦戦しそうですね。そちらにはカールもあるわけですから。」

「うん……。」

愛里寿はその名前を耳にして少しだけ表情を暗くする。

「まああれの弱点は装填時間の長さとか、機動性に欠ける所とか色々あるからな。」

それに…と春樹は愛里寿の頭に手を乗せる。

「アイツ等は高校戦車道のエース達なんだ。苦戦すると思うぞ。」

愛里寿は「子ども扱いしないで」とすぐに春樹の手をどけた。

「あなたの所の戦車も参加するの?」

「ウチのエースを連れてきた。遭遇したときはよろしくな。ああ、それとそのことは出来るだけ秘密で頼む。」

愛里寿は小さくうなずいた。

「さて、そろそろ試合が始まる時間か。俺は観客席に移るよ。」

愛里寿やミミに別れを告げて春樹はスタンドへ向かうことにした。さあ俺の仕事はこれで終わった。後は彼女たちが頑張る番だ。整備士としての仕事から一旦解放された春樹は背伸びをする。

「どこかで美味いコーヒーの出店とかあったらいいけどな。」

残った春樹の仕事は彼女たちの試合を全力で応援することだけだ。

 

 

「……。」

そんな浮ついた気持ちで歩いていると、前方から黒いスーツを着た女性が歩いてくるのを見つけた。長い黒髪と鋭い目つきが良く目立つ。

「どうも西住さん。」

「あなたも試合を見に来たのね。」

この試合は西住流と島田流との戦いでもある。そこに家元の彼女がいても何らおかしいことは無い。

「あら、こんにちは本田君。」

そんな熊も怯えそうな威圧感を出すしほの後ろから島田千代が姿を現した。途端に春樹は嫌そうな顔をする。恐らく今までの人生で彼は今、一番命の危機を感じていた。

「戦車道のトップがそろい踏みとは珍しい。邪魔をしては何なので僕はこれで失礼します。」

この二人に関わっていたら命がいくつあっても足りない。春樹は軽い挨拶をして二人の横を過ぎ去ろうとする。

「「待ちなさい」」

よりによって二人同時に呼び止められ、思わず足がぴたりと止まる。

「あなたも観戦するのでしょう?一緒にいかがかしら?」

「少し話をしましょう。」

恐らく彼女たちは春樹が断れないことを知ったうえでこの提案をしている。それを春樹も自覚しているからこそ心の底から面倒くさかった。

「ぜひ、ご一緒させてください。」

あぁ…やだやだ。面倒くさいったらありゃしない…。

素早く由浩に謝罪のメールを送り、二人の後ろを着いていった。スタンドに上がると早速二人は並んで腰を下ろす。春樹はその後ろの席に陣取った。

「今回は急な試合にもかかわらず良く間に合わせたわね。」

「突貫作業は慣れてるので。」

「これで互角の試合が出来るわ。一方的な試合を見てもつまらないもの。」

隣に怖い人がいるにも関わらず全く物おじせずに挑発する。

「そう言えば今回まほさんたちが参加するのはご存知だったんですか?」

ここでひと悶着あっては面倒なので話題を変えることにする。

「一時的に戦車を西住流の保管という事にしてほしいとは言われたけど、まさかここまでするとは把握してなかったわ。」

どうやら西住流家元でさえも今回の顛末は予想外だったようだ。これを聞いたらあの英国淑女は大変喜ぶことだろう。あの西住を出し抜けたのだから。

「あのティーガーもやっとOHできやようで本来の性能を発揮できるようになりましたよ。」

「正式な整備士でもないあなたが勝手なことをしないで頂戴。」

「そう言われましてもねぇ…まほさん直々に頼まれたんですが。」

「……まほが?」

春樹が高校戦車道チームの整備を行う際に、出来ればウチの戦車を見て欲しいと事前に連絡があったのだ。一応全ての戦車と整備士たちの経験とを照らし合わせての判断で春樹が黒森峰の担当になったのだが、そのようなやり取りがあったのも確かだ。

 

「何か言われたら私の名前を出してくれて構わない。」

 

確かにまほはそう言っていた。だから春樹は正直に行動に移したのだった。

「あら、あなたはご存じないのかしら?彼の整備士としての技量を。」

何故か千代の方が得意げな様子で春樹をみてね?と首を傾げる。

「まあ自分から言うのも変ですけど。そのお抱えの整備士さんに診てもらえば分かるかと。」

 

言ってしまえば高校戦車道を統括するトップの人間に対して臆せずそう発言できるのは、自分の仕事に自信と誇りを持っている証拠だ。

「……そう。」

それをしほはしっかりと感じ取っていた。少なくとも人間として信頼できる人物だ。実際の整備士としての技量はこの試合を通して見極めさせてもらう。現状では島田千代やまほがそこまで彼に入れ込む理由が分からないままだった。

 

試合の経過を示す大型スクリーンにはまほのティーガーⅠを先頭にした中隊が丘陵地の頂上を目指していた。まずは有利なポジションを取り、迎撃する構えのようだ。ここまではオーソドックスな作戦だ。

……まずいな。

しかし“アレ”の存在を知っている春樹として気が気でなかった。あんなに分かりやすいポジションを取ってしまったら格好の標的だ。

ドォォオオン……

そう思った瞬間、まるで打ち上げ花火のような重く低い砲撃音が聞こえた。島田愛里寿は確かにあの自走砲を嫌っていたが、使えるモノは有効に使う柔軟な思考の持主のようだ。流石は島田流の正式な跡継ぎになる人物だと春樹は感心する。

自走砲から放たれた砲撃は見事丘陵地のど真ん中に着弾し、一撃で2両が撃破されてしまう。そしてその直後に大学生チームが包囲網を築く。

「全く、戦車道を馬鹿にしているのかしら?」

「ええ、それには同意いたしますわ。」

千代としほは呆れるようにため息をつく。春樹も二人が言わんとしていることは分かっていた。あれだけ装填時間が長く、砲撃音が大きければある程度の弾着予想は出来る。有効なのは最初の1,2発のみだろう。

それだけのためにわざわざ人員を割くことに意味があるとは思えない。まさに現場を理解していない人間の余計な産物としか言いようがなかった。

とは言えその不意打ちの一撃は高校戦車道チームを追い込むのに十分だった。他の中隊と合流するために撤退するが、追撃によって一両また一両と撃破されていく。それは主にプラウダの戦車が請け負っていた。最後尾のカチューシャを守るために路を塞ぎ、最後まで抵抗する。大洗の勝利のためというよりも単純にカチューシャを守りたいという意思が強く感じ取れる。

「これはこれでカチューシャの人徳のおかげなんだろうな…。」

小さな暴君とはよく言ったものだと春樹は静かに頷いた。

「しかしアレを長く居座らせるのは邪魔ですね。」

「ふふふ、それは春樹さんが仕込んでくれたのでしょう?」

千代が意味深そうに笑いかけてくる。

「ええ、まぁ…。」

確かに動くとしたらそろそろだろう。そう思うや否やミカを含んだ、4両の戦車が隊列を組んで中隊を離れていく。

カール自走臼砲を撃破するための特別小隊を組んだようだ。

「さてお手並み拝見ね。」

ミカが継続高校に行ってから千代はこれが久しぶりに見る試合だった。ここまでミカはだんまりを決め込みひっそりと影を潜めていた。そしていよいよその時が来る。

 

 

「さて、ここからどう出るかだね。」

BT-42の車内でミカはいつも通りカンテレをポロロンと鳴らす。

「先行してさっさと撃破すれば良いんじゃねーの?」

試合が始まってからというもののフラストレーションが溜まる運転しかしていないからか、ミッコはずっとうずうずしていた。早くぶっ飛ばしたくて仕方がないと言った感じだ。

「待ってよミッコ、そんなに急いでも良いことないよ。でしょ?ミカ。」

「そうだね。」

BT-42は依然として小隊の最後尾をゆっくりと付いていく。暫くするとやっと本丸が見えてきた。まるで餅つきの臼のように太くて短く、ずんぐりとした砲塔を重たそうにゆっくりと動かす。そして軽い車体であれば音だけで吹き飛びそうなほどの轟音と共に武骨な砲弾を打ち出した。

あれか…。

顔色は変えずともミカの胸中は静かに冷たい炎が燃えていた。彼女たちの試合を汚す邪魔なもの。アレを処理するのは流れ者の仕事だ。しかしその自走臼砲を守るように3両の戦車が周辺を警戒していた。

「継続ちゃーん、頼めるー?」

大洗の彼女たちが何か策を思いついたらしく、こちらにある仕事を要請してきた。

周りの3両を攪乱してほしい。そう彼女たちは言ってきたのだ。

「どうするミカ、従うの?」

「この作戦に意味があるとは思えない。」

そんな子供だましの攪乱や陽動などしてもすぐにあちらに意図が伝わってしまう。それに万が一攪乱に成功してもこちらの戦力でアレを撃破できる保証は無い。賭けにしてはあまりにも分が悪すぎる。

「…しかし、彼女たちの判断を信じよう。」

でもたまにはそれも悪くない。それに…。

ミカはじっと目の前の自走臼砲を見つめる。

これはハルが持ってきてくれた“戦う理由”だから。愛里寿のために、この子たちのために、彼女たちのために、そしてハルのために。

カンテレの弦にミカは指をかけた。

さあ今から悲しく楽しい踊りを始めよう。私たちのサッキヤルヴィを取り戻すために。

ミッコがあるスイッチを押し込む。すると一気にアイドリングの回転数が上がった。これは春樹特製のリミッター解除装置だった。スイッチを切り替えると、点火時期や空燃比さらにはシフトチェンジの回転数に至るまでスピードを出すためだけに特化した仕様になるのだ。

一気にクラッチを繋ぐとバァン!という爆音とともに重たい車体が猛然と加速し始めた。草木をかき分けるように一直線に崖に向かって突っ込む。

「とぶぞ!」

ミッコの合図に合わせるようにBT-42は白煙を上げながら崖を飛び越え、一気にパーシングとの距離を詰める。大きく回転しながらパーシングの横腹に砲弾を叩きこむと白旗がシュパっと上がる。派手な登場に慌てた他の3両がミカ達を追う。陽動と言うにはあまりにも動きが激しすぎる。おそらくミカ達は本当にここで全車を撃破するつもりらしい。それを春樹は無茶だとは思わなかった。あの戦車を調整したのは他でもない春樹であり、その戦車を駆るのは継続高校が誇るエース達だからだ。

「随分と良い動きをする。あれも本当にあなたが整備を?」

「ええ、あちらはレギュレーションに沿って限界まで性能を上げてますから。言うなれば特注品みたいなもんですよ。」

「……。」

「あら、事実をしっかり認めないと後に後悔するわよ?」

春樹の言うことを認めようとしないしほをみて千代は楽しそうに笑う。この堅物をからかうのが心底楽しくてたまらないと言った様子だった。

こちらは別にアンタに認められようがなかろうが興味ないからな。春樹が認めて欲しいと思っている人物は今、目の前で試合をしている彼女たちだ。

持ち前の機動力と不規則な動きを利用してパーシングを確実に撃破する。残り一両となったところで履帯に砲弾が直撃し、派手に吹き飛んでいった。激しく転がる車内の中で三人は必死に意識を繋ぎとめる。これから繰り出す最後の隠し玉のために。

「ふんぬ!」

気合十分、ミッコがハンドルをセットする。BT-42の転輪や動輪には重機のタイヤのようにゴムで構成されている部分がある。なぜなら転輪の一部が通常とは別の回路で操舵をすることが出来るからだ。これはクリスティー式サスペンションを採用する戦車の特徴でもある。通常であれば舗装路での機動性を向上させるための手段として用いられるのだが、継続高校はこれを奇襲用として使うために取り付け部に補強が施されている。また転輪のゴムの部分も、春樹が溝を掘ってダートを走りやすいようにセッティングしてあるのだ。泥を掻き出しやすいように、尚且つ路面をしっかりとらえるように。

「天下のクリスティー式、なめんなよ!」

さらに重たい履帯から解放されたBT-42は軽快な動きでパーシングを追いかけまわす。

「用意!」

ミカの合図でアキが砲弾をセットする。ミカが“目”の代わりをする分、アキは装填と砲撃だけに集中する。ミカの言う通りに砲撃をすると必ず一撃で相手を撃破することが出来る。だからアキは信じてその時を待つだけだ。

BT-42が全速力でパーシングを追い抜くと同時に砲撃が左動輪に直撃する。衝撃で傾いた車体をミッコは器用にカンターを当てて、そのまま片輪走行を行いパーシングに突っ込む。お互いの砲塔が向き合う。

「Turta!」

2両の砲塔から同時に砲弾が発射される。もう片方の動輪をむしり取られたBT-42は地面をえぐりながら、白旗を上げて静止する。パーシングの方も白旗を上げて停止していた。

さあこれで仕事は終わりだ。後はいつものように風に流されていくだけ。

「皆さんの健闘を祈ります。」

いつものようにカンテレを鳴らしてから、無線を切った。

『BT-42行動不能』

ミカ達の戦車が撃破されたことを伝えるアナウンスが場内に響き渡る。大学戦車道側はカール自走臼砲を含めて4両の戦車が撃破されていた。パーシングら3両はBT-42だけで撃破されたことになる。

「あなたの所の生徒、なかなか良い動きをしていたわ。」

「ミカもやるようになったじゃない。」

ここで退場すれば愛里寿に気付かれることなく退散することが出来る。去り際まで考えられた完璧な手際だった。

「まあそう言う約束でしたから。」

これで邪魔者はいなくなった。愛里寿も気兼ねなく全力で戦うことが出来るだろう。これ以上のない戦果だ。…今日はハムカツパーティーだな。

大洗連合チームは一度集合してから、遊園地を目指していた。

…なるほど、あそこであれば大洗の得意な不意打ちや遊撃がやりやすい。互いの長所をうまく生かす作戦に切り替えるようだ。そうだ、これこそが大洗らしさだ。定石通りにやりすぎると、むしろ島田は足元をすくいに来る。ここからは、彼女たちの新たな可能性を模索する時間だ。

 

「ところで西住流は逸見エリカについてどう評価しているんですか?」

「そうね…ここ最近の撃破率の高さと被弾率の低さは高く評価しているわ。」

ただ…としほは言葉を続ける。

「流派にそぐわない戦い方を良く思わない人間も少なからず存在する。それは確かよ。」

戦車の弱点を突いたり、反則に近い整備を施すことは卑怯者のすることだ。西住流を語るのであれば正々堂々と正面から、自らの技量で勝負すべし。確かに戦車という道具を扱う以上個々の良し悪しに左右されるのは仕方がない。しかし、それ以前に戦車道は武道でありモータースポーツではない。磨くべきは戦車ではなく己自身であるべきなのだ。

「彼女は戦車道をモータースポーツと勘違いしているのではないかしら?」

「いえ、それは違いますよ。少なくともそんなことは本人が一番よく理解しています。むしろあなたたちは武道という体系に固執しすぎなのでは?」

彼女もかつては武道としての戦車道に拘っていた。己を磨き、勝利を目指していた。しかしそれはあの事件によって大きく覆されることとなった。そして戦車と向き合うことで、己を磨く術もあることを知ったからこそ今のエリカがある。

「あなただって西住流の戦い方には“高性能の戦車である”という前提があることは分かっているはずです。」

「ええ、だから整備は専門の組織に委託しているのです。我々は勝利のために1分1秒でも無駄にすることは出来ない。」

つまりは西住流には整備の技術は必要ないと言っているのだ。向き合うべきは戦車ではなく、己自身。どんなに優れた整備技術を持っていようと勝利を手にしなければ意味がない。

「つまり逸見エリカは西住流には不要と、そう言いたいのですね。」

「そうは言っていません。西住の意向にそぐわないと言っているのです。」

「それはあなた個人の意見ですか?それとも西住流の総意でしょうか。」

「私は西住流そのものです。」

それはつまりそういう事なのだろう。春樹はそれ以上しほの顔を見ようとはしなかった。

「あら、島田流は強いならどんな子でも受け入れるわよ?」

「島田はむしろ彼女にとっては毒ですよ。」

島田流のような臨機応変さはエリカは持ち合わせていない。根本的なところは基本に忠実な、堅実な運用が彼女には根付いている。時にはセオリーを無視することも厭わない島田流ではエリカの良さは伸びないだろう。毒という表現が気に入ったのか千代は楽しそうに笑っていた。大してしほはさらに厳しい表情で大型スクリーンを睨んでいる。見守るというよりも、何かを見定めようとしている様子だった。

 

 

決して広くない遊園地の敷地内で激しい攻防が繰り広げられている。

「エリカ、頼む。」

「はい!」

二頭の虎がその強靭な装甲を武器に相手の懐に突っ込む。そしてそこから繰り出される88㎜の砲弾もまた強力なものであった。彼女たちは1両ずつ確実に相手戦車を撃破していく。

「中隊長は大隊長の元へ!」

「ああ、ここは任せた。」

まほは孤立しつつあったみほの4号戦車の元へ向かい、エリカはカチューシャや自動車部のポルシェ・ティーガーと合流し出来るだけ足止めをする。

追っているのは先ほどまで中隊長をしていた3両だ。こいつらはまるで一つの生き物のような曲芸走行で攪乱し、1発も討ち漏らすことなく撃破してくる。

「あれが噂のバミューダ3姉妹ってわけね。」

あれがあの二人の所に合流したらかなり厄介なことになる。せめて1両だけでも撃破してこの連携を断ち切らないと…。

鈍重なポルシェティーガーを先頭に必死にバミューダ三姉妹を追うが、その距離が縮まる気配はなかった。

「よし、“アレ”を使うか。」

「お、いよいよ“アレ”の出番か!」

ポルシェティーガーの車内で自動車部チームが沸く。

今こそ数か月の研究の成果を発揮するときだ。

「スリップに入ってちゃんと付いてきて!」

「スリップするの?」

ナカジマが何を言っているのか分からなかったエリカはきょとんとした声で問いかける。

「スリップストリームね!」

カチューシャの無線でようやく理解したと同時に少しだけ呆れる。こんな空力的に最悪なボディの形してるのにそんなもの効くわけ無いでしょう。

「まあ良いわ、少しエンジン回して。広場に出たら回り込むわよ。」

「了解!」

操縦手がアクセルを半分ほど踏み込むと、それに呼応するようにティーガーは加速する。

「エンジン規定はあっても、モーターは無いもんね!」

ツチヤが赤いボタンを押し込むと、エンジンの回転数が一気に上昇し急激に発電量が増える。そして交流モーターのタップが切り替わり、大電流がモーターに流れ込む。結果、鈍重なはずのティーガーがまるでロケットのように急加速を始めたのだ。これにはエリカも驚いた。確かにモーターは明確な規制はないが、まさかここまで性能を引き出すことが出来るとは思いもしなかったからだ。

やるじゃない。…でも、こっちも負けてないんだから!

そのポルシェ・ティーガーにぴったりと後ろの2両は付いていた。いや、正確には出力に優れるエリカのティーガーがカチューシャの車両を押しているのだ。

「まだ余裕あるわよね?」

「はい、あと1000回転まで回ります!」

この中で一番速いのは間違いなくこの戦車だ。そして、狙うべき戦車も分かっている。

曲芸走行を披露する中で、青い三角マークの車両だけ僅かに動きがぎくしゃくしていることをエリカは見逃さなかった。一瞬だけ他の2両と加速のタイミングが遅れたり、旋回させすぎたり。おそらく操縦手の運転時間が足りていないのだろう。

「いけ!超音速の貴公子!」

ナカジマが叫んだと同時にエンジンルームからボン!と炎が上がった。あまりにも急激に電流を流しすぎたためにモーターが焼き切れ、ショートして発生した火花が燃料に引火したのだ。

「あれぇ!?」

計算上ではあと2秒持ちこたえる筈だったのに…。やっぱり強度計算が甘かったようだ。

「だから安全率はもう少し取ろうって言ったのにー!」

ナカジマの悲痛な叫びが車内に響いた。その横を2両の戦車がすり抜ける。

「青い奴を狙いなさい!」

「はい!」

殆ど最高速度を出しているというのに、ティーガーⅡはまだ余力を残していたらしい。減速するT34を横目に最高速度で突っ込んだティーガーⅡはあっという間にパーシングの背後に回り込む。その直後カチューシャのT34をよけきれずにぶつかった衝撃で、パーシングの姿勢が崩れた。その瞬間をエリカが逃す筈が無かった。

「feure!」

88㎜が正確にパーシングを撃ち抜くと同時に、エリカの車両も別の車両に撃破されてしまった。

「……ここまでね。皆お疲れ様、よくやったわ。」

最低限の仕事は達成できた。あとはあの二人に任せれば良い。

キューポラから出ると撃破したパーシングの車長も出てくるところだった。

「あなたが車長?」

「ええ、はい…。」

ルミはティーガーを観察してから、もう一度エリカをじっと見つめる。

「そのティーガー、かなり腕の良い整備士に見てもらったでしょ?」

「はい、最高の仕事をする人物に。」

本田春樹は間違いなく最高の整備士である。これはエリカも何ら疑いを持っていない。だから自信を持ってそう答えることが出来る。

「そっか…。それで迷いなくウチを狙ったのは何か理由が?」

「そちらの操縦手、最近代わりませんでしたか?」

エリカの質問にルミは驚いた顔をする。まさか高校生に見破られるとは思いもしなかったからだ。

「そうだけど…何故分かったの?」

「他の二両があまりにも揃いすぎていたので……。」

そんなに分かりやすかったかーとルミはショックを隠せない様子だった。

「一応遜色ないぐらいまでは練習したつもりだったんだけどねー。見る子にはやっぱり分かっちゃうか。」

ルミは大きくため息をついてからスッとエリカに右手を差し出した。

「あなた将来化けるわ。その時はしっかり仕返しするから。」

「……ありがとうございます。」

二人は握手を交わす。ライバルとしてか、チームメイトとしてかは定かではないがいつかまた再会することを信じて。

 

「あのティーガーⅡの子なかなか見どころあるじゃない彼女が逸見エリカさん?」

「ええ、その通りです。」

「あの三人が集まった時に撃破されるのは本当に稀なの。」

「それよりも、あのティーガーに何をしたの?」

千代との会話を遮るようにしほが春樹に詰め寄る。

「何って一度部品を全部外して軽量化と、補強をしました。あとエンジンも分解して、洗浄してから組みなおしてますよ。モータースポーツじゃ当たり前にやってることです。」

その言葉を聞いた途端しほの顔がより一層険しいものになる。

「今後黒森峰の戦車には手を出さないで頂戴。」

「それを決めるのは彼女たちです。あんたじゃ無い。」

「喧嘩は止めなさい。しほさん、あなたも大人げないわよ。」

「…そうね、少しむきになりすぎたわ。」

それよりも、と千代が大型スクリーンを見上げる。

「試合も大詰めよ。あなたの娘たちを応援しなくて良いのかしら?」

確かにスクリーンには5両の戦車が狭い広場に集結し、今まさに最後の戦いが行われようとしているところだった。

「自分はそろそろここを失礼します。ウチの戦車の回収もあるので。」

それにこれ以上ここにいたら余計ないざこざしか生まれない気がした。それは自分にとっても、黒森峰の生徒にとってもマイナスにしかならない。

 

 

久しぶりだなーこの感じ。

センチュリオンの車内でミミは懐かしそうにギアレバーを操作する。戦車が代わっても同じ人間が整備するとその人の哲学が戦車にも反映されるんだなぁと、ミミは実感していた。例えば使用するオイルの粘度、例えば細かい所の清掃、その全てがかつてミミが乗っていたKV-1の感覚と少し似ている感じがあったのだ。愛里寿が360度ターンの指示を出す。それに呼応するようにセンチュリオンは素直に操縦手の意思に従う。まるで氷の上を滑るように滑らかに回転したセンチュリオンは、そのまま砲撃を行う。しかし寸前でその砲撃はかわされてしまう。

この戦車の操縦手に任命されて初めて愛里寿にあった時の印象は孤独だった。12歳ながら大学へ飛び級した天才少女。その氷のように冷たい表情から一切の人間を受け付けず、ただそこに君臨し蹂躙するのみ。そんな彼女をミミは寂しいと感じていた。戦車道はもっと楽しいもののはずなのに。彼女はあまりにも一人だった。中隊長たちが気には掛けているが、そこには隊長とその部下という大きな壁が立ちはだかっている。もし彼女に友達と言える存在ができたならば、もっと強くなれる筈なのに。でも私たちでは友達になるにはあまりにも年齢が離れていて、彼女の歪な立場がそれを許さない。

やっぱり春樹君は凄いなぁ…。

島田流の人間だからではなく、一人の年相応の少女としての対応をすることが出来る者は殆どいない。だからそんな愛里寿に分け隔てなく接する春樹はやはり特別な人間なのだろう。願わくばこの試合が終わってから彼女に少しでも変化があれば…。そう願わずにはいられなかった。

 

 

「出港したって…どういうことです?」

継続のBT-42は既に船に乗せて出港したと連盟の係員に伝えられる。それを聞いた瞬間春樹は動揺を隠せないでいた。

「いえこちらも1両だけという報告だったので、乗員3名も確認していましたし…。申し訳ありません。」

まぁこうなってしまっては仕方がない。帰りの脚はどうにかするとして、今は試合の様子の方が気になって仕方がなかった。今から一番近い観戦席は…。

春樹は一番近場のそびえたつ丘陵地に目を付けた。あそこからなら試合会場が良く見えそうだ。ランサーに乗り込み、エンジンをかける。やっぱりこの車で来てよかった。もしCR-Xで来ていたらこんな砂利道を猛スピードで走ることなんてできなかっただろうから。

山の頂に上がり、双眼鏡を手にして最後の勝負を見守る。

同じ時間、エリカも自身のチームの生徒たちと共に最後の局面を見守っていた。

センチュリオンが広場の中央で、ティーガー2両を待ち構える。車両の差を踏まえても実力はほんの少しだけ愛里寿が上だろう。高台にいた2両が一気に斜面を下る。それを待ち構えるようにエンジンを吹かしながら砲塔を4号戦車に向ける。その時だった、4号戦車がカタパルトから打ち出されたように突然加速したのだ。その直前に88ミリ砲の轟音が聞こえたことから、ティーガーが空砲を打ち出したのだろう。土壇場でそんなことを考え付くのはみほしかいない。そして、ここに来て愛里寿は一番の動揺を見せた。そして気持ちを立て直すにはあまりにも時間が短すぎた。

そのエネルギーは凄まじく、センチュリオンに衝突したⅣ号戦車は尚ももつれ合うようにして進んでいた。そんな衝突のさなか4号戦車が放った砲撃がセンチュリオンを撃破する。結果、相打ちの形で両者は白旗を上げた。そして最後に残ったのはまほのティーガーⅠだけ…。

「勝った…。」

殲滅戦だからこそできる捨て身の一撃。自分自身を犠牲に払うことでついにみほは過去のしがらみから解放されたと言えよう。その光景を見ていたエリカもみほが過去を受け止め、自分自身の力で前に進もうとしていることを感じ取っていた。そして確実にみほは成長していた。

…私もうかうかしてられないわね。

本当なら自分もあの場所にいたかった。だけど今の私じゃあの場所に相応しくない。それは強く肌で感じていた。

「待ってなさいみほ…次は私があなたに立ちはだかる。」

エリカは自身の拳をぎゅっと握りしめ、闘志の炎を瞳に宿す。

「良い眼をしてるじゃない!」

ふと自分の隣に聞き覚えのある幼い声が聞こえてくる。左下へ視線を移すと、カチューシャがエリカの顔を覗き込んでいた。

「あなた、黒森峰の副隊長でしょ?名前は?」

「逸見エリカです……。」

「じゃあエリーシャ…いや、それじゃあミホーシャと被るわね。うーん…あ、エリチカなんて良いんじゃない?」

「……はあ。」

「エリチカ、あなたのその火はカムチャッカよりも熱いわ。絶対に絶やしちゃ駄目よ?」

そう言ってカチューシャはエリカにしゃがむようにジェスチャーする。訳も分からず姿勢を低くすると、実に慣れた動作でエリカの肩に乗ってきた。

「私はあなたのところの副隊長ではないですよ?」

「知ってるわよ!うーん、やっぱりノンナよりも低いわね。」

そりゃ身長170を超える人間にいつも乗っているのだから、低くて当たり前だろう。しかしカチューシャはエリカの肩を気に入ったようで暫くその状態が続いたのであった。

「みほ…また強くなったな。」

試合が終わり、ティーガーで4号戦車を牽引して皆が待つ広場へ向かう。そんな時、ふとみほの方を振り返る。彼女は同じように戦車から顔を出しているチームメイトと勝利の余韻に浸っている様子だった。みほの顔は昔とは違い、自信に満ちた隊長の顔になっていた。そしていつの間にか大きく成長していた妹に、静かに賛辞の言葉を贈るのであった。

 

 

 

「まったくもう、結局最後まで戻ってこなかったじゃん。どういうこと?」

「すまん…色々立て込んでな。」

由浩からお小言を貰いながら二人は大洗連合チームのテントへ向かう。この試合は公式なものではないため、大きな閉会式も無く最後に審判長の蝶野から挨拶があっただけだった。あとは各々自分の学園艦へ帰るだけ。

「じゃあ僕はここでお別れだ。」

由浩の視線の先にはノンナが一人待っていた。普段の彼女はブリザードのノンナと言われるほど冷徹な表情をしているのだが、今はその二つ名は影を潜め少し頬を赤らめている。年相応の少女の姿がそこにはあった。

「ああ、今日は助かった。」

「こちらこそ、久しぶりに一緒の作業ができて楽しかったよ。」

二人は固く握手を交わしてから、由浩は少し駆け足でノンナの元へ向かった。

 

由浩、私たちの試合ちゃんと見てくれていましたか?

うん、ちゃんと見ていたよ。ノンナも良くカチューシャを守ってた。…クラーラが日本語話せたのは驚いたけど。

ふふ、実はロシア語で由浩の事色々お話していたんですよ?

……変なことは言ってないよね?

それは秘密です。ただ……ちょっと自慢話はしてしまいました。年下の可愛い、とても頼りになる整備士と…もちろんあなたがいる目の前で。

やっぱりノンナは意地悪だね。

由浩が可愛いのがいけないんです。

 

 

そんな甘やかな会話をずっと聞いているのも気が引けるので、春樹は港へ向かう。とりあえず連絡船に乗って本州に移動してから、最悪陸路で石川を目指せば良い。大丈夫だ、時間だけは腐るほどある。

「あ、本田君発見!」

聞き覚えのある声と共にオレンジ色の作業服を着た4人組がこちらに駆け寄ってくる。

「今日のあれはなかなか刺激的でしたね。」

「途中までは良かったんだけどねー。」

「最後はモーターが負けちゃった。」

スズキとホシノが台車に乗せたモーターを運んでくる。かつてモーターだったものはこれ以上ないほどの真っ黒になっていて、春樹もここまで焼き付いたモーターを見るのは初めてだった。

「タップは制御が楽だから良かったけど、やっぱり焼き付いちゃ意味ないよね。」

「また別の制御方法を勉強しないと!」

あれだけ派手に壊しても4人は次の改良案をどうしようかと目を輝かせていた。欠陥品と呼ばれ続け、どの学校からも見放された戦車であるがここ大洗でその小さな種が芽吹き始めていた。ここまでポルシェ・ティーガーに愛着を持つことが出来るのは日本中でもきっと彼女たちだけだ。その情熱は春樹も一目置いていた。

「大洗の方たちはこれからフェリーですか?」

「うん、大洗港まで一気に行っちゃうけど。それがどうしたの?」

「実はですね…。」

春樹はナカジマにミカ達に置いてけぼりを食らったことを打ち明けた。すると中島はうーん…と唸りながら腕を組んだ。

「助けてあげたいのはやまやまなんだけどさ…もっと別に頼る人がいると思うんだよね。」

「……と、言いますと?」

「お前たちー!搬入の準備が終わったぞー!」

ナカジマが答えるよりも前に桃が自動車部の4人を呼ぶ。どうやら大洗の生徒たちはあまり時間が残っていないらしい。

「それじゃあ本田君、次はもう少しゆっくり話せると良いね!」

「じゃーなー!ラリーは負けないからな!」

「ちょっとそこの二人!これ運ぶの手伝って!」

「おーもーいー」

4人で急いでモーターを運ぶ姿を見送りながら、春樹は再び歩き出した。

……他に頼れる人ねぇ。正直サンダースは苦手だし聖グロはダージリンが変なことを条件に出しそうだ。

「………っと。」

アンツィオの連中と一緒に陸路で帰るのも楽しそうだが、出来ればゆっくり休みたい。流石に重労働の後だから疲労がたまっていた。

「ちょっと!」

「またかよエリカ。いい加減後ろから呼ぶのは止めたらどうだ。」

「うっさいわね、アンタが全然気が付かないのが悪いのよ。」

開口一番二人はいつものように口喧嘩を始める。もはやこれは挨拶のようなものだった。

「隊長さんはどうした?」

「副隊長…みほと話してるわ。だからアンタを探してたの。」

「なんだ暇つぶしの相手を探してたのか。」

「アンタと話がしたかったの。ちょっと来なさい。」

エリカに連れられるようにして港にあるベンチに腰を掛ける。すでに日が傾き始め、海はオレンジ色に染まっていた。少しひんやりとした海風が二人を撫でる。

「まずはお礼を言っとく。ティーガーをあそこまで仕上げてくれてありがと。」

「エリカがあれだけ愛着を持ってたからな。廃車にだけは絶対にしたくなかった。それに、やるからには徹底的に改良するつもりでもいた。」

「でもあの二人にはまだ追いつかない…。」

大学チームのエースを一両撃破した、それ以外にもエリカの撃破数は少なくはなかったはずだ。しかし、どうしてもあの姉妹との壁を感じざるを得なかった。それに島田愛里寿もこれから戦車道を続けていくうえでは無視することが出来ない存在だ。今後は幾度となく戦う機会があるはず。

「次はもっと近づけるようにならないと…。」

「島田愛里寿と西住姉妹か?」

「違うわよ。」

エリカはベンチから立ち上がり目の前のフェンスに寄りかかる。そして小さく息を吐いてから春樹の方へ振り返った。

「私が目標にしてるのは本田春樹、あなたよ。あなたに近づきたいの。」

「俺は戦車道の人間じゃない。目指したところでお前の望んだようにはなれないぞ?」

エリカは何も言わずに静かに首を横に振る。

「整備を通して戦車と会話をする。そうすれば自分の戦車だけじゃなくて相手の戦車も理解できる。私がやりたいのはそんな戦車道よ。」

それを聞いた春樹はあの時のしほの会話を思い出す。副隊長ということは来年は隊長の立場になる可能性が一番高いことを意味する。もしエリカが隊長になればきっと今よりも外からの圧力が強く、多くなるだろう。そしてそれを西住の人間は止めることは無い。唯一まほが擁護するだろうが、そのころには彼女は黒森峰にはいない。このままではエリカを守ることが出来ない。そう考えると春樹は不安にならざるをえなかった。

「それは、西住流に反するやり方だぞ?」

せめて今だけは伝統に従っていた方が、エリカにとっては良いのでは無いだろうか?ふと春樹はそう考えてしまう。しかしエリカはそんな春樹の言葉を聞いて厳しい表情をしていた。

「……本気で言ってるの?」

「お前こそ良いのか?憧れだったんだろ、西住流に…。」

「前に言ったでしょ。西住流を…古い伝統をぶっ壊してやるんだって。私をそうさせた本人が弱気になってどうするのよ。最後まで付き合ってもらうんだから、逃げんじゃないわよ。」

エリカは凛とした表情で春樹を見つめる。その瞳には迷いはなく、どこまでも力強かった。

ああ、この目だ。思えば初めて見た時からずっとこの少女の力強い意志を持った目が好きだった。

そんな瞳が静かに笑う。彼女はずっと憧れていたものを敵に回してでも春樹を選ぶと言った。それがたまらなく嬉しかった。そして少し恐ろしくも感じていた。一人の人間の生き方を変えてしまったことに対する責任感が重く春樹の肩にのしかかる。

「なに辛そうな顔してるのよ。ほら、ちょっと立ちなさい」

エリカは春樹を立ち上がらせると、その厚い胸板に顔を埋めた。いつか大洗の地で春樹がエリカを抱きしめたことがあった、思えばそれがこの二人の関係の始まりだった。あの時はエリカは周りを憚らずに大きな声で泣き叫んでいた。しかし、今は幸せそうな表情でぎゅっと春樹の背中に手をまわしている。春樹も静かにエリカを抱きしめ返した。花のような香りと、柔らかな感触、そしてすぐに感じる彼女の体温、微かに聞こえる息遣い、その全てが愛おしく感じる。

「私、あんたにずっと謝りたかった。自分勝手な早とちりで迷惑をかけて…本当にごめんなさい。」

「そんなの俺だって…。結局お前を支えてやれなかった。挙句の果てに傷つけて…すまなかった。」

春樹の背中にまわす腕に力が入る。

「アンタの責任じゃないわよ。分かってたわよ、私を一番に考えてくれたことくらい。だからムカつくのよ。私の弱さを見せつけられてるみたいで。」

この感情は春樹に対してではなく、弱い自分に対しての感情。でもその弱さを肯定してくれたのが他でもない春樹だった。

「……そうか。」

「…私アンタがそばにいないと弱い自分に負けそうになるの。だから私が頑張れる理由になってくれる?」

弱くても良い。弱さを肯定するのもきっとそれは強さなのだから。

「ああもちろん。それなら俺はずっとエリカを守れる。」

 

強くなろう。今よりも、もっと。

 

重なった影が夕日によって少しだけ伸びる。そして北の大地の冷たく優しい海風が二人を包んでいた。


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