落第騎士の英雄譚 ━最強の騎士━   作:針鼠

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プロローグ

『ゼン兄ぃはすっごいねえ!』

 

『……す、すごい』

 

『ぼくもいつかゼン兄ぃみたいにつよくなりたい!』

 

 

 キラキラした弟妹(きょうだい)達の眼差しを、私は今でも覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伐刀者(ブレイザー)

 

 己の魂を武装として顕現させ、魔力を用いて異能を操る特異存在。能力の種類は千差万別。『炎』や『水』を操る自然干渉系。『傷を開く』といった概念を操る概念干渉系。或いは、時間という因果さえ操る者が伐刀者にはいる。かつて魔女や魔法使いと呼ばれていた彼等は、今やその存在を公に認められ、どころか明確な社会地位を与えられていた。

 

 魔導騎士。そして魔導騎士制度。

 

 科学すら範疇外である超常の力を操る伐刀者という存在は、国家間の戦争の行方さえ左右してしまう。各国が躍起になって優秀な伐刀者の確保と育成を重要視する一方、一様に彼等は考えた。伐刀者の危険性を。

 相変わらず争いは絶えない世の中だったが、そこだけは皆同調したのだった。

 

 結果生まれたのは、国際魔導騎士連盟。これに認可を受けた学校を卒業した者だけが、正式に『騎士』となり、その異能を以って、国に(・・)従事することを認められる(・・・・・・・・・・・・)

 

 そしてここ《破軍学園》も、日本に七つある騎士学校の一つである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな。元気そうでなによりだ、大神(おおがみ) (ぜん)

 

 

 咥えた煙草から煙を燻らせながらその人物はそう切り出した。濡れ羽色の黒髪。漆黒のパンツスーツを着こなす長身の美女。切れ長の目に収まるのは刃を彷彿させる鋭い光を放つ瞳。

 

 新宮寺(しんぐうじ) 黒乃(くろの)

 

 若くしながら、今年よりこの破軍学園の理事長に就任した人物である。

 

 

「いやぁ、黒乃さんもお元気そうで。そのスーツ姿似合ってますよ。現役時代よりずっと似合いだ」

 

 

 黒乃の片眉が跳ねる。改めて目の前の男を見据える。

 伸ばし放題のボサボサ頭に無精髭。180センチを優に越える身長に肩幅も広い。学生服を着ていなければ顎に無精髭を生やしたこの男がまだ17歳などとはわかるまい。

 

 

「結婚おめでとうございます――――とか、この場合言った方がいいんすかね?」

 

 

 善の視線は執務机の上にある黒乃の手に注がれていた。正確には左手の薬指に嵌るリング。

 

 新宮寺 黒乃。彼女の名は世間では少しばかり有名だ。King Of Knights……通称KOK。国際魔導騎士連盟が興行する伐刀者による格闘技。彼女はかつてKOKの中でも化け物が犇めくA級リーグで第三位に座していた日本人伐刀者だった。――――が、この通り結婚を機に現役を引退した。有望な若き選手の早すぎる引退には日本だけでなく世界中が惜しんだものだ。

 

 

「柄にもないことはしなくていいさ。馴れ合いを好む間柄でもないだろう?」

 

「それもそうっすね」

 

 

 あっさりと答える善に呆れたように黒乃は苦笑を浮かべた。彼にしてみれば悪気は無いのだろう。さっきだって黒乃が挨拶をしたから挨拶を返した、ただそれだけ。最後の一言は嫌味を言ったつもりも無いはずだ。しかし昔からこの男は無神経というか天然というか。兎に角口さがない。

 かつて自分と彼、そして悪友を鍛えてくれた師曰く、善は己に興味が無いことにはとことん無関心なだけなのだという。人柄が良さそうに見えてあしらっているだけなのだ。他人への気遣いなど微塵も持っていない故らしい。

 

 二人の関係は決して不仲では無い。だが決して友好的でもない。何故ならこの二人はかつて幾度と命のやり取りをしているのだから。今こうして二人共に生きているのは奇跡のようなものだろう。昔のままなら出会い頭にまた戦っていても不思議は無い。

 善はなにも変わらない。変わったのは黒乃だ。

 

 かつて、勝利の為なら文字通り身を削っても平然としていた少女は、ある日を境に変わった。戦い方が堅実なそれになり。時に対戦相手への気遣いなんてものも感じられるようになった。

 リーグ戦の勝率は変わらなかった。むしろ安定していただろう。しかし黒乃は間もなく引退を発表した。

 

 勝利よりも、己の栄光よりも大切なものが黒乃には出来てしまった。安寧の未来を想ってしまった彼女には、もう自分を蔑ろにした勝負が出来なくなってしまったのだ。

 

 

(――――ああ、そういえば。善やアイツが絡んでこなくなったのもその頃だったかな)

 

 

 口の悪さでは善といい勝負をしている悪友を黒乃は思い出していた。

 

 

「私はお前や寧々(ねね)のようにはなれない。――――不満か?」

 

 

 今更こんなことを訊いてどうしたいのか。口にしながら黒乃自身わからなかった。

 善は顔色ひとつ変えない。

 

 

「一度きりの人生、どう生きてどう死のうが勝手でしょう? 興味無えよ」

 

「そうか。フッ、お前は本当に相変わらずだな」

 

 

 善から返ってきた答えは黒乃が想像していた通りだった。予想通り過ぎて笑いが溢れてしまう。

 

 

「それで? 俺を呼んだのはどうしてですか?」

 

「ああそうだな。本題に入ろう」

 

 

 黒乃は短くなった煙草を灰皿に押し付ける。

 

 

「まずはこの学園の現状を話そう。知っての通り、破軍学園は日本にある他の騎士学校と比べて近年まるで成績を残せていない。破軍を含めた七つの学園が集う武の祭典、七星剣武祭でも最高成績は去年のベスト4が一人だけ」

 

「情けない」

 

「まったくだ」

 

 

 魔導騎士になるには、国際魔導騎士連盟に認可された学校を卒業し騎士の資格を得なくてはならない。日本におけるその学校の数は七。どの学校を出たとしても資格そのものに差は無い。ならばどこを出ても同じかと思いきや、そうはならない。

 より優秀な騎士になる為に、より強い騎士になる為に……。

 良質な環境に身を置き、有能な指導者に教えを請いたいと願うのは当然だ。

 

 その基準として最もわかりやすいのが《七星剣武祭》。毎年日本の七つある騎士学校が主催する、その年で最も強い騎士を決める祭典だ。学生(アマ)の大会ではあるものの、その注目度はKOKのA級リーグ並とすこぶる高い。

 そこで優秀な成績を収めた騎士の学校が注目されるのは必然である。

 

 どんな者であろうと高みを目指せるよう生徒を導くのは学校として当然の義務である。――――が、元より優秀な金の卵がいるに越したことはない。そも伐刀者とは千分の一の存在なのだから。選りすぐるにはやはり優秀な学校である方が可能性が高い。

 

 今年度より黒乃がこの若さで騎士学校の理事長に就任したのも成績不振の破軍を立て直す為である。つまりは『強くしろ』と黒乃は上層部に頼まれているのだ。

 彼女自身、自分の出身校故に見て見ぬふりが出来なかったというのもある。

 

 

「私がこの席に座る以上、去年までの生温い選考は捨てる」ニヤリ、悪どい笑みを浮かべ「完全実力主義。徹底した実戦主義。私は必ず今年の七星剣王をこの学園から出してみせる」

 

「なるほど」ふむ、と善は顎に手を当てて「それでわざわざ親父を使ってまで俺をここに呼んだのか」

 

 

 善の父、大神 菊彦(きくひこ)と黒乃は面識がある。今回はそれに縋って善をここに呼び寄せたのだ。そうでもしなければ多分善は来なかっただろう。それに理由ならもうひとつある。彼が『大神』の家の者であるが故の理由。

 

 

「一つ目は、な。理由ならもうひとつある」

 

「?」

 

 

 不思議そうに顔を傾げる善。――――その背後の扉が開き、入室者の顔を見ると黒乃の顔は悪どく笑む。彼女の隠し玉その2の登場である。

 

 

「――――善兄(ぜんにぃ)?」




閲覧ありがとうございますー。

>ようやくもって新作2個目の投入。結局ほとんど書き直してないけども。

>落第騎士の英雄譚!いま私的には問題児と同じくらい好きな作品です!なので逆になかなか納得出来るものが書けず幾数ヶ月……結果納得するのを諦めました(え

>とりあえず書く!進める!どうしても納得出来なければ後で書け!という理念のもと勢いのまま投入です。一先ずはなのは作品と共にこれを進める感じでしょうか。
もちろん問題児とISについても(問題児は原作次第ですが)連載続けていきますのでー

ではではこれよりお願い致します。
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