落第騎士の英雄譚 ━最強の騎士━   作:針鼠

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※すみません。主人公のキャラを完全変更しております


乱入者

「これが……ステラ・ヴァーミリオンの魔力……!」

 

 

 観客席から二人の決闘を観戦していた善は興奮のあまり声が出てしまった。戦いは終始見立て通りの展開だった。一輝が剣技で圧倒し、しかし魔力の差は無情にも彼の勝利を許さない。予想外だったことがあったとすれば二つ。

 

 一つはステラの地力の強さ。飛び道具が無いと分かりきった一輝を相手に敢えて剣の勝負に持ち込んだステラだったが、中々どうして、意外と様になっているその剣筋は決して一朝一夕で身につくものではない。ましてや、生まれついての魔力に依存する伐刀者には決して真似出来ない代物だ。

 感情的で直情的。理事長室での物言いから自尊心(プライド)が高いだけの典型的なお嬢様かと思っていたが、どうやら相応の誇り(プライド)だったらしい。

 

 そして、もう一つ予想を超えたのは目の前の光景だ。

 

 一介の剣士として一輝を格上に置いたステラは魔力で強化した跳躍で大きく後ろに下がる。――――直後、闘技場に熱波が吹き荒れた。光の柱。そうとしか形容の出来ない。太陽の如き熱量と光量を持つそれは、闘技場の天井を貫いて尚昇る。あれが彼女の剣なのだと一体誰が想像出来るか。

 

 

天壌焼き焦がす(カルサリティオ)竜王の焔(・サラマンドラ)

 

 

 伐刀絶技(ノーブルアーツ)

 

 伐刀者達が魔力を注ぎこの世に為す奇跡(異能)の顕現。ステラのそれは炎。今、彼女はその膨大な魔力を注ぎ込んで太陽に等しい炎と巨人が如き剣を奮おうとしている。剣では一輝には敵わない。だから、彼女は剣士としてではなく伐刀者としての戦法を選んだ。

 

 もう打ち合いはしない。一輝の間合いにも入らない。遠間から、この戦域全てを焼き払おうとしている。

 

 冗談のような魔力量。あの一撃を正面から受けられる人間が果たして何人いることか。ましてや、伐刀者として最底辺の魔力すら持たない騎士がどうこう出来るわけもない。

 ステラ・ヴァーミリオンの魔力は想像を遥かに越えていた。――――しかし、

 

 

「その程度で諦めるお前さんじゃあねえよな?」

 

 

 聞こえるはずもない。そう思いながらなお声を掛けられずにはいられなかった。

 

 予想外だったのはここまで。ここから先は、この決闘の決着は、決して予想を裏切るものではないと確信しているのだから。

 

 

「だけど退けないんだ」

 

 

 その声を聞いたとき、

 

 

「魔導騎士になるのは僕の夢だから。今この場を降りることを、僕を僕たらしめる誓いが許さない」

 

 

 決意を口にするその顔が見えたとき、

 

 

「だから考えた。最弱が最強に打ち勝つにはどうしたらいいか。いつかあの背中を超えるには(・・・・・・・・・・・・・)どうしたらいいか(・・・・・・・・)

 

 

 その瞳はあの頃と変わらない光が宿っていた。

 

 

「今、ここにその答えを示す!」

 

「見せてみな。今日まで積み上げてきた黒鉄 一輝を」

 

 

 陰鉄の切っ先を持ち上げ、ステラに向ける。

 

 空気が、変わった。

 

 

「一刀修羅! ――――僕の最弱を以って、君の最強を打ち破る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔力とは、その伐刀者の運命の重さに比例して大きくなると言われている。故に如何に訓練しようとも魔力だけは成長することはない。そのことは誰よりも血の滲むような努力をし続けた一輝自身が証明している。

 

 

「なによ……なんなのよその力は!?」

 

 

 狭い闘技場そのものを焼き払わんとしていたステラだったが、その悉くを目の前の騎士は躱す。いや、徐々にステラを以ってしてもその動きが捉えられなくなってきていた。

 蒼い炎が揺らめくような、可視化するほどの濃密な魔力。飛躍した身体能力。

 

 

「ステラさんが炎を操るように、僕にも伐刀者としての異能がある」

 

「嘘よ! たかが身体強化でそこまでの動きが出来るはずない! それに、それで魔力が上がるだなんて聞いたことないわ!!」

 

「上がったんじゃないよ。これは――――元々僕が持ってる魔力の全てさ」

 

 

 動揺から、焦燥から、喚き散らすステラとは対称的に一輝の心は落ち着いていた。

 

 一刀修羅。

 

 数ある異能の中でも最低と謂われる身体強化の異能。元より伐刀者は、魔力で己の力をブーストしている。能力に頼らずとも()で出来るのだ。

 

 だから、一輝はこの能力を普通に使うのをやめた。

 

 

「文字通りの意味さ。これは体のリミッターをこじ開けて、本来使われるはずの無いものにまで手を付けているだけだからね!」

 

 

 魔力の底上げは出来ない。だが普通のままでは、一輝の刃は他の伐刀者達の、ただ垂れ流している魔力の鎧すら貫けない。それでも諦められなかった。

 強者達と渡り合うために。自分が強くなる為に。

 一輝は考え抜いた。そして辿り着いたのだ。

 

 魔力の底上げは出来ない。――――ならば、己に眠る全ての魔力を僅かな時間で搾り尽くす、と。

 

 全力――――文字通り全ての力をたった一分に凝縮する。その間だけ、一輝は彼等と同じ土俵に立つ権利を得た。それこそが一刀修羅。

 

 

「ぁ――――」

 

 

 光の乱舞を潜り抜けステラの懐へと踏み込んだのと、振り下ろされた刃が今度こそ彼女の体を貫いたのはほぼ同時だった。

 

 物体への干渉が出来ない幻想形態の一撃は本来受けるべき肉体ダメージと引き換えに体力を奪う。急激な衰弱に、強制的に断絶される意識の闇へステラは沈んだ。

 

 

「はぁ、は、あ……」

 

 

 静まり返った会場に一輝の荒い呼吸音だけが響く。不意に走った痛みに顔を歪めた。限界まで酷使した体が悲鳴をあげているのだ。

 

 

(でも、どうにか部屋に戻れるくらいの余力は残せたかな? ――――っ!!?)

 

 

 ここにきても己を含め冷静に分析していた一輝だからこそ気付けた。背後から迫る強烈な気配に。確認する余裕は無いと判断した一輝は、咄嗟の判断に身を委ねて振り返ると同時に応戦。直後返ってきたのは重い衝撃だった。

 

 

「善兄!?」

 

 

 見間違いようがない。間近にあったのは兄と呼び慕う男の顔。しかし、動揺からなる硬直はそう長く続かなかった。結論からして一輝の余裕が無かった。

 前腕部までを覆う漆黒の籠手。善から最初に突き込まれたのは右拳。次弾。左の拳が引き絞られるのを見た。

 

 

「……ッ」

 

 

 一輝が遮二無二後退したのと善の左拳が闘技場の床を砕くのは僅差遅れてのことだった。

 

 何故、どうして。

 間合いを離した一輝が、善が突然襲ってきた理由を考えるなか、拳を引き抜いた男はその手をこちらへ向けるとチョイチョイと小招いた。

 

 

「来な、一輝。あと数秒ぐらいは保つだろ? 久しぶりにお兄様が遊んでやんよ」

 

「――――――――」

 

 

 騒然とする周囲の観客達。

 

 思いも寄らなかった落ちこぼれの勝利。皇女の敗北。そこに加えて突然の乱入劇だ。

 彼が一体誰なのか。いやそれ以前に、どうして審判役の黒乃は止めないのか。

 

 困惑が支配するこの場において、乱入者と直接対峙した一輝の胸中は如何なるものだったか。

 

 紅蓮の皇女を打倒した優越感? 否。

 不意打ちへの怒り? 否。

 周囲と同じ当惑? 否だ。

 

 一輝は、笑っていた。

 

 かつて孤独に耐え切れず逃げた雪の中で、なにも成せず死にかけた自分を救った黒鉄 龍馬のように、諦めなくていいのだと自信を持って言える大人になりたいと思った。こんな男になりたいと願った。だが、

 

 いつか越えたいと思った強さは(・・・・・・・・・・・・・・)、大神 善ただ一人なのだ。

 

 そんな男が幾年ぶりに目の前にいる。立ちふさがっている。越えたいと願った壁が、今目の前にある。それを喜ばずにはいられない。

 

 体はすでに構えていた。気迫は熱を持っていた。

 

 

「僕の最弱を以って、貴方の強さをいま超える!!」

 

 

 もう、余力は残さない。

 

 一刀修羅は一分の時間制限がある。残りは数秒。駆け引きの時間は無い。

 

 一直線に間合いを詰める一輝。対して善は招いていた手をそのまま握り半身の構え。動く気配は無い。

 

 

(なら!!)

 

 

 更に加速。残り全ての力を使った突き――――からの、本命は薙ぎ払い。

 

 

「はああああああああああ!!」

 

 

 超速の二連撃。

 首を刈る斬り払いは、しかし手応えが無い。

 

 ――――ズズッ。

 

 突然そこに現れたかのように一輝の懐に善はいた。トリックなどではない。たった一歩の踏み込み。そして最小限の動きで一輝の剣を躱した。

 あの紅蓮の皇女が最終的に断念した接近戦。その優位を善は容易く取った。

 

 

「しっ!」

 

 

 長身を縮めて左足から踏み込んだ善。短い呼気と共に突き上げるように繰り出された左の掌底。

 

 回避にしろ防御にしろ、普通に対処していたのでは間に合わない。そう考えた一輝は振り切った刀を完全に戻すことはせず、手元の柄を盾にしてその掌を受けた。変則的ながら、この抜群の見切りこそ一輝のクロスレンジの真髄である。

 

 

(なんだ……?)

 

 

 間一髪ながら明らかに一輝の防御は間に合っている。なのに善は構わず打ち込んだ。

 

 反撃のチャンスだ。拳をいなし、体を崩して斬り捨てろ。

 

 染み付いた剣客の技は反撃を訴えた。――――が、体はその意に反して後退を始めていた。善の放つ掌底に、淡い黄金の光が見える。この瞬間、ステラの極光を見た時以上の寒気が、背筋を貫いた。

 あの掌底を受けるのは危険だと本能が叫ぶも、すでに遅い。

 

 

「――――遠鳴り」

 

「ッ……が!!」

 

 

 柄越しでありながら衝撃が突き抜ける。まるで硬い石でも投げつけられたかのように肋骨が軋む。どころか衝撃は内蔵を揺らし、背中へと突き抜けた。

 

 

(発勁? いやそれだけじゃなく……魔力を直接飛ばしてきたのか!)

 

 

 いいや、と一輝は明滅する意識の中で首を振る。真に驚くべきは技よりもその前。

 善は一輝の全力の攻撃を躱した。一刀修羅という奥の手を使っていながら容易くその動きについてきたのだ。逆に、善がどんな動きをしたのか一輝にはまったくわからなかった。

 

 一刀修羅。魔導騎士としての才能がなかった一輝が、それでも騎士としての高みを目指し編み出した伐刀絶技。

 

 それをこうも簡単に打ち破られたというのに一輝の中に諦観も悲観も、ましてや絶望もありはしなかった。その理由には実は心当たりがある。それは相手が善であったからだ。

 

 善は昔から何でも出来た。足が速く、腕力も強い。勉強も出来た。いつも自信に溢れていて、まるで物語のヒーローのようだった。

 善という人間は、一輝にとっての理想だ。目指すべき目標なのだ。

 

 だから他の誰でもない、彼に負けたからそれほどショックは受けないで済んだ。彼には誰が相手でも負けて欲しくない。そう、負けて欲しくない……。

 

 一刀修羅の制限時間が切れる。騎士として戦った一分間の代償。怒涛の疲労感がダメ押しとなり、一輝の意識が途切れていく。

 薄れていく意識の海の中で、一輝は最期まで義兄の顔を見つめ続けた。

 

 

(ああ……でもやっぱり、負けるのは悔しいなぁ)

 

 

 自分が思っているよりも、ずっと黒鉄 一輝という少年は負けず嫌いだと知った。苦笑が零れ、やがて完全に意識は闇へ沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前のめりに倒れる一輝を善の腕が支える。華奢な体に似合わずずっしりとした重みに善は時間の流れを感じる。一輝はもうあの頃の幼い子供では無いのだと。

 

 一刀修羅。一輝の編み出した伐刀絶技。

 

 おそらくは、人が元来かけている制限を意識的に取っ払ってしまう荒業。人体の安全装置セーフティを外す――――限界を超えると言えば聞こえは良いが、その実、代償として支払われるものは大きい。例えば、拳で殴って骨折しないのは体が無意識にブレーキをかけるから。一輝の伐刀絶技はこのブレーキを壊す。

 安全装置は必要だから存在するのだ。

 

 筋肉が千切れても走り、骨が砕けても殴り抜く。

 本当の代償は技後の疲労などではない。寿命。酷使され、壊れていく肉体の寿命だ。

 

 だが、それを支払うことで一輝はあの紅蓮の皇女を真っ向から打倒してみせた。騎士になることすら無謀だと、無駄だと嘲笑われた少年が、歴史上最高峰の才能を負かしたのだ。それは今後も彼の自信になるだろう。

 

 さてどうしたものかと意識を現実に引き戻す。周囲の観客達は未だざわついている。ステラの伐刀絶技で一度は逃げ出した者達も続々と戻ってきているようだ。ざわめきの内容としては、

 

 落ちこぼれ(一輝)が勝ったこと。

 天才(ステラ・ヴァーミリオン)が負けたこと。

 

 もうひとつ加えるならば乱入者の善に関してだろうか。

 

 善が審判役の黒乃を見やれば、視線に気付いた彼女は紫煙を燻らせながら目を伏せた。口元の笑みが『どうにかしろ』と言外に語っていた。

 衝動的に混ざってしまったのは自分自身なので仕方がない、と善は苦笑する。そうして、周囲を見渡した。

 

 

「俺の名前は大神 善だ。訳あって今年からこの学園に編入した……というより、理事長にさせられた。宜しくな」

 

 

 闘技場の真ん中で、片腕で一輝を吊り下げながらの善の言葉に騒然としていた周囲の声は一旦鎮まる。怒鳴っているわけでも無いのにいやに通る声で善は続ける。

 

 

「さて、お近づきの印といっちゃあなんだが、ひとつゲームをしよう」

 

 

 一輝を支えるのとは逆の手で、一本指を立てる。軽薄な笑みの下で善は告げた。

 

 

「俺に一度でも勝てたならそいつには――――無条件で七星剣武祭の出場権を与える」

 

 

 しばし会場が静まり返る。善の声が聞こえなかったわけではない。誰もが己の耳を疑ったのだ。

 

 

「不意打ち、多人数での襲撃……なんでもありあり。どうぞ皆様奮ってご参加下さい」

 

 

 気障ったらしい男は鼻で笑った。

 

 前髪で片眼が隠れた少女は不穏な空気におどおどと狼狽した。

 

 和服姿の少女は腹を抱えて転げる。

 

 周囲とは一線を画する雰囲気の四人は不敵に笑う。

 

 眼鏡をかけたおさげの少女は穏やかに微笑む。

 

 大仰な所作で腰を折る善は、凍るような薄ら笑いを浮かべていた。




閲覧ありがとうございます。

>なにより先にまず注意点をひとつ。今話から主人公を修正……というか変更しております。理由は自分の別作品と丸かぶりさせていることに気付きました。大失敗!
一応現時点で1話、2話は修正済みです。

>というわけであとがきに戻ります。とりあえずここまでが実質プロローグってな感じです。ここまでは書き古しを変更させてるだけなので文章なども雑ですが、次話より改めて書き出しなのでクオリティはある程度戻るかと(元々品質低めなのは無視の方向で)

>というわけであとがきも次から本気だす!(駄目な人の典型
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