軍服美女の悪魔契約者   作:濁酒三十六

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9話…己が心のままに…

 その日の放課後、案の定明奈は指導室に呼ばれ、担任である中年の女教師…戸崎道代が椅子に座った明奈と机を真ん中にして向き合い同じく椅子に座り、生徒指導担当の男性教師…身木沢嗣矢が戸崎の脇に立ち説教を貰う羽目となった。中肉中背である身木沢はそのおっとりした顔を困りげに曇らせ、戸崎道代は鬼婆の如く顔を歪めていた。

 

「小牧…、どうして友達に花瓶を投げつける様な真似したんだ?」

「身木沢先生、間違えないで下さい。小牧さんは森友さん達に花瓶を“ぶつけた”のです!

あんな危険な行為をしていると云うのに反省の色を見せないなんて、貴女あの子達が怪我をしたらどうするつもり!?」

 

 戸崎道代は少々事実を歪曲させて捲し立て、もうあのイジメグループを庇う様に明奈を責め立てた。身木沢は怪訝な表情を取り、感情的になる戸崎を止める。

 

「戸崎先生、小牧にも理由がある筈です。一方的に責めるのはどうかと思います。」

「身木沢先生、貴方この子のした事が解っているのかしら、もしかしたら森友さん達三人大怪我をしていたかも知れないのよ!

此だから親のいない子供は教育が行き届いて…」

 

 中年の女教師が明奈を罵ろうとすると、身木沢のおっとり顔に眉間を寄せて眉毛をつり上げて諌めた。

 

「戸崎先生、いくら教師でも口が過ぎますよ!…相手の気持ちを考えて下さい。」

「身木沢先生こそ彼女の危険行為を問題にするべきではありませんか!?」

 

 二人の教師は考え方の相違からなのだろうか、何と学校生徒である小牧明奈の前で言い争いを始めてしまった。明奈は教師同士の争いを呆れながら見るが、少なくとも身木沢に於いては自分に対して其れなりに味方をしてくれているのは理解出来た。

 すると何処からか“パンパン”と軽い手を叩く音がしてそれに気付いた三人が音の鳴った方を見ると、指導室のドアが開いており女性がスーツ姿の女性が立っていた。…浮之瀬美麗である。

 

「戸崎先生も身木沢先生もそのくらいにされたらどうでしょうか、小牧さんが困り顔で見てますよ?」

 

 間に割って入った美麗を戸崎はキッと睨み付け、彼女はいつもの微笑で其を受け流す。身木沢は頭が冷えた様で少しホッとした表情となった。

 

「浮之瀬先生、どうされたんですか?」

 

 身木沢に尋ねられると美麗の頬が染まり妙にソワソワし始めた。

 

「あっ、ハイ、教頭が戸崎先生を呼ばれていたので其れを伝えに来ました。…戸崎先生、()()()()()()。」

 

 そう美麗に言われると戸崎のキツい視線が更にキツくなり“ガタン”と椅子の音をわざと立てて立ち上がった。

 

「ありがとうございます、浮之瀬先生。…ですが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 敵意剥き出しに捨て台詞を言い捨てて戸崎道代は指導室の戸を乱暴に閉めて出て行った。身木沢は改めて美麗と向き合い、照れ笑いを浮かべて彼女に礼を言った。

 

「ありがとうございます、浮之瀬先生。自分…やはり戸崎先生とはそりが合わない様です…。」

 

 そして少し落ち込む様に苦笑いを見せ、美麗も小さな笑みを彼に向けた。

 

「身木沢先生だけじゃありません、

私なんか目を付けられて顔を合わせる度に睨まれてますから。」

 

 どうも二人と戸崎道代は色々と対立しているのか事ある事に感情をぶつけてしまっている様であった。しかし明奈はそんな教師事情よりも美麗の身木沢に対する態度の方に興味がわいていた。先程から身木沢には奇妙なまでにナヨナヨとしたり照れたりと歳不相応な仕草を繰り返しているのである。明奈はそんな美人教師から目を離さず、ジッと観察をしてみた。

 

「例の件って…、やっばり…“虐め”の事でしょうか?」

「多分そうだと思います。以前からずっと先生が問題視してくれてましたから…教頭先生もやっと重い腰を上げてくれたのかも知れません。」

 

 そんな会話になると身木沢は明奈に向き直り、笑顔でお礼と軽い説教を口にした。

 

「ありがとうな、小牧。岸輪の事守ってくれて…。

只もっと穏便にな、天井に花瓶を投げつけるのはさすがに危ないぞ。」

 

 どうやら身木沢はある程度の状況を把握していた様であった。証言は被害者をきどるイジメグループ三人が馬鹿正直に喋っていただけではあるが…。しかしだからこそ担任の筈の戸崎が小牧明奈だけを責め立てるのが許せなかったのである。岸輪典子の虐めの件は明奈が転入してくる前から身木沢嗣矢が職員会議で問題に取り上げていた。彼が岸輪典子のクラスの違う友達より相談を受けたのだが、彼女と小牧明奈のクラス担任である戸崎道代は虐めはないと断言しておりこの件に対してはかなり混迷していたのだ。虐めの証拠はなく、クラスの生徒達も口を閉ざしている上に他の教師が首を突っ込むにも担任が障害となっていたのである。更に今回はその担任が小牧明奈を不良と見なし、両親と暮らしていないのをいい事に彼女にはかなり辛くあたっていた。…当人は気にも止めてはいないが…。だが虐めに関して解決の糸口も掴めないでいるのはイジメグループのズル賢さ~強かさと戸崎道代の過剰な事なかれ主義が歪に組合わさった結果であった。

 浮之瀬美麗が後の事を引き受け、身木沢嗣矢は明奈に手を振って指導室を出て行くと、指導室の戸が誰も触っていないのに内側からロックされた。美麗は軽く溜め息を吐き、明奈が座る席の側の机に腰掛けた。明奈も美麗と二人だけになったので身体を楽にしてラフな座り方に変える。

 

「何れはトラブルを起こすとは思っていたけど…、意外に遅かったわね。」

「…遅いんですか…。」

 

 明奈は美麗のシレっとした反応に少し違和感を覚える。DC…悪魔契約者が二人同じ場所にいるのだから騒ぎは起こさない様にと釘を刺されると彼女は思っていたのだが、美麗はこの一件に対して注意をしたりはしなかった。

 

「…でもその騒ぎが人助けだなんて、貴女本当に真っ直ぐな娘なのね。」

「別に…、只朝からゆっくりと眠りたいだけです。」

「ツンデレ?」

「やめて下さい。」

 

 美麗はニコリと明奈に笑いかけ、彼女は顔をしかめて視線を反らした。

 

「そう言う先生こそ、身木沢先生には妙にデレてませんか?」

 

 ちょっと意地悪く美麗の身木沢嗣矢への態度をからかおうと明奈はしたのたが、美麗は顔を綻ばせ、またもや頬を染めて生徒相手に自分の想いを暴露した。

 

「実は…、今私、身木沢先生に片想い中…キャッ(σ≧▽≦)σ♥」

 

 美麗は思春期の如く顔を真っ赤にして両手で被い隠し、そのあざとい仕草を見せられた明奈の表情が凍りついて今すぐに指導室を出ていきたい気分になった。

 

(何でまた身木沢なんかに…、まぁ…良い先生だとは思うけど…。其れはさておき…)

「私に何か用があったんじゃないですか、美麗先生?」

「うん、取り敢えず今後についてだったけど…。やっぱり先ずは森友さん達と岸輪さんの件かしら。」

 

 其れを聞くや明奈はしかめっ面をして立ち上がり戸の鍵を開けて指導室を出ようとする。

 

「私、本当にあの娘を助けた訳じゃないから。虐めにも此以上は関わりません。」

「そう、でも森友さんはきっと貴女も標的にするわよ、明奈ちゃん?」

「その時は病院にでも送りつけてやります。」

「あら優しいのね、()()()()()()()()()()?」

 

 明奈はその言葉に足が止まり、その場から動けなくなった。

 

「先生は…、この学校の誰かを殺した事が…あるんですか?」

 

 明奈は後ろを見るが美麗の顔を見ずに尋ねた。

 

「まだかしら。…でも“予定”している人間はいるわよ。」

 

 小牧明奈は時折失念してしまう。浮之瀬美麗が悪魔契約者…魔女である事を…。天然とも思える言動や仕草は彼女の隠れ蓑の様なモノだ。その裏にあるのはDCに有りがちな傲慢と残忍性、そして全てを欺く狡猾さである。彼女が持つ優しさは本物ではあるがその慈愛が全ての者に注がれる訳ではない。自分にとって害となるならば例え相手が何の力もない人間であろうと浮之瀬美麗は容赦せず“蠅の王の力”を振るうだろう。美麗の言う()()()()()()()()は今までの状況の流れから察すれば名前を口にする必要もない。きっと今振り向いたなら、彼女はあの時と同じ優しげな微笑みを浮かべてるに違いない。…しかし明奈は美麗の魔性に恐怖しながらも美麗の考え方を真っ向から否定した。

 

「私は…学校の誰も…手にかけたりはしない、例えどんなに卑劣な奴であろうと…!」

 

 明奈は美麗とは目を合わせず、指導室を出て戸を閉める。一人残された美麗は何故かは分からないが明奈との死闘に見せた微笑みではなく、とても屈託ない嬉しげな笑顔を浮かべていた。

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