軍服美女の悪魔契約者   作:濁酒三十六

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2話…魔女と魔少女

 某県酒蒔市にある市立酒蒔中学校。新入生を迎えてから二週間程が経ち今日も何事もなく午後の授業まで終わりホームルームまで終えた。ブレザー姿の男女生徒が教室から出て来て帰宅する者と部活に出る者と分かれる。二階にある2年C 組の教室も殆んどの生徒が出て特に理由もなく居残る女生徒数人と彼女達に付き合わされている担任の女教師しかいなかった。女子達はその教師と一緒にいるだけで楽しい様でなかなか帰ろうとしない彼女達を教室から女教師がもう出る様にとたしなめる。

 

「浮之瀬先生さようなら~。」

「先生さようなら。」

「ハイ、さようなら。気を付けてね。」

 

 女生徒は元気に「ハ~イ。」とハモって返事を返し帰宅した。長い毛先を切り揃え首の後ろで結った黒髪を軽く弄り薄い黄土色のレディーススーツにタイトスカート姿の女教師…浮之瀬美麗は学級名簿を持って教室を後にした。そして彼女の後を一匹の蝿が追い左肩に留まると目立たぬ様に襟元に隠れた。

 

《あらヴェル、何の様?》

 

 美麗は校舎の廊下を歩きながらテレパスでヴェルと呼ぶ蝿に語りかけ、ヴェルもまたテレパスで美麗に返す。

 

《何様ではない、先日お前が逃がした次元魔だがあれから我が使い魔が奴を見つけた。奴は建設中のビルがあるオフィス街で人間を食い荒らしておる様だ。

今夜必ず仕止めるぞ!》

《そうね、今度はちゃんと倒さないと!》

 

 美麗は決意を新たに表情を固めた。そんな彼女の後ろ姿を一人の女生徒がジッと見つめてほくそ笑み、ヴェルはその存在に気付き、美麗の襟元から覗いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の深夜、美麗は軍服コスチュームで建設中のビルに立てられているタワークレーンの先端に立って鋭角な襟を立てたマントを風になびかせながら町中を見渡してあの牡牛の様な角を生やした蛙の化け物の魔力を探索していた。夜空の月は群雲から顔を覗かせて僅かな月明かりを下界に送る。美麗は軍帽のツバをつまみクイッと少し上げて更に周囲を見渡す。

 

「次元魔の魔力が感じられないわ。本当にこの区域なの、ヴェル?」

《この区域の筈なのだが…、“あの娘”に倒されておるのだろうか?

まさかとは思うが我等にとって面倒な状況になるやも知れんな…。》

 

 美麗の肩でヴェルが意味深な言動を言い出し、美麗も眉間をひそめて鼻で軽く溜め息を吐く。

 

「ああ、学校で私を後ろから様子を伺っていたって言う娘の件ね。それこそ数年ぶりかな?

私の近くであまり()()()には増えてもらいたくないわね~。」

《なら見つけ次第殺すか?》

「それは最後の手段にしたいな、相手の出方次第だけど…。

此方からは先に手を出さず穏便に済ませましょ。」

 

 美麗はクレーンの先端から飛び降りてとんでもない高さを涼しげな顔で急降下。着地寸前でフワリと身体が浮いて悠々と爪先から着地してコッと軽くブーツの音が鳴った。美麗は胸ポケットからアナログな懐中時計を出して時間を見て目を擦る。

 

「もう0時、私眠いわ…。」

《学校での意気込みは何処に行ったのだ!?》

「仕方ないじゃない、眠いんだから。後二十分で見つからなかったら帰る。」

《お前のその飽きっぽい性格は()()()から全く変わらん…。》

 

 ヴェルは蝿の姿で首を横に振ってやはり呆れる。取り敢えずは配置させた使い魔達の情報を一手に集め、魔力と姿を隠した次元魔を探す。…と、やっとヴェルが張った網に獲物が飛び込んだ様で直ぐに美麗に知らせが来た。

 

「あ~あ、死ねばいいのにっ!」

 

 見つからないと思っていた彼女は次元魔が見つかってしまった事に腹を立てて不機嫌になり理不尽な物言いをすると、さすがにカチンときたのかヴェルが美麗を叱りつけた。

 

《早く寝たいのであればサッサと次元魔を狩ってしまえばいい、動けこのたわけが!!》

「分かってるわよ、この鬼っ!」

《“悪魔”だ!》

 

 美麗は前屈みになって疾風の如く走り出した。真っ暗な車道を超人的な脚力で姿を見せぬ程の速度で駆け抜け標的を確認、二挺のモーゼルC96を構え引き金を引いた。“バンバンッ”と二発の弾が標的に命中、弾は貫通せずソイツは獣の悲鳴を上げて此方を睨んできた。牡牛の様な角に人間を丸呑みにする程の大きさ、その身体を支える六本の足を生やした蛙姿の次元魔。ソイツは先日とは違い臨戦態勢となり美麗に面を向けて身体を怒らせた。美麗もモーゼルの銃口を向け次元魔を見据える。

 先に動いたのは次元魔で二本の角を槍の様に変形させて美麗に突進、闘牛など比べものにならない突貫攻撃を美麗は軽々と避けるが、その表情は何故だか難しげにしかめ、肩にいたヴェルを摘まんで自分の眼前に持ってきた。

 

「ヴェル、()()()()()()()わよ!どうして!?」

《なに、ちょっとした意地悪だ。お前なら“ミエリアス”が無くとも勝てる相手だろう。》

 

 それを聞いて美麗は口をへの字にしてヴェルを摘まんだ指に力を入れてグニグニと揉みまくる。普通の蝿なら直ぐに羽根と足が取れて潰れているのだが、ヴェルは悪魔なので成すが侭にされるだけである。以前この姿で10tダンプに踏まれた事があったがそれでも潰れず無事であった。

 悪魔契約者は女性が殆んどで未成熟な時期に契約する事が多い。その時に契約した者は少女なら“魔少女 …稀に長きに渡り契約を続けている者を“魔女”と俗称している。男の契約者はそのまま契約者である。悪魔は現世で力を振るうには依代が必要で波長の合う人間と契約する。契約者はその悪魔の力を自由に使う事が出来るが基本的に主導権は悪魔にあり契約しても力を貰えなければ契約者は魔力を使えない。時に其が命取りとなり彼等の機嫌を損ねれば闘いの最中に裏切られ見捨てられるケースも少なくないのである。その様な対等ならぬ理不尽な契約下で美麗とヴェルの契約は十六年も続いていた。

 今美麗は“必殺の弾丸”をヴェルの嫌がらせにより封じられてしまい次元魔の伸縮自在且つ鞭の如く襲い来る角の連続攻撃を躱しながらモーゼルC96を撃ちまくる。C96は本来マガジンには八発の弾丸しか入っていない筈なのだが彼女の二挺は補充せずに二十発以上も撃ち全てを命中させている。モーゼルC96の形はしていても中身は別物である。その銃身は実物より硬く軽い。そして撃ち出す弾丸は魔力より精製された魔弾で美麗が銃の腕が良い訳ではなく弾丸が魔力で敵へとホーミングするのである。角蛙の次元魔はその殺傷力の強い二十発の誘導魔弾を全て受け尚身体を支えているが弾丸は全て貫通、二倍ある弾痕より青い血を“だくだく”に流し最早満身創痍の身でいた。美麗は冷たく凍りついた眼孔で睨み尚も容赦なく魔弾を撃ち込む。青い血煙が広がり次元魔はとうとう地面に腹を付け動けなくなった。美麗は近付いてトドメを刺そうとすると次元魔は頭を上げて口を開け舌をやはり鞭の如く振るって抵抗してきた。しかし美麗は魔弾一発で舌を撃ち切断してモーゼルC96を連射、次元魔は更に蜂の巣にされてやっと絶命した。美麗は一息吐いて目の前を飛ぶヴェルをデコピンで弾いた。

 

「“ミエリアス”なら直ぐ片が付いたのに~!」

《何を言っておる。ちょっとやる気を出せば()()()()ではないか、この怠け者め。》

 

 デコピンで弾かれたヴェルは何時の間にか軍帽の天辺に留まり前足で顔を拭いていた。美麗は不機嫌を露わに軍帽を取りヴェルを振り払う。

 

「あっ、やっぱりあの先生だったんだ。なら“魔女”って事よね…()()()()?」

 

 後ろより声がして振り向く美麗。すると其所に酒蒔中学校のブレザーを着たショートヘアの生意気そうな少女が此方に近付いて来ていた。美麗はやはり不機嫌な顔付きのままその少女を睨む。どうやらオバサンと言われた事が気に障った様だ。

 

「貴女酒蒔中の生徒?」

「えぇ、小牧明奈って言うの。宜しくね、オバサン。」

 

 またもオバサンと言われて美麗は眉間に皺を寄せる。ヴェルは彼女の肩に留まり小牧明奈と名乗った“魔少女”を見据えた。

 

(ほう、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに契約者の方はこうも簡単に顔を晒す所を見ると只の愚か者か相当な遣り手のドチラかだ。)

 

 美麗は明奈を睨んで軍帽を浅く被り腕を組む。

 

「オバサンはやめてもらえる、私まだ三十になったばかりだし貴女の先生よ。」

 

 この言葉に明奈は美麗を蔑みの視線を向け言葉を返した。

 

「先生?悪魔なんかと契約している人間が先生だなんてお笑い草だわ。世も末ってこの事よね、オ、バ、サ、ンッ。大体軍服なんか着込んじゃってダサ過ぎ。」

「ヒドイ、三回もオバサンって言った!!

貴女だっていつかオバサンになるのよ、オバサン馬鹿にしちゃ駄目なんだから!

それに軍服は魔法の衣装よ、どんな人間だってコレを着れば凛々しくカッコ良くなるのよ!」

 

 何やら軍服にはちょっとした思い入れがある様で反論を返された明奈は一瞬言葉に詰まった。…気を取り直してまた蔑みの瞳を向け彼女は美麗にとんでもない提案を申し立てて来た。

 

「別に軍服なんてどうでもいいわ。

其より私まだ転校して来て日が浅いんだけど…、この町を今日此から私のテリトリーにしたいの。だからオバサンはこの町から出て言ってくれない、邪魔だから!」

 

 明奈は美麗に嘲笑を送る。そして彼女も表情を悔しげなものから冷静なものへと変える。

 

「小牧明奈さん、其は私への宣戦布告って事よね。

其が何を意味するか分かって言ってるの?」

「当たり前じゃない。でも、素直に町を出るなら…、手出しはしないわよ。」

 

 自信満々に明奈はフンと鼻を鳴らした。恐らく彼女は以前にも悪魔契約者と何度と闘い勝っているやも知れなかった。…でなければ真っ向から挑戦状を叩きつける様な真似はしないであろう。美麗は溜め息を吐き、明奈の売り言葉に買い言葉を返す。

 

「喧嘩売って縄張りGETとか言うつもり?

まるで昭和時代の不良かヤクザね。先生貴女の将来が心配だわ。もっと素直な中学生らしい遊びをしなさいな。」

 

 美麗のこの言葉には生意気な少女もカッと目を見開いてクッと悔しげに口を鳴らした。

 

「どうやら交渉決裂ね。学校は兎も角、夜に出会ったら覚悟しなさいオバサン!!」

「あら~今の交渉だったの?私脅迫だと思ってたわよ。

それと次オバサンって言ったら学校であろうと容赦しないわ、餓鬼!」

 

 明奈は眉をつり上げて敵意を剥き出しに睨み付け、美麗は此処で初めて明奈に殺意を向けた。彼女はその場を去り、美麗は何気に先程の次元魔の残骸に目を向けると何と其所から無数の蛆が次元魔の身体から這い出て来て蝿になり残骸を食らい始めた。

 

「今更起爆させてもしょうがないのに…。」

《次元魔の死骸は我が養分となるのだ。あのまま消滅させてしまっては勿体無い。》

 

 美麗はヴェルの言葉に対して「なら意地悪なんかしなければいいじゃん。」と小さく呟いた。




軍服美女は悪魔契約者~2話を読んで頂きありがとうございます。
今回は多少の設定説明に新たな~と言うよりは最初の魔少女…謂わば魔法少女登場で主人公とは敵同士です。
そして早くも主人公の能力が判明ですが契約した悪魔が悪魔なので悍ましくえげつない力が殆んどでもう悪魔の正体なんかバレバレですよね。
次回予告は多分学校内の話になりそう?
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