蒼碧の海原にて  ~艦隊これくしょん 艦これ~   作:野澤瀬名

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横須賀着任編(全三話)
壱話 横須賀着任


西暦二〇二一年。

地球温暖化による海面上昇。人口増加による発展途上国を中心とした食糧難。エネルギー問題などといった二十世紀終盤からの諸問題が解決しないうちに人類は新たな危機と遭遇した。

 

"深海棲艦"。便宜上そう呼称されたモノたちの深海からの突然の侵攻。制海権を奪還するべく国連安保理は緊急決議を取り、各国の軍を一時的に解体。国連統合軍を結成し、"深海棲艦"に対して抵抗を試みた。

 

しかし、人間大の大きさに高機動性、第二次大戦期の戦艦と同レベルの火力と防御力を有し、またこちらの電子装置を無効化する能力を持つ彼らに対し、既存の航空機や艦船、ミサイルといった兵器では対抗できなかった。

 

それに対し、人類は艦娘と呼ばれる第二次大戦時の艦船を模した兵装を装備し、その艦船と同調する少女たち"艦娘"を実戦投入した。

 

したのだが……。

 

 

 

西暦二〇二三年 八月十五日 横須賀沖 護衛艦『しらかみ』士官室

 

アラームに意識が覚醒し、目を開けると室内に取り付けられた照明が刺さる。最新鋭の護衛艦『しらかみ』は居住性の向上も謳っているが、基本軍艦は戦闘に従事する船。豪華客船などと比べられるのは酷なものである。

 

「少将、失礼致します。」

 

聞き慣れた馴染みの声とともに入室してきたのは梶谷敦(かじや あつし)大佐。幼少の頃からの馴染みで今は無き同じ部隊出身の戦友であり、今度配置される横須賀では部下となる俺にとって腹心の友と呼べる。

 

「間もなく横須賀港に入港します。離艦の用意を。」

「ありがとう。……いつもの調子に戻していいよ?」

「助かる。お前相手に敬語は疲れるわ……。しっかり休めたか?」

 

ああ、と返答し俺──山本優人は立ち上がると、用意しておいた革鞄と私物を収めたトランクケースを手に立ち上がる。

 

「横須賀の状況は?」

「前の空襲で物資の備蓄倉庫群がやられた。戦死者の数も膨大らしい。。」

 

呉の参謀本部で横須賀司令部配属の拝命を受ける一週間前のことだった。横須賀を中心とし松島基地、筑波基地、厚木航空基地など東日本の主要基地に対する大規模な空襲を受け、かろうじて撃退には成功したものの壊滅的な打撃を被ったとの報が入った。

既に東名高速や中央道といった主要高速道路を破壊され、制空権を喪失しつつある現状、救援物資等の運搬は一般道を利用した陸路か、沿岸を通過しての海路しかない。

そういう理由で彼らは襲撃を避けるべく、沿岸部を這うように横須賀へと航行していたのであった。

 

「敵さんが勝ったと思って沿岸に艦隊を差し向けてくれなくて助かったぜ。おかげでこっちは無傷で横須賀に入れる。」

「まずは被害状況の確認と基地機能の復旧。それに……」

 

 

()()()()の環境も把握しなきゃな。」

 

 

 

***

 

 

 

「横須賀へようこそ。自分は統合軍極東管区第一艦隊司令部所属、葛井(かつらい)であります。」

「お、同じく、藤村少尉です。」

「出迎えご苦労様です。本日付で着任した司令長官、山本です。よろしく。」

「呉参謀本部より横須賀基地参謀部に着任した梶谷だ。よろしくな、お二人さん。」

 

軍機なぞ知らんとばかりのフランクな梶谷に、ムスッとする葛井と驚く藤村だったが握手を求めると渋々、おどおどと応じてくれた。

船を降り、待機していた高機動車に乗り込むと破壊された横須賀基地内を走る。

 

「被害状況の方は?」

「はっ、港湾施設及び機能は死守しました。しかし、四か所あるうちの資材備蓄集積所が二か所が壊滅。もう一か所も、搬出用機材が多数破壊され、実質使用不可能です。」

 

車外の様子も酷く、大破した対空車両や半壊した兵舎が見える。港湾機能が残っているだけ奇跡とも言える。

 

「……また、司令部庁舎にも直撃弾があり、退避中であった前司令長官を含む八名の司令部要員が戦死しました。」

「前任が戦死って、じゃあ残った要員の数は!?」

「自分を含め、わずかに四名です……。」

 

苦虫を噛み潰したような顔をする葛井としょげ返っている藤村少尉。

部隊再編と基地機能の回復。かつ近々予定されている大規模反攻作戦に向けて呉参謀本部から命じられた硫黄島奪回。その三役をこなさねばならないというところか。思った以上のハードワークになりそうだ。

 

「葛井大佐。会議室の方に各部署の主任と着任している艦娘全員を集合させてくれ。」

 

 

 

***

 

 

 

「前橋久美。階級は大尉。臨時主計課長です。……あ、それと一応私は軍属なので。よろしくです。」

「……一橋大吾。階級は技術中佐。工廠長だ。」

 

一言でいうなら変人ども。

それが私、葛井龍之介から見た現状の横須賀基地の現主任たちだった。

 

(…………分かっているさ。前回の襲撃での死傷者のせいで人手が足りないんだ。変人どもの手でも猫の手でも借りたいんだよ!)

 

出世が約束された防衛大卒のエリートコースを歩んできた私としては、ニートにしか見えない(臨時)主計課長や頑固親爺の工廠長たちと仕事を共にするとは夢にも思わなかった。正直に言って邪魔であったとしか言えない。問題はまだある。

 

(それに、またアイツらは……!)

「おいっ、長門!さっさと長官に挨拶をしないかっ!」

 

室内の対極側に立つ少女たち。

 

艦娘。現在の戦闘において主役となる者たち。鋼鉄の艤装を装備し、硝煙煙る戦場に身を投じる存在。

だが、私には理解できない存在である。そもそも兵器に感情や個性がある時点で均一化された現代戦における兵器として失敗作であると断じる。

その中でも戦艦クラスである彼女、────長門はプライドの塊とでも言える程、この艦隊一の頑固者で問題児であった。

 

「…………戦艦長門。第一機動艦隊旗艦。以上だ。」

「な、なんだ!その投げやりな態度は!貴様、また営倉行きにな────」

「いい、葛井大佐。みんな復旧作業中集まってもらってすまない。」

 

山本少将が割り込み、私は渋々引き下がる。

────まあ、いいさ。

今回の再編であの変人どもともおさらばだ。

言うことを聞かない艦娘たちも配置換えされるだろう。

聞けば山本少将は呉の参謀本部でも優秀と評されている優秀な指揮官らしい。

彼の元で活躍すれば軍令部入りの推薦を頂くことも夢ではな────。

 

 

「まず、みんな固くならないでほしい。俺は()()()()()()()()()()()()()()()だった。横須賀司令部長官への着任にあたって特例で将官待遇を得ているだけだ。また、現状の横須賀配備の艦隊はそのままとのお達しだ。なんでも、南西諸島戦線の維持で手一杯だそうだ。」

 

 

───え。

 

 

「そして前述のとおり、俺の艦隊運用や基地運営などのノウハウは教練課程修了レベルだ。みんなに協力をお願いしたい。」

 

 

───────は?

 

 

「また、基地の追加人員は認められたが、主任クラスの交代要員は認められなかった。よって、現時刻をもって、臨時主任たちは正式に主任の任に就いてもら」

「────────ちょ、山本司令!?」

 

どよめく会議室内でようやく我を取り戻す。私は慌てて少将の前に出る。

 

「何か問題かな、葛井大佐?」

「問題も何も!参謀本部がそんな無茶ぶりを?冗談も大概にして────」

「無茶でも冗談でも無い。これが決定です。────あ、指令書を渡し損ねていたよ、すまない。」

 

差し出された書類を、ひったくる様に取り目を見開いて見ると、この男が言った通りの事実が明確に記載されていた。いたのだった。

腕時計に目を落とした彼は突っ込む暇すら与えず次のような事を宣った。

 

「ということで昼も近いし、みんな昼食にしよう。」

 

 

 

***

 

 

 

(────不思議な男だ)

 

山本優人と言う人間に対する長門の第一印象はそんな感想だった。

今までの基地司令たちは上から目線で命令口調を崩さず、艦娘たちを締め付けようとする典型的な上官ばかりであった。中には直接手を出したり、女として容認出来ない行為に走る者もいた。私も手を出されたが、つい病院送りにしてしまったせいで一ヶ月の謹慎を言い渡された。後悔はしていない。

その誰もの瞳は、艦娘(兵器)に対する恐れや畏怖、または自らの立身出世の道具としか見ていないことが伺えた。

だが、彼、いや彼らはと言うと────

 

「────ほい、食事処梶谷特製バターチキンカレーお待ちどう!!」

 

司令官の命令で始まった昼食。(しかも天気が良いからと屋外にベンチを出してである。)

山本の副官である梶谷。元々定食屋の倅であったらしく厨房に入り、食堂のスタッフと共に僅かな時間で調理を終えると基地のスタッフたちだけでなく艦娘(私たち)にもそれを振る舞うのだ。

 

「あ、あのいいのでありますか?自分たちのような下士官にまで!?」

「まあ、今日だけの特別だ。お前ら数日禄に食べてないだろ?まずは食って腹満たさなくちゃな。」

 

歓喜する基地の兵士達。一方、先程の葛井(今は目の前の展開に着いていけず、放心状態に陥っている)の罵倒に怯えていた又は憤っていた駆逐艦クラスや巡洋艦の艦娘たちは驚愕する一方、カレーに対する興味や食欲でソワソワしている。

年長の吹雪(特1型駆逐艦)が恐る恐る尋ねる。

 

「────え、こんな贅沢なモノ私たちも食べていい───んですか!?」

「おう、食え食え。おかわりもあるぞ!」

 

ニコニコしながらカレーをよそう梶谷に毒気を抜かれ、吹雪は隣に居た姉妹艦の叢雲と見合わせた後、『い、いただきます。』と一口。

 

「────んー!すっごく美味しいです!!鶏肉が柔らかくて!!」

「ホント!!辛さもマイルドでコクがある!」

「鶏肉をヨーグルトに漬けておいてソイツをそのまま鍋にいれるんだ。そうすれば肉は柔らかくなるし、味もマイルドで旨みが増すんだ。」

 

たちまち複数の艦娘たちに囲まれる梶谷。

癖のある主任たちも梶谷のカレーに舌鼓を打っているようだ。

それを見て、だが輪の中には入ろうとしない者もいた。基地司令部の葛井や一部の艦娘たちである。

 

「あーあ、すっかり気を許しちゃって。アイツらにされた事もう忘れちゃったのかな?」

 

旧日本海軍が建造した一連の五五〇〇t型軽巡。その最後の型である川内型軽巡洋艦一番艦の魂を引き継ぐ川内である。ちゃっかりカレーは入手している彼女に聞いてみる。

 

「川内。お前も餌付けされたのか?」

「やだなー、人聞きの悪い。貰えるモノは貰っとかなきゃ損でしょ。また何時態度コロッと変わるか分かんないし?」

「────そう、だな。」

 

乾いた笑みを向ける彼女を見ながら長門もまた思った。

────どうせ私たちと人間は違うのだから。

 

 

 

一方、その様子を遠目で観察している山本の視線に彼らは気づいていなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「まだ起きているのか?優人。」

 

梶谷の声にデスクから顔を上げ、彼の方に頷いた後、時計を見る。

深夜十一時半。とっくに消灯時間は過ぎ、起きている者といえば夜勤の警備兵ぐらいなこの時間。

俺は一時的に司令室を置く会議室で今後の行動予定を練っていた。

 

「ああ、もう寝るよ。ちょっと書き物があってね。」

「────ここの連中、どいつもこいつも一癖二癖ある奴らばっかしだな。」

 

苦笑する彼に。ああ、と俺は再び頷く。

癖者揃いの主任たちに、エリート思考の参謀。

そして、どうやら人間嫌いな一部の艦娘。

明日から本格的な司令官としての仕事が始まる。

彼ら、彼女たちと信頼を結び、協力出来るかどうか。それがこの司令官としての最初の仕事になる。

 

「明日から忙しいぞ。」




どうも、野沢瀬名です。

現在Fate/Grand Ordersを連載中ですが、ふと『他の創作もしたいな』などと思い、艦これの短編集みたいなものを筆休めで書いていたのですが。
思った以上に筆がノリに乗ってしまい、結構な設定及びストーリーが出来上がってしまいまして。
ということでFateの執筆の傍ら細々とではありますが連載しようと思い一部改変、または書き下ろして投稿した次第です。(故にペースは未定です。気長にお待ちください。すみません!!)

現代兵器が登場している時点で「艦これじゃねぇ!」と思われる方も居ますが、基本この作品ではヤラレ役です。(基本←ここ大事)
純粋なミリタリーモノでは無いのであしからず。
また、基本的に山本提督視点からの物語ですが、時折オムニバスの様に語り手が変化する感じで進めていこうと思います。

本格的な戦闘は次回から。ここまで読んでくれた方に感謝しつつ、今回はこの辺りで筆を置こうと思います。



嫁艦は榛名改二(Lv.85)です。

2017 2/6 一部登場人物の名前にルビを振りました。
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