ハンバーグ回避譚   作:缶詰伽哩

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絶世の美男子として生まれたにも関わらず、将来を悲観するしかない憑依系もの。使い古された設定&流行はずれですが、封神演義読み返して面白かったのでつい書きたくなりました。


俺と伯邑考とハンバーグ

 今からおよそ3000年以上前に、古代中国において殷王朝が周王朝によって倒されるという、殷周易姓革命が起こった。その戦いにおいて、仙人や神たちが活躍した、という創作のお話が封神演義であり、現代においても多くの人々に親しまれている物語である。

 

 はずだった。

 

 突然だが、文武両道で美男子、さらには国王の嫡男であるという境遇をどう思うだろうか。美女ハーレムだとか俺TUEEEEだとか内政チートだとか考えることはいろいろあるだろう。ついでに言うと、前世の記憶持ちの所謂転生者だ。といっても大学入って遊び倒してたゆとり世代であるからして、その知性が役に立つかといわれるとかなり微妙だ。むしろ変なサボり癖がつきそうだから矯正すべきことが増えただけかもしれない。

ただし、一つの漫画の知識だけはとても役に立ちそうなことが、俺の人生勝ち組だぜと胸を張れない最大の原因であることはもはや皮肉でしかなかった。

 

 『封神演義』

 

 その漫画のタイトルだ。小説だとか原作者だとかいろいろあるらしいが、知っているのは一つだけ。ジャ○プで連載されていた藤○竜版封神演義だ。

 その漫画の知識が役に立つと思った根拠は、生まれたところが殷の西岐という地方であること、そこを治める領主が姫昌ということ、その姫昌が父親だということ、父親が漫画版の若かりし姫昌に滅茶苦茶似てるということ、そして俺の名前が姫伯邑考であるということだけである。

つまり、否定できるなら否定したいと常々思っているものの、今のところ確定しているだろう未来の俺はハンバーグだ。美女二人に美味しく料理され、父親のトラウマになることだろう。

 

 ハンバーグだけは回避したい。

 

 封神演義において、姫昌は悪政を敷く殷王朝の紂王を倒すべく立ち上がった周王朝の祖だ。しかし、本来は紂王の家臣だった姫昌が、反逆を起こして殷を革命するまでにはそれだけの理由があった。それが姫昌の嫡男、姫伯邑考だ。

 伯邑考が紂王と悪女で皇后の妲己の不興を買って殺され、さらにその肉を父親の姫昌が食わされるという残虐な目にあわされて、打倒殷王朝を誓ったのだろう。つまり、この俺は歴史が動く上での重要なファクターであり生贄だ。俺の犠牲なくして周王朝は建たないかも知れない。

 

 が、知ったことではない。

 

 それがどうした、とまでは言わないが、紂王は悪政や暴虐を行うことで姫昌以外の臣下たちからも恨まれていたし、民は虐げられていたし、姫昌は民に慕われていたわけだから、いつかは姫昌を旗頭とした革命は行われただろう。わざわざ俺が犠牲になる必要を感じない。俺が犠牲にならずとも十分革命が起こるなら、伯邑考の死は必要不可欠な要因ではないということだ。つまり、歴史を思い通りにやり直す道標という名の神に名指しで命を狙われる訳ではない、と思いたい。仮に歴史の道標に名指しで命を狙われているとしたら、どう考えても生存率は絶望的なので思考停止している感は否めないが。

 

 実際のところ、歴史の道標の考えなど俺に知るすべはないので、死を回避するために必要なことを考えたほうがよほど建設的だろう。

 現時点で、俺が重要だと思うことは2つ。

 1つ目は、俺の死の経緯と状況をよく思い出して、因果関係からそこに至らない方法を考えること。難題だが、漫画で俺が死んだときよりはかなり前であることはわかったので、考える時間はある程度確保されているのが不幸中の幸いである。

 2つ目は、助けてくれる相手を見つけることだ。理想は太公望を妲己の処刑から助け出した武成王を味方に着けること。また、太公望や崑崙の仙道たちも、妲己の非道を善しとしないので助けてくれる可能性がある。ただし、俺が住んでいるのは西岐で、武成王のいる朝歌からかなり離れているため、知り合うこと自体が難しいのが問題だ。仙界の崑崙山に至っては空を飛んでいるので、普通の人間には行くこともできないだろう。

 

 まあ、考えてみても穴だらけだ。

 

 所詮はゆとり大学生だった俺の知恵など大したことはないということだ。いつか、この時代において賢人と呼ばれる父親の意見を聞いてやろう、と俺は部屋に入ってきた若い姫昌の顔を見る。

 

「おう、伯邑考、元気にしていたか」

「ちー」

「おお、もう俺のことがわかるとは。よしよし」

 

 まずは言葉を十全に話せるようになることからだが。

 

 にこにこしながら俺の頬っぺたをつつく姫昌の指を払いのけ、一刻も早く喃語以外の言語を習得することを誓う。そもそも名前や地名を聞き取れるようになったのも最近のことである。そのときのやさぐれた気分を思い出したことで、この姫昌は似ているだけのそっくりさんだと思いたい気持ちが膨れ上がったため、俺はそっぽを向いた。なんか姫昌が話しかけているが知らん、俺は寝る。目をつぶったら3秒で眠れるところがこの身体の良いところである、と自分を慰める俺は、未だ生後4ヶ月ほどの乳児であった。




1話の最初の方は完全版が発売されたころに書いたので、もう10年ぐらい前になります。主人公がゆとり大学生なのはそれが原因です。
書き始めて一番困ったことが、史実と小説と漫画原作の年表と登場人物の年齢が合わないことでした。これに関しては次話以降のあとがきに少しずつ書きます。
とりあえず、伯邑考は死んだとき超美男子だった、という漫画の設定を最重要視しております。
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