今回はオリキャラだらけですみません。
※UAが100件を超えていたため急いで投稿しました。お気に入りしてくださった方もありがとうございます。
所属していた大学の研究室で、その機器の不調に気づいていたのは俺だけではなかった。研究に使っていた学生が他にもいたし、業者が点検に来る予定も聞いていた。しかし、迫る報告会を前にしてデータ不足に悩んでいた俺は、危険予測できたはずなのにもかかわらず徹夜で実験を続け、
気がついたら姫伯邑考になっていた。
「ううー」
「伯邑考さま、ほーら、でんでん太鼓ですよ」
でんでんでん、と乳母の鳴らす太鼓に目をとられながら、ぐずった鼻をすする。前世のことを夢で見たせいで、ややホームシックな気持ちになったようだ。乳児の身体は涙もろくていけない。
死んだときのことはよく思い出せないが、あのあと、研究室のみんなはどうなっただろう、教授にはすごい迷惑をかけてしまっただろうし、友達や先輩、後輩も、そして、実家の家族は俺の死をどう思っただろうかと思うと、止めたはずの涙が再び溢れてくる。
「ううあああああーん、うああーん」
「あらあら、今日はどうされたのかしらねえ、いつもはとってもおとなしいのに」
その後、1時間ぐらいだろうか。乳母に抱き上げられてあやされて、ゆらゆら揺れる腕の中で泣きつかれて眠りについて、目が覚めたときには顔から火が出るかと思ったほど恥ずかしかったのは、俺だけの秘密である。父親と自分の名前を知ってから、漫画での未来を思い出してやさぐれていた時期に次いで、大人になったときに話されたら憤死する思い出になってしまった。
さて、黒歴史は厳重に封印することにして、未来のことを考えよう。
この世界に仙人がいることは間違いない。昨夜の乳母の寝物語に仙人が出てきたし、そのときに乳母の知人が仙人界にスカウトされたという話も教えてくれた。俺の口がもっと滑らかに動くのならば聞きたいことがたくさんあったのだが、残念ながら喃語ではうまく聞き出すことができず、逆に寝かしつけられてしまった。せめて崑崙山と金鰲島、どちらにスカウトされたのかだけでも知りたかったのだが。人間だから崑崙の可能性は高いが聞仲や鄧蝉玉といった、人間が金鰲で道士になった例もあるので、過信は禁物である。まさか、桃源郷ということだけはないだろうが。
ともかく、思わぬ仙界への人脈を手に入れたことを思い出して上機嫌になった俺を、乳母がにこやかに見守っている。口角周りの筋肉や滑舌を手にいれるために最近始めてみた歌にも、緩やかに膝鼓を打っている。歌と言っても歌詞をはっきり話すことはできないし、現代日本のJPOPを元にしているので音律も異なるため、乳母にとっては赤ん坊が訳のわからない奇声を上げているのと変わらないだろう。にもかかわらず、優しいまなざしで見守る乳母を、俺はずっと母だと勘違いしていた。
それは本物の生母に会ってからもだった。
「まあ、なんなのでしょう。またよくわからないことをして」
「奥方さま」
きつめの眦をさらに吊り上げ、キンキンと高い声を出した女が、俺の母の太姒であった。伯邑考と姫発が姫昌にそっくりなのに対し、周公旦に似た細目で面長だと言えば分かりやすいか。つまり、俺だけでなく、姫発と周公旦の母でもあるわけだ。しかし、そんな太姒に俺は嫌われているようだった。
「伯邑考さまは今日もとてもご聡明でいらっしゃいました。私どもの話す言葉をよく聞いておいでになるようで、お返事くださりましたわ」
「いいえ、そんなものは、ただの勘違いです。意味もわからず、反応があるから声を出しているに過ぎません」
「ですが」
「普通の赤子であるのなら、そうでなくてはならないでしょう」
太姒は、俺を褒める乳母の言葉を否定する。尚も続けようとする乳母を切り捨てるかのように、甲高い声で言い放った。
太姒が腹を痛めた子であるにも関わらず俺を嫌うのには理由がある。というのも、彼女は確かに俺の母親だが、まだ13歳の少女でもあり、初子の俺を出産したことは少女の身体に大きな負担をかけたようで、数週間寝込んでいたのだ。そのせいで、俺は面倒を見てくれる乳母を母だと思い込んだし、やや老け顔だが中学生ぐらいの少女を母だと思い慕うこともできなかった。
さらに追い討ちになったのが、もう忘れ去りたいあのやさぐれ期である。周りの人間を完全に拒絶し、食事も取らず、近づいてくる人間がみんな女禍の仲間に見えていたあのときの俺の行動は、控えめにいっても妖怪やもののけが憑いたかのように見えたらしい。それまで前世の記憶があったために特に大人しい赤ん坊だったのが急変したのだから、そう疑うのは無理もない。姫昌の介入もあり、一応、それは否定されたようだが根強く疑いを持つ人間がいることも確かであり、そういう人間が太姒に噂を吹き込むのだ。
「今朝も、1時間も泣き止まなかったと聞きました。また善からぬ物に憑かれたと」
「そのようなことは、決してございません。赤子が泣くのは当然のことでございます。それもほんのわずかな時間のことで、今は大人しくされています」
「ええ、そうでしょうとも。ですが、その子は姫昌さまの唯一の子。そのような噂で姫昌さまを煩わせるようではなりません」
さっき封印したはずの黒歴史がすでに的確にえぐられているわけだが、噂を吹き込む人間たちは決して太姒の味方ではない。むしろ、俺のような子供を産んだ責任が母親にあると陰で非難している奴らであり、太姒に代わり自分たちの娘を姫昌に押し付けようという狙いがそこにある。つまり、敵でしかない。周りが敵だらけとなった太姒にとって、俺は足を引っ張る存在でしかないのだろう。
「ともかく、その子を大人しくさせ、姫昌さまの子として相応しく育てるのがあなたの仕事です。いいですね」
「はい、奥方さま」
俺の行動は監視されている。特に、敏感に反応する母親によって。原因は俺にあるものの、あからさまな態度が悲しくないわけではない。それに、言語習得を早めたくても大っぴらにできない理由がここにあった。少くとも表面上は赤ん坊としておかしくない程度のことしかできないからだ。
だが、年齢を考えたら妹が反抗期を迎えたようなものだろうと思うので、不満は抱かないようにする。太姒の立場を守らなくては姫発や周公旦が生まれないかもしれないしな。姫発が生まれなかったら歴史の道標が動くのだろうか、と考えつつ襲ってきた眠気に身を任せた。
姫昌がロリコン。
いきなり捏造で申し訳ないです。本当は姫昌が13のときに伯邑考が生まれたそうなんですが、そうすると伯邑考が死ぬとき青年なのに13しか離れていない姫昌が老人なのはおかしすぎるので、年齢差を広げました。史実の姫昌死亡年齢に合わせると伯邑考が享年80ぐらいになりますし。とはいえ、姫昌には実子が99人もいたので、あまり年寄りなのもと思い、23ぐらいのイメージで書いています。
その名残で、母さんを13にしました。ちなみに乳母は24,5ぐらいの設定です。