●姉妹
「あの……霧雨さん」
午前五時四十五分。
十一番の組である相馬きょうこ、河城にとりの組が平原から姿を消し、残り十組。
中川ちあきは、パートナーである霧雨魔理沙に声を掛けた。
「どうした?」
「あ、あの、えーと。い、妹のちふゆに、話しかけに行っても……いいですか?」
ちあきの要望に対し魔理沙はしばし迷うも、彼女も紫と話したくなったので、了承することにした。そして魔理沙達は、紫と中川ちあきの組に近付く。
「おっす紫」
「どうしたの魔理沙。何か質問?」
「立派な司会者だなぁまったく。そんなことより、霊夢、怒ってるぜ」
「あらあら。霊夢には、妖怪や外の世界のことについてもっと交流を持ってほしいと思ったのに」
よくもまあ嘘をべらべらと。そう言おうとしたが、魔理沙は言葉を変えることにした。
「でもこういうのって、お前や霊夢が不利になるんじゃないのか? 他の奴らが徒党を組んで、お前や霊夢に一斉攻撃を仕掛ける可能性だってあるぞ」
「別に構わないわ。そうされてもあまり問題ない顔ぶれになったし」
「たいした自信だなぁ」
とは言いつつも、魔理沙にとっても苦戦する相手といえば、数えるほどしかいない。
霊夢に紫。
亡霊――西行寺幽々子
不老不死の人間――藤原妹紅。
フラワーマスター――風見幽香
大魔法使い――聖白蓮。
正体不明の妖怪――封獣ぬえ。
聖人――豊聡耳神子。
後は、本気の実力は未知数だが地底の鬼――星熊勇儀。
そこで魔理沙は、他にもいるはずの強敵を思い出す。
吸血鬼――レミリア・スカーレットや、山神――八坂神奈子、地獄烏――霊烏路空。魔理沙は彼女達を呼ばなかったのかと紫に聞いてみた。
「もちろん参加させようとは思ったけど、あの吸血鬼は朝日に弱い内弁慶だし、烏の方も主を介して許可を取らないといけないから他の者達を優先したわ」
「神奈子は?」
「あれは神。妖怪ではないわ。今回は人と妖怪を重点的に集めるつもりだったから」
「幽々子はどっちに属するんだ」
「もちろん人間よ」
「根拠がわからんが……まぁいいか」
そうしている内に、十三組目、千草さなえ、東風谷早苗組が平原を離れていった。
八雲紫自身も参加者なので、司会進行役は既に藍になっていた。
「お前は何が目的でこんなゲームを開催したんだ?」
「言ったじゃない。人間と妖怪の親睦を深めるって」
「他にもあるんだろ、何か別の理由が」
「別に、それだけよ。人の言う事を疑うのもいいけど、それが嘘だからといって本当の理由を話すわけないじゃない。人が言ったことを疑って別の可能性を探すなら、人が言ったことだけで百パーセントを知る方法を覚えなさい」
無理だろそんなの。魔理沙はそう突っ込み、自分達から少し離れて会話しているちあき達を見る。
彼女と中川ちふゆも会話を終えたようで、魔理沙達は紫達から離れた。
「で、何を話していたんだ?」
何気なく話しかけた魔理沙に対し、それに驚きつつもパートナーの中川ちあきは答える。
「いえ、べ、別に。わ、わたしが……いなくても大丈夫か、とか。あの妖怪さんを怒らせないように、とか……」
妹想いなのはいいことだけど、こっちの方が頼りなさそう。と魔理沙は思う。
「お前こそ、妹がいなくていいのか?」
「は、はいぃ。私はお姉ちゃんですから……」
彼女は何故か涙目になっている。
「ま、せいぜい死なないように頑張ろうぜ」
「あ、あの……」
ちあきは言葉に迷いながらも、魔理沙に問う。
「本当に、殺し合いをするんですか」
ちあきの表情には、恐怖の他に若干の覚悟のようなものがあった。
「ああ。少なくとも、紫達妖怪はやる気だ、しかも本気で。他の妖怪達も、こんなに外の世界からの人間が来て上機嫌なんだろうなぁ」
「どうしよう。……ちふゆちゃん」
自分の命が危ういというのに、それでも妹を想うちあきに、魔理沙は興味を持った。
「そんなに大切なのか? あのちふゆって妹が」
「あ、あ、当たり前です。姉妹なんですから……」
「そういうものか」
「いえ……。あの、霧雨さん」
ふと、ちあきの声が若干強いものになったと魔理沙は感じた。
「私達、優勝できますか?」
弱々しくも、『生き残れるか』ではなく『優勝できるか』というちあきの言葉に、魔理沙は何かを感じ取る。
「優勝賞品は確か、元の世界に帰れることと、何でも好きな願い一つでしたよね。でしたら、私は――」
ちふゆちゃんと、一緒に元の世界に帰りたい。
決意。突然異世界に飛ばされて、勝手に訳の分からないゲームで命を賭けることになって。それでも彼女の心に残っている一つの、決意という芯。それを言った時のちあきの表情に、何かしらの強さを魔理沙は感じた。
所々捻くれつつも、真っ直ぐに魔法使いとして生きる魔理沙には、ちあきの決意はとても共感できるものだった。
「に、にに、人間が嫌いな私にとても優しく接してくれたちふゆちゃんのためにも……。ゆ、優勝したいです。優勝して……一緒に帰りたいです」
そう言い切ったちあきの右肩に、魔理沙は手を乗せる。
「わかった。わかったよ」
「え?」
そう言ったものの、魔理沙自身も、何がわかったのかは分からない。しかし、ちあきを励ますためにもそう言いたかった。
「私が何とかしてやるよ」
「え……。ど、どうするんですか」
「なぁに、要は私達が優勝してお前の妹が死ななければいいんだろう?」
「ま……まぁそうですけど。でも、それって……」
「なぁに。私は人間だが魔法使いだ。紫なんてぱぱっと倒してやるよ」
ちあきはしばらく何かを考えていたが、少し経つと安心したのか、少しだけ微笑んでいた。
「ありがとう霧雨さん。い、一緒に頑張りましょう」
「魔理沙でいいぜ」
ちあきは魔理沙に対し、まだ少しだけ距離をとっているものの、二人は少しだけ親密になれた。
「第十五組、中川ちあき様と霧雨魔理沙は、この場をお離れください」と藍に宣言され、魔理沙とちあきがスタートする時間になった。
「さ、行こうぜ。心配することなんてないさ、あんたが死ぬまで妹は殺さないでおいてやるよ」
「え……。できれば、私が死んでもちふゆちゃんは……」
自分なりの皮肉が通じず、「冗談だよ冗談」と魔理沙は誤魔化した。
しかし、魔理沙自身忘れていた。彼女も霊夢と同じく、誰かを殺した事なんてない事を……。
更に彼女は、自分が誰かに殺される可能性があることさえ、あまり考えていなかった。