-舞阪-
「隊長、あと少しで到着です」
オースチン・ツアラー 8HPのハンドルを握る朱里は往還通りを西に向かって走らせていた。
「オープンカーだから快適ね。エンジンは煩いけど」
会長の趣味で多数の車両を抱える舞阪女子は保有車両の殆どがエンジンの煩いクラシックカーとなっている。
「会長の趣味も良いけど、もう少し防音材を取り付けておいて」
「会長が怒りますよ、勝手に改造するなんて」
隣に座っている明美が指摘する。
「こう煩くちゃ堪らないわ」
エンジンはもはや爆音と言っていい程の音を出している。往還道り沿いの民家や店に迷惑だろう。
「後ろのドラゴンワゴンはついて来ている?」
私は明美に聞くと、明美は双眼鏡を取り出して後ろを見る。
「今往還通りに入ったところです。大型ですから、狭い道を通るのに苦労しているんでしょう」
「国道から来させれば良かったわ。でも大型だから大河原さんの家の前の道に入るのに、一時的に国道の交通を止めちゃうから往還通りから入れないのが難点ね」
「うちの持つ戦車運搬車のは全部で25台。運搬する対象によっても変えなくちゃいけないですから、大変ですね」
重いT28やトータスなどの車両はM911など大馬力の戦車運搬車を使用している。比較的軽量のクロムウェルなどにはセダン高校から送られた18tハーフトラックと116型トレーラーを組み合わせた運搬車を使用している。
「荷台のセンチュリオンは大丈夫そう?」
「大丈夫ですね。今、曲がり角で車両科の人が誘導して曲がっていますけど」
戦車の輸送には自動車関係の専門科、車両科が担当している。学園艦内なら16歳から自動車が運転でき、更にその中から国家自動車運転試験合格者は一般の公道でも運転して良い事になっている。
ちなみに、戦車道部の人間は操縦手は全員大型特殊自動車、大型、中型、普通自動車の免許を持っている。残りは普通自動車の免許を持っている。朱里はこの他に回転翼自家用操縦士、固定翼自家用操縦士、水上固定翼自家用操縦士の免許も持っている。
「到着しました」
朱里は店の前で停車させた。私は降りて店内に入る。
「こんにちわ、大河原さん」
「良く来たね。早速入っているよ」
そう言って店内から出て隣の倉庫に案内する。中にはファイアフライが止まっており、その横に注文の20ポンド砲があった。
「手に入れるには苦労したよ。丁度輸入品があってな、輸入業者と交渉して1門入手できた」
「ありがとうございます。これで、何とか戦いぬけますね」
20ポンド砲を装備したセンチュリオンは朝鮮戦争において大活躍し、同戦争における連合軍最優秀戦車の評価を得た。
「これで、ウェールズがどんな戦車を持っていても対抗できます」
「そういや、ウェールズの保有車両は全部一新したんだってな。前回の主力であったチャーチルも全部売ったとか。それに一回戦ではブラックプリンスとヴァレンタイン計5台しか姿を見せなかったそうだ」
「ブラックプリンス!?」
私は驚く。まさか、ウェールズがそんな試作戦車を手に入れているとは。しかも、主砲は強力な17ポンド砲。
「恐らく、去年負けたセダン高校へのリベンジの為ね」
「そうだろうな。去年はウェールズとセダンの戦いでウェールズの戦車は善戦したけどティーガーには敵わなかったからな」
去年の東海大会ではウェールズとセダンの戦いで途中まではウェールズが勝っていたが、セダンが切り札のティーガーを投入して勝利した。
「それに、今年のセダンは去年以上の切り札を持っているって話だ」
「去年以上の?」
-セダン高校-
「隊長、2回戦の勝利おめでとうございます」
セダン高校の副隊長、ゲルマニアが隊長であるテオドールに祝勝の言葉を述べる。
「当然ね。私は勝利を誓った。私は勝ち続けるとね」
赤いマントを翻して、ゲルマニアに向き直る。赤い目がゲルマニアを見据えた。
「それで、次の相手は何処なの?」
「明日の試合で分かります。ウェールズと舞阪女子の勝者が私達とあたります」
「それは楽しみね。私も観戦に行くわ。ヘリの用意をしておいて」
外に出たテオドールの後ろを同じ歩幅でついていくゲルマニアは左右に整列した戦車道部の隊員とその後ろに並べられた戦車を見る。
「我々は揺るぎ無い自信に満ちております。勝利を確信した、絶対の目です」
「当然ね」
ブランデンブルク門を模した門を潜り、格納庫内に入る。中にはセダン高校所有の戦車や航空機、車両などが置かれている。
「あの切り札を動かせるようにしておいてね」
テオドールは整備している人たちに格納庫の片隅にシートを被してある巨大な戦車達を指差しながら言う。
「りょ、了解しました」
突然の来訪に驚いていた整備員達はテオドールに向き直って答える。テオドールをそれを一瞥し、ハーフトラックに乗る。
「牽引するぞ、離れていて」
エンジンを掛け、フレットナー Fl282B型を牽引して格納庫外に出す。
「ゲルマニア、操縦を頼む」
「了解しました、隊長」
フレットナー Fl282B型はエンジンを始動させて離陸した。
-舞阪女子高校-
「改造自体は簡単ですね。砲身を抜いて、新しいのに付け替えればいいんですから」
車両科の人と改造箇所を協議している私は具体的な仕様を伝える。
「煙幕弾発射機を砲塔に溶接して欲しいの。外付けじゃなく、溶接に。後は主砲同軸を20mmのまま残して欲しい事ね」
煙幕弾発射機は今まで外付け武装に着脱可能だったが、溶接してもらう事にした。
「分かりました。1晩で仕上げますよ。無茶な要求じゃないので楽勝ですよ」
「それと、あの戦車のレストアも急いでね。何とか、東海大会には間に合わせたいから」
「分かっていますよ。何とか組み立ても最終段階に入っているので」
格納庫の奥では溶接音が聞こえてくる。舞阪女子の切り札となる戦車のレストアも車両科が担当しているのだ。
「それじゃあ、お願いね」
「お任せ下さい。切れた履帯共々、完全に修復しますよ」
1回戦でTKSの機関砲を浴びて切断された履帯も今日大河原さんの所で受け取ってきた。その取り付けも任せて、私は寮に戻った
車両科は自動車部ほど万能じゃないですけど、それなりのチート科です。