-名古屋-
名古屋駅の西口出口に到着した私達はトランスポーターを降りた。そこで、先に到着していたウェールズ高校の歓迎を受ける。舞阪女子公式行進曲の『威風堂々』がウェールズ吹奏楽によって演奏される。
「歓迎ありがとう」
私はウェールズ高校の隊長ブリタニカと握手を交わす。
「1年前以来ですわね、池田さん。私達の学校が1年前と同じなどと考えないでくださいまし」
「そちらこそ。去年と私達が同じなどと思わないで下さい」
戦車はやはり一部しかない。ブラックプリンス2台とヴァレンタインが3台。
「そちらには切り札があるのでしょう?早くお目にかかりたいですね」
私は探るようにブリタニカに言うが、ブリタニカは笑顔で返してきた。
「ええ、勿論ですわよ。それにしても、甘く見られたものですね。そちらにも切り札がある筈なのに、まだ出してこないなんて」
私は少したじろいだが、直ぐに冷静を装った。
「何のことかさっぱり分かりませんね。切り札なんて、そんな大それた物を持っているわけ無いじゃないですか。去年のセダンじゃないんですから」
「あれには参りましたけどね。その借りは今年返させて頂きますわ」
「つまり、私達に勝つ自信があると」
「一同、整列」
試合開始が迫り、私達は整列する。試合会場の特設ステージには既にスクリーン車が入線して中継を開始している。
「それでは、これより舞阪女子高校対ウェールズ高校との試合を開始する。試合形式はフラッグ戦、両校フラッグ車を一台決め」
事前にフラッグを渡されており、両者のフラッグ車が通達される。私達のフラッグ車は10号車のT29重戦車である。
「一同、礼!!」
「「よろしくお願いします!!」」
全員で頭を下げ、礼をした。
「それでは、お互いの健闘を祈るわ」
そう言って審判長は審判席に戻る。
「各車、無線機確認」
試合開始前の最後の無線機点検を行う。各車からの異常無しの通達が来てホッとする。
「今日は緊張していますね、隊長」
「情報科が総力を挙げても調べられなかったウェールズ高校の戦力。それが一番気になるのよ、明美」
「そうですね。分かっているのは、1回戦と先ほどの集合に来ていたブラックプリンスとヴァレンタインだけ。一応、総数は通達しなければならないから。17台ですね。つまり、残りの12台が何なのか分からない」
「嫌な予感しかしないなあ、そう言うの」
朱里は伸びをしながら言う。
「ウェールズ高校は本当に昨年の試合結果がトラウマなようね。徹底して切り札を隠し続けているのだから」
「それより隊長。そろそろ試合開始です。作戦は?」
「作戦はいつも通り。慎重に進み、包囲網に誘い込んで殲滅。私が完成させなければならない池田流の教えよ」
その時、試合開始を示す信号弾が上がった。
「前進開始」
舞阪女子は一斉に走り始める。太閣通を西に向けて。
「無線機にipodは繋げた?」
ブラックプリンスに搭載している無線機にipodを繋いだのを確認する。
「はい。完了です」
「了解。それじゃあ、流して」
ブリタニカの合図で、音楽を流し始める。ウェールズ高校戦車道チームの公式行進曲『ロイヤル・ウェールズ・フュージリア連隊』である。
「全員、この音楽を聞きなさい。そして、義務を果たしなさい。Wales expects that every woman will do her duty(ウェールズは各員がその義務を尽くすことを期待する)よ」
『それは海軍の文句です』
無線機からリーキが突っ込む。
「うっさいわよ。少し違うから、私オリジナルよ」
『何て強引な』
ブリタニカの乗るブラックプリンスの横を併走するリーキのブラックプリンスからは溜め息が聞こえてきた。
「14、15号車からの返信がありません。まだ見つけていないようです」
先行していうクロムウェルから敵発見の報告が来なかった。
「気をつけるように言って。毎回、先手を取られるから」
しかし、案の定先手を取られた。近くに一発の着弾が起こる。
「環状線と交差する場所にテトラーク1台。偵察戦車です」
速度に優れるテトラークが1台だけで居るという事は、偵察中としか思えない。
「撃ち方、用意」
停車しようとしたが、そうもいかなかった。側面から熱風が来たのだ。
「危ない」
私は急いでハッチを閉じて砲塔内に入る。中は蒸し風呂と化していく。
「壁が物凄く熱いです、隊長」
明美が壁を触って言ってくる。私はバイザーで外を見る。すると、文字通り熱せられているのだ。そして、炎の根元に僅かに見える大型の履帯とそのカバー。
「チャーチル・クロコダイル!!」
チャーチル・クロコダイル。チャーチルの車載前方機銃を取っ払って火炎放射器を備えたものである。湿度などの外部の環境次第では最大射程130m前後にもなる凶悪兵器である。
「朱里、アクセルを思いっきり踏んで脱出して」
「了解」
朱里はアクセルを踏み込み、車体を急発進させる。すると、交差点には煙幕が展開しており、テトラークを見失う。
「僚車とも見失いました。恐らく、炎の向こうでしょうけど」
チャーチル・クロコダイルの火炎放射に阻まれ、戻れない。
「今度入ったら、脱出の保証が無いわね」
エンジンは熱でオーバーヒート気味。他の戦車がこの炎を通過しようにも、今度は主砲と一緒に撃ってくるかもしれない。それに、直ぐに合流できる道に隣接する建物に砲撃する音が聞こえる。それなりの数がここに向かっているのだ。ここは分かれた方が良さそうだ。
「各車散開。必ず合流しましょう」
私はそれだけを告げ、朱里に走るよう命じた。テトラークが居た交差点に差し掛かる。左右を見ると、直ぐに合流できそうな路地などは隣接する建物を砲撃で壊して通れないようになっていた。
「さて、どうしようかしら」
私は頭に手を当てて考えた。