浜に構築した陣地へセダン高校戦車隊が入った。
「穴に隠れるとはいえ、向こうは上から撃ち下ろせる。どの程度の効果があるか」
テオドールが乗車のティーガーから双眼鏡を眺めながら言う。
「無いよりはマシでしょう。燃料も少ないですからあまり移動するわけにもいきませんし」
「それに、あまり私の戦車が動き回るとそれだけで足回りを故障しかねないし。応急修理したとはいえダメージを受けた足回りで派手に動き回れないし」
ティーガーの足回りはダメージを受け、サスペンションがいつ壊れてもおかしくない状況だった。
「朱里、走行装置は直りそう?」
先のE部隊との戦いで走行装置に異常が発生して4段以降のギアが入らなくなっていた。朱里はその修理を試みていた。
「何とかギアボックスを修理しましたが、トップの5段は交換が必要で修理できません。4段は曲がっているだけだったので叩いて応急修理しました。問題なく入ります」
センチュリオンのギアは前進5段後進2段で組まれている。信頼性の高いメリット・ブラウンZ51R手動変速機である。かなりの角度の斜面も悠々と登った実績を示している。
「了解。これ以上の修理は必要ないわ。14号車の報告ではセダン高校は浜にて決戦の覚悟です。短期で決着付くので今走れば問題ありません」
「分かりました」
そう言って朱里はエンジンルームのハッチを閉めて操縦手席に戻る。
「エンジン始動。残存車両は続いてください」
他の車両もエンジンをかけて私たちの後ろに続く。フラッグの3号車は最後尾についた。
『隊長さん、向こうは万全の体制で待ち構えてるのよ。何か策は?』
無線から後続の16号車、それに乗る会長の田辺からの連絡であった。
「ここまできたら小細工不要です。持てる戦力を持って敵フラッグを狙います」
『毎年大会上位に入る学校に正面から、ね』
『敵は完全に陣地に入っています。上からの撃ち合いでやるしか勝ち目は無いでしょう。浜へ降りても砂に足が取られれば動けなくなります』
林に隠れてずっと偵察を続ける14号車が情報を送ってくる。
「了解。こちらが着くまで待機していてください」
無線を切り、全速力で浜を目指して走る。
「まさか、正面から姿を見せようとは」
テオドールが双眼鏡を覗きながら言う。舞阪女子の残存戦車が高台に展開している。
「良いだろう。撃ち合いだ。それでこそ友だ。どちらが敗れようと、お互いに称える」
その時、中央のセンチュリオンが発砲した。砲弾はセダン戦車が展開する陣地の前に着弾した。
「挨拶代わりか?、こちらも答えよう。砲手、舞阪女子の手前に着弾させろ」
88mm砲が発砲し、砲弾が高台となる手前の浜に着弾した。
「礼儀を弁えているのね。古くから戦車道のある学校だとは聞いているけど、まだ昔の伝統が残っていたのね」
「昔の伝統ですか?」
私の言葉に明美が反応してくる。
「昔はこんな風な状況になったら、指揮官車が敵陣手前に着弾させ、相手がそれに答えて撃ち返す。まあ、昔の儀礼的な行為よ」
麻衣が次弾を装填し、次の装填予定の砲弾を抱える。
「準備は良いわね。それじゃあ、撃ち方はじめ!!」
それを合図にこちらが一斉射撃。それを見た相手も撃ち返して来た。辺り一面砂埃と硝煙に包まれる。
「撃ち続けて」
『こちらゲルマニアです。土嚢をやられて壕が丸見えです。機動戦に入ります』
「了解、無理はするな」
ゲルマニアの乗るパンターが動き始める。
「砂煙が凄い。敵の発砲炎で狙いを付けろ」
砲手にそう命じたその時、横のⅣ号戦車に命中弾があった。
『やられました。隊長、ご武運を』
そう言うとⅣ号戦車に乗っていた一年生は戦車を放棄して脱出した。
『こちら14号車、こっちの主砲じゃあ敵を抜けません。接近します』
「了解。気をつけて」
見ると14号車が高台から坂を駆け下りて行く。すると、煙の中からパンター戦車が姿を現した。
「14号車、たった今現れたパンターを攻撃してください。撃破できなくても構いません。こちらに近づけさせないで」
『了解』
それを聞き、一旦無線を切る。
「それじゃあ、私たちも行こうか」
センチュリオンの車内で全員が頷いた。それを確認し、もう一度無線のスイッチをいれる。
「全車、これより砂煙の中に突撃します」
残った舞阪女子のメンバーも坂を下りて浜を走る。
「く、手ごわい」
パンターを駆るゲルマニアが砂煙を抜けた時からクロムウェルに捕捉され追撃を受けていた。
「さすが、最速戦車。機動力では勝てないか」
クロムウェルはパンターを上回る機動力で追い詰める。
「でも、攻撃力ではこちらが上なのよね」
先ほどからパンターも攻撃を行うが、クロムウェルはその機動力で回避してしまう。そして、40口径75mm砲で反撃を喰らう。
「今のところは正面で捉えているけど、側面に回られれば抜かれるわね」
「いいぞ、それでこそ。強敵だ。最高の友だ」
お互いぶつけて20号車が相手のⅣ号突撃砲と一緒にリタイアした。残存戦車は会長の乗る16号車が引き受けてくれた。残るはテオドールの駆るティーガーのみ。
「やはり楽しい。舞阪女子は最高に楽しいわ。我がセダンの栄光と誇りにかけ、全力で相手をする」
「ティーガーの方が若干の機動力は上」
砂の上を横滑りを駆使して砲撃をかわすセンチュリオンだが、こちらも決定打を与えられない。
「背後をとろうにも超信地旋回で阻まれる。何とか、後ろをとれないの?」
朱里が必死に後ろにまわりこもうと旋回を続けるが、相手もとらせまいと動く。
「側面装甲に命中弾。でも特に異常なし」
ティーガーの砲弾が砲塔側面に命中した。しかし、浅い角度が幸いして弾いた。
「よし、止めをさしてやる」
ティーガーが狙いを付けるために停車したその時、車体が突然沈み込んだ。
「な、何だ!?」
「動力計に異常。サスペンションが壊れました」
見ると、両方のサスペンションがあまりの不可に壊れてしまった。その衝撃でエンジンも停止した。
「まだ白旗は挙がっていない。手動で砲塔を回せ」
「ありゃりゃ、あれじゃあ」
照準儀で見ていた明美は言う。私も何が起こったのかを見ていたので分かっている。
「朱里、後ろに回りこんで」
センチュリオンは背後をとろうと再び動く。
「代われ!!」
テオドールが砲手をどかし、自分が砲手席に座る。
「セダンの栄光を汚すな。まだ、戦える」
テオドールはハンドルを回し続ける。そして、ようやく捉えた。
「喰らえ!!」
発射したが、砲撃時に車体を安定させる役割を担うサスペンションが壊れているため、発射時のショックで砲身が上を向いてしまい砲弾は明後日の方向に飛んでいく。
「装填手、次弾装填急げ!!」
「もう、弾がありません!!」
テオドールが見ると、砲弾ラックには何もなかった。そして、衝撃を受ける。
「負けたのか」
ティーガーからは白旗が昇り、試合終了のホイッスルが鳴った。
-文化センター-
「負けたが、最高の試合だった」
テオドールと握手を交わす。
「はい。こちらも最高の試合でした。まさか、最後にあんな状態になっても撃ってくるなんて思いませんでした」
戦車がトランスポーターで運ばれていく。
「ああ。だけど、ティーガーは暫くは修理工場で修理だそうです。足回りはほぼフル交換になりそうなのよ」
「それは大変ですね」
そこへゲルマニアが運転するグロッサーメルセデスが到着する。
「隊長、一年生の撤収作業が終わりました」
「そう」
テオドールも車に乗り込んだ。
「池田隊長、次からの試合は観戦させてもらうよ。もう私とゲルマニアは引退だからね」
「そうだったんですか。お疲れ様でした」
「セダンは部活は2年までなんだよ。3年生は受験勉強なりすることになっているからね。古豪とはいえ、私たちの代の1年生は私とゲルマニアだけだったから、廃部になるんじゃないかと心配だったが」
その時、3台の18tハーフトラックが駐車場に入ってきた。
「1年生が沢山入ってくれて、部が存続できる。持てる技術は全て教えた。来年が楽しみだよ」
「そうですね」
「それじゃあ、もう帰るわね。あんまり長居するとそっちも迷惑だろうし」
テオドールがそう言うとゲルマニアはエンジンをかけた。
「いやいや、迷惑なんて。遊びに来るのはいつでも大歓迎ですよ」
「そうか。それじゃあ、次の試合も頑張りなさいよ」
グロッサーメルセデスは走り始めた。その後ろは18tハーフトラックが続く。
暫くするとロールスロイスファントムⅡとハンバースナイプが駐車場に入る。
「隊長、車を回しました」
ハンバースナイプからは朱里が降り、ファントムⅡからは会長が降りる。
「ありがとう朱里。撤収作業は終わった?」
「最後の便が学園艦に向けて出発しました。壊れた戦車も修理工場に搬入を終えて修理に取り掛かっているそうです」
「修理を終え次第調整に入ってね。会長も、今回はお疲れ様でした」
会長は腕を回している
「もう、戦車の中は狭くてね。肩もこるわよ」
「会長の戦車、車内容積は十分広いと思いますが」
「それはそうだけど」
「それに戦車に居住性を求めるのが間違い」
朱里も言う。
「はあ、分かったわよ。それより、早くしないと定期便も最後のが出ちゃうわよ」
そう言うと会長はファントムⅡに乗り込んだ。
「あれ、会長は艦に戻らないんですか?」
「私は陸に泊まるわ。それじゃあ、お休み」
「お休みなさい」
こちらが返すと会長はアクセルを踏んで帰っていく。私たちもハンバースナイプに乗り込んだ。
「それじゃあ、私たちも出発するわよ」
そう言ってこちらもアクセルを踏み、定期便の出る港を目指した。