-河合楽器工場跡-
「負けちゃった。でも、東海大会では負けないからね」
河合楽器工場跡に集合した両学校の生徒はお互いに握手をし合った。
「それでは、舞阪高等学校対ドーチェスター高等学校の練習試合を終わります。一同、礼!!」
「「ありがとうございました」」
お互いが礼をし、私達はドーチェスターの戦車を見送った。
「勝ちましたね。けど、練習試合ですのであまり喜べません。むしろ、相手に戦力を見せ付けたというべきでしょうか」
「そう言わないの。新人の訓練にはなったしね。あかりとまいを連れて来て。戦車道ショップに行くから。あと、弾薬運搬車も」
「了解しました」
-戦車道ショップ おおかはら-
往還通りにある戦車道ショップに着いた私達は店内に入る。
「こんにちわ。お久しぶりです」
「おお、お嬢さんたち。久しぶりだね」
店に入るなり、店長の大河原修さんが出迎えてくれた。
「まずは、練習試合勝利おめでとう」
「見てくれたんですね」
舞阪駅に停車していたスクリーン貨車によって試合は逐一中継されていた。それを見ているか、携帯のワンセグで配信される全国戦車道ニュースで見ていれば試合結果は直ぐに分かった。
「それで、今日も戦車道連盟共通規格の砲弾を買いに来たのかい?」
「それもありますが、他にもエッチングパーツの発煙弾発射器を買いに来ました」
「ショット仕様か。ルール上大丈夫なのかね?」
「大丈夫です。主砲も20ポンドまでは許可を取りました。流石に、105mm砲は許可が下りませんでしたけど」
20ポンド砲は私が戦車道連盟を始め、戦車道の実力者達を説得して許可を得た。それは大変だったが、何とか許可が下りたので近い将来にでも装備しようと考えていた。
「そう言う訳で、20ポンド砲も入荷できないかな?」
「分かった。今度、ヴィッカース社に話をしてみよう」
「流石、顔が広い事。助かります」
商談が一段楽したところで、共通規格の弾薬を受け取るために隣の倉庫前に来た。
「本当は、ここは秘密なんだけどな」
そう言って、大河原さんは倉庫のシャッターを開ける。中には、昔の戦車暴走族時代の愛車『ファイアフライ』が眠っていた。
「いつ見ても、こいつはもう動かないって顔ですね」
「それでも、こいつは俺の分身みたいなもんだ。警察から逃げる時も、相手の暴走族を壊滅させる時もいつも一緒だったさ」
「それが今じゃあ、足を洗ってシャバの戦車道ショップの店長。一体、どんな人生を歩んだのやら」
あけみがファイアフライを撫でながら言う。ダークグリーンに塗装されたファイアフライは、今は静かにここに眠っている。出ようにも、今では男は戦車に乗ることは少ない為に出るに出れない。
「あかり、あんまり車内を弄くらないでよ。動かないとはいえ、店長さんの分身なんだから」
「分かっている。別に、動かそうと思っていない」
その割には、レバーをがちゃがちゃ動かす音が聞こえる。よっぽど動かしたいのだろう。
「ほら、さっさと弾薬積み込んで出発するわよ。夕方の6時には名古屋で抽選会なんだから」
東海大会の抽選会が名古屋国際会議場センチュリーホールにて開かれる。それに遅刻するわけには行かなかった。
「分かったわよ」
そう言ってふてくされながら降りた。ショップ内にあるプラモデルを眺めていたまいも引っ張り出し、AEC0853装甲弾薬トラックに砲弾を積み込む。積み終えた後、運転席に乗っていたあかりが全員乗ったのを確認した。
「それじゃあ、また来ます。東海大会も見てくださいよ」
「当たり前よ。地元の学校が頑張ってるんだ。見ない訳にはいかないよ」
「それでは、次は一回戦が終わった辺りに来ると思うので、宜しくお願いします」
そう言ったと同時にトラックは発進する。右へ曲がり、往還通りを西へと走っていった。
問屋に行く前の交差点を右に曲がり、道なりに真っ直ぐ走行。弁天橋を越えたところにある道を左に曲がって海浜公園に出た。そこに、サンダーランド大型飛行艇が用意されていた。
-海浜公園-
「トラックは後で回収の人が来るわ。私達はこれで名古屋まで飛ぶの。あかり、操縦をお願い」
「分かりました」
そう言ってあかりが真っ先に機内へと入った。そして、エンジンを始動して暖機運転を開始する。
「さて、私達も乗りましょう!!」
エンジン音に声がかき消される為、それ以上の声で他の2人にも指示を出した。そして、2人が乗り込んだのを確認し、私も搭乗した。
-名古屋国際会議場-
センチュリーホールは音楽発表会としても使用できる大きなホールとなっている。2階席、3階席と用意されているが、抽選会には1階の席のみ使用されている。それでも、一杯に埋まってしまう人数だった。
『舞阪高等学校、18番』
私が引いた番号は18番だった。対戦相手の19番はまだ誰も引いていない。
「こちら側のシード校にミンスク高校ですか。そして、向こう側のシード校は富士女子高校。どちらも、強敵です」
「前にも言ったけど、東海大会は何処も強豪校です」
16と17番のどちらかの勝者が次に当たる高校と言うことになる。でも、例年通り16番のウェールズ高校が来ると踏んでいる。
「さて、そろそろ19番が出る頃なんじゃない?」
もうカードが少なくなってきている。そろそろ出る頃だろうと思ったその時
『ヴェステルプラッテ高校、19番』
そうアナウンスが流れた。
「決まりましたね。ヴェステルプラッテ、強敵です」
「装備している車両はそうでもないけど、去年のあの戦術には参ったからね」
去年はギリギリまで肉薄されて反撃できないのを良い事に、転輪とその軸を吹き飛ばされて、修理不能による競技資格喪失車が続出した。そして、肉薄攻撃には対策が立てられないのだ。
「今年も、優勝できるかどうか分かりませんね」
「ここで止まるわけにはいかないのよ。狙うは全国制覇。それに、その先には世界大会が待っている。まあ、あれは全国大会の結果を踏まえて連盟が選んだオールスターだから、優勝できなくても選ばれるけど。それでも、優勝したいわよ」
「全員、思うところは一緒です。まずは勝ちましょう、ヴェステルプラッテに」
あけみの言葉に私を含めた3人が頷いた。