スタジオを出てフレデリカと別れ、そして家に帰ってきた頃にはもう午後8時を回っていた。
「はぁ、ただいまー」
「今日は疲れたにゃー」
周子と志希は、まるで自分の家かのように上がり込む。気付けば2人がこの家に泊まりこむようになってから1ヵ月以上経っていて、1人で住むなんて考えられないくらい当たり前のことになっていた。
「お疲れ、今日はゆっくりしてて」
「はいはーい。さてと、何があるかなー」
「周子、今日は私が作るから」
いつものように冷蔵庫を開いて夜ご飯の食材を探す周子を制して、リビングに向かわせる。本番を明日に控える周子に負担をかけるわけにはいかない。周子は若干不満げにソファに座り、志希とともにテレビを見始めた。
夜ご飯ができたのは30分後、料理を皿に盛って2人を机に座らせた。明日のことを考えて、食べやすい魚の切り身と、スタミナのつくピーマンチャンプルー、そして大根のお味噌汁。1食で何品も作るようになったのも、2人が来てからだ。志希がタバスコをたくさんかけるのを横目に見て、軽い会話を挟みながら箸を進めた。
「ごちそうさま」
「お粗末さま。さてと、もうお風呂湧いてるから、周子先に入ってきな」
「柚希さん、いつにも増して準備がいいね」
「明日は君達が主役なんだから、それくらいは当然。あ、周子の次は志希ね」
「にゃ、りょーかい」
短針はもうすぐ9を指す。明日も早い2人を急かすようにテキパキと指示を出して、私は皿洗いを始めた。周子は寝巻きを手にお風呂場に向かい、更衣室の鍵を締めた。
カウンター越しに、机に座ったままの志希が見えた。ボーッと1点を見つめ、時々目を細めながら頭を捻る光景はもう何度も見たことがある。彼女は何かを考える時、決まってあんな風になる。そしてしばらく経つと、2階の空き部屋にいつの間やら作られた"シキちゃんラボ"に駆け込んで行くのだ。
案の定、志希は突然立ち上がり階段を駆け上がって行った。あっという間に足音も聞こえなくなって、私は1人キッチンに取り残された。
皿を探して空を切る左手に冷たい流水が当たる。いつの間にか洗う皿はなくなっていたらしい。水を止めて食洗機を回すと、とりあえず家事は一段落で、後は私の自由時間だ。
「ちょっと早いけど……いいか」
冷蔵庫からビールを1缶取り出し、机についてグラスに明けた。お酒に弱い私は、1口飲んだだけでほわんと頭が浮いたような心地になる。毎日ビールを1缶飲む習慣は、周子達がこの家に居着いてからも抜けなかった。
ふわふわとした頭で、志希がつけっぱなしにしていったテレビを見る。木曜午後9時台の刑事ドラマは私が子供の頃から続いているシリーズで、今もなお絶大な人気を誇っていた。主人公が天才的なひらめきと推理で事件を解決するという王道の展開なのだが、そこにリアリティのある様々な人間模様が描かれていて、見る人を引き込んでいく。
「おやおや、これはこれは……」
新しい証拠が見つかって、気になる引きでCMに入るのはいつものことだ。ちびちびと飲んでいたグラスのビールももう半分を切っていて、心地よい酔いが体を回っていた。
「明日のMスタは! SNSで話題沸騰中、人気モデル高垣楓、城ヶ崎美嘉率いる新生アイドルグループ『シンデレラガールズ』ついに始動!」
印象に残る音楽と共に、そんなCMが流れた。ここでも顔として出てくるのは美嘉と楓だった。twitterを見ると確かに話題になっているようで、検索でヒットした人達のアイコンの種類は様々、彼女達のファンは年齢性別関係ないことがよくわかる。
ざっと目を通していると1つの呟きに目が止まった。
『この塩見周子って子、銀髪でピアス開けてるのもタイプだし、趣味がダーツと献血っていうギャップがまたいい! 久しぶりにMステ見てみようかな』
宣材写真としてプロフィールに乗っている写真と共に呟かれたこのツイートは、そこそこの数のリツイートを受けていた。『シンデレラガールズ』が注目されている嬉しさとともに、周子達は明日、テレビに出るのだという事実がふと心に引っかかった。
いつかテレビに出て歌いたいねと、ちょうど私がアイドルをやり始めた頃、仲間達とよく話していたものだ。そして7年経って、自分のことではないものの、その時の夢物語が実現する――しかも場所はいつも夢見ていたMスタである――となると、喜ばずにはいられない。
だけれども、そこに自分はどう関わることができたのかが分からなかった。
だいたい、私にはテレビに出るということがどういうことなのか分からないのだ。ほんの1度だってテレビに出たことはない私は、元アイドルという肩書きでアイドル部門に配属されたにも関わらず、周子達にアドバイスすることもできない。
自分は何をすべきなのか、何をしてやるべきだったのか、彼女達に頼られる存在としての自覚が全くといっていいほどなかった。そんな不甲斐なさが虚無感を生んで、私は思わずグラスの中のビールを飲み干した。
一瞬気が遠くなって、しかしまた胸の痛みが私を現実に引き戻す。私の中のトランジスタは、アルコールが回るにつれて、マイナスな気持ちを何倍にも増幅させた。ここ1週間の忙しい日々の疲れがどっと押し寄せてきた。
「……足りない」
私は少しふらついた足取りでキッチンに赴き、冷蔵庫を開けてビールを手に取ると、缶を開けてそのまま喉に流し込んだ。一瞬の浮遊感の後に増幅した不安感が襲う。本当は周子達の方が不安に思っているはずなのに、私が励まさないといけないのに。
このまま飲んでいても何も変わらないとはわかっていても、それ以上に私を癒してくれそうなものはない。もう刑事ドラマの続きなんてどうでもよかった。
パリンッ!
ちょうど2缶目を飲み終えてぼんやりと視界が霞み初めた頃、不意に上の階からガラスが割れたような音が聞こえた。ハッと視界が晴れる。
上にいるのは、志希だ。不安は転じて恐怖となり、私の中を駆け巡った。志希に何かあったんじゃないか、もしかしたら怪我をしてるかも、助けてあげなくちゃ。ぐわんぐわんと揺れる思考の中でその結論に至った私は、おぼつかない足取りで階段を必死に上って、"シキちゃんラボ"の扉を開けた。
「志希っ!」
「動かないで!」
扉を開けるや否や、少し汚れた白衣を着た志希は大きな声で私を制した。目の前に割れたビーカーの破片が散らばっていた。私はピシリと動きを止める。1ヵ月前まで空き部屋だったこの部屋は、多くの試薬びんが壁際に置かれ、薬品の匂いが充満していた。
志希は破片を拾い、こぼれた溶液を丁寧に処理をした後で、静止の合図を止めた。呼吸をも止めていた私は、思い出したかのように息を大きく吸う。
途端、突き刺すような頭痛が襲い、足に力が入らなくなって、壁を背にへたりと座り込んでしまった。ビールを2缶飲んで急に運動したものだから、呼吸がうまくできない。
「ふっ、はっ、すー、はー」
「はい吸ってー、吐いてー」
志希の助けもあって正常な呼吸を取り戻し、こみ上げる多少の吐き気に耐えながら、意識を保つ。志希は私の正面に座って、少し鼻を鳴らした。
「で、どうしたの?」
「……ガラスの音が聞こえたから、志希が危ないって……」
「にゃはは、あたしはあれくらいヘーキだよ♪」
「そっか……」
「んー、アルコールの匂いが強いね、飲みすぎた?」
「かも……」
「……あたしとしてはこの刺激的な匂いもいいけど、ユズキはちょっと辛いかな」
志希は優しく背中を撫でてくれた。今更になってさっきの行動を深く反省する。もう一流の科学者とも言える志希が、ビーカーを割ったくらいで動揺するだろうか。むしろ私が来たことによって、余計な心配をかけてしまったのではないか。
罪悪感を感じて謝罪の目を向けると、気にかけることなく笑いかける志希が眩しくて、自分が情けなくて、思わず彼女から目をそらした。涙がボロボロと流れ始めた。
柚希ちゃんって泣き上戸なんだね、とはいつぞやか友達に言われたことで、お酒が回ると涙が出てくるのはいつものことだ。でも、さっきまでの不安の感情で気が弱くなっていた私は、余計なことをした、志希に幻滅されたとどんどんマイナスの方向へ気持ちが傾いていき、声を上げて泣く私の顔はもうくしゃくしゃになっていた。心が助けてほしいと泣いていた。
「んー、この匂い……」
志希はそんな私を驚いたようにちらりと見てから薬品が詰まった鞄の元へ向かうと、手元をごそごそと動かして、液体を試験管に入れた。そのまま私の口元まで持っていくと、人差し指で私の顎を押し上げて、親指で唇に触れた。
「お口開けられるかなー?」
「うん……んっ!?」
私が少し口を開けると、志希は親指を私の口の中に入れ、下顎を掴んで押し下げると、試験管の中の液体を半ば強引に注ぎ込んだ。私が反射的に飲み込むと、彼女は親指を抜いてそのままにゃははと笑う。
「それは二日酔いに効く薬だから、安心していーよ♪」
「……ほんとだ……楽に……ありがと……」
確かに吐き気と頭痛は徐々に弱まっていて、心の中の不安も段々と収まってきた。しかし志希の頭に伸ばした腕は、彼女には届かなかった。意識が朦朧としてきて、体に力が入らなくなる。
「……あれ、どうして……」
「大丈夫、ちょっと疲れてるだけだよ♪ はい、目を閉じて。そしたら……」
志希は手で私の目を覆うと、意識が遠のいていくのが分かった。志希が最後に呟いた言葉はもう聞き取れなかった。
ちゃぷちゃぷと水が波を打つ。両手で2つの波を作ると、混ざりあって綺麗な模様を形成した。水面越しに、あたしの生まれつき白い肌がキラキラと映えて見える。最初は飲み込まれるようで怖かったこの広い浴槽も、慣れてしまえばとても快適なものだ。足を伸ばしてもまだ横に余裕があって、貴族のように腕を広げて足を組んでもまだスペースを余らせていた。
全体レッスンの後で感じた明日への不安は、このゆったりとした安らぎが中和して、今はワクワクが勝っていた。面倒なことは適当に流して生きてきたあたしが初めて本気になれたこと、
2ヵ月前からは考えられないくらい充実した日々を考えると、高校の友達に積極的に宣伝して、この集大成の舞台を見てもらいたいくらいだ。
でも惜しむらくは国公立大学の2次試験が、その3日後、25日に控えていること。友達は流石にそんな日にテレビを見るわけがないし、むしろ見る人がいたら、卒業式で会った時にダンスで少し腕っぷしを鍛えたあたしがぶん殴ってやろう、と冗談半分に考える。
しばらくこのゆったりとした気分を堪能して、のぼせる前にお風呂を出ると、いつもよりずっと丁寧に髪を乾かす。時間はまだ午後9時半前、いつも柚希さんがビールをちびちびと飲んでいる時間だ。
「出たよー、ってあれ?」
リビングに向かうとてっきりいると思っていた柚希さんがいなかった。変わりにビールの空き缶が1つ机の上に置いてある。
「あれ、もう飲み終わったのかな」
首をかしげてキッチンに向かうと、ここにも空き缶が倒して置いてあった。空き缶が2つあるのは、ちょっと異例だ。あたしは柚希さんが2缶以上ビールを飲むのを見たことがない。毎日1缶飲んだ後でさえ、顔をほんのり上気させてトロンとした目をするくらいお酒に弱い彼女が、何の気なしに2缶目に手を出すとは思えなかった。
少し胸に引っかかりを覚えながら、志希ちゃんを探す。下にいないということはおそらくラボにいるのだろう。階段を上るとほんの少しアルコール臭がして、それは上に行くにつれてだんだんと強くなっていった。
「志希ちゃーん、お風呂ー……ん?」
ラボの扉を開けると、目の前にダラリと座り込む柚希さんと、彼女の右腕をとって肩に抱こうと体勢を低くした志希ちゃんがいた。
「あ、お風呂空いた? ちょっと待ってね」
「どうしたの、柚希さん」
「飲み過ぎちゃったって。疲れて寝ちゃったみたい」
「手伝おうか?」
「ん、ありがとー」
柚希さんの左腕をあたしの肩にかけ腰を抱き、2人で担ぐ。声をかけてもピクリとも動かない彼女は、吐息だけであたしも酔ってしまいそうなほど、アルコールの匂いを強く放っていた。
筋肉がついたのか、それとも柚希さんが軽すぎるのか、部屋着のままの柚希さんの体は楽々持ち上がって、彼女の長い足を引き摺らせながら寝室まで運び、セミダブルベッドの中央に横たえた。
「ふぅ、楽勝♪」
「案外なんとかなるもんだにゃー」
一仕事を終えて、あたし達がベッドのへりに腰を落とすと、寝心地がいいのか、柚希さんは寝返りをうってこちらを向いた。
「柚希さんの寝顔って初めて見たかも」
「いっつもあたし達より遅く寝て、早く起きるからねー」
「明日起きてくれるかな、このままずっと眠ってたり……」
「だいじょーぶ、薬はすぐ切れる……はっ!」
反射的に志希ちゃんの方を向くと、志希ちゃんはすぐに明後日の方を向いた。
「……どんな薬?」
「……シキちゃんお手製強力睡眠薬!」
「……何で薬なんて飲ませたのさ」
「……つい♪」
「ていっ!」
「あうっ!」
とりあえず1発デコピンをしてやる。
「いたた、周子ちゃん強いよ」
「適当はいけないよー」
「周子ちゃんに言われたくないにゃー」
「……もう1発?」
「にゃはは、遠慮しとくー♪」
「はぁ……睡眠薬は危ないじゃなかったっけ?」
「そこはほら、あたしお手製だし?」
「何の保証にもならないけど……っていうか、何か目的でもあったの?」
「いや、何もないよ。ユズキの心が助けてー、って言ってたから、助けてあげただけ。あたしもこんなに効くとは思ってなかったけどね」
「……ふーん」
曇りのない笑みで答える志希ちゃんにこれ以上の詮索はできない。まだ若干の疑問は残っているが、あたしは質問を止めた。志希ちゃんはまた何かを考えるようにしてから続けた。
「一応あの薬は二日酔いしないように効いたりもするはずだから、大丈夫、たぶん」
「やっぱり適当やん!」
「あいたっ!」
もう一度デコピンをするといいリアクションをする志希ちゃんはリアクション芸でもやっていけるんじゃないかな、そりゃないか、と自己解決していると、いつの間にか志希ちゃんは立ち上がって寝室の扉の方へ向かっていた。
「ん、お風呂入るの?」
「いや、実験の続きー」
「お、ちょっと気になるから見ててもいい?」
「んーいいけど、面白いのかな?」
「いやー、化学なんて2年前くらいにやったっきりだからさー」
「あ、じゃあHClとNaOHで『ドキドキ!中和して出来た塩を舐めてみよう』ゲームする?」
「遠慮しておくわー」
うろ覚えの化学基礎の知識でも危ないとわかるような提案を断ると、志希ちゃんはちぇーと口をとんがらせながら、ラボへと向かった。あたしはその後に続く。扉を開けるとそこにあったアルコール臭はもう消えていて、ただ高校の理科室のような匂いが充満していた。
「あれ?」
中に1歩足を踏み入れると、突然聞きなれない着信音が流れてきた。志希ちゃんのものでもないようで、首を傾げている。ふと足元を見ると、紺色のカバーをしたスマホが着信音を鳴らしてうつ伏せに落ちていた。
「あれって、柚希さんのだよね?」
「あ、そうだね。落としてったのかにゃ?」
志希ちゃんはそれを拾うと、画面をあたしに見せた。
「フレちゃんから、Facetimeだって」
「出ちゃっていいんやない?」
「よし、じゃあポチッとなー」
志希ちゃんが応答を押すと、一瞬の読み込みの後、画面にフレちゃんの顔がどアップで現れた。
『やっほー、シルブプレー♪ フレちゃんだよー!』
「お、フレちゃんやっほー」
「にゃほー♪」
『あれ? シキちゃんにシューコちゃん? アタシ掛け間違えちゃった?』
「にゃはは、フレちゃんは間違えてないよー。ユズキは今あたしの……」
「あー、えっと、今お風呂入ってて出られなそうだったから、あたし達が変わりに出たの」
『そっかー、ま、仕方ない!』
流石に睡眠薬で眠らせたなんて言えないだろう。志希を遮って取り繕うと、フレちゃんは疑いもせず少し困り顔をした。
「どうしたの、こんな時間に?」
『んー、寝られなくなっちゃって』
「緊張?」
『それもあるけど、やっぱり楽しみなんだ! ふわふわして落ち着かなくて、あれの練習してたんだけど、1人じゃつまんないからプロデューサーに見てもらおうって思ったわけ』
「あ、フレちゃんあれ出来るようになった?」
『ようやくシキちゃん達に追いついたよー。ちょっと待ってね、見せてあげる!』
フレちゃんはごそごそと準備をして、それから手元を写した。
「フレちゃん、全然映ってないよー」
『えー、撮りながらやるのって難しいね。それじゃあ明日見せてあげるね!』
「じゃあ明日本番終わったらやろっか♪」
『わかった! でも、2人とも器用だよねー、アタシ1週間かかったのに』
「まーね、一応家で和菓子作り手伝ってたし」
『えっ、和菓子? シューコちゃん和菓子作れるの?』
「そうだよー、言ってなかったっけ?」
『いーなー和菓子! フレちゃん洋菓子店の次に和菓子屋の子に生まれたかったんだー♪』
「にゃはは、フレちゃんお菓子大好きだねー!」
『マカローン、クレープ、エクレール! ガレット・デ・ロワにブッシュドノエル♪ あ、和菓子だったら団子、大福、おまんじゅうかなー』
「いろいろあるねー」
『ママンが作ってくれるのー♪ でも、シューコちゃんの和菓子も食べたーい!』
「そういえば、あたしも和菓子食べたくなってきたかも。シューコちゃん今度作ってー!」
「はいはい、あたしの和菓子はそんじょそこらのものじゃないよー。柚希さんも喜んでくれるかな」
『あ、ずるーい! 今度アタシもプロデューサーの家に行きたいなー』
「ユズキならニコニコしてれば行かせてくれるよー」
『おー、じゃああたしなら全然ヨユーだね!』
画面越しに3人で笑う。明日への心配もどこへやら、時間の流れはいつもと変わらない。次第に話題は明日のことにシフトしていった。
『本番ってどういう風に進むんだろうね?』
「どうだろ、普通にトークして、歌うたって」
「それだけじゃないかにゃ?」
『うーんそっかー。ちゃんとアタシ達も映してもらえるかな?』
「それは向こうが決めることだからにゃー」
「でもちゃんと映してもらえるでしょ?」
『ならよかったー!』
「やっぱり目立ちたい?」
『ううん、別にそんなんじゃなくて、アタシ、ママンにアイドルやってる所見せたいんだ。いつもありがとー、ムスメはこんなに大きくなりましたー、ってね♪』
「あ、それはあたしもかも。お父はんとお母はんにいろいろ迷惑かけちゃってるしなー」
その時画面の上で、志希ちゃんは少し含みを持った笑みを浮かべていたのが見えた。
「もし、失敗したらどうする? もし、ママにそんな姿が見られたら」
志希ちゃんのその質問に一瞬言葉を詰まらせたフレちゃんは、それでもいい笑顔を浮かべて崩さなかった。
『……失敗してもアタシを見てくれたらそれでいい。フレちゃんは、失敗してもフレちゃんだよ、って昔言ってくれたのはママンだから、明日は精一杯アタシらしく頑張るんだ♪』
嬉しそうにそう言ったフレちゃんは、不安なんて無いようだった。そんな彼女を見て、志希ちゃんもうんうんと不自然なくらい大きく頷いた。
そんなこんなで気づけばもう時間はだいぶ過ぎていて、心地よい眠気があたしを襲った。
『ふわぁあー、もう眠いや。明日も早いしそろそろ寝ようかな』
「ん、もう10時半か、あたしもそろそろ」
「……あたしもやる事やんなきゃ」
『2人ともありがとねー、バイバーイ、シルブプレー?』
通話が切れると辺りは静寂に包まれた。換気のために開けていた窓から、冷たい風が吹き抜けた。
「うう、さむっ」
湯冷めした体に直接当たって身震いをする。
「ねえ、周子ちゃん」
ラボを出ようとしたあたしは、志希ちゃんに呼び止められ、そちらを振り向いた。その際少しふらついて、部屋の電気のスイッチを切ってしまった。半分以下に欠けた月の光が志希ちゃんを照らす。
「……にゃはは、なんでもない♪」
彼女はあたしにもわかるくらい、寂しそうに笑っていた。
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