今回の依頼、『HARDの討伐』は元より受けなかったものとするらしい。
しかしそれでは部長の気はおさまらないようで、私と部長と駆我さんを乗せた車は今にも事故を起こしそうな勢いで走っていた。感情が完全に表に出てしまっている。
「く…駆我さぁん!これどこに向かってるの?!」
「この道は多分情報屋だ!」
しばらくの間部長提供のスリリングドライブを満喫した。
車が止まったのは、町外れのコンビニだった。私たち3人は車から降りるとコンビニへ入店した。部長は店に入ってすぐレジカウンターまで一直線に進む。
「情報屋をお願ぃ!」
店員に向かって部長が怒鳴る。(実際はお使いに来た子どもみたいだ)
店員は、少々お待ちください、と言って奥にあるスタッフルームへと姿を消した。しばらくして店員が戻って来た。
「こちらへどうぞ」
店員はそう言って私たちをレジカウンターの向こう側、さらにその奥の『すたっふおんりー』と書かれている扉の中へと案内してくれた。
スタッフルームでまず目に入ったのは大きな机だった。というか部屋にはその机しか無かった。そしてその机の向こう側には情報屋と思われる人物が座っていた。その人の顔には、いつか部長が使っていたものに良く似たお面が着けられていた。
「おーっす八ツ橋の方々、久方ぶりですな」
お面のせいで顔は見えないが、声からして三十代の男性だろう。お面を被った男性は陽気な態度で私たちに椅子に座るよう促した。
「おや?君は見ない顔だけど新しい部員さんかな?」
「あ、はい!新入部員の…!」
私の口を部長が手で抑えつけた。
「あっちゃ〜残念。八ツ橋相手じゃタダでは情報くれないか〜」
状況を理解できない私に、駆我さんが補足説明をしてくれた。
「あいつは情報屋のドロップ。情報屋の前では全てが情報だ。名前から
つまり私の名前でさえ価値があるらしい。
「本題に入るよぉ」
私の口から手を離した部長が静かに言い放った。
「科学武器集団HARDってしってるぅ?」
「さぁ、どうかな?これも立派な情報…」
情報屋ドロップの言葉を遮って部長が続ける。
「そいつらの追跡を頼みたのぉ」
部長は白衣の内側に手を突っ込み内ポケットから何かを取り出して、机の上に放り投げる。軽い紙束の着地音が聞こえた。見ると机の上には野口英世が十人、つまり千円札が十枚あった。なぜ一万円札一枚にしなかったかは問わないでおこう。
「これでどぅ?」
野口さんを見て情報屋は唸った。少ししてお面が正面を向くと調子のいい声で答えた。
「うん、いいよ!追跡依頼承諾っと、ほいこれ領収書。」
情報屋は札束を引いて、代わりに紙切れを差し出した。部長は領収書を内ポケットに入れると席を立とうとする。しかしそれを情報屋が止めた。
「ちょっとまちな部長さん。いい話がある」
部長は椅子に座り直し情報屋の話を聞く。
「最近、子供の死体の写真が入るようになった。趣味じゃないぞ?」
「続けてぇ」
「はいよっと、俺も胸糞悪いからちっと自分で探ってみたわけ。そしたら主犯はあいつだった…っと、ここからは有料だ」
情報屋がいい終わる前に部長は机に手を叩きつけた。手と机の間にはまたしても千円札が十枚。
「あいよ、毎度あり犯人は
「それでぇ?まだ何かあるんでしょぅ?」
「全く…お見通しかよ、調子狂うぜ。ジャックは一週間に二回、深夜二時に家へ侵入、子供を殺害している。ここ一ヶ月な。被害者の子供はいずれも胸を裂かれ、“心臓”だけが無かったそうだ。他の部位は一切傷ついていない。綺麗に心臓だけがくり抜かれていた。こんな真似出来るのは
場の空気が変わった。先程までのふわふわとした雰囲気ではなく、まるで世界の運命がかかっているような重みを帯びた空気で満ちた。そんな中駆我さんが静かに口を開く。
「部長…これって」
「うん………」
「その通り!これは『キー』を使った犯行だ」
情報屋の言葉に部長の顔がいつもの弱々しい表情から、焦燥感で溢れる表情へと変わる。勢いよく椅子から立ち上がると部長はまた内ポケットを探りだす。
「『斬り裂きジャック』の次回犯行予測点と団編成、使用
机に向かって野口束を叩きつけると同時に情報屋が喋り始める。
「そう言うと思ったぜ。ほらよっステータス情報はまけてやる。俺だってさっさと終わらせて欲しいからな。自分で撒いた種は自分で回収しな!」
そう言うと情報屋は右上をクリップで止められた紙束を部長に向かって投げた。部長が紙束をめくるのに合わせて、情報屋が説明する。
「次回犯行予測は明日午前二時、団編成はなし、使用科学武器は『キー』ともう一つ、普通より少し大きめの注射器型|科学武器(スキル》だ。注射器で眠らせて『キー』で刈り取るみたいだな」
「流石ぁ、仕事が早いわねぇ」
資料を閉じて内ポケットに入れると部長が情報屋に問う。
「でぇ?肝心の『キー』のパターンは?」
情報屋が黙る。すかさず部長が白衣の内ポケットに手を突っ込むが、情報屋がハンドサインでそれを止める。
「おいおい、パターンにまで情報屋を使うのかよ。ちったぁ自分で考えろ!それに『キー』についてはあんたらの方が詳しいだろ」
部長は何も掴まずに内ポケットから手を出した。
「それもそうねぇ。ありがとぅ、また来るわぁ」
部長は席を立ち、扉へ向かう。私と駆我さんもそれに続くいてスタッフルームを後にする。
「まいど〜っとそうだ、グレイモアにコレ渡しといてくれ」
帰ろうとする私達を引き止めて、大きな机の足元に置いていた紙袋を差し出す。グレイモアというと勇さんがタルタロスで使っていた名前だ。
「なにこれ?お土産?」
私は紙袋を受け取る。重くはないが、軽くもない。微妙な重さだ。
「とにかく渡せば分かるから!それじゃ〜まったね〜」
情報屋はまるで歌のお兄さんのように爽やかな笑顔で手を振って私達を送り出した。いや、お面のせいで顔は見えないので正しくは“笑顔に見えるほどに清々しい声”だ。
コンビニを出て車に戻った私達はトランクに荷物を積み、またも部長運転で八ツ橋高校に向けて出発した。いつの間にかセグウェイも積んであったが、別に重要なことではないので突っ込まないでおいた。
日もだいぶ沈み綺麗なオレンジ色をした太陽が道路を怪しく照らす。
走る車の中、後部座席に座る私は助手席にいる駆我さんに質問する。
「そうだ駆我さん!分からないことだらけだから聞いてもいい?」
「なんだ?答えられることなら教えてやるぞ」
同意の声を聞いて、私は質問を開始する。
「えっとまず、部長が頭撃たれたのに
HARD討伐で車から降りた瞬間狙撃されて倒れた時だ。その時は、部長が死んだと勘違いして大慌てした。
「ああ、部長は骨の上に金属板が張ってあるんだ」
「そっかーなるほどね…ん?金属板?!」
流しかけた言葉を拾い、もう一度考える。
「金属板ってあの金属板?」
「どれか分からないが、その金属板だ。スナイパーは大体頭を狙って撃ってくるから、それを防げばいいってことだ。だから頭、具体的には脳の周りを金属板で覆ったんだ」
嘘みたいな現実を受け入れようと頑張っていると、前の運転席から部長の声がした。
「痛かったよぅ…」
今まで聞いた中で一番弱々しく放たれた言葉だった。
「そうなんだ…」
気をとりなおして二つ目の質問をする。
「じゃあ………キーってなに?」
「キーってのは『テンペストキー』の略称で、勇が作った
「あれ?勇さんが作ったのになんで回収しなきゃいけないの?」
「勇がまだ科学研究部に入ってない時に裏で馬鹿やってたんだ。いろんな種類のキーを作って高値でやりとりしてたんだとよ。それを今、部活ぐるみで回収してるんだ」
「じゃあパターンっていうのはテンペストキーの種類ってこと?」
「そうだ。大剣型からナイフ型までいろんなのを作ったらしいぞ」
「そうなんだ………じゃあこの車って誰のものなの?」
今部長運転で高校へ向かっているこの車は、高校の駐車場にあったものだ。これが部長の車だとしてもなぜ高校に停めてあるかが分からない。
「これは私の車だよぉ。学校に許可を取って停めさせてもらってるのぉ。もちろん運転免許も持ってるよぉ」
それを聞いて一安心した。
「じゃあ最後に、この部活の目的って何なの?」
「それはな………勇が作った
一瞬渋ったが、駆我さんが答えてくれた。
「勇は昔、世界を潰すために一つの
私は言葉が出なかった。世界を滅ぼす
あの日、
八ツ橋高校へ到着すると、もう日が落ちていた。時刻は六時半。
「情報屋の資料による斬り裂きジャック犯行日時は、明後日の朝二時。つまり明日の深夜だよぉ」
駐車場に停まった車の中で集合時刻を確認する。
「十二時頃に学校前に集合、十二時三十分に出発だよぉ。勇には私から伝えておくねぇ。来てなかったら置いて行くよぉ」
遠足に行くみたいだが、実際は殺人犯を捕まえに行くのである。
「じゃぁ解散!」
部長の掛け声で今日の部活は終了した。
こんにちはぺんたこーです。
やっと部活動目的が分かりました!
まだまだ謎は多いですが、次は斬り裂きジャック編です!
誤字じゃないです。切りではなく斬りで合ってます。
それではまた、次のあとがきで!