慟哭の空   作:仙儒

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女の戦い

 孝美は考えて居た。

 

 ザラ司令に抱き付いていたウィッチのことを。

 

 もしかして、ああいう娘がザラ司令の好みなのだろうか?

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃんったら!」

 

 思考の海から現実に引き戻される。

 

「もぉ、どうしたのお姉ちゃん。何か暗いよ?」

 

 もしかして、どこか具合が悪いの? と妹に聞かれて、慌てて笑顔を作り、何でもないのと答える。

 

「そう? それならいいんだけど…、そうだ! あの傷見せてよ」

 

「また見たいの?」

 

 全く、しょうがない娘だと思う。負傷した部分を妹のひかりはかっこいいと言う。私としては負傷なんて、自分の未熟さを披露しているみたいで恥ずかしいのだけれど。

 

「あれ? 傷、無いよ? どうしたの?」

 

 疑問に思ったことを口にするひかり。

 

 ―――傷なら治しといた。

 

 ふと、加賀での出来事を思い出した。

 

 そう言えばザラ司令に治療して貰ったのだった。その事を思い出しただけで心がポカポカして来て顔がにやけてしまう。

 

「? お姉ちゃん、何かいいことあったでしょ」

 

「な、何でもないのよ、本当よ」

 

 ザラ司令の部下になったことを言うべきか、言わざるべきか悩んだ。ひかりもアスラン・ザラの大ファンだ。羨ましがるのは目に見えていたし、態々恋敵を増やす可能性を作るのは避けたかった。

 

 以前ならこんな黒い感情を持つことは無かった。それが最愛の妹なら尚更だ。それなのに、最愛の妹にすら可能性があると話を伏せているのだ。否、女の直感でこの娘もザラ司令の事を好きなのを確信している、だから話さないのだ。

 

 ――故に、あのザラ司令に抱き付いていたウィッチが許せなかった。

 

「やっぱりお姉ちゃん私に何か隠しているでしょう」

 

 そう言って頬を膨らませるひかり。

 深く追求してこない辺り、軍規の事を意識しているのかもしれない。とりあえず、今はへそを曲げたひかりの機嫌取りはどうしようかと考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん、ただいま!」

 

 久しぶりの家だ。美千子ちゃんは元気かな?

 

「芳佳、芳佳なの!」

 

 診療所から駆け出して、私に抱き付いてくるお母さん。お祖母ちゃんも一緒に出て来る。

 

「どうしたの芳佳。急に帰って来て」

 

「うん、アスランさんがお休みくれたんだ…、ああ、そうそう、お父さんも元気だったよ」

 

 そうかい、そうかいと満足そうに頷くお祖母ちゃん。

 

「本当にあの人に任せて良かったよ」

 

 そう言うお母さん。

 

 私は予め、手紙で軍に入ったことをお母さん達に伝えていた。

 そのことについて問い詰められるかと思ったが、どうやらアスランさんが何かしてくれたようだ。

 

 アスランさんは休暇を言い渡すと私には「軍をやめろとは言わない、だが、考え方を改めないか?」と医学の最先端の軍医学校への入学を進めて来た。

 アスランさんが言うには、直接武器を持って戦うだけが戦争では無いと言われた。その事をこの前の戦争で嫌と言う程思い知らされた。

 勿論、それも最終的な道の一つとして選択肢には入れている。

 

 でも、―――”その力で皆を護るような、立派な人になりなさい”

 

 お父さんとの約束。

 

 ―――俺にできること。それができてしまうのなら、きっとそう言うことなんだろう。

 

 そう言って悲しそうな顔をしていた大好きなアスランさん。

 

 ―――この体は、名前も知らない誰かのために!

 

 そう言って自身を奮い立たせて飛び立った愛しい人。ああ、何て、何て生き方がああも歪んでしまっているのだろうか? 私の愛した人は戦いは上手だが、生き方が酷く不器用だった。それが、今回の戦争でよーくわかってしまった。

 

 そんな人を一人で戦場に立たせては駄目だと思った。

 

 それに、彼の言葉を借りるならば、私にもできることがあり、それができてしまったのだ。だから、少なくとも彼が弱音を吐き、軍をやめるその日までは私も、私の限界が来ない限り同じ空に飛び続けようと思う。

 

 

 それはそれとして、アスランさんの周りには、何故ああも美人さんが集まっているのだろうか? 501部隊の全員が好意を向けている事は態度でわかる。軍艦に載っていたウィッチ達も気になる。それに彼が気が付いていないのが唯一の救いか。

 

 そう考えると少し溜息が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも通りに彼の執務室に紅茶を持って入る。

 

 そこには、いつも通りに執務をする彼がいるはずだった。

 

「ああ、フィーネ。何時も何時もすまないな」

 

 そう言う彼になぜか入隊してから彼の部屋に毎回いる雌猫共。

 私が入って来たのに構わずに牛乳を飲んでいる。

 それを見ただけでウキウキしていた心が一気に沈む。

 

「何で雌ね…、君達が居るんだい?」

 

 そう問いかけると、何時ものように何食わぬ顔で口を開く雌猫。

 

「隊長室に報告があって、寄るのは当たり前ではありませんか。副隊長殿」

 

 確かに一回や二回ならそれもあり得る話だ。だが、毎回、しかも牛乳の入ったコップを片手に彼の執務室に居るのはそれこそあり得ない。毎回毎回、出撃願いと牛乳を飲むことをだしにして此処に居座っているのだ。

 

「牛乳を飲むことなら他でもできるだろう? 冷蔵庫だってこの部屋以外にもあるんだし」

 

 そう、冷蔵庫を彼が作り基地に幾つか設置している。

 何も、隊長室の冷蔵庫を使わなくても良いのだ。加えて言うならば、牛乳は新鮮なのがどこの冷蔵庫にも入っている。彼はまめな性格をしているので、切らしているという事はまずない。

 

「それならば、紅茶とてどこでも飲めるではありませんか、態々此処で飲む必要ないのでは? 副隊長殿」

 

 笑顔で挑発が返って来る。目が笑ってないが。

 

 そんな光景を見ていたアスランさんが小さくため息をつき、呟く。

 

「仲悪いな~、こいつら」

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハルトマンがいそいそと部屋を片付けている。

 同室であるバルクホルンから見たら異様な光景であった。

 

 あのずぼらなハルトマンが、である。真っ先に熱があるんじゃないかと疑った。

 

「いや~、流石に散らかりすぎかなっと今更ながらに思ってさ」

 

 流石に一気にこのゴミ山を処理するのは無理だと思ったのか、少しずつではあるが。

 

 そして、片付けをひと段落させると医学書片手に色々と勉強している。

 

 スフィンクス作戦(スエズ運河奪還戦)以降こんな感じが続いていた。思い当たる節はある。奪還戦において、作戦時間外に行っていた心のケア、という奴だろう。ハルトマンはそれを自発的に手伝っていた。

 

 医者志望だったからか、それとも…、後者の可能性が一番高い。

 

 恐慌状態の兵士にしっかりしろと活を入れようとした時に止められた。そうでは無いのだと。それでは駄目なのだと。

 

 ―――凄かったよ。偉いよお前、皆のために戦ったんだもんな。…、なぁ、本当のお前は今、どこに居る?

 

 とても優しい声音で諭すように言う。戦場での勇猛果敢な戦士とはまた違った顔だった。

 

 その後に私もメンタルケアとやらを受けた。最初はこんなことに意味があるのか理解できなかったが、回数を重ね、気が付いたら心のどこかで感じていた重みを打ち明けてしまっていた。

 

 妹が心配なこと。

 

 仲間を心配するあまりに、新人二人を遠ざけていた事。

 

 決して、他の誰かに見せない弱さをさらけ出した。そんな弱い私に笑うでもなく、幻滅するわけでも無く、酷く穏やかな声で

 

 ―――笑ったりする物か。それよりもよく頑張ったな、偉いぞ。

 

 そう言って優しく撫でてくれた。あの優しい手を忘れない。

 

 そんな私でも弱さをさらしてしまう、酷く心地の良い空間に居れば否が応でも惹かれてしまうだろう。

 

 

 掃除で部屋が埃っぽくなるから散歩して来てよと、半ば強引に部屋を追い出された。

 廊下に出て一言。

 

「お前もそうなんだな、フラウ」

 

 かの泣くような声で、何時もは余り呼ばない愛称でハルトマンの事を言う。




アスラン「何でこうもうちの部隊って仲悪いのばかり集まるんだ?」

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