慟哭の空 作:仙儒
新人二人が入ってから、部隊の仲が更に悪くなった気がする。
人間なので、どうしても相容れない存在と言うのは理屈抜きで出て来る。
それに新人はエースで気難しい性格をしているのもある。幸い、連帯を取ることが無いので放置しているが、これ以上は俺の胃が持ちそうにない。
それだけなら、まだいい。いや、良くないけど。
カールスラント皇帝陛下から直々に勲章渡したいとか抜かしやがった。あれ、引き抜きする気だよ、絶対に。断ろうにも皇帝陛下直々にと言うので断れなかった。
仕方が無いので腹をくくり、式典に挑む。
何か有っても良い様に一応、ジャスティスセットアップしていった。ちゃんと武双は解除してある。
祭典の場で片膝をつき待機する。一応、フィーネ相手に一度練習して来たんだけど、フィーネは恍惚とした顔で見つめて来るだけで練習になったとは言い難い。
この時、何故かルーデルが持っていたコップを握りつぶして手を怪我し、それを治療した覚えがある。章香も扶桑刀を磨いていて怖かったし、アーデルハイドも無言で怖かった。
「表を上げなさい」
「はっ」
皇帝陛下が来たのか。
そう思いながら顔を上げると女性と少女が目の前に立って居た。
多くの将校に囲まれているのに緊張感すらしていないとは流石だな。
ただ、なんだか少女が此方を見る目が熱っぽいんだが何だろうか。
「貴方様が”あの”アスラン・ザラなんですね」
少女が、否、皇太子殿下がはしゃぎながらそう訊ねて来る。
「あの」ってどのだろう?
そう思っていると皇帝陛下からはしゃがない様に注意を受ける皇太子殿下。
「ゴホン、金柏葉剣ダイヤモンド付き騎士鉄十字章…、貴方の絶大なる戦功を讃え特別に作らせたものです」
そう言うと一度言葉を区切る。
「貴方はもう十分飛んだでしょう。それに扶桑では肩身が狭いでしょう。カールスラントに来ると言うのはどうかしら? 貴方には名誉元帥の席を用意しています。これを機に後方で指揮を執ると言うのはどうかしら?」
指揮官としても優秀みたいですし。そう言う皇帝陛下。
元帥と来たか…、しかも安全な後方任務。
―――だが、それでは意味が無いのだよ。
この世界には助けを乞われてやって来た。誰よりも、この星の誰よりも戦い抜かなくてはならない。
そして、護れなかった命のためにも誰よりも
その裁定が下るまでは、最前線で戦わねばならない。
だから…、だから、
「辞退いたします」
そう口にした瞬間に周りがざわつきだす。
「…、理由を聞いても?」
流石に本当の事を言うわけにもいかないので、適当に誤魔化す。
「私のようなカールスラントを護ることができなかった無能がそれを受け取るわけにはいかないのです。それよりも、祖国のためにと、若き命を燃やし続けている忠義に熱きものにお与えください」
きっと、励みになるでしょう。
そう続ける。
このことを引き合いに出せば、少なくとも深く追求しては来ない筈。
「それは違います!」
少女特有の甲高い声が式典に響く。
「アスラン様は6度に渡る
そうでしょう、皆様。と今にも泣きそうな顔で言う。
非常にまずい。此処で泣かれては、俺が泣かせたことでカールスラント政府から反感を買いかねん。
「皇太子殿下、良いのですよ」
「良いことありません! 良いことなんか何も…」
「駄々っ子はご友人に嫌われます。お聞きわけを、皇太子殿下」
アスラン様…、と消え入りそうな声で言うと遂に堰を切ったように涙がこぼれ始めた。
はぁ、結局泣かれてしまったか。でも、皇太子殿下が言ったように6度も救ったんだから今回の事チャラにしてくれないかな? 何なら、御贔屓するからさ。
「わかりました。でも、勲章は持って行きなさい」
それは、命令だった。
心の祈りが天に届いたのか、泣かせたことに対する追及は無いようだ。
でも、勲章貰うと面倒なんだよな。今の話の感じだと取り敢えずは引き抜きのことは諦めたみたいだし。
そして、皇太子殿下が勲章を持って近づいてくる。
観念して受け取るか…、
「ありがたく、頂戴いたします」
勲章を受け取り、退室しようとした時に皇太子殿下から声がかけられた。
「アスラン様は何のために戦われるのですか!?」
何のため…、何のためと来たか。この世界のためだけど、どうせだったらかっこつけたいよな。
「名も知らぬ誰かのために」
今度こそ、式典を後にする。
その時、気付くべきだったのかもしれない。ジャスティスのコアが微かに点滅していることに。
式典から出たとたん、マスコミたちに囲まれて質問攻めにあった。適当に答えてはぐらかしたけど、無い事、無い事書かれないだろうな?
そこら辺、マスコミと言うのは今一信用できないというか何と言うか。
何時の時代でもマスコミはスクープを狙ってるからな。油断ならん。
そう思っている時、マスコミの中で倒れて、皆に踏まれている少女を見つけた。大丈夫なのか? あれ。ボロボロだぞ。
はぁ、と溜息をはくと、記者達に向かってちょっとどいてもらうように言い、倒れて居た少女の手を持って立ち上がらせる。
「大丈夫か?」
一応、回復魔法をかけておく。
「うう、助かりました。ありがとうございます…、じゃなかった! 私、魔女の世界紙の記者。エルネスタ・ニールマンと申します!」
結構タフだね、さっきまで踏みつけられてボロボロだったのに。それにしても魔女の世界紙、か…、どっかで聞き覚えがあるような、無いような。
「で、その魔女の世界紙の方が何の用だ? 質問なら他の記者達に答えて、もう無いのだが」
それじゃ、そう言って転移魔法を起動しようとすると「待ってください!」と大声で止められた。
そもそも、マスコミたちが知りたいのは英雄であるアスラン・ザラと言う偶像だ。俺の事ではない。それならば取材しないで噂話や都合のいい話をでっちあげれば終わりなんだがな。
事実、俺はなのはの世界の魔法使えなければ、ただの魔力タンクで、精々新人ウィッチ一人と同等ぐらいだと思うし。
面倒なので後日、許可を取ったうえで取材に来てくれと言って、今度こそ転移魔法で転移した。
「陛下、よろしかったんですか?」
式典場で皇帝陛下と皇太子陛下、そして軍トップの高官に政治家たちが言う。
「彼には娘が言ったように、カールスラントを6度も救ってもらった恩がある。それに、無理強いして、今後此方に非協力的になられても困る」
そこで一言区切り、眉間に皺を寄せる。
「既にカールスラント退却戦で家の反ウィッチ派の連中がやらかしてくれたおかげで、彼も相当怒ってたと聞きく。それにザラ派の動きも気になる。引き抜きはまた今度すればいいさ」
式典が終わり、だいぶ砕けた話し方をする陛下。
それに、
「我儘娘を諭してくれたのは彼が初めてだ」
だから今回はこれで良い。
「それにしても美しかったわね、彼」
陛下のその言葉に周りの者達も頷く。
「全くです」
作り物のように整った顔。少し幼さを残した顔は式典に居た皆を魅了した。騎士甲冑も相まって、物語から抜け出したと言われても信じてしまう程だ。
それでいて貴重な男でもある。その武勇はさながら現代に蘇った聖人ジャック・ダルクと言った所か。彼は裏切りで死んだが、私達は裏切らない。それは、無論、何度も助けてもらった恩もあるが、世論的にも、一人の男としてもとても魅力的だから。
今や、世界中がいかにして彼を手に入れるかで睨み合っている。彼を手に入れることは、世界を取るのと同義と言う所まで来ている。このまま扶桑にだけ甘い蜜を吸わせるのは個人的にもカールスラント皇帝としても面白くない。
いっその事、娘の婿として嫁いで貰うのも悪くない。娘もまんざらではないようだし、彼なら他の者達からも反対の意見は出ないだろう。
「と、言うわけで、やって来ました。魔女の世界紙の記者。エルネスタ・ニールマンです! 宜しくお願いします」
チェンジで。
そう言いかけそうになって思いとどまる。
取り敢えず、ソファーに座らせてココアを入れて出す。
「しかし、良く許可がおりたな」
章香もフィーネも何にも言ってなかったと思うんだけどな。
「アスラン・ザラ直々に許可を貰っていると言ったらすんなり来れましたよ」
よし、追い出すか。
俺は許可なんか出してないし。
「そうか、あ、帰り道そっちだぞ」
そう言ってさっき彼女が入って来た扉を指さす。
「え! まだ何もしていないのに帰れと!」
当たり前だろう。それにしてもこの記者、ノリが良いな。打てば響く的な奴だ。
はぁ、と溜息をついて口を開く。
「で、本当に何なんだ? 答えるべきことは前回の取材で他の記者達に言ったんだが」
そう言うと、無い胸を張って答える。
「それは上辺だけの話です。私が欲しいのはザラさんの本当の姿です。それと今、失礼なこと考えませんでしたか?」
何処の世界でも女は鋭いな。例えそれが貞操概念が反対の世界でも。
それにしても、本当の俺って何なんだろうな。
「…、君は勘違いしてるようだが、俺は世間で言われているような英雄では無い。ただ平凡で、どこも誰と変わらない、ただの人間だよ」
そう言うと思い返す。
「確かに戦場で戦い、幾らかの戦果は挙げたさ。だが、それだけだ。それを軍が宣伝塔として担いだだけ…、他のウィッチ達が血を流して勝ち取った物を横取りしている、卑怯者のろくでなしだ」
貞操観念が反対の世界だからこそここまで出世できた。全ては”男”である。ただそれだけの理由でだ。
だから、その流れた血に見合うだけの事をしなくてはならない。
「それは違います!!」
悲鳴にも似た声が響く。
「此処に来る前に多くのウィッチ達に取材してきました! 皆、貴方に助けられたと言ってます! 絶望しかない戦線をたった一人で見方を護りながら殿を続ける貴方に」
涙目になり、此方を睨みつけながら口早に言う彼女。
君までそんな勘違いを、そう口を開こうとしたところで、ジャスティスから念話が入る。
ネウロイが出たと。
「すまない、取材はまた今度にしてくれ」
そう言って隊長室を飛び出す。
何か呼び止める声が聞こえた気がするが、今は構っている暇はない。
何か勘に触るような事を言ってしまっただろうか?
それにしても何か、焦っているような印象も受けた。
すぐに誰かが入って来る。その人物は写真で見たことがあった。
確か…、
「ルーデル大尉」
「今は少佐だ」
そう言うとついて来いと言われる。
何処へ行くかを聞いてみると上を指さしながら一言「空だ」とだけ答えて。
ついて行くと、そこは
数えるのが馬鹿らしく思える程、ネウロイが地上を闊歩している。大型飛行ネウロイも何体か飛んでいる。
その大型ネウロイが次々に真っ二つになり消滅していく。
それを見てルーデルさんが口笛を吹く。
私は震えていた。あ、圧倒的だ。あれがカールスラントを6度も救った赤羽の英雄…、アスラン・ザラ!。
「今一度問おう。あれが、戦果の横取りの卑怯者のろくでなしに見えるか?」
ルーデルさんの言葉に今一度首を振って否定する。
「そうか、先程否定していた貴様なら大丈夫だとは思っていたが、一応な」
アーデルハイドさんが「もし、変なことを書くようでしたら此処で死んでましたよ」と呟かれたのにぞっとした。
やはり、文才ががががが…、