A Letter From A Drifter 作:牙草 流神
【会場に入ると、受験番号が記載されたプレートが配られると思います。
このプレートは見える位置に着用しておくのが望ましいのでしょうが、後のテストでこのプレートの番号指定による奪い合いがありますので他の受験者に知られないようにするのも望ましいです。ただし現時点では他の参加者の受験番号まで注目している人間はいないでしょうし、例え隠したとしても同時にプレートを受け取ったゴン君、レオリオさんの番号から容易に推察されますので意味が薄いと思われます。むしろ、隠すことによって逆に目立つ可能性が否めませんのでご注意下さい。一応、このことを念頭に置いておいて頂ければと思います。
プレートを受け取ってから試験が始まるまでの間、まだ試験は始まっておりませんが、試験者同士の謀りあいは既に始まっております。書くまでもない事ですが、油断されることはありませんように。
要注意の人物としては何人か居りますので以下に記載します。
①ドンパ
一見、人の良さそうな団子っ鼻のおじさん。しかし『新人潰し』の異名を持つ歴戦の受験者です。
ジュースを差し入れされると思いますが、決して飲まないようにして下さい。強力な下剤が含まれています。ゴン君が気付くと思いますので大事には至らないと思いますが。
②キルア
ゴン君と同じくらいの年齢の、スケボーを持った、ツンツンした銀髪の少年です。ですが彼は暗殺一家の末裔です。戦闘(暗殺)能力については受験者の中でも五本の指に入るほどですので決して敵対しないようにして下さい。
ゴン君に興味を示し友達になると思いますので、普通に友好的な関係を築けると思いますが。ただしあまり友好的に接すると(具体的にはゴン君よりも近しい関係だと思われる)と危険ですのでご注意下さい。理由は彼のお兄さんに関係します。
③ヒソカ
顔にトランプのペイントを施した、奇術師然とした青年。
しかし彼が全受験者、試験官の中で一番危ない人物です(これについてはドンパからも説明があるかと思いますが)。他の受験者とトラブルを起し、腕を切り落としているはずです。これだけで彼の危なさは分かるかと思います。
出来るだけ関わりを持たない事が最善ですが、彼の方から興味を持たれてしまうと思います(特にゴン君に強く興味を持つと思います)。
彼の行動については後述しますので、それぞれに注意を払って下さい。
戦闘力に関しては下手なハンターすら上回る程ですので、積極的な敵対行動は慎むべきです。
この時点では関わりはありませんが、最要注意人物です。
④ギタラクル
顔に針を多数刺している、奇怪な音を立てている(「カタカタカタ」等)人物。
見るからに危険な人物ですが、実際危険です。直接関わるような事態にはならないと思いますが、実は彼はキルアのお兄さんのイルミです。
前述のキルアとあまり親しく接すると彼に害される可能性が出てきますのでご注意下さい。戦闘力は前述のヒソカと同程度だと認識して下さい。
この時点では貴方に干渉してくることはありませんが、心に留めておいて下さい。
これ以外にこの時点で貴方達に接してくる人間、目立つ人間が居た場合、その人物は私と同じ『未来を知る』事が出来る人物である可能性があります。前にも書いたようにその人物の行動によって私の知る『未来』とは異なる結果が起こる可能性がありますので注意してください。
居なければ、それで問題ないのですが。】
試験会場に着くまで、3人でステーキ定食をつつきながらレオリオが一方的にゴンにハンターの何足るかを語っている。もちろんレオリオの主観で、だ。
クラピカとしては異論が出そうな価値観であったが、彼は彼自身の考えに没頭していたので幸か不幸か、それに気付くことはなかった。
そうしてゴンには偏ったハンターの見識が植え込まれてしまう事になる……。
試験会場に着いたクラピカは周囲の威圧を感じながらも観察を行う。
そして声を掛けてきた男を見る。
――ドンパだ。
彼の顔を見た瞬間に分かった。手紙に書かれた特徴通りの顔だ。
頭が豆のような形をした係員からプレートを貰いながらも決して目を離さない。
ちなみにプレートは手紙に書かれた内容を思い隠す事も考えたが、これを見える場所に付けておく事が受験者を示す事になるようなので結局そのまま胸に付けることにしている。
人の良さそうな顔をしながら有名な受験者達の解説を聞き流す。
その内容を信じて良いのか、ここからして既に騙そうとしているのか、判断が付かないからだ。確度が低い情報を仕入れるくらいなら最初から聞かない方がいい。
しかしそれでも『ヒソカ』。その名だけは流しておくわけにはいかなかった。
手紙にあるように、他の参加者の腕を斬り飛ばしている現場に遭遇する。もう手紙の的中率に驚く事もない。
確かにあの男は危険、という言葉では生温い破滅の予感を感じる。もっとも、その異常性は一目見ただけでも分かるものであったが。
だが手紙にわざわざ『最要注意人物』とまで書かれている人物である。用心に用心を重ねても足りないくらいであろう。
こちらに興味を持つ、との記載があったので注意していたのだが、こちらに気付く様子もなく他の受験生の中に紛れて行った。これは手紙が外れたということだろうか? それとも今ではない、ということであろうか?
そんな事を考えているとドンパがジュースを取り出してくる。
手紙によると、このジュースには下剤が仕込まれているらしいが……。
クラピカは決して自分は飲まず、そしてゴンを観察する。
「トンパさん、このジュース古くなってるよ!! 味がヘン!」
その言葉を聞いて、レオリオもジュースを飲むことなく捨てる。レオリオが口を付ける前に叩き落とす必要も考えていたから、これには安堵した。
だが、やはり手紙に書かれていた内容に違いはないのか……? その事を一々確認してしまう事、その為にゴン(ついでにレオリオ)を不要な危険に晒してしまっている事に罪悪感を感じる。しかし、手紙の事を話すワケにもいかない……。
――クラピカの心は本人が気付かない所で小さく軋みを上げ始めている。
【ベルが鳴って、紳士然とした試験官がハンター試験の始まりを告げます。ここからが本当の試験の始まりです。
第一試験は試験官に付いて行く、というだけの単純なものですが距離と、何より後半の場所がとんでもないので注意が必要です。
前半は平地(洞窟内)、中盤は階段(地上に出る為の階段なので、少なくともステーキ定食を食べた部屋で降りた分だけ昇ることになると思われます)、後半は「詐欺師の湿原」のような名称の場所を駆け抜ける事になります。
前半の平地についてですが、キルアの持つスケボーが咎められる事がなかった為、前述の折り畳み自転車を使用すると楽になることが考えられます。
しかしここで自転車を使用すると試験官からの咎めはなくとも、他の参加者から目を付けられる恐れがありますので、それを考慮した上での判断を行ってください。
この程度で躓いていてはハンターなんて夢のまた夢であるのは確かなのですが。
レオリオさんが率先してされると思いますが、形振り構わず服を脱いで走るとよいかもしれません。
中盤の階段については心臓破りと呼べる程に急な物で、頑張って下さいとしか言えません……。
階段を昇り切ると、後半の「詐欺師の湿原」に入りますが、その前に一波乱起こります。
ここまで先導して来た試験官に対して、彼を偽物だと断じる声が上がります。
そのまま眺めているとヒソカがそれぞれに対して攻撃を加え、どちらが本物かが分かります。ハンターがこの程度の攻撃を喰らうはずがないという理由で。
ちなみに最初から先導してくれている紳士然とした試験官の方が本物です(確かサトツさんというお名前のはずです)。
その後、「詐欺師の湿原」を走ることになりますが、ここで試験官から離れないようにくっ付いて、先頭集団を走って下さい。
この「詐欺師の湿原」ではその名の通り(とは言っても私の覚えている名前が正式名称か怪しいのですが)回りの自然、動植物が人間を食べようと詐欺師のように騙してきます。
先頭集団から離れてしまうと、騙された人間に巻き込まれて行き先が分からなくなってしまいます。
またヒソカも本領を発揮し出し、試験官ごっこと称して受験者に襲い掛かってきます。
ですので、それらを踏まえて先頭集団をキープして走り抜けることをお勧めします。
しかし残念ながら先頭集団から離れてしまい、迷ってしまった場合は上記のヒソカに襲われてしまう可能性があります。
今の貴方とヒソカには大きな実力の開きがある為、決して挑んではいけません。
出来れば他の人手分けして逃げることが望ましいです(レオリオさんは逃げた後でヒソカの前に戻る可能性がありますが、その場合でも助かるので問題ありません)。
先頭集団からはぐれなければ問題ないと思うのですが。】
ドンパから離れた後、試験が始まるまで他の受験生を観察していた。
特に手紙に書かれていた『キルア』『ギタラクル』の二人、もしくはその他に目立つ人間を見つける為、またはクラピカ達に接触してくるかもしれない人間を見る為である。
残念ながらキルアについては見つけることが出来なかったが、ギタラクルについては見つけられた。というか嫌でも目に付いた。
この二人は職業的な暗殺者のようだが……ギタラクル(偽名らしいが)のような特徴的な外見では暗殺者としては難しいのではないだろうか? 目撃者一切を消してしまうような凄腕ということなのだろうか。
兄の外見があれでは、弟であるキルアも「物凄い」のだろうか。手紙にはそこまで特徴的な事は書かれていなかったが。
尚、ドンパ以降、彼らに接してくるものは居なかった。また目立つ外見、と言う意味ではヒソカとギタラクルを超えるものは居なかった。または目立つパフォーマンスを行うものもまた、居なかった。
手紙に書かれている『未来を知る』人物は居ないのか、それとも――。
クラピカの意識がそんな方向にそれつつあると、大きなベルの音が鳴り響く。
ハンター試験の開始だ。
手紙に書かれていた通り、一次試験は二次試験会場まで試験官について行く事、らしい。
これで手紙の主が少なくともハンター試験に携われるレベルの人間である可能性が出てきた。もしくは「未来を予知する」という与太話を信じるか、であるが。
走り出してしばらくすると、スケボーに乗った銀髪の少年が横切って行った。それに突っかかるレオリオ。
彼がキルアであるらしい。兄に似ず、普通の外見である事に若干の安堵を抱く。が、彼も暗殺者であるらしい事を思い出し、またレオリオとゴンが騒ぎ出したのもあり、これ幸いと? 距離を空ける事にした。
その後ろをキルアが目で追っている事には気付かず。
どれほど走っただろうか。手紙によると階段が出てからが中盤らしいので、ようやく半分といった所なのか。
レオリオと二人、黙々と階段を昇る。ゴンとキルアは先に行ったらしい。先はまだまだ長い、ここで無駄口を叩いて体力を消耗するわけにはいかない。
階段を昇り切り、試験官と人面猿、そしてヒソカの茶番を見た後はヌメーレ湿原、通称”詐欺師の塒”を通り抜ける事になった。
手紙に書かれていた「詐欺師の湿原」。名称と通称が混ざり込んでいるが、何か意味があるのだろうか……? 人面猿の動きまで見通せる? もしくは仕組む事が出来る人間が、名称の間違えを犯すものだろうか? 何かここに意味があるのかもしれない。
クラピカは深い、疑心暗鬼に囚われていた。
考え事をしながら走っていた為、集中を切らしていた。気付けばスタートダッシュを逃し、先頭集団と離れて走っていた。何故かまたレオリオと一緒に。
ゴンが先頭から呼ぶ声で我に返ったが、ここからではゴンの所まで急ぐ事は難しい。奇しくもレオリオがそう答えているように。
「ちっ!」
思わず舌打ちをしてしまう。
手紙にも注意されていたではないか。先頭からはぐれるとヒソカに襲われてしまう、と。
完全に信じている訳ではないが、ここまでの的中率を見るに、外れると期待する事も難しい。
それでも何とか追いつく事は出来ないか、と考えだすよりも早く霧が辺りを覆ってくる。と同時に”詐欺師の塒”の通称に相応しい、そこに生息する獣達によってもたらされたパニックに巻き込まれる事になった。
「くっ」
ヒソカに襲われる、その事を警戒していたから反応する事が出来た。もっとも、長時間の、必要以上の警戒から集中力が切れる寸前であったが。
対してレオリオは被弾していた。弾はトランプである。
その後、多数の受験生が一瞬にして倒されていくのを見、手紙に書かれている通り撤退くらいしか手がない事が分かった。
見知らぬ受験生の案に乗っかり、レオリオとクラピカ、そして発案者の受験生は三方向に逃げる。
レオリオがヒソカに立ち向かうかもしれない、との記載があったが果たしてそうなるのであろうか? あの拝金主義者が? 果たして、それは為った。
ゴンが助けに入り、レオリオは助かった。
その姿を見て、レオリオも唯の金の亡者ではないのかもしれない、と感じた。
果たしてそれは、原作ではこの時点で感じではなかったであろう感想であった。
そしてクラピカは伝説になる