友達料と逃亡生活   作:マイナルー

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――――――――1周目


1 『アッパー系とダウナー系』

 この世界において、魔王軍と戦う者は二つの道から選ぶことになる。

 ひとつは、国に所属し、最前線で魔王軍と戦う兵士となる道。もうひとつは、危険な活動を冒険者として活動していくという道だ。

 ただ魔王軍と戦うというだけなら前者を選ぶべきだろうが、スバルは後者の道を選んだ。

 スバルが魔王軍に挑むなら、確実に『死に戻り』を何度も何度も活用する必要が出てくるだろう。

 スバルの『死に戻り』の活用は、いかに周囲を説得し、行動させるかという点にかかっている。スバルには未来がわかっても、「何故わかるのか」を説明できない以上、説得できなければ同じ悲劇を繰り返すことになりかねない。

 まして、戦争では上役の命令が絶対だ。『死に戻り』を生かして目の前の死を避けても、命令違反で罰せられるのがオチだろう。

 スバルが指揮官や参謀になれたなら、最前線での大規模戦争に参加してもいいのだろうが、スバルの実力や知能では、とてもそんな都合のいい昇進は望めない。

 ならば、自由度が高く、少数パーティでの活動となる冒険者活動の方が、説得もしやすく『死に戻り』を生かしやすい。そういった判断だ。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 異世界――ベルゼルグ王国の街「アクセル」に降り立って一週間。

 冒険者が集まり、情報や依頼を共有しあう組織――冒険者ギルド。そこは冒険者への依頼を斡旋したり、冒険者同士の協力を推奨したりする場所だ。

 ナツキ・スバルは現在、そのギルドに併設された酒場で働いていた。

 人生二度目の異世界召喚。前回同様、貧弱な初期装備と多少筋トレしているというだけの初期能力、そして無一文からのスタートである。

 もっとも、問答無用で放り込まれた前回と違い、今回は断りを入れられた上でのこの状態だ。福利厚生の不親切さに文句を言うつもりはない。

 前回は初日でエミリアと出会い、色々あってロズワール邸に運ばれて以降、衣食住に困ったことはなかった。が、こちらでもそんな都合のいいことは期待できない。

 今回は資金集め、何より冒険者としてやっていくための情報集めが必要だ。そして情報集めといえば酒場だろうという、RPG的安直な発想で選んだ職場だったが、なかなか悪くない。

 早朝の酒場、未だ客のいない時間に店主が声をかけてくる。

「ナツキ、そろそろ約束の一週間だったな」

「はい、今日はいつもより心を込めて頑張りますよ」

「冒険者になるんだって話だったが……お前、カードを作っても大したステータスじゃなかったって言ってたろ。サンマも知らない物知らずが、やっていけるのか?」

「それ言うのは勘弁してくださいよ。俺も個人的に事情があるんで、必死でやっていきます」

 雇って欲しいと頭を下げるスバルに、店主は一週間だけという約束で雇ってくれた。スバルとしても、ロズワール邸にてひと月ほど働いた経験があったためか、なんとか仕事をこなすことができている。

 常識をすり合わせしようと色々質問したせいで、当たり前のことも知らない馬鹿扱いされていたし、ロズワール邸ほどフランク……というより馴れ馴れしすぎる態度は許されなかったが、それは仕方ないだろう。

 わずかな期間とはいえ、仕事を共にしたスバルをこうして気遣ってくれている。ありがたいことだが、スバルとしても忠告を聞けない事情があるのだ。

「ま、いいけどな。お前と入れ替わりで働くことになったガキが今日から入ることになってる。今日限りとはいえ一応そいつにも挨拶しとけよ」

「了解っす」

 そんな会話をしながら、スバルが客のいないテーブルを拭こうと、台拭きを手に取った時。

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を……操りし……」

 突然、冒険者ギルドの方からそんな大声が聞こえてきた。

 何か見世物でも始まったのかと思い視線を移すと、そこには黒マントにとんがり帽子という、典型的魔法使いの格好をした女の子がいた。

 片目には何やら眼帯らしきものをつけている子供だ。後ろにはもうひとり同じようにマントをつけた少女が、猫を抱いている。

 セミロングの黒髪はリボンで束ねられており、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ体型をしている。

 見たところこちらは、スバルに近い歳に見えるので、眼帯の少女の姉か何かなのかもしれない。

「ありゃ、紅魔族だな……」

「紅魔族?」

 店主の呟いた聞きなれない言葉に、スバルは反応する。

「ああ、強力な魔法使いを輩出してきた、紅目の種族だ。あんな感じの名乗りをあげるからうるさくて迷惑だが、その実力は一級だ。お前も冒険者になるなら、今のうちにあの娘と仲良くなっておいても損はないと思うぞ」

 もっとも、職業が最弱の冒険者じゃ、あの子の荷物持ちをさせてもらえたら御の字だと思うがな、と店主は付け加えた。

 冒険者の組むパーティはビジネス的な性格が強い。

 なにせ、命をかけてモンスター、魔王軍と戦うための協力関係だ。

 よほど長い付き合いになれば、情や信頼関係も湧くだろうが、基本的にはお互いがお互いの役に立たなければ意味が無い。

 役に立たないとなれば、それらしい建前で戦力外通告を受けたとしても文句は言えないのだ。

「優秀な人同士、ひょっとしたら昨日騒ぎになってた娘と組むのかもしれないっすね」

「ああ、昨日のアレか。アクシズ教の頭がおかしな女だったから、案外変なことばかり言う紅魔族と気が合ったりしてな」

 昨日、大半のステータスを高い水準で揃えた、美人アークプリーストが来たという話はスバルも聞いている。

 スバル自身は酒場の仕事で忙しかったため、人々に囲まれた彼女の姿を直接見ていないが、水色の髪と瞳で、羽衣を纏っていた凄い美人だったらしい。

 聞く話だと、以前見た女神アクアを思い起こさせる外見だが、それもそのはず。

 この世界ではアクアは、カルト宗教アクシズ教の女神として祀られており、熱心な信者は彼女の姿を模した格好をしていてもおかしくないとのことだ。

 挙句の果てに自分は女神だと言いだしたらしいが、あの高みの見物をしていた女神が一週間足らずでこちらに来るわけがないので、女神を名乗る痛い女なのだろう。

 とにかく、紅魔族とアクシズ教のアークプリースト。彼女たちの存在をスバルは頭に入れておく。

 前の世界での『死に戻り』では、強者の協力を得ることで突破できたループも多かった。

 どちらも強力な冒険者な以上、最弱であるスバルとパーティを組むことはないだろうが、一時的に彼女たちに協力を要請することも出てくるかもしれない。

 店主との会話を終え、テーブルを拭いていると、何故か眼帯の少女が途中で受付を離れる姿が見えた。

 入れ違いに、もうひとりの年上らしきセミロングの少女が受付でカードの照会を行っている。

「さ、流石紅魔族、凄いですね! こんなに高い魔力の人は初めて見ました!」

「ど、どうも……」

 受付をしている女性が驚愕の声を上げる。店主の言葉を裏付けるような言葉を聞きながら、スバルは仕事に戻っていった。

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 ギルド内に人が集まり、酒場で朝食を取る客も増えた頃。

「はい、朝のクリームパスタです! お待ちどう!」

「ど、どうも……」

 先程照会をしていたセミロングの少女に注文のパスタを渡す。

 たった今、スバルが朝食を運んだ相手は、黒を基調とした服に、紅色のスカート。それに黒のマントを羽織った少女だった。

 その身体に反した童顔は明るい色で染まっており、紅い目はキラキラという表現が似合うほど輝いていた。

 駆け出し冒険者ということで、今後の生活に期待を寄せているに違いない。

「ではごゆっくりどうぞー」

 パスタを食べ始める少女のそんな姿に、スバルは明日からの自分を幻視しつつ、テーブルを離れていく。

「……そろそろ頃合いでしょう」

 彼女の向かいに座っていた眼帯の少女が、先に届いていた食事を終え、おもむろに立ち上がる姿が去り際に見えた。

 …………なんだ?

 スバルの疑問は、眼帯の少女が冒険者カードの照会に行った時に解消される。

「こ、これは!? 凄いですね、流石は紅魔族です、知力と魔力が凄い数値で……!」

 冒険者ギルドの職員の中で、最も美人で最も胸が大きいと評判の受付嬢が、驚愕の声を響かせる。

 これ自体は、今パスタを食べているセミロングの少女と同じ現象だ。しかし、時間帯をずらすことで朝とは比べ物にならない人口密度では、その情報は一気に伝染する。

 そこに集まった冒険者たちは受付嬢の言葉を聞き、視線を一点に集中させる。無論先は、照会をしていた眼帯の少女である。

 少女と受付嬢が会話を終えたと見るや、一斉に彼女のもとに冒険者たちが殺到する。

 なるほど、恐るべき策士だとスバルは感心する。

 不正も何もなく、一銭も支払っていないにもかかわらず、ギルド受付嬢という公平な立場の人間を、自分の実力を喧伝させるスピーカーへと変えてしまった。

 実力者であれば、たった一度それをするだけで多くの人間が群がってくる。

 なにより圧倒的実力で相手を驚かせ、尊敬の視線を集めるというのは、かっこよく気持ちがいいだろう。

 スバルが真似するには実力的に百パーセント不可能だ、という点を除けば完璧な作戦である。

 あれよあれよという間に、眼帯の少女は、適当なパーティの仲間に加わってしまった。

 一方、パスタを片付けたセミロングの少女は、人に声をかけようとするけどなんとなく怖がってかけられない、典型的コミュ障の様を見せている。

 おそらくは実力に差がないであろう、二人の紅魔族。

 ほんのわずかな受付時間の差。ただそれだけが、二人の間に圧倒的なまでの格差と断裂を生み出してしまったのだ。

「だが頑張れコミュ障少女。少し声をかけるだけで、いじめられっ子を卒業できたりするかもしれない。行動こそが運命を変える唯一の手段なんだから……」

 勝手な偏見で、コミュ障認定に加えていじめられっ子認定。ナツキ・スバル、時として物凄く失礼な男である。

 コミュ障少女(推測)の影を置いて、スバルは別の仕事に移った。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 太陽が高く上がった頃。

 明るく熱気盛んな店内で、ナツキ・スバルは労働に精を出していた。

 酒場には手軽なクエストを早々に終えた冒険者や、逆に余裕を持って昼からクエストに挑むような冒険者が続々と集まっている。

「おいおい、どういうことだよ!」

 大声にギルド受付の方を見ると、受付の女性に対して、ガラの悪そうな男たちが絡んでいた。

 チンピラというと、酒場で見るくすんだ金髪の冒険者を思い出すが、それとは明らかに別人。外見そのものに内面の卑しさを醸し出す三人の男たちであった。

 スバルの主観では、なんとなく主人公に絡んで追っ払われるモブチンピラっぽい。

 スバルも前の異世界召喚ではトンチンカンと名付けたチンピラ三人に絡まれて、リンチされたりまとめて倒したり殺されたりしたものだ。

 見たところ、ガラの悪い冒険者たちは巨漢や小柄な男もいるので、勝手に三人を『トンチンカン二号』と名付けておく。

「あぁん? 悪魔型モンスターが出てるとか言われても困るんだよ! こちとら久々に金稼ぎに来たってのによお!

「そうそう、悪魔が相手じゃおちおち森にも行けないじゃねえか!」

「あ、あなた方ほどの実力者揃いならば、多少の危険も突破できるのでは……」

「俺達は楽に倒せるような格下しか相手にしたくねえんだよ! 下級ならともかく、上位の悪魔なんて相手にできるかよ!」

 仕事の手は休めていないが、トンチンカン二号たちの言葉はきちんと頭に刻む。

 どうやら、森には凶悪な悪魔がいるという情報が冒険者ギルドに入ったらしい。わざわざ警告してくれた受付の人に、トンチンカン二号が八つ当たりしているというわけだ。

 ブツブツ言いながら立ち去るスバルは、『悪魔は時として、実力者の冒険者でも恐れるほど危険』と頭のメモ帳に書き込みつつ、料理を運ぶ。

「はい、野菜たっぷりチャーハンです! お待ちどう!」

「どうも……」

 渡す相手は、今朝照会をしていたセミロングのコミュ障(推定)少女。

 その身体に反した童顔は寂しさの色で染まっており、紅い目はしょんぼりという表現が似合うほど力を失っていた。

 共に来ていた眼帯の少女は早々に、有望な魔法使いとしてどこぞのパーティに歓迎してもらっていた。

 眼帯の少女のような巧妙な宣伝術を用いずとも、魔法使いは大抵のパーティで需要があるはずだ。

 あの少女だってその気になればいくらでも欲しがる人はいるだろうに。少し会話できないというだけで、ここまでの状態になるのか。

 そのうち「ガン見するのはやめてください」とギルド職員のお姉さんに注意されてペコペコ謝っていたし。

 先程などは、明らかに40は超えていそうな、自称13歳の怪しい男に「もっとお話しようよ」「この御飯代もおじさ……僕が払ってあげるよ!」と言われて、どこか嬉しそうな顔をしていたり。

 赤の他人のスバルから見ても、ちょっとやば目な無防備さを見せていた。

「おーいナツキ! 新入りに皿洗いの手順教えてるから、お前は奥の整理を頼む!」

「あ、はーい! 今戻ります!」

 店主の言葉を聞き、スバルは店の奥に戻る。

 だが、作業を続けている間も、スバルの頭からは少女の姿が離れなかった。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

「2番テーブルさん、スモークリザードのハンバーグ3つ入ります!」

「おうよ!」

「おいナツキ! ジャイアントトードの唐揚げ定食、4番さんに持っていけ!」

「はいよ! 焦らず騒がず迅速に持ってきます!」

 薄暗くも、熱気盛んな店内で、ナツキ・スバルは労働に精を出していた。

 冒険者ギルドに隣接している酒場だけに、夕食時の店内では仕事を終えた冒険者が続々と集まっている。

 ジャイアントトードという、狙い目の獲物を狩りに行ってきたという戦士達。

 噂の美人店主の店に行ったら、変な商品しか置いてなかったと笑って話す男達。

 クールな顔立ちに金色の髪を纏った女騎士と、銀色の髪と頬の傷が特徴的な女盗賊の組み合わせ。

「はい、ジャイアントトードの唐揚げ定食です! お待ちどう!」

「………………どうも……」

 そして、結局朝から晩まで、酒場で一人待ちぼうけしていたコミュ障少女(確信)。

 その身体に反した童顔は暗い色で染まっており、紅い目はどんよりという表現が似合うほど曇りに満ちていた。

 頼まれてもいないのに声をかけ、ハイテンションさと奇天烈な行動でドン引きされた過去のあるスバルにとっては、一日中待ちぼうけしていた彼女の姿はいっそ不思議なほどだ。

 何故か妙に心に引っかかる少女に対し、スバルはなるべく優しい感じを心がけて笑いかけた。

「では、また何か困ったことがあったら、すぐにお呼びください」

 スバルはそう言って、生まれつき悪い目つきをなるべくフレンドリーな感じにしながら仕事に戻る。

 意識しすぎてむしろ怖い感じの笑顔になっていたが、心持ちは伝わったのか、コミュ障少女の雰囲気が幾分和らぐ。

 そうしてスバルがバックヤード的な場所に戻ろうとすると。

「舐めんな! おっさん、俺がこの街に来たばかりのガキだからってバカにしてんじゃねーぞ!」

 突如として、今日酒場で雇われたばかりの少年の怒声が響き渡った。

 どうしても日払いの金が必要だということで、突然連れとともに土下座して、雇われたバイトだ。

 スバルは現場を見ていないが、店主がその必死さに同情し、人数は足りているが少年の方だけでも雇うことにしたとのことである。

「わけわかんねー指示しやがって、パワハラか!? あぁ!?」

「サンマ畑に取りに行けって言われただけで何キレてんだ新入り! お前ふざけてんのか!」

 大声は店内に響き、客達も注目するほどだ。見れば、眼帯の少女も客の中に混ざっている。

「ふざけてんのはどっちだ! せっかく真面目に働こうってのに、あんな指示出されたらキレもするわ!

「てめえクビだクビ!」

 あれよあれよと言う間に店主はクビを言い渡し、少年はエプロンを千切るように取り捨てると、そのまま逆上して飛びかかる。

「おいナツキ、やべえぞ! 俺はあの喧嘩止めてくるから、お前はこっちの仕事のフォロー頼む!」

「あ、はい、ただいま!」

 

 

 

 今日の日当を受け取ったスバルは、宿に向かう道すがら考えていた。

 元々スバルは、先程クビになった少年――ジャージ姿が気になっていたので、後で話をしたかったのだが――と同様、短期間のバイトにすぎない。

 とうに冒険者ギルドへの登録は済ませており、後はいつ冒険者として活動を始めるかというだけのことだった。

 スバルの脳裏に、酒場で一人ぽつんと座っていた少女の姿が浮かぶ。

 ギルド職員には「気に入らない人がいても睨むな」というような注意を受けていた彼女だが、なんだかそのうちヤバい男に引っかかりそうな臭いがプンプンする。

「――――」

 もちろん、スバルにとっては単なる赤の他人に過ぎない。

 どことなく危ういからといって、彼女に迫るかもしれない危険を防ぐ義理などない。

 そもそも、彼女の方だっていい迷惑かもしれない。むしろ、常識的に考えればそっちの可能性の方が高い。

 今朝の胸の小さな娘のことを考えれば、彼女もその気になればどんなパーティにでも入れる実力者なのだろう。単に品定めしているだけかもしれないし、そうでなくとも最弱職と言われる冒険者など、彼女には必要ないと断られることは十分考えられる。

 ここで自分などが出ていったりすることはないだろう。

 が。

「あいにく、空気を読まないことは大得意でな……」

 別に少女を助けるわけではない。ツンデレではなく。

 ナツキ・スバルの目標は魔王討伐である。

 力も知恵も足りないことは承知の上だ。身の丈にあった仲間など求めたところで、決して届くとは思えない。

 他人の力を借り、少しでも力を結びつけ、『死』を持って世界を繰り返し、解決策を導き出す。それがナツキ・スバルのできることだ。

 実力者らしき人がたまたま残っているというのなら、力を借りない手はなかった。

 

 

 

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 翌日。

「おーい、取り込み中悪いけどちょっといいか?」

「あっひゃいなんでしょうか! えーとえと私ゆんゆんと申します職業はアークウィザードででも中級魔法しか使えない半端者ですごめんなさいでもすぐ上級魔法も覚えますから!」

「おおう……これは……」

 メンバー募集の紙を書き直していたらしいコミュ障少女(確定)に声をかけると、予想外の反応をされた。

 スバルとしては突然声をかけたつもりはなかったが、相当集中していたのか。いや、単にコミュ障の一環という気もする。

「あ、酒場のお兄さん……」

「おおっと、それは違うぜ。もう俺はここの酒場のウェイターじゃねえ」

 スバルはスバルで人付き合いが上手な方ではない。

 むしろ故郷では、空気の読めない痛い奴として、とことん浮いていたほどだ。

 それでもスバルなりに、彼女を怖がらせないよう、指を一本立ててわかりやすいポーズを決める。

「俺の名前はナツキ・スバル! 無知蒙昧にして天下不滅、最弱職の冒険者だ!」

「ぼうけん、しゃ……?」

 彼女は目を見開き、一度ぱちくりと瞬きすると。

「ぼ、冒険者、冒険者の方ですか!? え、えっとそのああすいませんすいません私だけ座ってて失礼ですよねすぐ立ちますから!」

「おっと、座ってていい! まず深呼吸だ深呼吸。スーハースーハー」

「は、はい! スー…………ハー…………スー…………ハー…………」

「そうそう。吸ってー吐いてー」

「スー…………ハー…………スー…………ハー…………」

 パニックに陥った相手に単純な指示を与えると、常識的におかしい指示でもなければ、そのまま従ってくれることは割りとある。

 そして呼吸を整えることで、精神も連動して落ち着くこともままある。

「落ち着いたか? じゃ、これからの話をしようぜ。えっともう一度自己紹介頼めるか?」

「は、はいっ!」

 そうすると、彼女は深呼吸した後に、何故か震えながら両手をビシッとクロスさせたポーズを決め、

「わ、わ、我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、中級魔法を操る者! いずれ紅魔族の族長となる者!」

 顔を真っ赤にしながら、そう名乗りをあげた。

 これはスバルは知らなかったが、紅魔族特有の名乗り方である。

 自己紹介の独特さはスバルも大概だったが。

「ゆ、ゆんゆん……?」

「は、はい! 変わった名前ですけど、本名ですっ! あのその、ひょっとして」

 期待半分不安半分と言った面持ちで見上げてくる少女――ゆんゆんに、スバルは笑いかける。

 ここで横道に逸れまくるのが普段のスバルだが、今回はまっすぐ本題に入った方が賢明だろう。

「酒場でのバイトは昨日で終わりでな。今日から冒険者として活動したいと思ってるんだけど、一人じゃ不安なんだよ。一緒に組んでくれないか?」

「――――!」

 ぱくぱくと。

 ゆんゆんは、どうしていいかわからないといった顔で、声にならない声を唇から漏らしていた。

 そんなゆんゆんに、スバルは片手を差し出しながら続ける。

「弱っちい俺じゃ嫌かもしれないけどさ、助けると思って、頼むよ」

「い、いえ、こちらこそ! 会話が下手ですし名前が変ですしその毎日話し相手が欲しくてご迷惑をおかけするとおもいますけどお願いしませりゅうっ!」

 噛んだ。

 

 こうして、アッパー系コミュ障冒険者ナツキ・スバルと、ダウナー系コミュ障魔法使いゆんゆんのパーティが誕生した。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 冒険者ギルドのクエスト掲示板前に移動した二人は、早速手頃なクエストを探し始めた。

 時刻は早く、他の冒険者達の姿は見当たらない。

 募集用紙にダメ出しを受けたゆんゆんは、早朝から書き直して掲示するつもりだったため、必然的に早い時間となったというわけである。

 ちなみにゆんゆんは知る由もないが、ゆんゆん目当てで来たスバルは、とりあえず早朝に来ていなかったら別の店で装備を揃えたりしながら、ゆっくりと探すつもりだったためだ。

(スーハースーハー……えっと、丁寧に、失礼のないように、でもフレンドリーに。相手の考えを頭ごなしに否定しない、えーっと……)

 ブツブツと、幼い頃から読んできた友達作りのマニュアル本を反芻するゆんゆんに、スバルが声をかける。

「なになに……? 森のモンスター駆除か。ゆんゆん、例えばこれとかどうだ?」

「は、はいぃっ!」

 スバルが指し示した先に視線を移し、『森に大量発生したスライムを駆除してほしい』の文字にゆんゆんは仰天。

 突然、初心者冒険者には無謀な提案を始めたスバルに、慌てて止める。

「だ、駄目ですよ、何言ってるんですか!」

 しかし、その制止にスバルは合点がいかないらしく、

「ん? スライムって強いのか? 個人的にはスライムってのは、刃物でもあれば倒せそうなくらい弱くって、なんかかわいいモンスターってイメージがあるんだが……ああ、今は森が危ないんだっけか。悪魔がいて」

 と、わけのわからないスライム論を展開し始めた。

「どこで聞いたんですか、そんなスライムの話! 悪魔の話はともかく、スライムは物理攻撃にも魔法攻撃にも強い、凄く凶悪なモンスターですよ!?」

「マジで!?」

 まるで常識を覆されたかのように、スバルは目をむいた。

「え、マジなの? せいぜい柔らかな身体でぶつかってくるとかだろ? まさかメタルか? それとも毒がヤバいのか?」

「毒を持ってるのもいますけど、普通のスライムは張り付いて窒息させたりそのまま消化してきたりしますよ」

「俺の中のかわいいスラリン像どうしてくれんの!?」

「なんでちょっとかわいい名前つけてるんですか!?」

 そこまで話したところで、割りとスバルと話せている自分がいることに気づいた。

 意外も意外、こんなに話せるというのは想定の外だ。スバルの提案を全否定するなど、マニュアルを無視してしまったが、そこは結果オーライ。

 突如スバルがわけのわからないことを言ったため、知り合いの爆裂狂いに対するものに近い気持ちになれていたのか。

 あるいは、スバルは自分の気持ちを解きほぐすために、わざと常識外れのことを言ってくれたのかもしれない。

 ゆんゆんはこっそりと、スバルの評価を上方修正する。完全に過大評価である。

(でも、ただ気遣ってもらっているわけにもいかないよね)

 もちろん、一緒にいてくれたり、会話してくれたりするだけで、ゆんゆんとしてはとてもありがたい存在である。であるが、ゆんゆんにだってもっと大きな野望がある。

 単なる仕事を通じての会話の成立だけではない。どんどん親しくなり、プライベートでも気軽に話せて楽しく遊べる。

 仕事のない日には色んなお店に遊びに行くような、立派な友達をきっと作るのだ。

 以前読んだマニュアル本には、『自分から親しくなろうと距離を縮める姿勢を見せることが必要』『苗字呼びやさん呼びは距離を作ってしまうこともある』と書いてあった。

 その知識を踏まえてゆんゆんなりに親しげに話しかける。

「じ、じゃあ、クエストを選ぶためにも、まずお互いにできることから話しましょうか。その、スバルくん!」

 その言葉を言った瞬間。

 スバルの雰囲気が変わった。

 軽薄そうな笑顔が消え、怒りとも悲しみともつかない感情がその瞳に浮かぶ。そのまま何かを堪えるように、唇を引き結んだ。

 人付き合いの下手なゆんゆんであっても察することができる。自分は何か、とんでもない地雷を踏んだのだ。

「ごめんなさいごめんなさい、いきなり名前呼びなんて馴れ馴しかったですよねごめんなさい! 紅魔の里では名前で呼び捨てしあうのがほとんどなので、里の外でも敬称さえつければ名前で呼んでもいいんだと思いこんでましたすみません!」

 昨晩の帰り道、ライバルのめぐみんの前ではなるべく表に出さないようにしていたつもりだが、丸一日まともな志望者が来なかったという事実は、ゆんゆんにはなかなか応えた。

 そんな中自分に声をかけてくれたスバルはとてもありがたい存在であるというのに、彼の機嫌を損ねてまた一人に戻ってしまうなど耐えられはしない。

「いやいや、そこまで謝られたらこっちが困るって! ゆんゆんは何も悪いことしてないから!」

 平謝りするゆんゆんに、スバルはすぐに表情を戻して、慌ててフォローを入れてくる。

「そ、そうなんですか? でもでも、ナツキさんあんなに……」

「あれはその、あれよ。俺の個人的こだわりっていうか、思い入れがある呼び名でさ。勝手に特別扱いしてるってだけだよ。説明しなかった俺が悪いんだから、ゆんゆんは悪くない悪くない」

 スバルは落ち着かせようというのか、ゆんゆんと目を合わせて優しい顔を――しているつもりだろうが、特有の目つきのせいでちょっと怖い。

 というかゆんゆんとしては、いくら誘ってもらって感謝していても、ほとんど初対面の相手と目を合わせるとか無理である。

「あ、ああ、あはい、すみません、じゃなくって、わかりました、ナツキさん」

 完全に明後日の方向を向きながら、何とか答えを返す。

 紅魔族、族長の娘、ゆんゆん。紅魔族随一のコミュ障。

 彼女の対人訓練は、まだまだ始まったばかりであった。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 スバルが最低限の装備として安物のショートソードを購入し、スバルとゆんゆんはクエストを果たすべく平原地帯へと向かっている。

 目的は初心者におすすめといわれる、ジャイアントトード。繁殖力が高く、異様なサイズで山羊を丸呑みにするのだとか。

 農家の家畜はもちろん、子供なども狙われる危険なモンスターだが、同時に食糧としても評価が高いため、討伐と肉の買取による二重報酬がオイシイという話は聞いている。

「俺、田舎から出てきたばっかで、あんまりものとか知らないんだけどさ。ゆんゆんは紅魔族……ってやつでいいのか?」

「はい、あのあの、はいそうです」

 視線を逸らし、いかにもビクビクしてます、という態度でゆんゆんが話す。やはり先程の自分の態度が悪かったのか。

 ゆんゆんが発育の良い体に似合わず、まだ13歳だというのはお互いの自己紹介で聞いた。ただでさえ初めての冒険で緊張しているところに、4つも上の男が突然硬い空気を見せれば、このような態度になるのも無理はあるまい。

 どの程度の付き合いになるかはわからないが、スバルとしてはもう少しマシな関係は築いておきたいところだ。

「紅魔族って、魔力が強くて目が紅くて強い……くらいしか知らないんだけど、実際どんな感じなんだ?」

「どんな感じ、ですか……?」

「そそ。ほらほら、あるじゃん。例えば、微妙に古い言葉を使うとか、本気出したら角が生えてくるとかさ」

「つ、ツノ? いえ……そういうのはちょっと」

 ゆんゆんは、考えをまとめるように二、三度深呼吸すると。

「私は紅魔の里でも変わりもので知られていたので、参考にはならないかもしれませんけど、それでもよければ。

 紅魔族は見ての通り、紅い瞳を持つ種族です。大抵は黒髪で、知力や魔力が高く、魔法使いへの適性を高く持ちます」

 と、そこで恥ずかしそうな笑みを浮かべる。

「その、里の外の人達とは、少し違った名前を持つことが一般的です。私もそうですし、学校の同級生も、みんなそうでした」

「学校?」

 前の世界では、真っ当な教育を受けられるものは貴重だった。そのことは、ロズワール邸でのひと月の間によく知っている。

 こちらの世界は多くの日本人が送られていることもあり、学校制度ができるほど教育が行き届いているのだろうか。

 そんなスバルの考えは、すぐに否定される。

「あ、すみません。学校ではわかりませんよね。紅魔族独自の文化で、子供は12歳になると一箇所に集められて、一般的知識や魔法の勉強をするんです。そして、アークウィザードとして、魔法を使えるようになるまで鍛えてもらうんですよ。私はこれでも学校で二番目の成績で……」

 話しているうちに、ゆんゆんが雄弁になっていく。人間、自分の得意な話題ならばよく口が回るというのは、どの世界でも同じようだ。

 話題は段々と、故郷の話から彼女のライバルの話へとずれていく。

――「めぐみんはいつもそうやって、私が勝てないような種目にするんです。おかげでいつも、お昼ご飯を取られちゃって……」

――「めぐみんは変なこだわりを持っているんですよね。普通にやってたら、右に出るものなんていないアークウィザードになれるのに、結局そのこだわりを捨てないままで。……まあ、私も手伝ったようなものなので、強くは言えないんですけど」

 彼女は、『めぐみん』というライバルのことを語るゆんゆんは、本当に楽しそうで。

 そこには心からの友情と親愛が見られる。

「でも、めぐみんは本当にすごくって。だから、私も頑張らなくっちゃ」

 ライバルとして相応しく有りたいという、高みを目指す意思があった。

「…………俺も、強くなりたいよ」

 スバルも、ゆんゆんの意思につられるように言葉をこぼす。

 本心だった。

「最弱職でも、才能がなくても、諦めたくないものがあるから」

 二人の歩みは、やがて目的の平原に到着する。

「だから、その第一歩として……カエル狩りとしゃれこもうぜ!」

「は……はいっ!」

 ゆんゆんは杖と短刀を構え、スバルはショートソードを握りしめた。

「ナツキさん。とりあえずあそこにまとまってるカエルに、不意打ち気味に魔法を撃ちますので、向かってきた敵の足止めをお願いします」

「お、おうよ。任せとけ」

 デカい。

 ジャイアントトードは文字通り大きなカエルだという話は聞いていたが、実際に目の当たりにするとインパクトが違う。

 以前、ロズワール領内での魔獣騒ぎの際に、最後に戦った巨大魔獣を思わせる大きさだ。

 金属を嫌うというので、ショートソードを用意してきたが、スバルは自分に剣の才能がないことをよく知っている。

 レベル1のスバルは魔王を倒すどころか、このカエルにサクッと喰われて命を落として死ぬ可能性は十分にある。

「出たとこ勝負だ……。弱っちい俺だが、ゆんゆんにおんぶにだっこされるつもりはねえ。ちっとくらい役に立ってみせるさ」

 そうしてスバルが警戒しているうちに、ゆんゆんの詠唱が完成した。

「『ファイアーボール』ッ!」

 轟音と共に光球が炎を撒き散らす。巨大なカエルを複数巻き込み、芯まで焼けた肉の香りが漂ってくる。

 なるほど、なんとも胃袋を刺激する、香ばしいものだ。ただ適当に焼いた肉の香りだけでこうなのだから、実際に調理したときはこんなものではないだろう。食用として重宝されるのも頷ける。

 紅魔族は知力と魔力が高い、なるほどその話は伊達ではない。魔法を使えない学校の子どもたちが皆、アークウィザードだったというのも納得だ。これほど敵に回したくない種族もいないだろう。

 そして同族を殺された敵――近くの地中からのそりと這い出つつあるカエルは、敵意の視線をこちらに向けた。

 魔法の衝撃で目を覚ましたばかりなのか、その動きは緩慢で、少し時間を稼げばすぐにゆんゆんの魔法で対処できるだろうと思われた。

 スバルは、未だ身体の半ばまでが地面に潜ったカエルに、ショートソードで顔面を叩きつけながら、

「ゆんゆん! 今のうちに距離を!」

 と、そこまで言った時。

 もう一匹のカエルが、後ろに跳んだ直後のゆんゆんの背後から現れる。

「うし――!」

「――『ライトニング』!」

 スバルが注意を促そうとすると同時に、振り向きざまにゆんゆんの放った雷撃がカエルに突き刺さった。

 彼女の見事な対応に内心胸をなでおろす。

 安堵もつかの間、スバルは正面のカエルに再び向き直――――。

 ぱくり。

「な、ナツキさーん!」

 ゆんゆん側に注意を向けていたスバルの肉体は、ジャイアントトードの口内に消えていた。

 

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「いやー、悪い悪い助かった。危うくBAD END『蛙の餌』とかになるとこだった」

 粘液まみれの身体を持て余しつつ帰路につく。

 どうやってあんな巨大なものを持ち帰ればいいのかと考えていたが、ギルドの人は肉の移送サービスも行っているそうだ。

「い、いえ。パーティなんですから当然です。それに、ナツキさんが体を張って足止めしてくれなかったら、私も食べられちゃってましたから」

 少々引きつった笑いを浮かべながら、ゆんゆんも同行する。

 なんとなく、行きよりも距離が離れている気がするのは、生臭い粘液が生む妄想だろうか。

「まあ、少しでも役に立てたなら良かったよ。明日からは、もっとビシバシ頑張るんで、やってほしいことがあったら何でも言ってくれよな」

「あ、明日も組んでくれるんですか!?」

 ゆんゆんが何故か変なところに食いついてきた。

 今回のクエスト報酬十万と二万五千エリスは、取り決めで折半ということになっている。

 九割型ゆんゆんの活躍で成功したクエストだ。本来なら、今後をお願いするのはスバルのほうだと思うのだが。

 まあ昨日今日の様子を見るに、人見知りというか、初対面の人と打ちとけるのが苦手そうだったので、また別の人と打ちとけるのは辛いのかもしれない。

 ゆんゆんの実力なら、ソロでも十分やっていけそうなものであるが。

「そんなの俺の方から頼むとこだぜ。ゆんゆんはもっと自信持っていいと思うぞ」

「すみませんすみません。……実は私、あんまり友達がいなくって」

 後半はひどく寂しそうな目でつぶやく彼女。その目にはどんな過去が映っているのだろうか。

「可愛らしい顔立ちの美少女、発展途上ながらも抜群のスタイル、優秀な能力。…………普通なら、友達料払ってでもなりたいと思うんだけど」

「友達料ってなんですか!? 何か払ったら友達ができるんですか!?」

 そこに食いつくのかよ。反応するなら可愛いとかのところにしとけよ。

 思わず内心でツッコミを入れる。

「友達料ってのは、何かしら対価を支払って、友達になってもらう……っていうジョークだよ。実際に払うなよ、笑えなくなるから」

「うぅ…………はい。そうですよね、友達同士でお金のやり取りとか、良くないですもんね。経験あります」

 あるのかよ。

 残念そうな顔だったが、それでも納得はしてくれたようだ。

「じゃ、改めて。今後ともヨロシク」

 親愛の証に一歩前に出て、シェイクハンドしようとゆんゆんの手を――取ろうとして、粘液まみれだったことを思い出す。

「ごめん。報告に行った足で乾杯しようぜと思ったけど、その前に風呂入らないと、俺のハートがそろそろピンチだ」

「よ、喜んで」

 まだどこか、ぎこちなさはあったものの。ナツキ・スバルとゆんゆんの初クエストは、大過なく終了したのであった。


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