少年/戦姫絶唱フェイト・シンフォギア   作:にゃはっふー

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62話・神秘を振るう不完全

 それは無数の宝具の乱舞だった。

 

「ふざけるな」

 

 アダムはティキを引き離し、その一撃が対軍に匹敵する一撃。

 

「ふざけるなふざけるなふざける」

 

「うるさい完全」

 

「ッ!?」

 

 息を飲み、背後に現れ、大剣を掴む青年。龍崎アスカは、

 

「完全風情が、オレらから逃れられると思うな」

 

 大地を削る一撃。それに、

 

「貴様だけではないぞ、理想の抑止」

 

 空を覆う黄金の波紋。そこから現れるのは、王の財宝。

 

「その人形を破壊するのは、この(オレ)だッ」

 

 爆発するように一面に放たれる中、トップサーヴァント達が参戦する。

 

 

 

「馬鹿な有り得ない………この時代にあり得ない魔力を内方した武器、それにその姿ッ。貴様はなんだ、なんなんだ貴様はァァァァァァァァァァァ!?!」

 

 その時、異形へと変わり果てるアダムの姿に、全員が見下し、くだらないものを見るように気にも留めない。

 

「不完全故に完全を超える、貴様には理解できないだろう人でなし」

 

【なんだとッ!?】

 

「完全さお前は、ただそれだけだ。だが、定められた力を超えなければいけない、それ以上でなければいけない。神も世界も、この世に存在する不条理全てを超えなければいけない我が宿命、フェイトの前に貴様は終わりを告げる」

 

【貴様】

 

「まあオレにはんなもん関係ない」

 

 世界も、国も、宿命も何もかもどうでもいい。

 

「テメェが人の不平をどうにかしようとしたサンジェルマンさんや、響の繋がる思いを否定するのなら、オレは貴様を終わらす始まりを告げるだけだ」

 

【繋がるだと? 繋がるはずがない、バラルの呪詛がある限り、バラルの呪詛を施したカストディアン、アヌンナキを超えられぬ限りッ】

 

「だから貴様が統一すると言うのか」

 

【そうとも、不完全な貴様らを、私が】

 

「消えろ愚か物」

 

 剣を掲げると共に、雷鳴が天にて剣となり、全てを貫きながら振り下ろす。

 

【グッアアァァァァァァァァァァァァァァァァァ!?!!】

 

「神程度の呪詛破れぬのなら、世界はその程度だ」

 

 土煙が立ち上る中、無数の武器と共に、アスカらしきそれは言う。

 

「世界は神を作り、神は人に定めを作り、人は神を超える。宿命とはそう言うことを言うのだ」

 

 一歩前を歩く瞬間、誕生する無限なる幻想。

 

「人は幻想、理想を口にし、現実に撃ち砕かれる時もあれば、神から定めた宿命を超え、それ以上の結果を掴む。故に我は人の身として、人類悪へと立ち向かう」

 

 一歩歩くと、空間が割れ、無数の幻獣が現れる。

 

「怪物も神も、全て人より優れている。が、いずれ人の手により滅び、新たな時代を幕を上げる。神秘の世は終わり、物理の世が始まる中、されど人間は幻想、理想を掲げ、世界を超える。不完全であるが故に、人は無限の滅びと、無限の進化が許された生命体。完全で、それ以上何もできないその身で、その生命体を律するなど、我が許すか」

 

【き、貴様。なんだ、何者だッ】

 

「理想の抑止力、世界と神々と人々を滅ぼす、始まりと終わり、二面の矛盾の幻霊。貴様はいま、奇跡を超えた絶対に殺される」

 

 そう宣言し、アダムは無数のアルカノイズを取り出し、戦いは激化する。

 

 

 

 ――???

 

 

「アスカ、なに言ってるの」

「立花響」

 

 その時、騎士王と守護者無銘が現れ、彼の様子に、無銘は舌打ちをする。

 

「おそらく本来の彼とほぼ融合状態なのだろう。もとより、抑止達により、聖杯の中身として使われかけたのを、何度も聖杯と繋がり、グランド・セイバーとほぼ融合に近い状態になってしまったらしい」

「このままではどうなりますか?」

「おそらく、龍崎アスカと言う人格はグランド・セイバーと融合して取り込まれる」

 

 それに他の英霊達も現れると共に、ノイズを討つ。

 

 三人の錬金術師達や、装者全員もまた、ノイズを倒し始めている。

 

「それはまずいね、この世界であれを再現する気かッ」

 

「あれってなんだマーリンっ」

 

 奏の問いかけに、ガウェインが瞬時に辺りのノイズを吹き飛ばし、マーリンは静かにランスロットなどの側にいる。

 

「終わりを告げ、始まりを告げる一撃。彼は矛盾するんだ、終わりが始まりで、始まりが終わり。神々の世を終わらせ、人々の世を初めたり、現実の時を終わらせ、奇跡の時を始める。二面性を持ちながら両立するグランド・セイバーの一撃は、そう言うものなんだ」

 

「そんなこと可能なのッ」

 

「可能さ銀腕の歌姫さん、彼は世界が有る限り、無限に魔力を使用できる。形、意思、何かがある限り、それは枯渇することはけしてない。だから抑止は英霊の座に魂の無いそれを置こうととしたんだ」

 

 ローマの槍が全てのノイズを薙ぎ払う中、グランドの位を持つ暗殺者は僅かに前に出る。

 

「ならば、汝ら歌姫に賭けるしかあるまい」

 

「どういうことですかキングハサンさんっ」

 

 響の言葉に、静かに骸の戦士は、八人の装者を見る。

 

「繋ぐ力、立花響のアームドギアにて、龍崎アスカとグランド・セイバーを完全に繋げる。これは抑止達が利用した手を、逆手に取る」

 

「なるほどのう」

 

 紅い槍を二本振り回し、ノイズを吹き飛ばす影の女王が、装者に近づく。

 

「完全に龍崎アスカをこの世界の人間として繋ぎ止め、逆に龍崎アスカを引っ張るか」

 

「それこそできるデスかッ!?」

 

「だとしてもッ、私は、アスカをこのままにはできないッ」

 

 その言葉を聞き、全員が頷く。それに、

 

「ならば我らサーヴァントは道を作ろう、行けるな歌姫達よッ」

「行きますよシロウっ」

 

 

 

「………」

 

 身体の様子を見ながら、ここまでかと思いながら目を閉じる。

 

 向かってくる巨体、されど恐れることは無い。

 

「哀れな」

 

 ただの魔力、空間をズラし、歪曲する。

 

【これはッ】

 

「我が身は理想、この身にできない幻想は多々あるが、ま、空間をズラし、攻撃を防ぐことぐらいはできる」

 

 そして無数の剣を投擲し、それが大地を切り裂きながら、アダムを切り裂く。

 

【アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ】

 

「完全であるが故に、我が理想の身は砕けないぞ」

 

【何故だァァァァァァァァァァァ、完全が不完全に負けることなぞ、有ってたまるかッ!!!】

 

「完全に終わったお前が、不完全で終わっていない我に勝てない通り。なぜ理解できない? もういい」

 

 そして静かに、

 

「終わりだ龍崎アスカ、もう一人の俺。お前の願いは叶え」

 

「まだ終わってないッ」

 

 その時、背後から響がアスカへ触れたとき、電流のようにエネルギーが繋がる。

 

「立花響」

「理想の抑止さんッ、アスカはまだいるんですよね!! なら私は諦めませんッ」

「それでも意味は無い、こいつは願う、全てを終わらす絶対の一撃。それを俺の意思では止められない。これは龍崎アスカが選んだ選択肢だ」

「だとしてもッ」

「たち、ッ!! ちっ」

 

 エネルギーの塊を、炎が放たれ、それを片腕で止める。

 

 その一撃を防いでいる時、歌を聴く。

 

「これは」

 

 響が口紡ぐは、絶唱の歌。

 

 血の歌声を聞き、悲しそうな顔をする。

 

「愚かだな、人はやはり。無理矢理ギアと俺を繋げたところで、俺と融合状態であるオレを取り出せたとしても、オレはまた、こうなると言うのに」

 

 

 

 

 

「「「「「「「だとしてもッ!!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 その時、歌が重なる。歌姫、装者全員が響と手を合わせ、絶唱を口にする。

 

 それには理想も驚き、焦る。

 

「待てやめろッ、このまま聖杯とリンクしている俺の力でギアと接続すれば、ギアが爆発するッ。いますぐ放せ!!」

 

「だとしてもッ」

 

「諦められるものかッ」

 

「彼奴には助けられてばっかなんだよッ」

 

「まだ言っていない、言葉がある!!」

 

「だからこそ、倒れてもらうわけにはいかないんデスッ」

 

「そいつは弟分なんでね、たまには姉御として支えなきゃいけないんだ!!」

 

「まだまだ言い足りない言葉が、私達にはあるのよッ」

 

「絶対、絶対にッ。こんな終わり方は」

 

 

 

『認めないッ』

 

 

 

 アダムの攻撃を防ぐ中、インカムからキャロル達の声が轟く。

 

『ダインスレイフッ、イグナイトの力で聖杯の力をカバーしてやるッ、気合い入れろ装者達!!』

 

『演算処理は任せてくださいッ』

 

『だぁぁぁぁぁぁぁぁぁアスカくんには絶対に文句言ってやるからなッ』

 

『そうねッ、絶対よ!!』

 

『踏ん張りどころを間違えるなアスカッ、お前は、みんなと共に、俺達と共にあるんだッ!!』

 

『アスカさんっ、まだ終わりは早いですよ』

 

『アスカ!!』

 

 その時、

 

「あーし達も混ぜてもらうわよ♪」

 

「エネルギーの操作は得意分野なワケダ」

 

「皆さんっ」

 

「立花響っ、話はまだ分からない。だがそいつには先ほどの借りがある。手を貸させてもらうぞ」

 

「ッ!! はいッ」

 

 光が一色になる中、炎がアダムの手のひらに集まる。

 

「貴様、太陽をその手にッ」

 

 理想の叫びに、アダムは、

 

【消えろッ、人類風情がッ!!】

 

 小さな太陽の塊が叩き付けられる瞬間、光が、世界を包む。

 

 

 

 

 

「………ここは」

 

 気が付けば地獄だった。

 

 建物が燃え、瓦礫ばかりが広がり、一人の男が瓦礫の山を掘る。

 

 あそこにいたアスカ以外の全員がいる。そして、

 

「あぁ………」

 

 瓦礫の中、男は涙を流す。この地獄の中で、一人の生存者を、一人の少年を見つけた。

 

 

 

「僕はね、正義の味方になりたかったんだ」

 

 その言葉に、少年は正義の味方を進む。

 

「その人生が機械的なものだったとしても」

 

 それでも、偽善に満ち溢れた道であろうと、

 

「正義の味方を張り続ける」

 

 

 

「これは、俺が選んだ道だ!」

 

 僅かにしか生きられない中、それでも生きる事、選び進む事を諦めなかった命の叫び。

 

 それと共に竜が咆哮する。

 

 

 

 絶望的な状況で、絶望しかない局面でも、歩みを止めなかったAIがいた。

 

 

 

 そして英霊達と共に歩み、仲間として一つの存在とぶつかり合った青年がいた。

 

 

 

 その中で、一つの行き先があった。

 

 その男は、全てを取りこぼし、なにも救えなかったと思った。

 

「爺さんの夢は………」

 

 助けた少年からそれを聞き、彼はやっと眠りにつく。

 

 

 

「それでも」

 

 炎の中、燃えて、涙を流す大切な人達がいる中で、俺達は………

 

 その命を代価に、母と父の汚名を晴らす。

 

 聖剣の所為で王になった、彼女の為に、鉄の武器にて全てを斬る。

 

 僅かな時間の中、白銀のように命を散らす。

 

 神々と対峙し、守ると決めた三姉妹の為に散った。

 

 そして、歌姫達の為に、最強の自己犠牲を手に入れて、それを使う。

 

「やめて」

 

 何故だ。

 

「私は、私達はそんな事、貴方に望んでいない」

 

 そんな事は知らない。それがオレだ。

 

 なんも力も無いはずのオレは、命を賭ける事でしか、守れない。

 

 なら、オレは一人で良い。孤独で良い。だからオレは全てを救いたい。

 

「貴方は」

 

 オレは、オレの理想は、

 

「お前の笑顔を、見ていたい」

 

 そう静かに告げた。

 

 だが、

 

「だとしても、私達はそんな救済は求めない」

 

 その言葉に、静かに、

 

「………そか」

 

「握った拳を広げて、貴方の手を取る。みんなと一緒に、アスカ」

 

「オレは、たぶん変わらない。どうしても、お前たちを守る為なら、何度でも命を捨てる」

 

『だとしても』

 

 その時、八人の手が伸びた。

 

 それを見ながら、立ち上がる。

 

「いいのか、ここで命を捨てれば楽になるぞ」

「そんな事を選ぶオレではないのは、俺が一番分かっているだろ」

 

 そう言われ、理想は何も言わず、静かに、

 

「ならば行け、偽善に満ちて、救済の無い道であろう」

 

「「俺達はけして、いまの道しか選ばない」」

 

 

 

 

 

 爆発が轟く、炎が舞い上がる。

 

【なっ………】

 

 その瞬間、現れたのは、

 

「エクスッ、ドラァァァァァァァァァァイブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ」

 

 響の叫びと共に、八人の装者はエクスドライブ状態になり、その姿を現す。

 

 響だけ、金色の姿で、全てを束ね、一つにする姿で現れ、龍崎アスカは、

 

「意識は渡さない、まだ響達を守り続けなきゃいけないんだ」

 

 全身に鎧を纏い、竜の翼を広げ、アダムを睨む。

 

【黄金錬成、だとッ。小娘風情………!!!】

 

 その時、錬金術師三人も、

 

「これは、ラピス・フィロソフィカスが」

「シンフォギアと共鳴しているワケダ………」

「これは………」

 

 黄金に輝くローブを纏うサンジェルマン達に、アダムは首を振る。

 

【有り得ない、あるはずがない………バラルの呪詛で不平を、支配から逃れられない人類が、分かり合えるはずがないッ】

 

 そう言うが、それにアスカは前に出る。

 

「支配か、生憎と、オレは世界に支配されている身なんでね。いまさら気にしてはいられるか」

 

 そう言い、両手を広げると共に、一つは天、一つは地より、燦然と輝く銀色の光と、漆黒の紅を纏う光が立ち上がる。

 

「だがそれでもいいッ、オレは大切な者を守る力をくれるなら、永劫にこの魂の次をくれてやるッ。そのたびにオレは、大切な人を守り続ける道を選ぶのだから」

 

 そして宝具を握りしめ、アダムに向けた。

 

 瞬間、アダムは全身から寒気を覚え、警戒する。

 

【な、なんだそれは………】

 

 震える声、目が見る先には、黒の刀身、僅かに光に触れれば紅を宿す魔なる剣。

 

 白銀に輝き、光に触れれば蒼に輝く剣を握りしめる。

 

「神秘を、神の世を、物語を、英雄を、怪物を、終わらせ、始める。新たな幕開けの宝具。神殺しならぬ、神秘殺しの宝具だよッ」

 

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」

 

 響の咆哮で、全員が動く。

 

 アダムはノイズを取り出すが、サンジェルマンとクリスが全て打ち抜くと共に、調とプレラーティがけん玉の鉄球と、ヨーヨーにて、アダムを吹き飛ばす。

 

【くっ!!】

 

 それを振り払ったが、その瞬間、懐に入った翼とカリオストロが拳と斬撃を食らわすと共に、空へと吹き飛ぶ。

 

【いまさら、仲良しこよしをッ、するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ】

 

 錬金術の攻撃が放たれるが、巨大な盾と、光の渦がそれを吹き飛ばし、マリアと切歌が斬撃を飛ばし、空へと括り付けた。

 

【なっ】

 

「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」

 

 一人黄金の響は、ただ拳のラッシュを叩き付ける。

 

 その間、静かにアスカは、

 

「真名を解放する、その名は始まり、その名は終わり」

 

 竜人と化したアスカの手に、始まりと終わりが咆哮し、光を放つ。

 

 黄金の輝きの中、それに合わせ、

 

「振り下ろす、ただそれで全てが終わり始まる」

 

 そう静かに告げて、響が拳で貫いた瞬間、

 

「この一撃は、神代の終わり」

 

 全ての色が合わさり、剣と成った時、静かに振り下ろす。

 

「そして始まれッ、新たな世界の幕開けよ!!」

 

 アダムは静かに、全てを包む破滅を目にしながら、輝きに飲まれていった。

 

 

 

「あれが理想の抑止力、しかも本気ではない一撃か」

 

 黄金の英霊、英雄王ギルガメッシュを初め、サーヴァント達はその輝きを見た。

 

 自分達神秘を、問答無用に終わらせる一撃。まさに神秘殺し、神秘に語られるものを終わらす。最強の剣を見た。

 

「これで彼は」

「ああ、まだ星も霊長も、世界も諦めないさ。彼が彼、自分が守りたいと言う理由で命を捨てる、世界を救う者である限り」

 

 聖杯を望む者は、永遠に彼の命を狙う。

 

 英霊達は確信を得ながら、願うことしかできず、静かにその場から姿を消した………




ついにアダム撃破。アスカの物語がもうすぐ終わりを告げます。

あっ………

きよひー「………ふふ」

お、お読みいただき、ありがとうございますっ。

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